ヰ世界の歌 夜明け前のダークエルフ 王道硬派な大河ファンタジーの世界で一歩から始める人外愛譚   作:所羅門ヒトリモン

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#300「ティタノモンゴット」

 

 

 〝──かつて、北方大陸(グランシャリオ)には偉大な王国があった〟

 

 渾天儀暦6028年1月21日。

 現代に存命する著名な歴史家たちは、口を揃えて語り続ける。

 古代四大が一、セプテントリア。

 壊れた星の紀以降、最もはじめに超大陸を統一した偉大な王国。

 その名は当時、海をも越えて轟き渡る『栄光の象徴』だった。

 

 厳しい自然と痩せた大地。

 およそ文明を築き上げるには、あまりに過酷な常冬の荒野で、彼らはだからこそ、〈渾天儀世界〉初となる多種族国家を成立させた。

 

 〝──たとえ姿かたちが異なれども、我らは結束すれば、必ず理想郷に辿り着く〟

 

 救世を謳う予言。

 ダークエルフの王は次々に仲間を増やし、ついには北方大陸(グランシャリオ)の人界、全土を統一する偉業を果たした。

 巨人やエルフなどの人間道はもちろん、雪兎(スノウレプス)などの亜人道、奇怪なるグリム人や、トロールなどの怪人道までが等しく王国の民。

 セプテントリア文明、セプテントリア文化。

 誰も彼もが手を取り合い、同じ問題を協力し合って解決する。

 そうして生まれたるは、まさに花開く繁栄の黄金時代。

 吟遊詩人の多くは、夢のような治世であったと、各地で唄を歌い回った。

 しかし、

 

 〝──夢は所詮、夢なれば。いずれ泡沫のように醒めるが定め。

 今日(こんにち)において、大セプテントリアは存在しない〟

 

 現代に伝わる歴史書のすべてにおいて、著者たちはこれもまた、同様に口を揃えて語り続ける。

 偉大なるセプテントリアは滅亡した。

 多種族共存、理想郷の構築などは所詮夢物語に過ぎなかった。

 あの大戦を切っ掛けに、他の超大陸国もふくめて、世界は不協和音に満ち満ち、各種族は結局、各々を一番に考え袂を分かった。

 

 だが、落胆することはない。

 

 世界は元より、初めからこのような形をしていたのだ。

 古代においてはそれを、誰もが忘れてしまい、一時の熱病に浮かされていた。

 四千年近い泡沫。

 長きに亘って夢見たそれは幻。

 

 ──然れど。

 

 氷雪の彼方、第五の地平、巨いなる荘厳銀嶺ティタノモンゴット。

 北方大陸の北部に腰を据え、セプテントリア語族で最も標高の()()場所に国土を築き上げながら、なおも強壮・勇猛・盤石を誇りし巨人たちの国。

 

 古代王朝の発足を支え、故郷を同じくするダークエルフらと真に盟友と呼べる関係であった彼らは。

 

 文化として〝荘厳〟を尊び、銀嶺に移り住んでからも延々と〝古代〟を継承して来た。

 種族として巨大で、頑丈で、とても力強い彼らにとって、歴史とは紙ではなく岩や石、大地に刻み込む物。

 

 〝──おお、偉大なるセプテントリア!

  今は崩れ、無念にも打ち斃されし夢の王国よ!

  我らは友として、汝の栄光を忘れない──〟

 

 ティタノモンゴットでは、あらゆる偉業が数千年を超えて後世に残り続ける。

 その王国は至るところに巨岩を積み上げ、巨石を彫って像を造り上げ、山の表面、その肌をこそ歴史書としてきた。

 真に価値あるものとは、矮小なるモノどもが時の彼方と呼んで忘れ去ってしまう年月よりも、さらに幾星霜を隔てて未来に残るもの。

 巨人たちは古来より、巌のように在るコトを尊び生きてきたのだ。

 ダークエルフを友と呼ぶのも、ただ単に故郷を同じくするだけが理由ではない。

 長寿種族であるダークエルフが、その生涯において巨人たちの誇りを理解可能だったからだ。

 

 瀟洒と荘厳。

 

 なればこそ、巨人たちはキング・セプテントリアを認めていた。

 北の覇権を任せるに、不足はない。

 自分たちもまた、ダークエルフが誇りし『黒き十一の貴石』と何ら劣らぬ戦力を有していたのに。

 

 巨獣狩りのヘイムダル。

 雪崩歩きのライヘン。

 流星穿ちのポルポルポ。

 

 たった三人の戦士。

 けれど、たった三人で万の軍に匹敵する巨人族だった。

 加えて彼らには、〈第五円環帯(ティタテスカ・リングベルト)〉の神話、巨人種の主神である黒白の双子巨神から授かった()()もあったのだ。

 

 神具を使える戦士もいた!

 

 しかし、偉大なるセプテントリアは巨人族を最強の矛とはしなかった。

 北方大陸の歴史において、セプテントリア王国最強とされたのは、チェーザレ辺境伯軍。

 いったい、何故なのか?

 この謎こそが、古代エリヌッナデルクに禍根を生んだとされる、巨人とエルノス人のあいだに横たわるクレバスがごとき確執、その原因に他ならない。

 

 ゆえに。

 

 もしもエルノス人が、ティタノモンゴットに踏み入るならば覚悟せよ。

 巨人王ガンドバッハは決して忘れもしなければ、許しもしない。

 不動の山のごとき、()()そのものとなって怒りの日を待っている……

 

 

 

 ────────────

 ────────

 ────

 ──

 

 

 

 

「わー! 見てくださいメランくん! 月光銀(ミスリル)の巨像です! あんなに並んで、いったいいくらになるんでしょう? すごいですね!」

「あ、うん。そうだな」

「あ! あそこを見てください先輩! なんて大きい建物でしょう! 私たちから見たら神殿みたいに見えますが、ティタノモンゴットではきっと当たり前なんでしょうね!」

「あ、うん。そうだろうな」

「見て見て! メランさん! あっちには昇降機があるわよ! やっぱ巨人用だから島みたいじゃない?」

「あっそ」

「ちょっと! 私だけ反応が違いすぎるんですけど──!」

「「「お労しや姫様……」」」

 

 ティタノモンゴットへの入国道中だった。

 試練をクリアし、無事に国境を越える許しを得た俺たちは、ぞろぞろと歩きながら王国の中枢へ向かっている。

 周囲には見上げるばかりの建築物に巨像。

 荘厳な意匠で統一された人工物が増えて来ている。

 しかし、どれも吹き曝しだ。

 まだこのあたりは、居住用のエリアではないのだろう。

 

 先頭を行く案内人の巨人の背中を追いかけながら、トライミッド連合王国および聖地パランディウムの混成軍は、自分たちとは圧倒的に物の規格が異なる光景にしょっちゅう首を斜めに傾けていた。

 

 ティタノモンゴットの王宮までは、これから一日かかるらしい。

 

 巨人たちの足では半日程度らしいが、エルノス人の足では一晩の時間が必要だと連絡を受けた。

 そのため、今はただ歩くだけの時間──なのだが。

 

(気がついたら、両脇をルカとフェリシアに挟まれてる……)

 

 最初に、ルカが俺の左腕を取った。

 その瞬間、フェリシアが対抗するように右腕を取った。

 で、なんか知らんがアイナノーアが偽装工作の一環で右斜め後ろに。

 さっきから秘紋が、グルグルと肌の上を這いずっている。

 言いたいことがあるなら霊体化すればいいのに、どうやら複数人数との会話は苦手なようだ。

 おかげで、俺は夢のなかで毎晩「今日のあの時は、実はこういうことが言いたかった」だとか、「私は〜〜について〜〜と思います」だとかを聞くハメになっている。

 ヴァシリーサまでこの場にいたらと思うと、本当に大変だ。

 至急、男の甲斐性レベルを上げなければならない。

 

 というか、フェリシアが何でか知らないけど怒らなくなってるのが怖い……

 

(これは……どういうコトなんだ……?)

 

「見てくださいクリス殿。あれが世にも珍しい困惑と戦慄、恐怖やら満更でもない気持ちやらが一度に入り混じった複雑妙味なる顔です」

「わぁ……ララヤレルンって、一夫多妻制なんでしたっけ?」

「さて? ワタクシもそのへんは、まだメラン殿に聞いてませんからんなぁ」

 

 カプリとクリスが、完全にこっちの状況を見世物扱いだ。

 てか、満更でもないとか言うな。

 そりゃ俺も男だから、この状況に気分が良くならないワケじゃないけど、緊張感はずっとある。

 どこかに罠が潜んでいる気がしてならない。

 まず前提として、現在俺を取り囲んでいる彼女たち(アイナノーアは除外)の中には、「この男どれだけ──」という怒りがあるはずなのだ。

 

 俺に対して全肯定気味の秘紋、ラブはラブでもファミリーラブなヴァシリーサは危険視しなくてもいいかもしれないが、フェリシアとルカのなかには間違いなく火種がある。

 

 これは何かがあれば、事あるごとに燃え上がって俺を責める口実になるだろう。

 曖昧な関係性でいられる時間は少ない。

 

(結婚か? やっぱり結婚しかないか? 重婚……?)

 

 人界同盟の会談前だというのに、なんでこんな個人的な問題にまで頭を悩ませなきゃならんのか。

 それぞれの女に対して、俺はそれぞれの向き合い方を考える。

 

 フェリシア・オウルロッド──現在交際中。種族差異による寿命の違いは神人なので気にする必要なし。相思相愛。

 

 ルカ・クリスタラー──現在被告白状態。種族差異による寿命の違いは気にする必要あり。フッたはずだが思わぬ方向に吹っ切れている。年齢を考えると責任を取ったほうがいい気がする。当方にも正直に打ち明ければ、八年分の浅からぬ想いあり。

 

 秘紋──運命を共にする伴侶。

 

 ヴァシリーサ──魂を共有する娘(姉)。

 

(うん)

 

 やはり、今一番の問題はルカだ。

 月の瞳と契約していても、ルカはニンゲン。

 俺とは人生の速度が違う。

 そう考えると、

 

「メランくんの腕、やっぱりガッシリしていて逞しいです……ね」

「……うぅぅぅぅん!」

「先輩?」

 

 この眼鏡美人を、俺は突き放すべきだと思うのだけど!

 現在進行形で、とても効果的な攻撃を受けている。

 

(助けて、ケイティナ! 俺は俺を好きな女が好きだ……)

 

 愛を失う辛さを識っている。

 だから愛に飢えている。

 言い訳と受け止められても仕方がないが、心のなかのイマジナリー・ケイティナに密かに救いを求めた。

 

 ──でも、一番は私だもんね? ラーズーくん?

 

 返答は、さらなる苦悩を俺に与えるだけだった。

 

 

 

 

────────────

tips:騎士たちの夜

 

 その夜、クリスはジャックとアレスに絡まれた。

 「オイ。ありゃどういうコトだ?」

 「なんですかいきなり……」

 「なんでトロルズベインが、我が麗しの君に好かれてやがるんだ!?」

 「ジャックぅ。もう諦めようよー」

 「黙れクソガキ! オレがムカつくのはなぁ……アイツ、ルカちゃんとフェリシアちゃんまで侍らせてやがって! なのになんだ!? どうしてオレのお姫様だけ袖にしてやがるんだ!?」

 「貴方との友情を慮ったのでは?」

 「だとしたら嬉しいが! 普通は喜んでシッポリ行くところだろうが!」

 「意味が分からない……」

 「何に怒ってるんだよ、ジャックぅ……」

 クリスもアレスも、顎ヒゲのカス男が言っているコトがまったく分からなかった。

 しかし顎ヒゲの言い分は続いた。

 「男なら! 両腕いっぱい美人抱えて! 両手にゃおっぱいいっぱい! ──アイツはその掟を裏切った」

 「初耳だ……」

 「なんだよその掟!」

 「バーカ! タマがありゃ常識だろうが!」

 要するに、据え膳食わぬは何とやら、というコトを言いたいようだ。

 アイナノーアに恋をしていると公言していたクセに、いったいどういう結末を望んでいるのだろう?

 「もしかして、寝取られることに興奮するタチですか……?」

 「あん? そりゃ時と場合によるが……テメェ、剣も性癖もつまらなそうな顔して、案外そういうの知ってんのか」

 「……これでも戦場育ちなので」

 「ねとられってなに?」

 「ガキはまだ知らなくていい! よぉし! 今夜は飲むぞ!」

 「ええ……?」

 「酒を飲み交わして一晩猥談すれば、オレたちマブダチよろしくってなァ!」

 騎士たちの夜が始まった。

 「ねとられってなんだよ」

 

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