ヰ世界の歌 夜明け前のダークエルフ 王道硬派な大河ファンタジーの世界で一歩から始める人外愛譚   作:所羅門ヒトリモン

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#292「荘厳銀嶺国境前」

 

 

 よし。では、改めて目的の確認をしておこう。

 今回の人界同盟締結会談。

 開催場所が巨人の王国ティタノモンゴットに決まったのは、主に二つの理由があると聞いている。

 

 ひとつ、巨人王が同盟の盟主をどこにするかで、自分たち巨人こそが相応しいと主張したこと。

 ふたつ、巨人種が参加可能な会談場所を、他の二国が用意するのが難しかったこと。

 

 本来、発起人ならぬ発起国であるトライミッド連合王国が盟主となるのが自然な流れではあるんだが、そもそもの原因が北の大悪魔、鯨飲濁流の復活という由々しき事態であるため、これに対処するには最も()()()()()が柱になるべき、という理屈が掲げられている。

 

 その主張の実態が、古代エリヌッナデルクを識る巨人王の心の裡、エルノス人に対する歴史的な隔意に起因していたとしても。

 同盟を結べなければ、北方大陸(グランシャリオ)の人界そのものが早晩滅びかねない。

 それを理解しているトライミッド連合王国は、メラネルガリアにも協力を呼びかけて盟主の座をティタノモンゴットに譲った。

 

 正確には、「ティタノモンゴットが我らの人界を託すに相応しい強国であるならば、同盟の盟主となっていただいてまったく構いません。会談の場も、ぜひ足を運ばせていただきます」というのが公的発言だが。

 

 これを受けたティタノモンゴット側は、少なからず態度を軟化させた。

 最初は「エルノス人との同盟などクソ喰らえ!」という態度だったそうだが、現在は「腑抜けたエルノス人が、わざわざ頭を下げに来ると云う。ならば笑い物にしてやろう。せいぜい苦労して来るがいい」という感じで、とりあえずの同盟会談開催が決まったワケだ。

 

「そこまで漕ぎ着けるのに、トーリー王もザディア宰相もえらく苦労したようで」

 

 カプリから聞いた話によると、あのふたりは連合王国内にいる巨人に片っ端から声をかけて、どうにかこうにか橋渡し役を維持しながら交渉が絶えないよう工夫したそうだ。

 メラネルガリア側に関しては、俺の名前が届くようになってからは驚くほどすんなり調整が進んだらしく、ティタノモンゴットの難攻不落ぶりが余計に際立ったとも。

 

「片や喧嘩腰の巨男。片や話の通じる美幼女。どちらの相手が精神的に好ましいかと言えば、もちろん後者でしかないよ〜」

「陛下。誤解されそうな発言はお控えください」

 

 と、そのような感想もあったとカプリから聞いた。

 我が姉(血縁)は見た目が幼いだけで、年齢は四桁歳。

 恐らくは今回の会談、巨人王に最も年齢が近いはずだと教えたら、どれくらい腰を抜かすだろうか?

 

 それはともかく、各国の状況と立場も念のため整理しておこう。

 

【ティタノモンゴット】

 

 まず、巨人たちは鯨飲濁流復活の報に懐疑的だ。

 エリヌッナデルクにおいて、北方大陸王メレク・アダマス・セプテントリアはあの吸血鬼と相討ちになった。

 これまでの常識では、そのように北方大陸では信じられていて、偉大なる王が命を懸けて戦ったのなら、あの大悪魔も滅びていて然るべき。

 あるいは、滅びていて欲しい。

 願望も込みで、北方大陸語族(セプテントリオン)は安息を享受して来た。

 

 真相は相討ちではなく、むしろ敗北。

 

 鯨飲濁流は漁夫の利を狙った灑掃機構に不意打ちをされて休眠状態に陥り、あと一千年は回復に時間がかかるはずだった。

 それが、城塞都市リンデンで発覚した驚愕の事実。

 これを巨人たちに信じさせるには、()()もまた会談に参加しなければならない。

 

 つまり、大国でもないララヤレルンの一領主に過ぎない俺が、今回の同盟会談に参加するのはその役割を負っているからだ。

 

 故郷を同じくするダークエルフの言葉であるなら、巨人たちもきっと真剣に耳を貸してくれるはずだとトライミッドは期待している。

 が、それはまだ会談が始まらなければ、どうなることやら分からない。

 

 ティタノモンゴットについて現状、分かっている彼らの基本姿勢はこうだ。

 

 エルノス人が何か知らんが情けなく狼狽えている。

 矮小な身でわざわざ足を運び、同盟を求めて頭を下げると云う。

 鯨飲濁流が復活した? ……戯れ事を。

 それが仮に真実だとして、同盟など片腹痛いわ。

 エリヌッナデルクを忘れたか。

 むしろ属国になれ。頭を下げた勢いそのままに、地に這いつくばれ。

 

 トライミッド連合王国(エルノス人)へのヘイト値が、とにかく高い。

 が、それでも自国での会談開催を受け入れたのは、鯨飲濁流の名前に巨人王の賢明さが働いたからだと信じたいところ。

 俺の予想では、ティタノモンゴットは真実を見極めるためにも二ヶ国を招く決断をしたはずだ。

 曲がりなりにも同格、北の五大に数えらえる他の国の格を、測るつもりでもいるはず。

 

 まあ、それはトライミッドもメラネルガリアも同じかな。

 

【メラネルガリア】

 

 続いて、ダークエルフの女王国。

 懐かしき祖国にして、俺はまだ知らない新生後のメラネルガリア。

 こちらは基本姿勢として、分かっているのは〝俺の名前が出たから参加を決めた〟という……なんともリアクションに困るスタンスを表明している。

 が、そもそもが長年の鎖国体質。

 如何に旧体制が駆逐されたとはいえ、クーデター後のメラネルガリアは国力の低下を免れなかった。

 

 種族の能力が、外見で明示されるダークエルフ。

 

 貴種の血統が激減し、男の数まで減って。

 クズとカスも同時に消え去ったかもしれなくても、困ったことにそんなクズとカスたちが一定の実力者でもあったのが、かつてのメラネルガリア。

 現在ではどんな状況になっているか、調整に臨んだ連合王国の首脳陣でも詳細なところが分かっていないそうだ。

 

「えっと、女王陛下なんだけど……」

「側近の方々含めて、海千山千の狐狸ですかな?」

「僕たぶん分かったけど、群青卿が出てこないと彼女たち、絶対に本心を口にしない気がする」

 

 とは、カプリの声真似付きで知ったトーリー王とザディア宰相のリアクション。

 政治能力や陰謀能力は相変わらずのようだ。

 が、それは言い換えれば隠す必要があるほどに国力差を意識しているから、ではないだろうか?

 少なくとも、俺が覚えている双子姉妹の性格なら、自分たちの力に自信があるとき堂々とその力を誇示したはず。

 

 分からない。時間が経っているから、このへんは再会してみないことには何とも言えない。

 

 ただ、鯨飲濁流復活の報について。

 俺の名前が出たからか、ティタノモンゴットみたいに懐疑的な反応は一切無かったっていうのは嬉しかったな。

 疑ったのも、連合王国が俺の名前を騙って、都合のいいようにメラネルガリアを利用しようとしていないか。

 俺を、都合よく利用していないか。

 

 そこだけは、腹芸なしに真っ向から確認してくれたそうだ。

 

「うーん。やっぱり、だよ」

「群青卿めちゃくちゃ祖国に大事にされてましたな」

「よかったー。あのときの僕、選択を間違えなくて」

 

 カプリが声真似つきで以下略した後、「故郷が残っているのは、幸せなことですね」とフェリシアが微笑んでくれた。

 

 しかし、今回の同盟会談でメラネルガリアが、どこまで鯨飲濁流への対抗力を示してくれるか。

 俺は正直、期待しすぎてはいけないと考えている。

 

 ティタノモンゴットが未知数な部分はあるが、巨人種はひとりひとりが強壮だ。

 軍事力の平均値という点では、極めて高い評価を下すしかない。

 トライミッド連合王国には刻印騎士団──当代最強の英雄と呼び声高い憤怒の剣がいる。

 エルフ、ドワーフ、ニンゲンという三種族の結束により、多方面に優れた人材も抱えている。

 海外との繋がりや、外交力だってバカにはできない。

 

 メラネルガリアには、同じだけの戦力・頼もしさがあるか?

 

【トライミッド連合王国】

 

 ここは、多くを語る必要がない。

 すでに確めた二カ国との対比で、トライミッドの会談スタンスはハッキリしている。

 

 すべては、対・鯨飲濁流。対・ネルネザゴーン。

 

 北の人界を守り抜き、悪しき魔の嘲笑から大切な命と、誇るべき尊厳を守るために。

 第二次エリヌッナデルクの可能性に震えながら、当代の連合王はモノクル越しに最善手を模索している。

 

「僕はクズだからね〜。趣味の造船産業と海洋事業に集中するには、平和な世界が欲しいだけさ〜」

「グラディウス翁もおりますしな!」

 

 最強の英雄を抱える大国の自信。

 もしくは、偉大な肩書きを何も持たずとも、ただ一個の人間として真に国を思いやる選択をした明君の思慮なのか。

 ヘラヘラとした日頃の様子からはうかがいづらいが、トーリー王もザディア宰相も本気で同盟を成そうとしているのは間違いない。

 

 ネルネザゴーンには、怪人道の種族が集結しつつあるという噂もある。

 エル・セーレンで仕留め損ねた大魔もいるだろう。

 グリムランドとも呼ばれる大峡谷の闇のなかで、〈第八円環帯(ハーディーンス・リングベルト)〉から落ちてきた()()、いと妖しき〝グリムびと〟だっているはずだ。

 

 新王ゲーン・ダッドリューが、鯨飲濁流じゃないなんて話あるワケない。

 

 だから、

 

「絶対、成功させよう」

 

 北の五大の内、三つが手を組んだなら。

 善戦は難しくても、一方的な蹂躙や虐殺だけは回避できる。

 理想は大勢で力を合わせて、なんとか持ち堪えているあいだ。

 俺やグラディウス翁が、アイツの首を落とすことだ。

 総力戦になる前に、出来ればそうしたい。

 

 ──いざ。

 

 荘厳なる銀嶺、巨いなる山嶺が如き神の創りし国(ティタノモンゴット)へ!

 

 

 

 

 

 ────────────

 ────────

 ────

 ──

 

 

 

 

「……って、なんだこれ?」

「ウオオオオオオォォォッ! ムカつくんだよぉぉ!」

「我らのバッタモンが、調子に乗るなァ!」

「カルメンタ様の聖なる光の加護ぞあれ!」

「拝光聖騎士団の力を思い知らせてくれるッ!」

「バカが! 刻印騎士団をナメてんじゃねェ──!」

「お呼びじゃねえんだよ! ()()の連中なんざ!」

 

 大軍が、殴り合いの喧嘩をしていた。

 月の瞳が異界の門扉を開けて、それを潜り抜けた直後。

 ティタノモンゴット、国境前。

 トライミッド連合王国が、天幕を張っている野営地。

 

「……これ、は」

「見るからに……」

「統率が、取れてない!」

「ああ、なにしろ乱闘の真っ最中だ。そうだよ? 大問題だね」

「オイ。どういうことだよ?」

 

 淡々と状況を述べる月の瞳に、俺たちの誰もが説明を求めていた。

 目の前には、これから人界同盟を結ぼうとしている国の軍隊とは思えない光景。

 人間が人間と争い合っている姿。

 質問に、月の瞳は珍しく苦渋を滲ませ、

 

「……争っているのは、刻印騎士団を中心にした連合王国軍と、()()()()()()()()

「聖地から来た、援軍?」

「そうだよ。鯨飲濁流の復活を嗅ぎつけて、カルメンタリス教の総本山から聖女とやらが派兵を決断してね」

 

 いま、この場には海を越えてやって来た女神の騎士たちがいる。

 

「安心してくれ。すぐに、乱闘はおさまる」

「鎮まれえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッ!!」

 

 ド ッ ゴ ー ン ッ !!

 大銅鑼のような叫び声と、山肌を揺らす豪快な着地。

 乱闘の中心地に、英雄が隕石のように降ってきた。

 衝撃波が巻き上がり、人がウェーブ状に宙へ吹き飛んでいく。

 

「…………なにが、なんだか……」

 

 クリスの反応が、俺たち全員の感情でもあった。

 顔を顰め、眉間に寄った皺をさらに深くしていると、

 

「とりあえず、合流を知らせるためにも本陣へ案内するよ。諸々の話は、そこからだね」

 

 スタスタ、テクテク。

 遠慮容赦なしにどんどん進んでいく魔物の背中を、疑問を飲み込んで静かに追いかけるしか選択肢が無いみたいだった。

 

 ……ほんと、なに? これ?

 

 

 

 

────────────

tips:天才護剣士の旅立ち

 

 聖剣が返還されて数日ほど後、ケントはウェスタルシア王国にいとまを願い出た。

 密告者の長のもとで密使として働きながら、日輪剣の行方を探す日々は終わりを告げたからだ。

 「これからは、一族のもうひとつの使命に殉じたく」

 「それは構わないが、双剣使いが片腕でどれだけやるつもりだ? 俺としては、密使としての腕を見込んで後進の育成に回ってもらってもいいんだが」

 「ありがたい申し出ですが、それはできません」

 片腕は驕りとともに捨てた。

 残された腕には、使命と決意が掴まれている。

 「僕は北へ行きます」

 「そうか……なら、その前にエルダースに行け」

 「エルダースに?」

 「宝の持ち腐れな闇祓いにツテがあってな。腕の代わりにはなるだろ。うちから餞別もくれてやるから、思う存分北で役に立ってこい」

 「──感謝を」

 ともに神代英雄を討ち取った仲間。

 ウェスタルシア王国にも、たくさん世話になった。

 そのうえ神話世界から得た幾つかの遺物まで、餞別として譲り渡してくれるとは。

 「貴重な品ですけど、よろしいんですか?」

 「使い手がいないよりかはマシだろ」

 「分かりました」

 感謝の礼を再度、深く行う。

 「じゃあな。ケント・トバルカイン」

 「オルドビス卿も、お元気で」

 「謙虚に礼儀正しくなりやがって」

 

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