ヰ世界の歌 夜明け前のダークエルフ 王道硬派な大河ファンタジーの世界で一歩から始める人外愛譚   作:所羅門ヒトリモン

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#235「英雄剣と白雷聖姫」

 

 

 さて、ケント・トバルカイン。

 十四歳の西方大陸人。

 ウェスタルシア王国の密使で、自らを護剣士と名乗る準英雄。

 

 本人は軽くナチュラル女性蔑視が入ってそうな性格をしているけれど。

 その外見は意外にも中性的な顔立ちと小柄な体格。

 長い黒髪を蒼のリボンで後ろ結びにしているのもあって、少女と言われても最初は騙されかねない。

 

 先祖に東方大陸人でもいるのか。

 

 どことなくオリエンタルな雰囲気も漂よっていて、女性蔑視はひょっとするとコンプレックスから来る無意識下の敵意の表れか。

 男同士であれば爽やかで、ちょっと空気の読めない残念なところはあるけれど、年齢を鑑みれば大目に見るのも不可能じゃない。

 

 むしろ、この若さで準英雄に数えられる。

 

 それだけの能力があるのだから、多少生意気でなければ逆に嘘臭かった。

 精神年齢が近いと思われるアイナノーアは、先ほどの一件でやや気に入らなそうにしているものの。

 

 〝英雄剣のケント〟

 

 ウェスタルシア王国が誇る()()護剣士。

 赤みの強いブラウンアイを細め、少年は踊り子を思わせる剣舞で怪物どもを鏖殺していく。

 

「KYRYYYYYYYYY──!」

(ザン)ッ!」

 

 独特な掛け声。

 ミルメコレオが双剣円舞に両断されていく。

 まるでバターナイフでバターを切るように。

 滑らかで淀みなく。

 流れる軌跡が、怪物岬にブッシャアアア! と血潮をブチ撒けていく。

 

(体操のリボンダンスみたいだな)

 

 俺は思った。

 流れる軌跡は、比喩じゃない。

 ケントの双剣からは、事実、刃の曲線が流れ出ている。

 

「あれは?」

「〈遺風残香(レリック)〉ですわ」

「流水の剣と流氷……いえ、霙の剣かしら?」

「ええ。アレこそは我が国の〈神代探訪〉が、神話の英雄から勝ち取った武器」

 

 清冽剣アリアと、凛冽剣オルトゥナ。

 寒気と凍気を振り撒く二本一対の双剣。

 蒼銀の意匠は、神代の趣を感じさせる。

 

「ケントは継承者なんですか?」

「いいえ。彼は英雄奥義の継承者ではありませんわ」

「じゃあどうして、あんなふうに〈遺風残香(レリック)〉を使いこなせる?」

 

 ベロニカはもう完全に敬語を使う努力をやめたようだ。

 ガブリエラ王妃が特段気にしていない様子なので幸いだが、俺はちょっとヒヤヒヤする。

 だが、

 

「英雄剣のケント。アイツは護剣士で、数代ぶりに『剣神の祝福』を授かった祝福保持者(ブレスホルダー)だそうだ」

「数代ぶり?」

「護剣士は古今東西の剣を集めては、丁重に管理して守護するヤツらだからな」

 

 〈第三円環帯(ソールマルス)〉神話の剣神から、寵愛を授かりやすいらしい。

 神々の息吹(ゴッドブレス)ってのは基本的に、ランダムで吹き込まれる。

 けれど、壮麗大地(テラ・メエリタ)で白詰草の君から、俺たちは一時的に清風の加護を授かったコトもあるし。

 

 上位存在からしたら意図的に、対象を選ぶコトも出来るんだろう。

 

 べつに不思議は無い。

 神話のなかじゃ神様から人間に、特別な才能や武器を授けるとかの話がたくさんある。

 んで、『剣神の祝福』はそれが剣であれば、如何なる資格や修練を要する代物であろうとも、ワンランク性能落ちしたスペックで使えるようになるって特殊能力を与えてくれるんだと。

 

「へえ? 生意気な口は根拠があってのコトなのね」

「神話世界ロスランカリーヴァと繋がるウェスタルシア王国じゃ、まさに才能を活かし放題ってワケだ」

「ずいぶん詳しいですわね、群青卿」

「そりゃ私も祝福保持者(ブレスホルダー)ですから」

 

 人界で知られている祝福、加護、呪業の類は一通り調べてある。

 ケントが剣神の祝福を持っていると聞いて、経歴や素性を洗わなかったはずはない。

 実際に調べ回ってくれたのは連合王国だけど。

 最初に聞いた時は「ズッル!」て唸ったね。

 

「剣に限られるとはいえ、なかなか羨ましい祝福です」

「ハッ! そりゃオマエの死界の王の加護に比べれば、遥かに上等だろうからな!」

「オーホッホッホ! 他ならぬ本物の継承者にそう言ってもらえるなら、ケントも喜ぶと思いますわ」

 

 ですが。

 ガブリエラ王妃は髪を掻き上げ、潮風に辟易した顔で空を指差す。

 そこには、ミルメコレオの臭い血肉に惹かれたか。

 青銅怪鳥ステュムパリデスの群れが現れていた。

 マジで怪物がたくさんいる岬なんだな。

 

 ケントはまだ気が付いていない。

 

「──フン。じゃあ、あっちは私が片付けてあげるわ!」

「あ」

 

 呼び止める間もなく、アイナノーアが聖槍とともに空へ飛び上がった。

 

 〝白雷聖姫・白き輝きのアイナノーア〟 

 

 北方エルフ特有の薄青の瞳。

 凛としながらも柔和な慈しみを秘めた貴種の顔立ち。

 風に舞うふわりとした絹糸の髪は、白雷の光を受けて鮮烈に輝く。

 

 アイナノーアは体の輪郭が、ハッキリした戦闘装束を身に纏っている。

 

 体型は洗練された流線を描き、高貴な女性エルフらしくしなやかな長身。

 羽織っているのは雷霆鳥サンダーバードの羽毛で織られたバカ高いマントで、しかも、世にも珍しい白いサンダーバードから採取された素材を使ってるらしい特注品。

 肩と腰、胴回りを覆うのは軽量級の月光銀(ミスリル)鎧で、インナーとして雷帝鯱(イヴァン・オルカ)の皮でできたウェットスーツ(全身タイツ)みたいなのを装備している。

 

 この時代のまともな職業戦士からしたら、誰もが「いったい何だその出で立ちは?」と怪訝に思うコスプレチックな格好。

 

 しかし、アイナノーア・エリンはこれでいい。

 何せ聖槍トライデントは、白雷を操る雷電兵器。

 所有者に電気系の超能力を与え、たぶん磁気とかも制御して空を飛べるようにしてしまう。

 

(──もっとも)

 

 ズ ガ ァ ン !!

 

「きゃッ!」

「っ、相変わらず何てうるささだ……」

「い、今のは何です!?」

 

 ガブリエラ王妃、ベロニカ、ケント。

 順に驚く三者の反応からも分かるように。

 

 白雷一閃。

 轟音光条。

 

 アイナノーアの飛行は落雷と同じで、静と動の振れ幅が極端に限定される。

 空へ駆けた白の稲光。

 遅れてやってくる凄まじい爆音。

 結果、後に残される結果と言えば──

 

「……ステュムパリデスが墜ちていくな」

「一羽残らず、たった一瞬であんなに……!」

「っ」

 

 青銅の怪鳥は全滅。

 光速に近い雷電には、翼ある鳥とて敵わない。

 

「フッフーン! どうだまいったか!」

 

 そしてこのドヤ顔である。

 地上に視線を落とすと、ちょうどミルメコレオも討伐し終わったみたいだった。

 ケントはてっきり、自分の活躍を披露できるチャンスだと思っていたのに、アイナノーアの方が派手で華麗にキメて来たので面白くない。

 そんな眉間のシワの寄り具合である。

 

(ま、何にしてもだ)

 

「特に危なげなく怪物退治が出来て良かった良かった」

「未登場の蛇牛は大丈夫か?」

「あ、イリスが咥えて戻って来ましたわ」

 

 南無、オピオタウロス。

 半分は牛だし、きっとドラゴンの眼にも美味しそうに見えたのだろう。

 

 

 

────────────

tips:剣神の祝福

 

 この祝福を授かった者は、それが『剣』であればどんなものでも扱えるようになる。

 ただし、真の担い手ではないため性能や出力などは一段階落ちる。

 そして、噂の正否はさだかではないものの……必ず剣で死ぬ定めだとも。

 

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