ヰ世界の歌 夜明け前のダークエルフ 王道硬派な大河ファンタジーの世界で一歩から始める人外愛譚   作:所羅門ヒトリモン

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#280「幕間8 聖剣王との謁見」

 

 

 その後、ウェスタルシア王国とはトントン拍子に話が進んだ。

 

 白亜の城〈アリアティリス〉

 聖剣王ベルーガ・ベルセリオンと、王妃ガブリエラ・ベルセリオン。

 ほか、調整に必要な各所の責任者を交えて、俺の要望はほとんどすんなり飲み込まれた。

 

「最厄地から我が国を救っていただいたこと。余の妻が行きがけに迷惑をかけたこと」

「うっ」

「群青卿の要求は不当なものではないし、人倫にもかなうものだ。喜んで応えたい。群青卿さえよろしければ、盛大な祝宴も開くので是非とも歓待させていただきたいが」

「へ、陛下? 盛大な祝宴なんてそんな……群青卿は清貧を尊ばれていらっしゃる方でしてよ?」

「ん? そうなのかい?」

「ええ! 朝はご自身で、薪を割るのが日課なのだとか! さすが北部人はつましくいらっしゃいますわよね!」

「でも祝宴は開こう。ガブリエラ()()、もちろん費用は用立ててくれるね?」

「…………へ、陛下がそうおっしゃるのであれば、も、もちろんですわ〜! オホホホホ!」

 

 と、王じきじきに黄金妃への罰も下され、噂に名高いウェスタルシア王の聖王らしさを感じる一場面もあった。

 あいにく祝宴は辞退させてもらったけれど(ダンスができない)、白髪美貌の聖剣王はそれすらも快く受け入れ、代わりに幾つかの土産を持たせてくれた。

 

 キング・ウェスタルシア。

 

 予想していた人物像では、もう少し老成した外見をイメージしていたんだが、実際に会ってみるとイメージとはまるで違った。

 背も低くて声も男にしては高いほうで、顔つきは中性的な美少年。いや、年齢を考えれば童顔ぎみの美青年と言ったほうがいいのか。

 男が見れば美少女に、女が見れば美少年にも見えかねない。恐ろしく美形の人物だった。

 

 ただし、腰に佩いた聖剣──白虹剣セレノフィール。

 

 アレクサンドロの日輪剣にも劣らない至高の聖具の担い手らしく、彼の王の至近では魔のモノが立ち入れる隙はまったく無く。

 亡者の念に代表される〝よくないモノ〟の影や霞でさえも、俺の眼には映らなかった。

 まだ歳若いニンゲンであるにもかかわらず、アイナノーアとほとんど変わらない聖者のオーラを備えている。

 

 いろいろと一通りの話が終わった後、俺はベルーガ王と握手する機会があったんだが、

 

「──なるほど。貴卿もまた〝神秘の申し子〟なのだな」

「? 失礼、神秘の申し子とは?」

「いや、こちらこそ失礼。我が近衛、世界で唯一の真なるドラゴンライダーのことだ」

「陛下と竹馬の友だという?」

「ああ。アレもまた神秘に愛され、神秘に魅入られた者。貴卿とはどこか似ている」

「私が、陛下のご親友に……?」

「すまない。忘れてくれ。外見は似ても似つかないのだが、なんとなくそう思っただけだ」

「……はぁ。そういえば、まだお会いしてはいませんね? お忙しいので?」

「いいや? 貴卿はすでに会っている」

「え?」

「許して欲しい。アレは我が国の密告者の長でもあるため、今回顔は明かせない。だが、挨拶はさせた」

「……もしや、今日会った方々のうちの誰かが?」

「あるいは、昨日やもしれん。見せた顔も偽りのものやも。ひょっとすれば、いまこうして我らが話しているのを、あそこの柱の陰やあちらの壁際で、さりげなく見張っている可能性もあるか」

「……」

「フフフ。一応、言伝を預かっている」

 

 〝礼儀を失して申し訳ない。話せて良かった。正直、負けた。だが忠告もしておく〟

 

「〝幻惑や詐術、搦め手の類に対して、もう少し対策を練っておいた方がいい〟」

「……なかなか、肝の冷える忠告ですね」

「気にしないでくれ。アレ曰く、貴卿にはどうやっても勝てないらしいのでな。半分は悔しさゆえの苦し紛れであろう」

「いえ、ご忠告はありがたく受け取っておきます」

「そうか? 国を救ってくれた北の英雄に、これまた偉そうな口を利きおってと内心戦々恐々だったのだがな……懐が広いようでホッと一安心だ」

 

 ベルーガ王は実際に、胸に手を当て「ホッ」と息を吐いてみせた。

 威厳ある口調とは裏腹に、素は意外と親しみやすい性格なのかもしれない。

 

 ──もっとも、だからと言ってそれが、大国の長を侮ったり軽んじたりしていい理由にはならない。

 

 密告者の長であり、ロイヤルガード。

 姿を現さなかったドラゴンライダー然り。

 ウェスタルシア王国には油断のならない国力が備わっている。

 黒龍イリス、禁忌の古龍原語(ドラゴンバベル)然り、神話世界攻略者である〈神代探訪〉、王直下の精鋭〈王の騎士(キングズナイツ)〉など。

 それらすべては、たったひとり、聖剣王の号令で右にも左にも動く。

 

 若くして国を統治し、君臨する王の佇まい。

 

 戦々恐々だったと嘯きながらも、澱みなく言伝を告げた口調からしても、その胆力は充分以上にうかがい知ることができた。

 なにより、俺の右肩には無言で睨みを効かせるヴァシリーサがいたにもかかわらず(聖剣がムカついたらしい)、ベルーガ王はケロッとした顔だったのも瞠目に値する。

 

「北には、いつ発つのかな?」

「明日には発とうかと」

「早いな。しかし、トーリー王からも事情はうかがっている。一晩しかもてなせないのは心苦しい限りだが、英雄の時間は他の何にも代え難い。また機会があれば、いつでも我が国に遊びに来てくれ」

「とんでもありません。こちらこそ、今回はありがとうございました」

「いいんだ。──ガブリエラの件は本当に申し訳ない」

「ごめんなさいですわー!」

 

 最後に、やや空気が弛緩する場面もあったが、全体的に〝王族斯くあるべし〟という印象で、ベルーガ王との謁見は終わった。

 それから護剣士一族への日輪剣返還、ケントとの別れ、アイナノーアのお気楽西国観光、諸々の用事も終わって、翌日の昼過ぎくらいには俺たちは北方大陸(グランシャリオ)に帰還したのだった。

 

 護剣士一族たちからは泣いて頭を下げられたので、折れちゃってるのが少し申し訳ない気持ちになったな……

 

「群青卿。またいずれ、必ずやこのご恩をお返しいたします」

「恩なんて、べつに気にしないでくれ」

「いえ。そういうワケにはいきませんよ。それに……」

 

 別れ際、ケントは失った腕の傷口を押さえて、決意に満ちた顔つきで俺を見上げた。

 

「次に会う時には、僕は今よりもっと強くなって、もっとさらにお役に立てるようになっていますから!」

「そうか? さすがだな」

「はい! では、また!」

 

 今回の旅で一番成長したのは、ケントだったのかもしれない。

 

「次に会う時には、もっと背、伸びてるといいわねー!」

「……」

 

 そして、最後に余計な一言を告げるアイナノーアを見て、俺は静かにそう思った。

 

 

 

 

 

 ────────────

 ────────

 ────

 ──

 

 

 

 

 その晩、〈アリアティリス〉は王の寝室にて。

 

「それで? 群青卿についてあんなこと言ってたけど、実際、どうなの?」

「どうって?」

「あなたとイリスがいても、本当に勝てないんですの?」

「ああ、そのことか」

 

 キングサイズの寝台。

 天蓋付きのベッドには、三つの影があった。

 

 ひとつは当然、寝室の主であるウェスタルシア王。

 もうひとつは、王と寝所を共にできる唯一の女性、すなわちは王妃。

 そして、もうひとつは王と王妃よりも背丈が小柄な、謎の少年。

 本来、王の寝所に身を横たえたれるのは王と王妃ふたりだけであるはずだが、彼らは三人でベッドに並んでいた。

 

 三人ともが、一糸纏わぬ生まれたままの姿だった。

 

 だが、驚くのはそれだけじゃない。

 ウェスタルシア王国の秘中の秘。

 いったいこの秘密を、誰が知っているだろう?

 今この寝台に、男はひとりしかいないことを。

 見目麗しい女性ふたりに挟まれて、謎の少年が疲れたように天井を見上げながら言う。

 

「べつに嘘はついてない。群青卿はバケモノだ。正攻法でやったら、百回やって百回こっちが負ける。万回やっても結果は変わらない」

「総力戦でも?」

「おいおい、白嶺の魔女だぞ? むしろ、総力戦の方が勝ちの目が無い」

「意外ですわね。あなたがそこまで素直に負けを認めるなんて」

「当たり前だ。あのダークエルフ、ロスランカで顔色ひとつ変えやがらなかった」

「うわぁ。それはすごいね」

「本人が自覚あったか知らないけどな? 図体もデカいし、見ててかなりイヤになったね。こちとら一生ガキのままだってのに……」

「でも、指輪のチカラは見破られなかったみたいだね?」

「そうだな」

 

 魔女の能力があっても、群青卿はサー・レイ()ンの正体に気がつけなかった。

 幻術、変身、演技、詐術。

 ウェスタルシア王国のドラゴンライダーが、本気で姿かたちを偽っていた事実はあっても、すぐそばには使い魔までいたのに。

 

「指輪の神秘って点では、俺の勝ちだった。けど、それ以外で絶望的にあっちの方が上だ!」

「まぁまぁ。べつに敵ってワケじゃないんだから、そう悔しがらないでよ」

「そうですわ。私たちのカワイイオチビさん♪」

「……コンプレックスなの知ってるくせに、ひどくないか?」

「何を言ってるんでしょう?」

「むしろ、僕らはこっちのほうが好みなんだよ?」

「どうして……どうしてショタコンになってしまったんだ……俺はムキムキになりたいのに……」

「「絶対ダメ!」」

 

 天蓋の内側で、美女二名が両側から少年の頬をつねる。

 

「いひゃい」

 

 少年の目は金色で、髪の色は緋色がかった黄金だった。

 レイゴン・オルドビス。

 現代に復活したたったひとりの〈神の落とし子(デーヴァリング)〉。

 淫魔の胎から産まれ落ち、妖精にかどわかされた神秘の申し子。

 古代種族の言語に明るい知識人などではなく、少年はただ種族の能力として言葉の不自由を知らないだけ。

 

 そして、ベルーガ王の真名はベルセリア。

 

 実のところ、王は女王というのが正しい。

 口調も砕けて、柔らかな印象が増しているが、陰謀渦巻くウェスタルシアではこのような秘密はどこにでもあるもの。

 つねられた頬をさすり、女王の配偶者、影なる()婿()はベッドから身を起こす。

 

「あら、ちょっと?」

「──なんにせよ」

 

 片膝を立て、そのうえに右肘を乗せて。

 

「あれほどのバケモノが戦って、それでも止められないようなら……うちも覚悟はしておいたほうがいい」

「鯨飲濁流のことですの?」

「ああ」

「先月届いた書簡だと、北の人界同盟はもうすぐ締結されるって話だったよ?」

「巨人の国、ティタノモンゴットでの同盟会談か」

「そうそう。やっと日取りが決まったんだって」

「上手くいけばいいけどな……」

「それより、レイゴン? ──僕、まだ昨夜の穴埋めをしてもらってない」

「は?」

「わたくしも、久しぶりにご相伴にあずかりたいですわね……」

「は? いや待て、いまはマジメな話を──おおおおお!?」

 

 もう一回戦なんて、聞いてない──

 

 王の寝室では、そうして今宵もまた、密なる秘め事が繰り返される。

 天蓋の内側で熱気はこもり、濡れた肌が重なり合って。

 

 つまるところ、この三人はそういう関係性だった。

 

 ……いつかどこかで、彼らの始まりを記した物語が行き着いた結末。

 

 陰謀渦巻くウェスタルシアに相応しく、背徳的な秘め事は幾つか抱えてしまっているけれど。

 彼らは間違いなく、いまも幸せに暮らしている。

 

 翌朝、ベッドから這い下りたレイゴン・オルドビスは、北の空を見上げて呟いた。

 

「健闘を祈る」

 

 

 

────────────

tips:北方大陸人界同盟締結会談

 

 巨人たちの山嶺。

 いと巨いなる荘厳銀嶺ティタノモンゴットにて。

 対鯨飲濁流を軸とした同盟会談の開催は決定された。

 招待状はララヤレルン、群青卿の本拠にも早晩届けられるだろう。

 

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