ヰ世界の歌 夜明け前のダークエルフ 王道硬派な大河ファンタジーの世界で一歩から始める人外愛譚   作:所羅門ヒトリモン

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#301「会談参加国参集」

 

 

 王宮に到着した。

 と言っても、まだ入り口である『大昇降門』に着いたばかりだ。

 巨像が整列する円形状の岩壁。

 鍵穴のような袋小路に出たかと思えば、そこには巨人兵の詰め所と思われる平らな円筒建築物が横一列に並んでいて、地面は十字に舗装されていた。

 俺たちは鍵穴の下半分のほうから入ってきて、巨人兵の検問と威圧を受けてから奥の大昇降機。

 階段を上がって、デカい碑石の後ろに回り込み、そこからさらなる地下へ降りていく必要があった。

 

「すまんな、エルノス人。ここの階段はオマエたちには厳しいだろう!」

「だがあいにくと、オマエたちサイズの階段なんぞオレたちには作れなくてなぁ」

「ああ。小さすぎて、うっかり力加減を間違えただけで壊しちまう!」

「だから急拵えのスロープで悪いが、昨夜のうちに水を流して氷を張っておいた」

「それでどうにか頑張ってくれ」

 

 全長およそ20メートル。

 王宮の入り口を守る兵士なだけあって、大昇降門の巨人たちは大きなカラダを誇った。

 東方大陸に向かう時、三叉槍の入り江(トライデント・ハーバー)から乗船した巨人艦の船長や乗組員たちはエルノス人にも友好的だったが、国を出た者とそうでない者にはやはり違いがある。

 スロープを用意してくれただけでも、優しいほうだと思うべきかもしれない。

 

「アイスクライミンングか」

「断崖絶壁ではないだけ、気は楽ですな」

「油断するなよ。うっかり滑って転がれば──」

「うわああああああああああああ!!」

 

 先行していた連合王国軍から、さっそく滑落者が現れた。

 滑落者は瞬く間に最下段まで落ちていき、下で控えていた救護要員が慌てて駆け寄っていく。

 カプリが「ふむ」と小気味のいい音程で頷いた。

 俺が続けるはずだった言葉は、言うまでもなく明らかだったからだ。

 

「巨人王の目的は、私たちを会談の席に着かせるまでに、出来るだけ消耗させるコトでしょうか?」

「恐らくはそうです」

「ただの嫌がらせってのもありそうじゃない?」

「もちろん、そういう思惑もあるでしょう。一部の人間には効果ゼロでも、大多数には効果的ですからね」

「軍の疲弊……」

「ヤな感じね!」

 

 フェリシア、ルカ、アイナノーアがそれぞれ推測を交えながら感想を語り合う。

 女三人寄れば姦しいとはよく言われるが、ここまでの道中で三人はすっかり仲良くなっていた。

 俺はそんな彼女たちから少し離れながら、クリスとカプリと一緒に真面目に氷坂を登る。

 各自、登攀装備はしっかり準備済みだ。

 

「メラン様」

「ん?」

「メラン様も次からは、カゴを用意しましょう」

「カゴ?」

「トーリー王や聖女聖下は、カゴに乗ったまま登っています」

「よせよ、クリス。俺は自分で登ったほうが安全だ」

「そうかもしれませんが……」

 

 クリスは納得いかないのか「メラン様だって、ララヤレルンの統治者なのに」とブツブツ呟く。

 謎の対抗心。

 しかし、トーリー王を運んでいるのはグラディウス翁だし、聖女を運んでいるのは灑掃機構の三番だ。

 それぞれロープでの牽引、空輸。

 どちらも最も安全と思われるやり方でアイスクライミングを突破しているので、俺だけが間違っているワケじゃない。

 

 ただ見栄えの問題があるだけだ。

 

 どうでもいい問題だな。

 

 そんなこんなで。

 大昇降機には約四時間ほどかけて、全体が登頂することに成功した。

 トライミッド連合王国軍、三万。

 拝光聖騎士団、一万。

 それだけの人間がすっぽりと収まってしまうくらい、大昇降機は広かった。

 やがて、しばらくすると天変地異かと錯覚しかねない轟音が始まり、いよいよ王宮の中へ。

 

 案内人の巨人は無口でムッツリとした男だったが、ここに来てさすがにガイドらしい説明を始めた。

 

「このまま降りていくと、最初に『山王の間』に着く」

 

 山王の間。

 すなわち、巨人王ガンドバッハが待ち構えている広間だろう。

 ガンドバッハは巨人のなかでもかなりの巨躯で、〝(マウンテン)〟の異名で知られるそうだ。

 岩や石、巌、山々を尊ぶティタノモンゴットにおいて、それはかなりの敬称にして美称だと思われる。

 

「オマエたちはまず、山王の間で陛下に謁見する。挨拶しろ」

 

 いきなりか。

 だが、当然の流れでもある。

 他国の王がはるばる足を運んだ以上、たとえ確執があっても相応のもてなしをするのが礼儀。

 古代以降、北方大陸で初となる大国間交流であるため、トライミッド連合王国も友好の印として贈り物を用意して来ている。

 ララヤレルンからも一応、巨人王が好みそうなものを用意しておいた。

 

(つっても、『墜落龍弩(フォールン・ドラグ)・改』なんだけど……)

 

 古代の生き残りで巨人でも扱えそうな物を考えたとき、俺にはこれしか思いつかなかった。

 ヴィクターの知識から引っ張ってきた古代兵器の改良版モデル。

 ワポルマキナではなく、あくまで普通の兵器の範疇で収まっているので、たぶん気に入ってもらえるはずだ。

 他にララヤレルンの特産品や名物って言ったら、白貂鼠(カリュオネス)か錬金術の霊薬ぐらいしかない。

 どっちも巨人のサイズには合わないだろうからな。

 それに、霊薬とかはさすがにただでくれてやるのは、もったいなかった。

 

「メラネルガリアはすでに到着済みだ。オマエたちの挨拶が済んだら、ダークエルフも山王の間に来る」

 

 なるほど。

 俺たちは最後に到着したのか。

 となると、会談に出席する主だったメンツがようやく揃ったので、全員を集めて初日は宴会の流れだろうか?

 それとも、あくまでも会談に関する具体的な調整をするだけで、今日のところは解散か?

 どちらにしても、巨人王の意向次第と言ったところか。

 メラネルガリアはどんな歓待を受けているんだろう?

 

 しばらくすると、大昇降機は ガ ク ン と止まった。

 

「着いたぞ。さあ、行け」

 

 案内役の巨人は端的に指図し、それ以降、再びムッツリと黙り込んだ。

 扉はもともと無い。

 なので、目の前に出てきた降り坂を下りていくしかない。

 あたりから「まだ歩くのかよ……」と愚痴じみたぼやきが聞こえてきた。

 仕方がない。

 巨人たちにとっては短い廊下のつもりでも、俺たちには長々とした道になる。

 

 ゾロゾロと進んでいき、それから十分ほど歩いたところで。

 

「おお……」

 

 一気に視界が開けた。

 山王の間はとにかくデカい。

 まず最初に、長方形型の大広間があり、俺たちは側面からそこに入り込んだ。

 大昇降機同様、いや、それ以上に多人数を許容可能な空間だ。

 もはや広間というより、平原と呼んだほうが適切かもしれない。

 それほどにだだっ広い空間が広がっていて、ここにもこれまでと同様、壁面に幾つもの巨像が建ち並んでいる。

 

 採光のためだろう。

 

 天井──というより、もはや外へ通じる岩穴と呼ぶべき頭上から、明かりが斜めに差し込んでいた。

 明かりは広間を照らしているが、そのとき雲が移動したのか、光の角度が徐々に山王の間の側奥へと動いていき、そこにあるこれまた尋常ではない階段を一段と照らし出した。

 階段はエジプトの大ピラミッドにも負けない大きさで、それはただひとえに、この場で最も偉大な者のあるべき場所を示すべくあるようだった。

 

 広間を見下ろす壇上の玉座。

 

 そこに、まさしく──〝(マウンテン)〟があった。

 

(あれが、巨人王ガンドバッハ……!)

 

 目測で30メートル以上。

 いや、ひょっとしたら40メートルくらいあるかもしれない。

 鈍色の戦装束に、青と金の王族外套を羽織り、一軒家みたいな王冠をかぶっている。

 肌は岩色で、髪も髭も真っ白だが禿げてはいない。

 むしろ雪山のような豊かさを蓄え、月光銀(ミスリル)の髭飾りまでつけていた。

 

 シロナガスクジラ、ブラキオサウルス、それよりもデカい巨男だ!

 

 そばには血縁だろうか……ガンドバッハよりかは小さいが、他の巨人に比べたら充分にサイズ感の大きい巨人が二名いた。

 同じ壇上に、黒と白、肌色が奇妙に対照的である。

 もちろん、周囲には屈強な巨人兵もいる。

 

 彼らは俺たちが広場に整列し、すっぽりと収まるのを待っていた。

 

 そして、一斉に足踏みを行う。

 

 ドシン! ドシン! ドシン!

 

「やめい」

 

 ガンドバッハが一言、巨人兵の行動を制止させた。

 だがたったそれだけのコトで、トライミッド連合王国軍、拝光聖騎士団も武器を握りしめて動揺を隠せなかった。

 ニヤリ、と巨人の老王が口角を歪める。

 彼からしたら俺たちは虫のように映っているはずだが、実は意外なことに巨人たちの視力は極めて優れている。

 こちらの表情がどんなふうに変わっているか、つぶさに見て取れるくらいに。

 

「見たか? あの怯えよう。あれで我らと対等な大国?」

「「「うわっはっはっはっはっ!」」」

「陛下。客人にそのような無礼は……」

「フン……やれやれ。すでに格も知れたと云うものだが、そうだな。はるばるご足労いただいた以上は、相応の礼を示すとするか──が、その前にだ」

 

 巨人王が鷹揚に玉座から立ち上がった。

 立ち上がると、さらにデカく見える。

 ガンドバッハはゆっくりと階下を睥睨した。

 

「チッ……どこにいるか分からん。ええい! ダークエルフの王子! ネグロ・アダマスの子、メランズール!」

「!?」

「どこにいる! エルノス人との挨拶の前に、余は貴様に問うことがある!」

 

 まさかの名指しに、思わず驚愕した。

 周囲の視線が、一斉に俺へ集まる。

 これは……出ないワケにはいかないか。

 

「先輩」

「メランくん」

「メラン殿」

「メラン様」

「ああ。ちょっと出てくる」

 

 挨拶のために最前列に出ていたトーリー王やザディア宰相、聖女たちの視線をも受け止めながら、俺は誰よりも前へ進み出た。

 途中でザディア宰相が、「お待ちを。いま、拡声石を」と気を利かせて便利な道具も持たせてくれる。

 巨人との会話では、こちらの声が掻き消されてしまいかねないので、音を増幅させてくれる便利な鉱石を用いるのだ。

 本当は魔術をかけたほうが早いが、俺には大抵の魔術が効かないのでこの石を使わせてくれるらしい。

 形は卵に似ている。

 

「──ほぅ。貴様が、メランズール・アダマスか」

「はじめまして、ガンドバッハ王。ですが違います」

「なに?」

「俺は──私は、メランズール・ラズワルド・アダマス。ミドルネームがあるんです」

「…………メラネルガリアから聞いていた話とは違うな。だが良い! その面貌、たしかにネグロの子よ! 余は貴様に問う!」

 

 古代からの生き残り。

 年齢はたしか6000歳以上。

 とてもそうとは思えないハッキリした物言いで、ガンドバッハ王は真っ直ぐ問いかけて来た。

 

「貴様! なぜ同胞たちとではなくエルノス人と共にいる!? なぜメラネルガリアと共に来ない!?」

「それは……一言では説明が難しいですね」

「一言では説明が難しいか! ならば簡単にしてやる! 余は、貴様がメラネルガリアに戻ることを望む!」

「…………はい?」

「さすれば! 話は簡単だ! 巨人とダークエルフは旧き絆で結ばれている! 貴様さえエルノス人と縁を切れば、余はメラネルガリアと即刻同盟を結ぼうぞ! 北の巨悪が復活したと云うのなら、我ら〈第五円環帯語族(ティタテスカーン)〉が結束し吸血鬼を討てばいい!」

 

 同盟会談がこれからという場面で、ガンドバッハ王はとんでもない言葉を放って来た。

 当然、それを黙って見ていられる連合王国ではない。

 

「ちょっ、ちょっとお待ちください! それでは話が違う!」

「ティタノモンゴットはトライミッドに、孤軍で戦えと言うんですか!」

「我らが王の会話に、横から割って入ろうとは……無礼なエルノス人め!」

「孤軍? おかしなコトを!」

「オマエたちはすでに、聖地の援軍を得ているではないか!」

「それはッ、しかし──!」

「我々はともに、同じセプテントリオンとして結束しなければ……!」

 

 喧々轟々。

 瞬く間に広間が喧騒に満ちる。

 対鯨飲濁流を意識するならば、それは生き残りを懸けた重大国事。

 トーリー王が片手を上げて、自国の人間に静まるよう求めた。

 

「ガンドバッハ王。書面と使者を介さず話すのはこれが初めてですね」

「……なんだ、エルノス人のなかでもとりわけて命短し者の王よ」

「ハハハ! たしかに、ボクらニンゲンは寿命が短い。ですが、たとえ長寿種族であるそちらとメラネルガリア、二カ国だけが同盟を組んだところで結末は同じでしょう」

「なんだと?」

「なぜなら、貴方がた巨人は古代において最強とは呼ばれず、偉大なるキング・セプテントリアは吸血鬼を討ち滅ぼせなかった」

「貴様……」

 

 ガンドバッハ王が不愉快を露わに顔を歪め、拳を握りしめた。

 しかし、トーリー王もまったく怯まない。

 ここで下手に出れば、損を被るのは全員だと知っているからだ。

 

「何も知らぬニンゲンが……古代を知ったように話すではないか!」

「知らぬからこそ、知る努力をと心がけています。貴方がたの隔意も、埋める努力をしますよ」

「吐かしおる……だが、余はいま貴様と話しているのではない!」

 

 ギロリ。

 鈍色の瞳が再び俺のほうを向いた。

 

「メランズール・ラズワルド・アダマス! それで貴様は、どうする!?」

 

 返答を求められた。

 答えはもちろん、否だ。

 

「縁は切りません。すでに友情はある。義理もある。約束もある」

「…………エルノス人は信用ならんぞ。いずれ必ず、裏切る者が現れるぞ!」

「それはその時、考えますよ」

「……若い! まだ誰にも、裏切られたコトがないか!」

 

 ガンドバッハ王は口惜しそうに、歯軋りを堪える顔で玉座にドサっと腰掛け直した。

 裏切り。

 巨人は過去にエルノス人から裏切られた経験があるのか?

 だとすれば、これだけの隔意にも頷けるものがあるが、詳細はまだ分からない。

 

「良かろう。メレク王とネグロへの義理立て、窮状に喘ぐメラネルガリアに援助をとも思ったが、貴様の意志は堅そうだ」

「……失礼、窮状に喘ぐメラネルガリア?」

「フン! それは後で、ダークエルフ同士で話し合うが良い! ……こうなっては仕方があるまい」

 

 そのとき、広間に繋がる廊下から、大昇降機の作動音が響き渡った。

 いや、作動音じゃない。

 作動を終えた音だ。

 ガンドバッハ王の大きい声で気がつけなかったが、廊下からは複数の足音が聞こえてくる。

 

 しゃらん、しゃらん。

 

 足音に()()だと感じるのもおかしな話だが、優美な印象の増したそれが近づいてきて。

 黒と翠。

 懐かしき故郷の色調を美事に飾って、馬に乗って現れた。

 

 夜黒王種(ベルセ)──いや、記憶のものよりいささか細身か?

 

 何にせよ、北方大陸で最も強い馬とも名高い黒馬に騎乗して、五千ほどのダークエルフが広間を踏み進む。

 乗っているのは、すべて女だ。

 男は……歩兵。

 それも、数えられるくらいしかいない。

 トライミッド、パランディウム、どちらからも驚愕と感嘆が漏れた。

 ダークエルフは大昔、夜に近しい種族とされて恐れられ、多くの異種族に迫害された。

 セプテントリア王国が滅亡してからは、ダークエルフは国を(とざ)して何処とも交わらなかった。

 

 ゆえに、今を生きるほとんどの人間にとって、これが初めてダークエルフの集団を見た瞬間だろう。

 

「き、綺麗だ……」

「オイ、べっぴんしかいねぇぞ……」

「数は少ないな……」

「でも待て。全員、魔術師じゃないか……?」

 

 動揺がザワザワと広がっていく。

 俺は黙って、静かにその場で待ち構えた。

 すると、すぐに奥から最前列へ、ふたりの美女に守られながらカゴが運ばれてくる。

 中にいるのは、幼女に違いなかった。

 

 ……さて、第一声はなんて発するべきだろうか?

 

 わずかに考えあぐねていると、先にメラネルガリアが動いた。

 彼女たちはティタノモンゴットも、トライミッドも、パランディウムも気にせずに。

 まっすぐ俺のほうを見て、

 

「な!?」

 

 ザッ! と。

 いっせいに下馬して、跪いたのだ。

 プリンス・レオナルドが見せた抱拳礼などより、よっぽど洗練された動きで優美に。

 あまりのシンクロに、水泳の競技でも見たかと錯覚しかねない。

 やがて、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「「メランズール殿下、万歳!」」

「「「万歳!」」」

「「救国の大恩に感謝を!」」

「「「感謝を!」」」

「な、なにをいきなり……!?」

 

 メラネルガリアを最後に出た時、俺は禁忌の力を持っていることを理由に、恐怖と忌避の視線を受けていたはず。

 いったいこれは、どういうコトだ……!?

 周りにいる他の面々も、目を丸くして驚愕している。

 状況に理解が追いつかず、困惑して固まった。

 その隙を、セラスとティアがスルりと突いて来た。

 

「久しぶりね、ラズワルド」

「お久しぶり、ラズワルド君」

「あ、ああ、久しぶり……うぉ!?」

「チッ──避けんじゃないわよ」

「あらあら、不意打ちは失敗しちゃったわ」

「な、なにを考えてやがる……!?」

 

 セラスの延髄蹴りを間一髪で回避しながら、俺は戦慄した。

 周囲もなんだなんだ!? とどよめいている。

 白髪のダークエルフはふたりしかいないから、余計に目立つ。

 

「なにを考えてって……言わなきゃ本気で分からないワケ?」

「十年以上も帰ってこないとか、さすがに薄情ではないかしら?」

「そ、それは悪かったが……俺たち長生きだし」

「じゃあ聞くけど、いつになったら帰ってくる気だったの?」

「…………えっとぉ」

「やっぱり殺すわ」

「待ちなさいセラス。せめて子どもは作らなきゃ」

 

 はぁ!? と、何処かからルカのようなフェリシアのような声がした。

 どっちもかもしれない。

 しかし、久しぶりの再会だというのに、ふたりは相当、鶏冠(とさか)にキているようだ。

 不思議なのは、メラネルガリア軍のほうからも「セラスランカ様!?」「ティアドロップ様!?」と驚きの声が上がっているコトで、そりゃ事前にあれだけの敬礼を示し合わせていたのだとしたら、ふたりの行動は暴挙も暴挙。

 

「とりあえず、待て。話は後でじっくりしよう」

「チッ、そうね」

「でも、そのまえにラズワルド君?」

「ん?」

「「私たちに、なにか言うことはない?」」

 

 一歩下がって、全身を確認させるように立つふたり。

 互いにガキの頃からは成長した。

 会った頃は十代前半くらいだったが、今では十代後半くらいになった。

 俺の変化はどう受け止められているだろうか?

 しかし、ふたりに関して一言、容貌の変化に感想を告げるとするなら──

 

「ハァ……参ったな。予想より、ずっと俺好みだ」

「! ってコトは?」

「つまり?」

「綺麗だよ。最後の安請け合いを、しておいて良かったと思うくらいに」

 

 肉付きも良くなったし、ふたりともすっかり女らしくなった。

 

「アンタも、カッコよくなったわ」

「私たちも同感です」

 

 フン、と顔を斜に逸らしながら。

 セラスは耳を上下させ、ティアは光栄とでも言わんばかりに貴人の礼。

 かと思えば、クルリと背中を向けてメラネルガリア軍のもとへ戻っていく。

 

 私人の時間はいったん終わりにして、公人としての時間に立ち返ったか。

 

 よかった、と思うと同時に、これからどうする、とも天を仰ぎたくなった。

 

(とはいえ、これで会談の参加者は全員揃ったワケか)

 

 ハァ、とガンドバッハ王のほうに向き直ると、しかしそこで意外なものを俺たちは見ることになった。

 

「……」

 

 ガンドバッハ王が、音もなく悪辣な笑みを浮かべていたのだ。

 そして、再度、()()()()()()()()()()()()

 ゾロゾロと近づいてくる、想定外の者たち。

 

 ──それは、ふたつのグループに分かれていた。

 

 ひとつは、天使。

 

「は? 〈第二円環帯(ルキフェディッテ)〉……!?」

「あの紋章! まさか……!?」

「嘘だろ! 本物か!?」

 

 身長3メートル前後の有翼種族。

 通称、天使。

 北方大陸(グランシャリオ)においては、北の五大に数えられながらも長らく所在不明・存続不明とされてきた星読みの一団。

 

 『星辰天秤塔』

 

 もうひとつは、亜人とニンゲン。

 

 いまこの場にいる大国の面々に比べれば、見るからに見窄らしい格好をしながらも、たしかに国の旗を掲げる混成軍。

 すべての旗を知っているワケではないが、幾つかは見覚えがあった。

 中央諸国の小国家のものだ。それが複数、徒党を組むようにひとかたまりになっている。

 

「さて……これで、すべての参加者は揃ったな!」

 

 困惑している俺たちに、ガンドバッハ王が膝を叩き、してやったりという顔で宣った。

 

「北の人界が危急の時であるならば、我がティタノモンゴットは三カ国のみでの同盟会談など開かん!」

「ガンドバッハ王……ッ、これは!」

「貴様らエルノス人は知らぬであったろうが、我らは星占いも嗜んでな。そこな『小国家連合』も、大国ではないからと言って招待状も送らぬようでは、見捨てたも同然!」

 

 余は、エルノス人とは、違うッ!!

 

「ゆえに、業腹だが始めようではないか。北の人界を救う、真の同盟会談をな──!」

 

 

 

────────────

tips:騎士たちの夜・Ⅱ

 

 酒を飲み交わし、酌み交わし、すっかり酩酊状態になったジャック。

 クリスとの飲み会の最中、ほんの少し小用を催して席を離れた彼は、物陰で思わぬ人物を見た。

 「ああ、アイナノーア……」

 シクシク、シクシク。

 王族の天幕から離れて、青髪のケツアゴ王子がメソメソと泣いていたのだ。

 そして酒の匂いもする。

 ジャックはもう少しで、小水をプリンス・ダァトにぶっかけるところだった。

 (あぶねぇ、あぶねぇ……てか、こいつ泣き上戸か?)

 レオナルド・ダァトと言えば、ジャックの認識ではアイナノーアと婚約? 縁談途中? だかなんだかで、つい先日までライバル視していた男。

 しかし今となっては、この男もジャックと同じで、哀れな独り者だ。

 独り者には優しくしなければならない。

 「おいアンタ、大丈夫か?」

 「オオォッ、アイナノーアァァァッ!」

 「うぉ!? きったね!」

 「どうして僕じゃダメなんだァァァッ! こんなに愛しているのにィィィッ!」

 「正気に戻りやがれ脂ぎっしゅ!」

 「ぐは!?」

 あまりの不快感に思わず手が出たジャック。王族への暴行など罪に問われても仕方がないが、まぁ介抱の範疇だと判断して正当化を完了する。

 「なぁアンタ、女にフられてショックなのは分かるが、男がそうクヨクヨするもんじゃないぜ」

 「ぅぅ……痛い。キミは?」

 「オレの名はジャック! リンデンの騎士長だ」

 「騎士長……なるほど、いま僕を殴った者がいたようなのだが……」

 「気のせいじゃないか? アンタはだいぶ酒も飲んでるようだし、マトモな精神状態とは思えねぇ」

 「たしかに……自分で転んだだけか……」

 「良かったら、オレと飲むかい?」

 「キミと?」

 「実はオレも、プリンセスに想いを寄せていたんだ」

 「なんだって!?」

 「けど、所詮は身分違いの恋だぜ……アンタなんかより、オレはよっぽど望みが無かった」

 「おお……なんという……それはたしかに、ツラかっただろう……」

 「だからさ、一緒に飲もうぜ! 同じ女に惚れた冴えねぇ野郎同士、今夜は慰め合おうじゃねぇの!」

 「うん……うんうん! そうだね、飲もう!」

 酔っ払いの奇妙な連帯感。

 ふたりはシラフの時なら決して仲良くならなかっただろうが、酒が入っていたので身分だとか言葉遣いだとかはこの時一切気にならなかった。

 「それで、アンタはプリンセスのどこに惚れてたんだ?」

 「すべてだよ。すべて。彼女は僕にとって、幼い時から輝ける星だった」

 「星に手を伸ばしちゃ、ダメだよなぁ」

 「ああ。だからずっと、想いに蓋をして(他の妻を迎えて)来たんだけど……もしかしたらと思ってしまったんだ!」

 「チャンスがあったら、そりゃ掴みたくなるよなぁ」

 「キミとはとても話が合うね! キミはどこに惚れたんだい?」

 「オレかい? オレはお姫様の、ツラに惚れた」

 「正直な男だな〜!」

 ハッハッハッハッハッハ!

 騎士たちの夜は始まったばかり。

 

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