ヰ世界の歌 夜明け前のダークエルフ 王道硬派な大河ファンタジーの世界で一歩から始める人外愛譚   作:所羅門ヒトリモン

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#249「攫われた子どもたち」

 

 

「ヴァシリーサちゃんとお話したい?」

「だったら、僕たちに頼んでも意味無いかなー」

「私たち、ルール破っちゃったからねー」

「ヴァシリーサちゃん、怒りんぼなんだ」

「それに、僕らこの部屋の紙から移動できないし」

「ヴァシリーサちゃん忙しいみたいで、最近は新しくルールを破った子が出ないと会えないんだ」

「……なるほど」

 

 紙の中の子どもたちと話をしたところ、どうやらミステリーハウス・クイーンダムの子どもたちに仲介役を任せるのは、かなり難しそうなコトが分かった。

 

 ①黒詩の魔女は相手が子どもでも、必ずしも優しく接するばかりではない。

 ②ルールを破った子どもには、厳しい罰として自由を制限している。

 ③紙の中に閉じ込められた子どもたちは、談話室内の紙の中しか移動できない。

 ④黒詩の魔女と子どもたちは、最近はめったに会っていない。

 

 俺を見つけて下僕をけしかけたのは、一階のキッチン。

 耳を澄ませると、今もまだ階下で童謡を歌っている。

 子どもたちには聞こえてないようだが、屋敷自体に足を運ばないワケではない。

 

(この談話室に来るのを避けてるのか?)

 

 腕を組んで考える。

 

「なぁ、ちょっと教えて欲しいんだが」

「モイ! なに?」

「ケージシティから連れて来られた子どもは、この部屋のオマエたちだけで全員なのか?」

「? うん。そうだよ?」

「オマエたちは、ヴァシリーサちゃんと仲が悪かったりするか?」

「えっ、どうだろう?」

「私たちは仲良しさんだと思ってるけど……」

「最近は会えてないし、もしかして……」

「アタシたち、嫌われちゃったのかなぁ……」

「あ、いや!」

 

 子どもたちが一斉に落ち込み始めてしまったので、慌てて首を振る。

 この期に及んで、子どもたちからヴァシリーサへの好感度は変化していない。

 黒詩の魔女が子どもたちを、厳しく幽閉しているのは事実でも。

 子どもたちの方にそれを不満に思っている様子がまったく無いのは、ルール違反の罰を当然だと受け入れているからなのだろう。

 

 異界法則だと思って、〝ここではあくまでそういうもの〟と俺も浅く受け入れてしまっていたが。

 

 ()()()

 

 この言葉にはそれ以上の〝何か〟が、明確に子どもたちとヴァシリーサとの絆を結んでいる。

 

 何だ? その何かとは?

 

(今はまだ分からないけど)

 

「ヴァシリーサちゃんがオマエたちを、嫌いになったなんてありえないさ」

「……え、ホント?」

「モイ……お兄さんは、そう思う?」

「ああ。だって、俺はさっきヴァシリーサちゃんに、イジメっ子って誤解されて退治されそうになったばっかりなんだぜ?」

「え!?」

「お兄さん、イジメっ子なの!?」

「アタシらをイジメるの!?」

「バカ! 話をちゃんと聞きなさいよ!」

「お兄さんは、誤解されてって言ってるわ!」

「うんうん。だからね? さっきのヴァシリーサちゃんを見て思ったけど、あの子があんなにイジメっ子退治を頑張ろうとするのは、大好きな皆を守ろうとしているからだと思ったよ」

「! モイ! そっかぁ!」

「やっぱり!」

「私たちも、ヴァシリーサちゃんだーい好き!」

 

 子どもたちの元気が戻った。

 俺はふぅ、と胸を撫で下ろす。

 子どもに泣かれるのは一番堪えるからな。

 笑顔が戻って良かった良かった。

 

(……にしても)

 

 紙の中を見て思う。

 黒詩の魔女は、種族関係なしに子どもを攫っていたようだ。

 昨夜の男の子はニンゲン。

 その他にも何人かニンゲンの女の子。

 だけど他は、見慣れない種族の子どもも多い。

 

 パッと見て特に目につくのは、苔藻族(モモイ)蟷螂族(サンタテレサ)兎寵族(ウェネト)の子だ。

 

(ダークエルフの俺を見ても怖がったり驚かないのは、普段から色んな種族を知ってるからなんだな)

 

 外の世界では迫害される種族も混ざっている。

 というか、むしろそういう種族の方が多い。

 

 しかし、子どもたちの仲は悪そうに見えない。

 

 黒詩の魔女もまた、種族によって子どもの差別は行なっていないからだろう。

 ベアトリクスもそうだった。

 

 となると。

 

「なぁ、もう一個教えてくれるか?」

「なぁに?」

「アタシらに、答えられるコト?」

「ああ。ちょっとした疑問なんだけど、オマエたちは家に帰りたい、って思ったりしないのか?」

「え?」

「家って、ケージシティの?」

「いや、本当の家だ。オマエたちのママやパパがいて、一緒に暮らしていたはずの家」

 

 攫われてしまったにしては、どの子どもたちも不思議なほど明るい。

 魔女への恐怖心、敵愾心を、これっぽっちも抱いているようには見えない。

 それは何故なのか?

 ここにいる子どもたちが、全員とも()()()()()()()()()()()()だったからなのか?

 

「んー」

「そうだね!」

「モイ! 思わない!」

「私も!」

「僕も!」

「「「ねー!」」」

 

 答えは、まさに〈目録〉が語るあらすじ通りだった。

 

「……そっか」

 

 じゃあ、そういうコトだ。

 子どもたちは救いを必要としていない。

 逃げ出したいとも思っていない。

 黒詩の魔女が、子どもたちを洗脳しているワケでもない。

 奇しくも、同じ魔女の力で、その手の魔法が一切掛けられていないコトが断言できる。

 

(……もしかすると)

 

 クロウタドリに変身させたり、紙の中に閉じ込めたりしているのは、魔女の瘴気から子どもたちを守るためなのかもしれない。

 ベアトリクスには出来なかった。

 狂気が深すぎて不可能だった。

 

 ──魔女という危険からも、子どもを守る。

 

 だとすれば、それは偉業だ。

 魔物の引業にすら打ち克っているかもしれない偉業だ。

 当人が意識しているか無意識なのかはともかく、結果的にその事実が残るのであれば。

 

 黒詩の魔女、ヴァシリーサ。

 

(あの子はやっぱり、俺が斧を振るうべき魔物じゃない)

 

 感傷ゆえの希望的観測か。

 それとも、真実か。

 

 どうあれ、ここにいる子どもたちを頼って話をつけるのは、ちょっと無理そうだ。

 

 紙の中から出す魔法なんて、ベアトリクスの技にも見当たらない。

 

「どうしたら、誤解を解いて話を聞いてもらえるか……」

 

 両腕を組んだまま、うーん、と唸ってしまった。

 そんな俺に、

 

「ねぇねぇお兄さん」

「ん?」

「お兄さんも、ヴァシリーサちゃんとお友だちになりたいの?」

「お友だち。ああ、そうだな。出来たらそうなりたいかな」

「じゃあさじゃあさ!」

「私たち思うんだけど!」

「お兄さん──『フラグメント』を探してみたら?」

断片(フラグメント)?」

 

 何それ。

 訊ねる俺に、子どもたちは口を揃えて言った。

 

「「「えっとね、それはね、ヴァシリーサちゃんの魂!」」」

「魂?」

「「「このお屋敷のどこかに、全部で三つあるんだよ!」」」

「たまにお喋りしてくれたり、昔の思い出話をしてくれたりするの」

「ダンマリでプカプカ行っちゃう時もあるけどね」

 

 ……よく分からないが、分身のようなモノだろうか?

 魂、って言われるとちょっと抽象的すぎるが。

 子どもたちのこの様子、恐らく分身でも、本物と同じくらいの意思疎通は取れると思っていいのだろう。

 

「その『フラグメント』だったら、俺とも喋ってくれるのか?」

「「「うん!」」」

「……ちなみに、『フラグメント』って何?」

「ご本!」

「ヴァシリーサちゃんは、たしかグリモアって言ってた!」

魔導書(グリモア)?」

 

 魔法の呪文辞典。

 それが、黒詩の魔女の魂で三つ?

 おいおいマジかよ。

 

「全然サッパリだけど、他に選択肢も無いからその線に懸けてみるしかないな」

 

 要するに、意思ある書物(インテリジェンスブック)の類か?

 首を捻りながら、俺は子どもたちに礼を言って談話室の通気孔に戻った。

 ダクトを移動して屋敷内を探索した方が安全だからだ。

 

「バイバーイ!」

「またね、真っ黒っけっけなお兄さん!」

「ヴァシリーサちゃんとお友だちになれたら、一緒に遊ぼうね!」

 

 子どもたちは最後まで明るかった。

 

 

 

────────────

tips:魂

 

 命(成長する存在)の三要素のひとつ。

 

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