ヰ世界の歌 夜明け前のダークエルフ 王道硬派な大河ファンタジーの世界で一歩から始める人外愛譚   作:所羅門ヒトリモン

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#293「驚愕の連合王天幕」

 

 

 本陣の天幕に着くと、テーブル上に地図を広げた兵士たちが、ちょうど入れ替わりで去っていくところだった。

 たしか今のは、製図兵ってヤツだったか?

 

「連れて来たよ」

「おお! やっと来たんだね!」

「群青卿! 待っておりました……!」

「トーリー王、ザディア宰相。この前ぶりです」

「では私はこれで。外の件は、君たちから説明を頼むよ」

 

 月の瞳が消える。

 どうやら外の事情については、天幕内の人間に説明を任せるつもりのようだ。

 近くに人間がいると眼を閉じてなきゃいけないので、それがストレスってのもあるのかもしれない。

 本陣の天幕には、トライミッド連合王国の首脳陣と、その身の回りの世話をする侍従たちがいた。

 騎士と兵士は、それぞれ邪魔にならない位置に控えつつも、それぞれの役割を意識して警護対象から決して離れすぎない位置どりを保っている。

 が、今はさすがにほとんどが俺たちに注意を逸らしていた。

 

「これ、土産な?」

「お、おお……毛深犀(コエロドンタ)か……」

「おい。天幕の外に運ばせろ」

「ハッ!」

「やれやれ……道中、誰も受け取ろうとは?」

「まぁ、俺が引き摺ってたからな」

「なるほど。月の瞳も先導してたし、仕方がないね。ザディア」

「情けない……いや、すみませぬ。ありがたく頂戴いたしますぞ!」

「食べ物はどれだけあっても困らないから、ホント助かるよ〜」

「それなのですが、外の騒ぎはどういうことですかな?」

 

 連合王国と最もやり取りを重ねているカプリが、「聞いてない」とばかりに早速切り込む。

 

 聖地からの援軍。

 

 聖地と言えば、現在の〈渾天儀世界〉ではカルメンタリス教の総本山を指すのが大半だ。

 元は南方大陸の北端にあったが、古代初期に起こった地殻変動によって〈中つ海〉に分離し、あの海で最大の広さを持つと謳われるようになった孤高の島国。

 

 教国パランディウム。

 

 広くは、聖地パランディウム。

 

 そこは、人類における地上の楽園。

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 聖都ニコストラ、聖門ポルタ・カルメンタリスなど、カルメンタリス教の信徒からは一生に一度は巡礼したい場所と崇敬を集める。

 

 国の統治者は、代々『聖女』と呼ばれる女性が務めることでも有名である。

 

 誇る軍事力は、女神の騎士を称する拝光聖騎士団と灑掃機構。

 後者だけで、大国を相手できる力がある。

 

「刻印騎士団を中心に、そちらの兵ともかなりの乱闘騒ぎを起こしていましたが?」

「ああ……それなんだけど」

「我々も予期せぬ成り行きでして……」

「ぶっちゃけると、ダァトが少し暴走してね」

「暴走? 連合王国には、固い結束があるものと思っていましたが」

「う〜ん! 耳が痛いねザディア!」

「ええ、陛下。ですが結束=一枚岩ではないですからね。我らの槍はそもそも、三又に分かれているからして」

「時にはそれぞれの頭が、別の方角を向くこともあるんだ!」

「まるで、打ち合わせを済ませておいたかのようにスルスルと言い訳が出て来ましたな」

「「いや〜、そんなことは」」

 

 カプリの指摘に、ふたりのニンゲンが分かりやすくそっぽを向いた。

 察するに、トライミッド連合王国に三つあるエルノス王家の内、今回の件はダァト──すなわちドワーフが事の発端らしい。

 暴走と聞くと、つい穏やかではない気分になってくるが、具体的には何があったのだろう?

 黙って追加説明を待っていると、トーリー王がおちゃらけた顔つきから、少しだけ引き締まった顔つきに戻った。

 

「まぁ、なんだ。群青卿、リンデンにいたレイノルド・ソーダという司祭を覚えているかい?」

「もちろん」

「おお、本当に?」

「アルゼンタム聖堂で働きながら、よく下層まで降りてきては慈善活動をやってた」

「──さすがだね。その通りだよ」

「彼はドワーフの血を引いておりまして、ダァトの秘宝匠とはとても強い繋がりを持っていました」

「というか、ドワーフって種族自体が、もともと職人気質なひとばっかりじゃん?」

「ですから我が国のダァトも、秘宝匠──引いてはカルメンタリス教に昔から強い信仰心を持っていまして」

「聖地とも交流があったんだ」

「交流? どうやって?」

「聖地巡礼だよ。彼らは僕の船が出来上がる前から、ただその足を使って聖地へ旅をしてきた」

「長寿種族ならではの話ですが、たとえ長寿種族でも、それが極めて厳しい旅だったのは語るまでもありません」

 

 ドワーフの寿命は千年に満たない。

 たしか、八百年くらいだったはずだ。

 そして、この世界は広い。

 ただの徒歩で北方大陸から南方大陸まで移動して、挙げ句、海まで渡ろうとすれば、それはドワーフでも半生を費やしかねない時間になる。

 片道だけで。

 

「つまり、ダァトのドワーフはそれだけ熱心な信徒ってことか」

「その通り」

「彼らは今回の同盟会談に、我々がどれだけ本気で臨んでいるか? 証明と」

「心強い援軍を、同時に叶えてくれたってワケ!」

「なるほど」

 

 だんだんと、経緯が理解できた。

 

「じゃあ、ダァト王家は良かれと思って聖地に援軍を頼んだ?」

「そういうコトになる」

「で、聖地の方もどういうワケだか、援軍を出すのに了承した?」

「そういうコトになります」

「今代の聖女殿は、なんというか……かなりの博愛主義みたいで!」

「なんと、いるのですよ」

「は?」

「彼女、お抱えの聖騎士団を引き連れて、ここにいるんだ」

「…………マジ?」

「「マジ」」

「とんでもない話になって来ましたな」

 

 カプリの声音が、全然とんでもなくない平坦なものだったのに驚きつつ。

 俺もフェリシアもクリスも、ビックリし過ぎて言葉が出ない。

 大陸間巨大石橋で地続きである西方大陸、ウェスタルシア王国でさえ今のところは〝(ケン)〟の姿勢を保っているのに。

 

「世界のほぼ反対側から、わざわざカルメンタリス教の代表者が直接腰を上げたっていうのか?」

「ヴィヴラさん──ああ、ダァト王のことだけど。彼はすっごく有頂天だよ。昨日なんか、もう同盟なんか結べなくても、教国の灑掃機構に頼れば事が片付くって言い放つ始末でね」

「実際、灑掃機構の三番機まで一緒ですからな……」

「「「「な──」」」」

 

 ザディア宰相のぼやきに、さしものカプリも今度は動揺した。

 

「女神の天罰機を、今代の聖女は動かせる……?」

「どうやら、そうらしい」

「おかげで、あっちの拝光聖騎士団はずいぶんと居丈高な連中が多いようで」

「うちは昔から、刻印騎士団にも頼ってるじゃん?」

「魔物の力を使って魔物に対抗するなど、彼らの目には不道徳に映るようでして!」

「幸い、グラディウスが止めに入れば治まるんだけど、どうにも喧嘩ばっかりなんだ!」

「助けてくれませんか? 群青卿」

「えぇ……」

 

 なんでそこで、俺にどうにかできると思うんだよ。

 俺がしゃしゃり出たら、むしろさらに状況が悪化しそうじゃないか?

 

「助けるって、具体的にどうすれば?」

「おお! さすがは群青卿!」

「助けてくれるんだね! ありがとう! そう言ってくれると思っていたよ!」

「あっ、いや、今のはちが──」

「ちょうど方法は、こっちで考えてたところだったんだ!」

「やりましたな陛下! これで聖地のハナタカどもに思い知らせてやれますぞ!」

「ダァトには悪いけど、勝手な行動のツケは払ってもらわなきゃね!」

 

 ケケケケケケッ!

 ふたりが、悪魔みたいな笑い声をあげた。

 何をさせられるのか分からないが、よっぽど腹に据えかねていたらしい。

 

「メラン殿」

「言うな、カプリ。どうせギブアンドテイクだ」

「詳細は後でまた、追って知らせるよ!」

「着いたばかりですからな。専用の天幕を用意させますので、そのあいだ自由にお過ごしください!」

「そうだ! ウィヌとかと顔を合わせてきたらどうだい? 近くの天幕にいるよ。あ、気まずい関係なんだっけ?」

「…………」

 

 返事はせず、手を上げて背中を見せるに留めた。

 三人を連れて、再び外に出る。

 

「先輩。ウィンター伯が、いるんですね」

「そりゃいるだろ。リンデンの最たる当事者なんだから」

「それじゃあ、クリスタラー支部長も……」

「月の瞳がいるからな」

 

 近くの天幕のどこかに、いるはずだ。

 辺りを見渡すと、ダークエルフに対する奇異と警戒の視線が突き刺さる。

 しかし、事前に周知はされていたのか、「あれが群青卿……」などの反応が多い。この辺りはさすがに、連合王国の人間で固められている。

 さて、どう時間を潰すか。

 

「あんまほっつき歩くのは面倒くさいな」

「メラン様に絡むような者は、聖地の騎士団にもいないかと思いますが」

「そりゃ分からないぞ、クリス」

「愚か者はどこにでもおりますからな」

「お、愚か者って……」

「でも、聖騎士だからこそ、と言うのはあると思います」

「フェリシア様がそうおっしゃるなら、たしかに」

「「……」」

 

 クリス、俺とカプリよりフェリシアへの忠誠度が高くない?

 いやべつに、いいんだけど。

 

「とりあえず、自由時間にすっか」

「懐かしい顔ぶれに、挨拶でも?」

「しないワケにもいかないだろ?」

「じゃあ、私も先輩と一緒に回ります」

「僕も護衛ですので!」

「おやおや。では、ワタクシは小用にでも」

「分かった。気をつけてな」

「小さな幼子ではないのですぞ?」

 

 吟遊詩人がトイレに旅立つ。

 

「……にしても、また妙なところだ」

 

 荘厳銀嶺の国境前。

 てっきり俺は、ヴォレアスに近い景色を想像していたのに。

 

「まさか、山の頂上から()に降りる道があるとは思わなかった」

「……これ、山です……よね?」

「見たまんまだろ。山の地中に、山がある」

「表と裏……重力も反転してますよね?」

「しかも、空まであると来てる」

 

 ティタノモンゴットは、ひとつの巨大な雪山のなかに小宇宙(ミクロコスモス)でも内包しているみたいだった。

 俺たちはいま、山肌の裏側に足を下ろしているのと同時に、見方を変えれば表側にも突っ立っている。

 

「そりゃ、どこに住んでるのか前から疑問には思っちゃいたが」

 

 雄大で壮大な銀嶺そのものの内側が、まるまる国になってるなんてな……!

 

 一種の地底世界。

 いや、空洞世界(ホロウ・ワールド)

 

 この世界にはいつも、驚かされる。

 

 

 

 

────────────

tips:月の瞳の苛立ち

 

 妨害を受けている。

 邪魔をされている。

 人界同盟締結会談を目前に、月の瞳は明らかに叔父の悪意を感じずにはいられなかった。

 「聖具で武装した騎士たちに、灑掃機構」

 表向きは援軍だが、コイツらが近くにいるだけで月の瞳は能力を限定される。

 未来視を可能にする演算に支障が出て、辿るべき分岐を見過ごしかねない。

 だが、最善は尽くしている。

 妨害があるのは、それが向こうにとって望ましくない行動だから。

 「叔父上──貴方の好きにはさせない」

 

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