ヰ世界の歌 夜明け前のダークエルフ 王道硬派な大河ファンタジーの世界で一歩から始める人外愛譚   作:所羅門ヒトリモン

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#240「鳥籠の街」

 

 

 鳥籠の街が現れた。

 エル・セーレンでの情報収集を始めるため、森を出た俺は一番近くにあった都市郊外に入ったのだが。

 そこで待っていたのは、鳥籠みたいな建造物が建ち並ぶ奇妙な光景だった。

 

 鳥籠塔、とでも言えばいいのだろうか?

 

 どことなくアンティーク調を思わせる見た目(デザイン)をした隙間だらけの塔が、高いのも低いのもビルみたいに並んでいる。

 

(一階しかないのは普通の鳥籠が地面に置いてあるだけみたいに見えるけど、二階以上のやつは鳥籠の胴部分が連結してるみたいだ)

 

 今のところ大きいのは、最高で五、六階。

 塔と塔は回廊で繋がっている物もあれば、小さな家屋と隣接しているだけの物もあり、あまりきちんと区画整理されて建築計画を立てられたとは思えないギュウギュウ詰め。

 大通り以外は隘路(あいろ)になっていて、誰かとすれ違うのはかなり困難だ。

 俺はカラダが大きいので、横向きになってそれでも結構ギリギリだった。

 

 諦めて大通りの煉瓦道を進む。

 

 すると段々、鳥籠塔の中には本物の鳥も確認できるようになった。

 鳥籠のサイズがかなり大きいので、鳥たちは自由に空を飛んだり、籠のなかで止まっていたりする。

 

「黒い鳥……闇夜鴉じゃないな。クロウタドリか?」

 

 黒色の鳥を見ると、エンディアのせいでカラスのイメージが強くなっている。

 しかし、どうも鳥籠塔の中にいる鳥たちは、どれも目元や口元が黄色く、ツグミの仲間だと思われた。

 渾天儀世界産の動物かもしれないので、正式名称には自信が無いけれど、大きさが30センチくらいなのでたぶんクロウタドリだろう。

 

 鳴き声も耳に心地良い。

 

 数が多すぎてちょっとうるさくもあるけど、名前にウタの二文字が入るくらいだ。

 文字通り歌うような甲高い鳥の声が聞こえてくる。

 

「……何なんだ? ここ」

 

 人間が造った街並みだとは思えない。

 なので、何かしらの異界だとは思う。

 ただ、カルメンタリス教の女神に呪われた感はあまり無い。

 でも、その割に規模がデカい。

 

「……てっきり、アークデン・メガロポリスの遺跡都市かと思ったんだけどな」

 

 鳥籠の街はかなり広かった。

 試しに手近なところにあった六階建ての鳥籠塔に登ってみる。

 外観は完全に鳥籠なのだが、回廊や階段は人間サイズで造られていて、ますます不可解だ。

 階段を登っている途中、たくさんのクロウタドリがこちらを凝視して来たのも含めて、妙な感覚になる。

 

 最上階に着いた。

 

「やっぱり、かなり大きい街だな」

 

 鳥籠の鉄格子の内側から、外の景色を見渡す。

 見えるのは、無数に並び建つ鳥籠塔の大都市。

 日没を迎える寸前のため、刻一刻と格子状の影が薄暗さに溶けていく。

 俺の視界は変わらないが、先ほどの森と違って時間遷移があるタイプの異界のようだ。

 あの森は明らかに〝黄昏刻の秋の森〟で固定されていたし。

 

「そういえば、落とされる前も夕方だったよな」

 

 ひょっとすると、ここの時間はあまり外とズレが無いのかもしれない。

 すでに死霊術で尼僧の墓所大捜索ローラー作戦を開始しているんだが、昼夜の変化で時間の経過を計れるのはラッキーだ。

 十日というタイミリミットもある。

 

「けど、その前に栄養補給も考えなきゃいけないしな」

 

 ギルベルトに用意してもらった弁当はとっくに無い。

 三食分の内、一食はアイナノーアにあげてしまったし。

 怪物岬の後で挟んだ休憩時間で全部食べ切ってしまった。

 まぁ、今日はそれで凌げるとしても、明日明後日と探索が続けば最厄地サバイバルは避けられない。

 

「でも、ここなら飯には困らなそうだ。クロウタドリって美味いのかな?」

 

 何とはなしに鳥たちを見上げた瞬間だった。

 

「オニイサン。ボクタチヲタベルツモリナノ?」

「ヤメテ! ヤメテ!」

「ソノオノデクビヲキルツモリナノ!?」

「ヤダヨ! コワイヨ!」

「アタシタチオイシクナイヨ! カニバリズムダヨ!」

「タベナイデ! コロサナイデ!」

 

 クロウタドリが、一斉に人語で喚き始めた。

 エルノス語、セプテントリア語、他にも聞き慣れない言語で。

 甲高い鳥の声は、恐怖が連鎖するにつれて大きくなっていく。

 

「──は? 喋った……!?」

 

 バサバサバサバサ。

 バサバサバサバサ。

 鳥の羽ばたきが鳥籠の街を喧騒で満たしていく。

 

 すると、そのとき完全に日が沈んで夜が訪れた。

 

 途端、街のあちこちでは暖色のランタンが灯り始め、その内の幾つかが()()()と手足を伸ばしてひとりでに動き出す。

 

「ハッ! ミンナ! シズカニ!」

「ランタンヘッドガクルヨ!」

「ランプヘッドジャナカッタッケ?」

「ナマエナンテドウデモイイ!」

「オッカナイシティウォッチガメヲサマシタ!」

「イソイデカクレナキャ!」

「アカイアカリニナッタラタイヘンダ!」

 

 すべてのクロウタドリが、騒ぎ出した時と同じようにひどく慌てふためきながら鳥籠の中に一斉に戻る。

 それぞれのクロウタドリには所定の位置でもあるのか。

 あるいは住所のようなものが決まっているのか。

 鳥籠の中に吊るされた止まり木に向かって、「オイドケ!」「ソッチコソ!」なんて言いながら飛び込んで行った。

 

 俺はただ目を丸くして、いったい何が始まったんだ? と呆然と立ち尽くすしかない。

 

 そんななか、大通りを挟んだ向かいの鳥籠塔で、不意に赤色灯が輝き出す。

 近くにいたクロウタドリが、「アア、ソンナ!」「マニアワナカッタ……!」と小さな声で悲壮を漏らした。

 

 ここからでは何が起こっているかよく分からない。

 

 ただ、クロウタドリたちにとって何か、非常に恐ろしいコトが起こってしまったのだとは察せられた。

 死霊を送り、視界を共有させる。

 すると、

 

(……!?)

 

 向かいの鳥籠塔では、一羽のクロウタドリが変な異形に捕まっていた。

 

 燈光頭の警備兵(ランプヘッド・シティウォッチ)

 

 一見は警備兵の制服に身を包んだ背ぇ高のっぽ(トールマン)に見えるが、腕と足が異様に長く、肌も青銅色。

 何より一番おかしいのは、ムッツリとした面持ちの男の頭部にはランプが生えているコトだ。

 生えているっていうか、眉の上あたりから頭の半分がランプでできてるっていうか。

 そのランプがいま、真っ赤に明滅を繰り返してクロウタドリを拘束している。

 クロウタドリはガッチリ全身を鷲掴みにされて、かなり苦しそうだ。

 

 ランプヘッドはそのまま、クロウタドリを連れて鳥籠塔の外へ出てくる。

 

 大通りの真ん中。

 屋外になったからか。

 ランプの蓋がパカリと開いて、空に真っ赤な花火が打ち上がった。

 直後だった。

 

(──異界の門扉!)

 

 ランプヘッドのすぐ近くに、奇妙な扉が現れる。

 物質的ではないというか。

 本の挿絵の一ページというか。

 黒い鉛筆で描かれたモノクロの絵というか。

 二次元を強引に三次元に仕上げたみたいな違和感を伴って、それは開けられた。

 

 奥から出てきたのは、真っ白なワンピースドレス。

 髪も肌も服も何もかも真っ白な、とても小柄で華奢な女の子。

 

 ただし!

 

(顔が黒山羊……仮面か!?)

 

 半有機的で、妙に生々しく。

 リアルな質感で艶めく異形のバフォメットフェイスは、大きくてつぶらな瞳がパチクリと瞬きする。

 婉曲した二本の巨角も含めて、明らかな人外の証拠。

 

 俺はこの特徴を知っていた。

 

 知らないはずが無かった。

 

 だってこの()()は、白嶺の魔女と対を成す禁忌の存在!

 暗黒の御伽噺の『黒』を司り、ベアトリクスと同格だと記される大いなる魔!

 

「──()()()()()……!」

 

 ランプヘッドがクロウタドリを、魔女の前に差し出す。

 魔女はクロウタドリに手を翳した。

 すると鳥は消え、ボフンッとした煙と一緒に子どもが現れる。

 

 ニンゲンの子ども。十歳くらいの男の子だ。

 

 グッタリと倒れ込む男の子を、魔女はランプヘッドに命じたのか、扉の奥へ連行させる。

 そしてそのまま、魔女も扉を潜り抜けて消えて行った。

 

(ッ、道理で広いワケだぜ……!)

 

 ここが魔女の〈領域(レルム)〉の内側なら。

 俺は誰より、その規模を識っている……!

 

 少なくともヴォレアス以上。

 

 エル・セーレンには、大魔まで呑まれていたのか!

 

 

 

────────────

tips:鳥籠の街

 

 ケージ・シティ。

 最厄地エル・セーレンに呑まれた大魔の〈領域〉の一部。

 鳥籠型の建築物がたくさん並び、人語を喋るクロウタドリが住んで(飼われて?)いる。

 夜になると燈光頭の警備兵(ランプヘッド・シティウォッチ)が動き出し、何らかのルールを破ったクロウタドリを捕捉すると、拘束し魔女へ差し出すようだ。

 無数のクロウタドリの正体とは、果たして。

 

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