ヰ世界の歌 夜明け前のダークエルフ 王道硬派な大河ファンタジーの世界で一歩から始める人外愛譚 作:所羅門ヒトリモン
#277「幕間5 で、どうしよっか?」
──で、どうしよっか?
異界の最厄地、撃破完了。
エル・ヌメノスの尼僧の遺体、確保完了。
今回の西征におけるメインミッションは無事に達成できた。
各員のサブミッションも上首尾と言える形で片がついたし、残るは事後処理というか次なる行動・方針を策定するだけ。
だが、差し当たっての問題はひとつどころか複数あった。
「とりあえず、ララヤには連絡を入れた」
「例の死霊通信か」
「ああ。出たのはカプリだったけど、開口一番、いきなり根掘り葉掘り質問責めでまいったぜ……」
「あの胡散臭い
「あー、途中でフェリシアの声もしたよ。カプリの後ろから、元気そうに「代わってくださいカプリさん!」って」
「……フン」
「それで? 子どもたちの面倒についてはどうなったの?」
「そっちも問題ない。時間はかかるけど、三ヶ月くらいあれば受け入れられるよう態勢を整えられるってさ」
「ふーん。トーリーくんも大変ねー」
「まぁ、孤児院とか学校とか、それなりに必要な人材をまた借りることにはなるだろうけど、ちゃんと相互利益があるかたちで調整はしてるよ。カプリが」
「……お二人とも、そんな他人事みたいな」
ケントがやや頬を引き攣らせて苦笑した。
失敬だな。アイナノーアはともかく、俺は他人事だとは思っていない。
ただカプリが、内政周りで優秀すぎるだけなんだ。
ベロニカとか他の人間には、相変わらずなにかっちゃ胡散臭いって言われがちだけど。
本人がわざとそういうふうに振る舞ってる感じもあるし、表情の読みづらさと腹芸の上手さを考えたら、これ以上ないくらい適材適所だと思う。
「しかし、三万二千人だったか? 三ヶ月もどうやって面倒を見る?」
「いきなり
「寒さに向かない種族もいるはずです。当面は
「そうだな。俺もしばらくはそうした方がいいと思ってる」
俺が異界の門扉を開けば、
けれど、ヴァシリーサに教えてもらって判明した子どもたちの総人数。
三万二千人をいきなり連れ帰って面倒を見るのは、さすがに準備が必要だ。
アイナノーアとケントの指摘の通り、なかには北方暮らしに向かない種族もいる。
そうでなくても、寒い地域じゃ子どもは体調を崩しやすい。
なので、
「ハッ! さてはウェスタルシア王国に面倒をかけるつもりだな?」
「多少はいいだろ?」
ベロニカも察した通り、ここはウェスタルシア王国に手を借りようと思った。
エル・セーレンは消滅した。
ウェスタルシア王国が直面していた国難は消え去ったんだ。
じゃあ、誰がそうしたの? って言ったら答えは俺だろ?
「いや、べつに変に恩着せがましく要求を通すつもりもないんだけどな?」
「いいんじゃない? そういえば私たち、空から落とされてるもの」
「ああ! ガブリエラ王妃……!」
ケントが頭を抱えて呻いた。
ウェスタルシア王国の人間として、自国の王妃が問題行動を起こしていたのを、今になって外交問題だと察したのだろう。
喉元過ぎればなんとやらで、今となっては取り立てて大騒ぎするつもりもないが、ちょっとくらい借りを返してもらったっていい。
日輪剣も正式に返還しないといけないし、何の挨拶も無しに直帰するってのも印象が悪いからな。
「てなワケで、北に帰る前にちょっくらウェスタルシアに寄って行こう」
「賛成! せっかくの海外だもの! 観光しないとかありえないわよね!」
「であれば、恐らくですがそろそろ迎えの者が来るかと」
「迎え?」
「銀色の霧が消えた事実に、我が国も気がついているはずですから」
状況を確かめるためにも、あらかじめ派遣されていた監視者が姿を現すはずだ、とケントは語った。
「出迎えと案内役は、その者に引き受けてもらえばいいと思います」
「なら、早く来てもらわなきゃ!」
「アイナ姫殿下!?」
白光、明滅。
アイナノーアはすっかりその気になってしまったのか、「イェイ!」と空に飛び上がって周囲の探索に向かってしまった。
なんという元気。そして行動力。
唖然とするケントが、年相応の少年らしい驚き顔で「えぇ……?」と困惑しているのがおもしろい。
一方で、ベロニカは仏頂面だった。
「私はパスだ。先に帰らせろ」
「なんだ。レッドフィールド支部長はウェスタルシアには興味なしか?」
「昔の話だが、もともと敵国だったんでな。このナリだ。帝国出身なのはすぐにバレる」
「でも、酒もタバコもタダでくれるかもしれないぞ?」
「………………要らん」
「結構悩んだな?」
「黙れ」
睨まれたので、肩をすくめて門扉を開錠した。
雪景色の広がるララヤの酒場前。
ベロニカは舌打ちをして、ひと足さきに帰っていく。
ひょっとすると、異国の酒やタバコよりも弟子と会いたい気持ちが強かったのかもしれない。
あるいは、
「あら。赤髪のオバサンは帰っちゃったの?」
「! く、黒詩……」
「ヴァシリーサ。あんまオバサンとかって言わないほうがいいぞ?」
「? どうして? オバサンはオバサンでしょ?」
「そうだけど……」
「それよりラズィ! 肩貸して!」
よじよじ、よじよじ。
俺の肩にヴァシリーサがよじ登る。
さっきまで子どもたちの方でキャッキャッと遊んでいたのだが、ひと段落したのか今度はこっちに構ってもらいたくなったようだ。
大魔の気配にケントがビクッとするも、それを尻目にもしないでいそいそ肩に乗られてしまった。
なお、登っている途中でサイズはぬいぐるみくらいになっている。どうやら自分自身にも縮尺変化の適応が可能らしい。
黒詩の魔女(人形ver)である。
ベロニカが先に帰りたがったのは、いかに俺の使い魔とはいえ、ヴァシリーサが放つプレッシャーに嫌気が差したからかもしれない。
ララヤレルンに帰ったら、どのみち慣れてもらうしかないんだけどな。
「ねえ、何をお話していたの?」
「ん? ああ、北に帰る前に、子どもたちをちょっとだけこっち側で面倒見なきゃいけないよなー、って話をしてたんだよ」
「あら、そうなの?」
「でも、やっぱこれだけの人数だろ? 移動させるにしても食事の世話をするにしても、どうしたものかな? って」
「ふふふっ! おかしなラズィ。私のお友だちの心配なら要らないわ!」
右耳のすぐ近くで、ヴァシリーサがクスクス笑う。
「どこかに移動しなきゃいけないのなら、みんなにはケージ・シティに入って貰えばいいのよ!」
「また、クロウタドリの姿に変えるつもりか?」
「お腹が空いちゃうよりかはいいでしょ?」
「うーむ……」
「安心して、ラズィ。もう私、お友だちをずっと閉じ込めておくつもりなんてないわ。だって──」
「だって?」
「ラズィがいるもの!」
「グェ」
ぎゅぅぅ、と首に抱きつかれた。
使い魔契約を結んでから一時間も経っていない。
が、ヴァシリーサはすっかり俺に懐きまくりだった。
好感度がカンストしてるのかもしれない。
「あのぅ、群青卿?」
「ん、なんだケント?」
「そのぅ、黒詩の魔女の〈
「そうだけど?」
「そのうちのひとつには、中に入れた者を不老にするようなモノも……?」
っていうか、飢えの苦しみから取り除かれるような異界が? と。
ケントは再び引き攣った顔で尋ねる。
ヴァシリーサが回答した。
「正確には私の魔法の効果だけど、相手はお友だちだけよ。片腕さん」
「な、なるほど……」
「分かるよ。冷静になると、とんでもない話だよな」
「え、ええ! 本当にとんでもない話です!」
「俺の使い魔、すごすぎる」
「もっと褒めていいのだわっ」
ドヤァ。
魔女人形ヴァシリーサは右肩の上でえへんと胸を張った。
(おいおい参ったな……)
ララヤレルンのご当地グッズとして、本当にぬいぐるみ商品化してもいいかもしれない可愛らしさだ。
ケントが、「ぁ、そうですね……」と若干悲しそうな顔になったのが気になるところだけど、日輪剣返すんだから気分は最高なはずだ。
「ケント。今のはウェスタルシア王国には内緒でな?」
「あ……はい」
「よし。それじゃ、後はあっちの問題をどうするか……」
クレーターの端。
そこからこちらに向かって、実は先ほどから近づいて来ているモノたちがいた。
アイナノーアはまだ空を飛び回っている。
ウェスタルシア王国からの出迎えじゃない。
その
俺たちと同時に地上に戻り、しかし、恐らくは永いあいだ
正体に心当たりがあるのは、恐らく俺だけ。
「……群青卿」
「分かってる。でも、そう警戒しなくても大丈夫なはずだ」
三人は覚醒してからも、周囲にいる子どもたちに危害を加えたりはせず、大人しくこちらの様子をうかがっていた。
魔物ではないし、怪物でもない。
シルエットは人型だ。
ただし、それはイコールでニンゲンであることを意味してはいない。
一番目立つのは、足音を響かせる
次いで目立つのは、龍人としか形容できない小柄な半龍。薄い片翼と太いドラゴンテールを持ち、銀星のドレスアーマーに身を包んだブルーアイズ。
三番目は最もニンゲンに近似ではあるけれど、それを言うならエルフに近いと言ったほうがいい地底エルフ。別名、
順に性別は男、女、女。
ともあれ半龍を除けば、ネフィリムもアルバエルフも現代では絶滅したと語られる種族だった。
(
さて。
眠りの女神ユミナは、何を想ってこの三者を地上に送り返したのか。
新たな出会い。
まずは言語が通じるか、そこから確認していくとしよう。
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tips:復活者たち
異界の最厄地〈エル・セーレン〉消滅と同時に現世(地上)に吐き出された仮死者たち。
眠りの女神によって「まだ役目が終わっていない」と扱われていたため、このたび泥濘の微睡みから醒めた。
ネフィリム、半龍、アルバエルフ。
覚醒した彼らは、新時代にて最新の英雄と出会う。