ヰ世界の歌 夜明け前のダークエルフ 王道硬派な大河ファンタジーの世界で一歩から始める人外愛譚 作:所羅門ヒトリモン
前話のあとがきは挿入ミスだったので消しました。
第3部幕間は次話までなので、次話のあとがきに挿入し直しています。
神話『ロスランカリーヴァ』は、死と呪いに満ち溢れたダークファンタジーだ。
その昔は栄華を誇ったマトモな世界観だったらしいが、何かが切っ掛けで滅亡と混沌が吹き荒れ、この神話世界で生きるモノは皆がオカシクなってしまった。
凶暴化し、狂を発した神代人。
見境を無くした原棲生物。
暴れ回る怪物に魔物、気の触れた英雄英傑たち。
危険は非常に多い。
しかし、『ロスランカリーヴァ』にある物は、現代では失われて久しい神代のオーパーツにしてロスト・アーク。
持ち帰るコトが出来れば、それは国の繁栄を助ける優れた道具になるし、金銭に代えようものなら莫大な富を約束する。
──ゆえに、ウェスタルシア王国では古くより『ロスランカリーヴァ』攻略が国家事業として行われ、専門の王立機関まで設立されている。
「なんでまぁ、立ち入るなら普通は〈神代探訪〉の
「比較的安全なルート、ねぇ……」
「ちょわー!」
アイナノーアが巨猪ダエオドンのスケルトンに雷撃を入れる。
聖槍の一撃により、アンデッドは消滅した。
しかし、門扉を潜り抜けてかれこれ三十分足らず。
遭遇した脅威の数は、すでに五十体目に及んでいた。
「ワイバーンゾンビ、キメラグール、ウィッカーマン、レイスの群れ……これで?」
「実際、難なく倒せてまさぁ!」
「そりゃそうですが……!」
ひっきりなしに魔物や神代兵器、怪物の類が出てくるのは辟易する。
神話世界『ロスランカリーヴァ』……聞きしに勝る地獄ぶりじゃないか。
尋常人にしたらここは、いささか以上に死にゲーじみている。
空模様も陰鬱だし、なんかそこいらじゅうに血溜まりの乾いた跡みたいなのあるし。
「あっ! ごめん! もう一頭いた!」
「まったく」
巨猪ダエオドン、そのスケルトン。
アイナノーアの雷撃をすり抜け、現代のダエオドンとは比べ物にならないほど大きい骨格の個体が、鋭い牙と一緒に突っ込んでくる。
俺は仕方がないので、森羅斬伐を
(少し前まで、この手の芸当はベアトリクスの魔法でも出来なかったんだけどな)
ヴァシリーサと使い魔契約を結んだおかげで、今の俺は便利な能力を獲得した。
ズバリ、物体のサイズ変更と質量操作だ。
森羅斬伐ってめちゃくてデカいし重かったから、単純な持ち運びには結構難儀してたんだよな……
(帰ったら、柄頭に鎖つけてペンダントにできるようにするかな──ッ!)
「BUMOOOOOOOOッ!!?」
正面から、スケルトン・ダエオドンを真っ二つに砕き割る。
「──お見事!」
「どうも!」
「それより、まだ出口に着かないの!?」
「サー・レイドンっ、後ろからもまた来ます!」
「やれやれ。普段はもう少し落ち着きがあるはずなんですがねぇ……今夜はなんでか、虫の居所が悪いようでさぁ!」
それってもしかして、俺のせいか?
死界の王の加護。
神話世界『ロスランカリーヴァ』が、死と呪いに満ち溢れたダークファンタジーだって云うなら、俺の両目は不必要にこの世界を刺激してはいないだろうか?
出てくる危険も、さっきから妙にアンデッドが多い気がするし……!
「こっちでさぁ! もうすぐ
「ッ」
俺たちは走った。
サー・レイドンの掛け声に従い、各々が接近した脅威を撃退しつつ、一刻も早く出口に到着するために。
だってそうだろ?
こちとら昼間まで、正真正銘ホンモノの最厄地にいたんだ。
俺たちの心は、夜くらい静かに過ごしたいで共通していた。
そんななか、驚くべきは俺やアイナノーア、ケントだけじゃなく、例の復活組、古代種族三人も難なく敵を蹴散らしていた点だ。
「██████████ッ!!」
「うぉッ!? ティ、ティールさんすげぇな……!」
「ネフィリムは巨人の近縁種だもの!」
「見た目通りのパワータイプですね……!」
ただの蹴りひとつで、キメラグールが空高く舞っていく。
その前では、まるでドラゴンフライと見紛う独特な走法で、銀星のアーマードレスが剣を滑らせていた。
白銀の半龍、アルステラ・レイディバグ。
黙々と音なく地を翔けながら、彼女は手のひらから剣状の骨を生やしてレイスを斬り裂いていく。
「実体のない
「まさかあの剣、天使の骨なんじゃぁねぇですかい……!?」
天使。
〈渾天儀世界〉において、その名は〈
星天楽土に暮らす星詠みの天使たち。
「天使にゆかりある半龍!?」
「というより、あれってもしかすると混血なんじゃ──!」
「なんにせよ、今この場では頼もしいだけだ!」
自分の身を自分で守れる。
それだけでも、こういった乱戦状況ではありがたい。
もっとも──
(一番おっかないのは、あのアルバエルフだ)
ダスク・グウェンドリンは、戦っていない。
ただ走り、俺たちの後を普通に追いかけているだけ。
だがそれだけで、ワイバーンゾンビもウィッカーマンも、グウェンドリンに近づいた個体から順番にガクンと力を失って倒れ伏していく。
まるで、突如として糸を断ち切られたマリオネットのように。
死すら忘れて眠らないはずのアンデッド、そもそも生物ではない自律型兵器が、気絶するように眠っていく。
その不気味さに、アイナノーアもケントもサー・レイドンも、グウェンドリンに関しては言葉が見つからない様子だ。
アルバエルフは地底で生きる道を選んだエルフの近縁種。
地底。眠り。
「ユミナの
「え!? なんて!?」
「なんでもない!」
あまりの激戦ゆえに、アイナノーアですら俺の独り言が聞き取れなかったらしい。
いろいろ気になる点は出てきたが、人間一日に許容できる問題は限られている。
考えるのはとにかく後回しだ。
「見えました! さあッ、こっちでさぁ!」
「死霊で壁を作る! そのあいだに駆け込め!」
「「了解っ」」
出口である門扉を塞がれないよう、周辺に死霊を展開して即席のバリケードを作った。
「ッ……なんともまぁ、おぞましいトンネルで……! だがありがたい!」
「一抜けるわ!」
「████████──!」
「群青卿もお早く!」
「ああ!」
アイナノーア、サー・レイドン、ティール、ケント、アルステラ、グウェンドリン。
最後の一人が出口を潜ったところで、俺もすぐに飛び込んだ。
死霊術を解除し、神話世界『ロスランカリーヴァ』に背中を向ける。
最後の最後、残りわずか数センチのところまで、狂えるバケモノたちは俺の背中に追いすがろうとしていた。
が、
「封印──ッッ!!」
ガチャン!
サー・レイドンの声によって門扉は蓋をされ、地上にヤツらが出てくることはなかった。危機一髪、ってところだな……
「ハァ……とんだ観光初日なんですけど?」
「悪かったって」
「あはははは……」
俺もアイナノーアもケントも、無事に地上に戻ったことを確認し、すっかりクタクタな気分で溜め息を堪えきれない。
「……で? ここはもう、王都ってことでいいのか?」
「もちろんでさぁ。ようこそ、我らが聖王都へ」
「よかった。そうじゃなかったら、文句のひとつやふたつじゃ済まないところでしたよ、まったく……」
「ハッハッハ!」
((笑って誤魔化そうとしてる……?))
ウェスタルシア王国の人間って、意外とアレなのかもしれない。
俺とアイナノーアは、奇しくもそう思った。
ケントはひとり、気まずげに申し訳なさげだった。
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tips:〈第二円環帯〉
ルキフェディッテ・リングベルト。
星天楽土と称される輝きの世界。
星詠みの天使たちが暮らしていたと云われる。
謎多く神秘的なヴェールに包まれ、然れど、巨大彗星衝突を予見・回避できなかった無能の天体とも一部旧世代からは謗られる。