ヰ世界の歌 夜明け前のダークエルフ 王道硬派な大河ファンタジーの世界で一歩から始める人外愛譚 作:所羅門ヒトリモン
グレムリン・エンパイアで、ケントが
アイナノーアは同じくグレムリン・エンパイアで、
飛びながら、戦闘に入っていた。
「──こーのッ! これでどうよッ!」
聖槍を握るアイナノーアは、まさしく神話の
雷速で駆け抜ける空。
戦乙女の槍技に漲るのは、数多の魔物を屠って来た眩いばかりの
カルメンタリス教の聖具は、対魔物・対魔法特攻の性能を持っている。
然れど、相手が魔物であろうとなかろうと、雷の力は古来より万物共通の脅威だ。
いまアイナノーアは、地上からの物理遠距離攻撃に雷速を以って迎撃を行っていた。
「うそっ!? まだあるの!?」
アイナノーアを狙い、地上から撃ち放たれているのは極大の矢。
速度にして実に、1000m/sに迫りかねない連続速射。
渾天儀暦6028年現代では、疾うの昔に失われたはずの古代技術兵器であり、
「『
その設計思想は、〝龍を
装填されている矢は、いずれも柱と見紛いかねない
龍のカラダを傷つけるためには、龍のカラダから採れた鱗を穂先・鏃にしなければならなかった。
人類の叡智が星の最強種に敗北し、同時に勝利の希望を抱かせかけた驚異の発想凶器。
しかし
しかも、必ずしもドラゴンを撃ち落とせる兵器ではなかったため、古代に廃れている。
そのはずなのだが!
「……ッたく! なんなのよアレは──!」
遠方から空を見上げれば、絶対に幕電現象を発生させている規模で白雷のバリケードを作り上げ。
アイナノーアは撹乱を行いながら、磁化させた
しかしながら、
「もぉう怒ったんだから!」
遠距離戦では埒が明かないと判断して、アイナノーアは急速下降した。
もともと雷速で移動しているとはいえ、停止するタイミングを予期され先に弾道を設置されてしまうのなら、
文字通り落雷となり、三叉槍の穂先を敵のカラダに突き入れる!
──ガッ、ギッギッ、ガギギッ、ゴギガガガガガッ!
感電した敵は地べたをのたうち回る虫のように奇怪な動きをし、煙を上げて停止した。
防御力は低かったらしく、短期決戦を覚悟して接近した途端、驚くほど簡単に勝敗が決まってしまった。
硬質な鉄の装甲を、カンっ! と踵で鳴らして首を傾げる。
「何なの? コイツ」
生き物ではない。
それは間違いない。
アイナノーアはこれまでの人生で、こんな生き物を見たコトが無い。
蜘蛛のような多脚と馬の頭。
たったそれだけの、恐ろしく不気味なキメラデザイン。
すべてが鉄製で、接合部には歯車や丸い管が見える。
管からは蒸気が漏れ出ていて、馬の口の中に収められている
中身はどうなっているんだろう? どうやって連射の仕組みを?
まったく分からない。
人工物にしても、いったい何なのだろうかコレは?
「コレっていうか、コレらだけど……」
蜘蛛馬戦車の死骸から、辺りを見回し溜め息を吐く。
実はアイナノーアは、すでに同じような絡繰仕掛けたちと何度も交戦していた。
蜘蛛馬戦車が死んだ道上には、他にも煙を上げる二十台? ほどの亡骸が転がっている。
「馬、羊、牛、魚、蟹……アレは何かしら。天秤? それに、瓶っぽいのもあるわね」
どれも何らかの動物か器物が象られている。
蜘蛛のような多脚部分は共通していて、その台座上に個性があった。
「あ! 分かった!
口から矢を放つ馬神をモチーフにしているのか。
アイナノーアは「やった!」と閃き、「でも何で
『
その昔、古代の
巨帯都市にはそれぞれ、ひとつひとつの都市を擬神化した守護神が祀られていた。
本物の神々ではなく、あくまで人の手で生み出された架空の存在。
しかしアークデン・メガロポリスでは、人々は都市神に日々祈りを捧げ、神殿なども建設したと云う。
どうやら謎の人工物は、それら
魔術で動く
聖槍トライデントの白雷を受けて、まったく粉微塵にならなかったのだ。
「
呟きながら、アイナノーアは地面に降りて改めて敵の観察を行う。
礼儀知らずの差別主義者と別れてから、アイナノーアはすぐにメランやベロニカを探しに空を飛んだ。
異界の最厄地エル・セーレンでは、どう考えても少数でいるより多数でまとまって動いた方がいい。
誰かと一緒なら、ピンチの時でも協力し合って状況を解決できる。
とても簡単で当然の理屈だ。
それに、英雄であるメランは大丈夫かもしれないが、ベロニカがひとりだった場合、絶対に誰かが合流してあげた方がいい。
(あのひとお酒ばっかり飲んでたし、きっとお腹を空かせてるもの!)
アイナノーアもお腹が空いている。
だから、まずは皆で合流して一緒にご飯を食べよう。
エネルギーを補給して、それから異界の探索を始めるのが皆のためだと思ったのだ。
話の分からない子どもはワガママがひどかったので、少しお灸を据える意味でも放っておくコトにした。
が、そんなアイナノーアをいきなり攻撃して来たのが、この人工物たち。
「どの子も、なーんか魔改造された大昔の兵器をくっつけてるのよねー」
あとは知らない。
ただ、
特に
「まさかゆっくり優しい攻撃じゃないと、内側に通らないなんてねー」
古代の人々はなかなか面白い発想をする。
おかげで、ジワジワと電流を流して少しずつ壊さなければならなかった。
それはさておき。
「んー?」
引っくり返ったサジタリウスの台座の裏側に、文字を発見した。
ひどく汚れていてすぐには読み取れないが、
「うわ。いけるかな……?」
自信は無かった。
が、小さかった頃に言語学の先生から教わった知識を、何とか掘り返す。
勉強は苦手なアイナノーアだが、無教養で無学なお姫様ではない。まったく、つくづく失礼な男の子だ。
「って、そうじゃなくて……えーと……わ、ぽ、る……まき、な?」
ワポルマキナ。
ワポルマキナで、合っているだろうか?
「たしかワポルは蒸気で、マキナは機械って意味だったわよね……?」
蒸気機械。
つまりコレが、蜘蛛脚戦車の名前なのかもしれない。
「ふーん。蒸気で動いてる機械なんだ」
エル・セーレンは
不思議な話だが、ひとまずそういう理解でアイナノーアは納得した。
問題は、なぜ
(東側の町は工場みたいな施設が多かったわ……)
兵器工廠。
モクモクと立ち上る煙。
地上にいると街灯のせいで、
「ハハーン? さては私ってば、いきなり核心に辿り着いちゃってるんじゃない?」
異界の最厄地。
銀色の霧の謎。
カルメンタリス教の女神に呪われた理由とは、この蒸気機械文明に原因があるのではなかろうか?
「名探偵アイナちゃんの、冴え冴えとした推理が光るわ!」
聖槍トライデントの担い手であるアイナノーアは、女神様のお気に入りと言っても過言ではないはず。
呪われてしまったこの町の住人……住人?
「ともかく! この子たちからしたら私って、たぶんとっても気に入らない存在よね!」
ってコトはである。
アイナノーアが激しい独り言と共に、ハッ! とした瞬間だった。
「ギギギギギギギギギギギギギギギッ!」
「ちょわああぁぁぁぁっ!?」
新手のワポルマキナが、またしても襲撃して来た。
回転する鋸車輪。新型。
今度はさっきより数が多い。
大口を開けて
おびただしい数だ。
空を飛び、メランとベロニカを探しに行くのは……
「クッ、だいぶ無理そうね──!」
白雷聖姫は、雷電となって戦闘を再開した。
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tips:ワポルマキナ
霧と狂気の蒸気機械帝都『グレムリン・エンパイア』に存在する自律型の蒸気機械兵器。
全身は鉄で出来ていて、蜘蛛のような多脚と『
それぞれ古代兵器を搭載しているが、いずれも魔改造されているようだ。
帝都の東の町では、兵器工廠と思しい工場施設がたくさんある。
銀色の霧と何か関係があるかもしれない。