ヰ世界の歌 夜明け前のダークエルフ 王道硬派な大河ファンタジーの世界で一歩から始める人外愛譚   作:所羅門ヒトリモン

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#303「作戦会議の晩」

 

 

 話をまとめよう。

 要するに、現在の状況はこうだ。

 

 北方大陸人界最強決定戦、開幕。

 

「いやー、参ったね! ボクたちケンカしに来たんじゃないのに、何故か戦うコトになっちゃったよ!」

「とはいえ、勝てば我々の望み通りに同盟締結。負ければ同盟どうのこうのの話ではなくなってしまいますので、これは勝つしかない」

「けど、勘違いはしないでくれよ? あくまで勝ってからが本番だ! さすがのガンドバッハ王も、ボクらが勝った後でも対等な協力関係を申し出れば、耳を貸してくれると思うし」

「テメェら、俺らが勝つのを前提にし過ぎちゃいねぇか?」

「「え? だって勝つよね?」」

「ガハハハハハハハハッ! まーな!」

 

 山王の間から退室した後、俺たちに割り当てられた〝小人用の階層〟で。

 今後の作戦会議のために集まったトライミッド連合王国は、やる気に漲っていた。

 というより、正確には()()()()()()()()()と言ったほうが正しいかもしれない。

 トーリー王もザディア宰相も、予想外の展開が多すぎて「してやられた!」と歯軋りしながら唸っている。

 よほど悔しかったに違いない。けれど、冷静さは失っていないようだ。

 深く息を吐いたトーリー王が、モノクルを外してハンカチで拭きながらトーンを落とした。

 

「幸い、大闘技決闘会はすぐには終わらない。古代の慣習に倣えば、この催しは一日に一組だけ戦わせて、夜には晩餐も兼ねながら観戦者全員での()()()をやるからね」

「感想戦?」

「ええ。群青卿はご存知ありませんか? 大闘技決闘会とはセプテントリア王国時代に盛況を誇った娯楽でして、まぁ、コロシアムみたいなものですよ」

「ただし、普通のコロシアムと違って特殊なのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()点だ」

「なんだそりゃ?」

 

 グラディウス翁が「はぁ?」と怪訝そうに首を傾げる。

 決闘と名が付いているのに、命を懸けた戦いの結末が勝敗に結びつかないとはふざけた理屈に聞こえたからだろう。

 俺を含めて、古代の慣習に覚えがないメンツが全員、困惑を露わにする。

 カプリが「コホン」と咳払いをした。

 

「大闘技決闘会とは言いますが、古代でも決闘は野蛮な風習とされ、ある時から命を奪わぬ試合に変わったのですよ」

「博識だね〜、カプリさん」

「年の功にてございます」

「じゃあ、団長もメランくんも負けたら死ぬ、ってワケじゃないんですね」

「おいおい、ルカ〜! パパが負けるワケないだろ〜?」

「思い上がりも程々にしないと、足元を掬われますよ団長」

「娘が冷たい。昔はパパ、パパって可愛かったのに!」

「ッ」

 

 ルカがグラディウス翁の脛を蹴ろうとして、途中でやめた。

 蹴っても自分が痛いだけだと思い知っているのだろう。

 そんな娘の反応に、養父である英雄はむしろ蹴られ待ち……構ってもらいたそうな顔だったが、結果は残念なものだった。

 ウィンター伯が苦笑を滲ませる。

 

「察するに、大闘技決闘会では勝敗が明らかではない場合──五分五分の泥試合だった時などに備えて、感想戦があるのかな?」

「平たく噛み砕けば、その通りだ! さすがだね、ボクのウィヌ」

「誰がボクのウィヌか」

「ウッウン! 補足しますと、感想戦では泥試合以外にも、種族差異によるハンデなども考慮し、どちらがどれだけ素晴らしい戦いぶりを見せたかを議論し合います」

「つまり、感想戦で最も多くの賞賛と賛同を集めた者が、最終的には勝つ?」

「フェリシア殿は理解がお早い」

「もっとも──感想戦の真の醍醐味は、政治的交渉を伴う権益の争奪戦だ」

 

 月の瞳が、ぬらりと言葉を差し挟んだ。

 

「オマエ、知ってるのか?」

「無論だ、王子。けれど、これはべつに私が〝月の瞳〟だから知っているワケじゃない」

「彼女は生前、セプテントリア王国人でした」

 

 ルカの追加情報に、「なに?」とララヤレルン組がどよめく。

 謎の多い魔物だったが、このタイミングでまさか来歴の一端が明らかにされるなんて。

 

「じゃあ……実際に大闘技決闘会を見たコトが?」

「あるとも。そこでは常に、様々な駆け引きと陰謀が渦巻いていた。でも、不思議はない。なにしろ王がダークエルフだったんだからね。彼に近しい配下の者どもも、自ずとそういうゲームに耽っていたんだよ」

 

 俺への視線が、「ダークエルフってやっぱりそういう種族ではあるんだ」と色を変える。

 

「個人差はあるぞ? 得意不得意のな」

「でしょうな。それは他のどの種族にも当てはまる」

「たしかにね」

「それで? 感想戦の醍醐味が?」

「政治的交渉を伴う権益の争奪戦」

「もっと分かりやすく言ってくんねぇか? この場にはバカだっているんだぜ?」

「自らの愚かしさを知る者をバカとは思わないけど、いいよ。言い換えよう」

 

 月の瞳が微妙にグラディウス翁と距離を取りつつ、言葉を探った。

 リンデンで片腕を落とされて以来、それは当然の警戒と苦手意識の顕れなのかもしれない。

 

「感想戦では、ひどい場合、戦士の決着が明確なものでも勝敗が入れ替わる」

「なんだと?」

「勝ちを譲るから代わりに金を払ってくれとか……分かりやすい例をあげるとそういう話が罷り通るのさ」

「……んだそりゃ。クソじゃねぇか!」

 

 大闘技決闘会へのやる気が、ゴリゴリ減っていくグラディウス翁。

 しかし、今のはとても重要な話だった。

 

 一日に一組の一試合。

 夜には必ず晩餐を兼ねながらの感想戦(権益交渉)。

 

 トーリー王が最初に「幸い」と前置きした理由が、だんだんと皆の頭にも追いついて来る。

 これは英雄と戦士だけの戦いじゃない。

 勝負の行方次第では、今はまだ味方とは言えない誰かを、こちら側に引き込むコトも可能かもしれない。

 わざわざ姿を現しておいて中立・傍観を宣言した星辰天秤塔についても、彼女たちの狙いが分かれば交渉次第で同盟の席に着かせるコトが叶うだろう。恐らく。たぶん。きっと、めいびー。

 小国家連合についても同じだ。

 

「皆、分かったかな? ガンドバッハ王の申し出は、実は彼が言っていた通りボクらにも利がある話だったんだ」

「それでも、こちらにチャンスを与えながら、あれだけ盛大に勝負を吹っかけて来た以上、ティタノモンゴットには相当な自信があると見るべきです」

「……例の、神具の継承者というプリンスたちか」

「ワタクシ、軽く調査して参りましたが、なんでも『黒白の双子巨神』の生まれ変わりだとか言われているようで」

「は? まさか、本物?」

「いえ、恐らくは生まれ変わりに思われるくらいに凄い、という意味かと」

「本物でも驚かないケドネ」

「黒白の双子巨神……たしかに兄弟にしては、肌の色が違いましたけど」

「先輩、知ってますか?」

「ああ」

 

 クリスの疑問に答えを求めて、フェリシアがこの場で最も第五円環帯神話に詳しいだろう俺へお鉢を回して来た。

 黒白の双子巨神、もちろん知っている。

 

「巨人が信仰する種族古来の神だよ。〈第五円環帯(ティタテスカ・リングベルト)〉では、世界を支え世界を廻す存在って語られていて、第五円環帯神話じゃ巨人側のメインキャラクターだな」

「世界を支えて、世界を廻すか……」

「神具って、たしか神様が使っていた道具のコトですよね?」

「となると、それは灑掃機構と同じで、何らかの権能を宿していると見るべきだろうな」

「完全な無為無策ではない、か」

「ま、当然だよね〜! なにしろ人界最強、憤怒の英雄に挑もうってんだからさっ」

 

 ティタノモンゴットが強気なのも、相応の理由があってのコト。

 実際に大闘技決闘会が始まれば、すぐにでも真相は晒される。

 第一試合は、明日だ。

 組み合わせは、ティタノモンゴットVSトライミッド連合王国。

 いきなり対立軸同士の対戦カード。

 

「それで? 明日の代表戦士は誰がやるの?」

「それなんだけど、大闘技決闘会では各参加枠からそれぞれ三人の代表を選ぶ必要があるんだ」

 

 アイナノーアの質問に、トーリー王が次々に名前を挙げた。

 

「ウチからは、初戦をアイナノーア・エリン、次戦をルカ・クリスタラー、決戦をアムニブス・イラ・グラディウス」

「えっ、私が一番手なんだ?」

「うん。後でララノアーナさんに怒られそうだけど、お願いしていいかな?」

「もっちろん! お母様はエリンだし、構わないわ!」

「オイ、ハナタレ。ルカを出すのか?」

「おっと! 落ち着いて、グラディウス。キミが娘に過保護なのは知っているけど、クリスタラー女史はもう魔法陣だけの刻印魔法使いじゃない」

「陛下のおっしゃる通りです。それに命を懸けた殺し合いじゃないんだから、そう目くじらを立てないでください、団長」

「……ルカぁ、いいかげん団長って呼ぶのやめてくれよ〜」

 

 と、そこまでを眺め終わって。

 話の流れ的に、自然とララヤレルンも代表戦士を発表する空気になってしまった。

 

「ララヤレルンは、どうするんだい?」

「我々としては、可能な限り勝ちの芽を増やしておく意味で、ララヤレルンにも参加してもらいたいのですが……」

「ガンドバッハ王は俺にも、かかってこいって言ってたしな」

「ですが、メラン殿。今回、ララヤレルンにはふたりしか戦える者がいないのでは?」

 

 カプリが鋭い指摘をする。

 そう。それが地味に悩みどころだった。

 俺、フェリシア。

 大闘技決闘会に出ても不安が少ないのは、人間やめちゃってる人間である俺たちだけ。

 まさか非戦闘員であるカプリを出すワケには行かないし、並の巨人が相手ならともかく、クリスを出すのも不安が大きい。

 チラッとクリスを見ると、

 

「! メラン様……」

「クリス……」

「はいッ!」

 

 なんだか覚悟を決めた顔で、クリスが息を呑んでしまった。

 任せるなら初戦だろうけど、少し悩む……

 

 その瞬間。

 

「悩んでいるのなら、私が出るわ!」

「「「「ッ!!??」」」」

「ヴァシリーサが?」

「うん。だって、そのほうがきっと安心だもの!」

 

 黒詩の魔女、正真正銘の大魔。

 影絵のような突然の出現に全員が動揺したが、使い魔って代表戦士に選んで問題ないのかな。

 

「じゃあ、ララヤレルンからは初戦をフェリシア、次戦をヴァシリーサ、決戦を俺で」

「は、ははは……」

「さ、さすが群青卿……いえ、ララヤレルンらしい選出ですな」

「今から気の毒でならない……」

 

 ララヤレルンと戦う者は、最低でも大いなる魔と相対する覚悟を迫られるのだから。

 ウィンター伯が複雑な顔をしながら、「少し疲れた」と退席した。

 それを合図に、作戦会議も終わりの雰囲気になる。

 

「じゃあ、いったんはそういうコトで」

「昼は代表戦士が試合に勝利し、夜は感想戦で我らが勝利する」

「同盟のための戦いを、共に頑張っていきましょう!」

「群青卿、キミにはメラネルガリアを任せるよ?」

「ええ」

 

 言われずとも、それは俺の仕事だと分かっている。

 

 

 

 

────────────

tips:物陰の影

 

 その光景を、少し遠くから眺める者たちがいた。

 同盟会談のために参集した各国、各陣営の内、特にトライミッド連合王国、ララヤレルン、メラネルガリアの動きを注視する者たちが。

 「よいのですか?」

 「いいんです」

 「けど、本当に……?」

 「そういう貴方こそ、いいんですか?」

 「わたくしは……」

 「会って話をしたいなら、僕は止めませんよ」

 「……なんで、そんなことを言うんです」

 「だって貴方は……いえ、すいません」

 「……謝るなんて、やめてください」

 「……」

 ふたつの影は、逡巡した空気を纏いながらも、結局、動こうとはしなかった。

 ただジッと、過去に手を伸ばすように彼らを眺め、しかし触れてはならぬと隠れるコトを選んでいた。

 

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