ヰ世界の歌 夜明け前のダークエルフ 王道硬派な大河ファンタジーの世界で一歩から始める人外愛譚   作:所羅門ヒトリモン

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#304「ターリアの古代遺跡」

 

 

 作戦会議が終わり、自由時間になった。

 しかし夜はまだ長い。

 いろいろ驚きの一日ではあったものの、すでに明日からの大闘技決闘会に向けて行動を起こしている人間は多いはずだ。

 俺もララヤレルンの領主あるいは太公として、さっそくメラネルガリアの面々と話をしておこうと思う──という話をしたら、

 

「いいですか、メランくん」

「ん?」

「絶対に、真面目な話だけをして来てくださいね?」

「どういう意味だよ?」

「とぼけないでください。この女誑し!」

「そうですよ先輩。いくら懐かしの幼馴染さんと話をしてくるからって、私たちが大事な同盟のためにティタノモンゴットまで来たコトを忘れないでください」

「懐かしさのあまりに勢い余ってとか、ホント、私の計画に狂いが生じるので」

「計画……?」

「ああ、フェリシアさんにも諸々、お伝えしておいたほうが良いですね」

「ええっとぉ……」

「…………ルカ、オマエは本当にどうしてこうなっちまったんだ」

 

 もっとお淑やかで、貞淑な女だと思っていたのに。

 

(俺が悪いのかなぁ? でもさぁ、俺は耐えられないと思うよ?)

 

 自分に好意を寄せてくれた女が一人先立つのを見送るとか、想像しただけでゲロ吐きかねない。

 それでも、覚悟を決めたほうがいいんだろうけどなぁ……もうちょっと、モラトリアムとか欲しいなぁ。

 

「フェリシア、後は任せた」

「え!?」

 

 そんなワケで、吹っ切れすぎて何かを画策中らしいルカの相手はフェリシアに任せて、俺は早々にその場を後にした。

 まだ部屋のなかにはアイナノーアとかもいたし、揉め事になりかけたらアイツが止めてくれるだろ、きっと。あのお姫様、俺に貸しがあるしな。

 

「よろしいので? メラン殿」

「いいんだ。というか、カプリは俺に年長者として、何かアドバイスをくれたりしないのか?」

「アドバイスですか。では、メラン殿は何を気にしているので?」

「そりゃ決まってるだろ? 寿命とかいろいろあるし、そもそも同時に複数とかさ……現実的に考えて平等には絶対できないじゃん」

「ハァ。妙なところで悩むのですなぁ」

「妙? あんだよ」

「メラン殿はすでに尋常人の枠組みには収まらない偉人。凝り固まった価値観は崩されたらよろしい」

「難しいコトを言いやがる」

「ワタクシは英雄譚には、華が多くてなんぼだと考える詩人ですので。それに」

「それに?」

「そもそも、当然ではありませんか。不公平は必ず生じます。不平等も避けられません。ならば残酷でも、順位をつけるしかない。世に溢れる側室制度、後宮制度はどこもそうしていますよ?」

 

 言外に、オマエはもうそういう身分と立場にあるんだぞと。

 吟遊詩人はリュートハープを鳴らし、「ではお先に」と頭を下げて去っていった。

 

「でもそれって、争いの種でもあるよな」

「それこそ、男の甲斐性でどうにかすればよろしい!」

 

 ハハハ! と笑う羊頭人(シーピリアン)

 客人用に割り当てられた部屋は、ひとりにつき一部屋ある。

 ティタノモンゴットもメラネルガリアと同じで、セプテントリア王国時代の建築物を一部相続していたみたいだからな。

 王宮(『ターリア』という名前らしい)に来て初めて、首が疲れない空間があってホッとした。

 

「ったく。クリスも、今日はもう疲れただろ? 先に部屋で休んでていいぞ?」

「いえ、僕はまだ平気です」

「お、そうか?」

「はい。大闘技決闘会でお役に立てない以上、僕は本分を全うします!」

「ああ、そうか」

 

 出来ればメラネルガリアには、ひとりで話をしに行きたかったんだが……ここで断るとクリスが落ち込みかねないのか。

 少し小っ恥ずかしい気もするが、群青卿がひとりの護衛も連れずに他国(?)を訪問するのもどうかと思われそうだしな。

 頷いて、クリスの同道を許可する。

 

「よい。伴を許す」

「……カプリ様に言われて、急にそれらしく振る舞おうとしてます?」

「バレたか」

 

 クスッ。

 静かな笑いも得られたところで、いざ出発進行。

 ヴァシリーサはすでに帰っているから、今日のところはもうこっちに顔を出さないだろう。

 ララヤレルンは特に何事もなく平穏無事らしい。

 

 しばらく歩いていると、下の階層から吹き抜け状態になった空間に出た。

 

 岩肌の壁と雪化粧のコーティング。

 真っ白な塔城みたいなモノが建っている。

 みたい、と評した理由は、それが塔や城と呼ぶにはあまりに奇妙な建築物だったからだ。

 

(そうだな。例えるなら、〝白玉石のビスマス鉱石結晶〟か)

 

 全体的なフォルムとしては、あちこちに段差を伴った階段壁があって、それが上に行けば行くほど細く尖った角形になっている。

 色は白玉石みたいに真っ白だ。

 ただし、頑丈さは大理石級かもしれない。

 よく見ると洞窟みたいな穴が何個かあり、その穴の付近では巨人サイズの足跡もあった。

 今は特に誰もいないようだが、雪化粧もそれほど降り積もってはいないので、人通りは多いと見える。

 

「……あれは何だろうな?」

「セプテントリア時代の遺跡ではないでしょうか?」

「ああ、たしかに。言われてみればそんな趣きだ」

 

 メラネルガリアのモルディガーン・ハガルにも、黒盆の間と言って特異な建築様式を覗かせる古代遺跡があった。

 この独特な形状とデザインは、多種族複合文化の結晶ってところだろうな。

 

「ん?」

「? どうしました?」

「ああ、いや……いま何か、あのへんの穴からこっちを見てるヤツがいなかったか?」

「え? ……いえ、僕は気が付きませんでしたが」

「気のせいかな?」

「……もしかして、メラン様にしか視えないモノなんじゃ……」

「死霊だって?」

 

 クリスはややゾッとした顔で頷く。

 死霊くらいララヤレルンで見飽きているだろうに、どうしてそんな顔をするかね。

 外国にある古代の遺跡に潜む死霊だと、おっかなさが倍増でもするのか?

 

「死霊なら、俺が視た時点でこっち側に浮き出る。それに、そんな気配もしない」

「ヒッ! 怖いこと言わないでくださいよ!」

「どういうコトだよ」

「だって、ますますホラーっぽいじゃないですか!」

「普通に誰かがいたって線は考えないのかよ」

「え? でもあそこ、縄が張られていますよ?」

「縄?」

 

 クリスが指差しをしたので、俺もよく見てみる。

 すると、たしかに遺跡の周囲に縄が張られていた。

 ティタノボア並みに太いロープで、それを何重にもぐるぐる鉄柱に巻きつけ囲ってある。

 アレだ。神社の注連縄とかに近い。

 まるで、何らかの封印でも施しているかのように。

 

「あーん?」

 

 しかし、俺はさっきまで自分が見ていた場所を、もう一度確認した。

 ある。足跡はたしかにある。

 

「どういうコトだ? オイ、クリス。足跡ってあるよな?」

「はい?」

「ほら、あそこの足跡。見えるだろ?」

「……見えませんけど」

「ええ?」

「メラン様! もしかして僕を揶揄ってますか!?」

「いやいや……え、マジで見えないの? 場所が分かってないとかじゃなくて?」

「しつこいですって! 足跡なんて何処にもありませんが!?」

 

 悲報、どうやら俺にしか見えていないらしい。

 

「えぇ……怖ぁ……」

「怖いのはこっちですよ!」

「分かった分かった。よし、さっさと行こう」

 

 なんか知らんが、よそ様の国で得体の知れない何かを見つけても、好奇心に誘われて自分から首を突っ込んだりしちゃいけない。

 それが怪奇現象、超常現象を伴う摩訶不思議なモノなら、余計に近づいてはダメだ。

 

(だってそれって、十中八九、ナニカの異界でしょう?)

 

 今夜の俺はメラネルガリアに用がある。

 なので、視線の正体とか謎の古代遺跡には興味を惹かれたが、素早く通り過ぎた。

 その最中、やはり背中に視線を感じた気はしたけれど。

 メラネルガリアは同じ階層の中央区画。

 歩いていけば、幸いララヤレルンとは隣のエリアなのですぐに到着する。

 

 

 

 

 

────────────

tips:幼女陛下の嘆息

 

 「遅いわね……」

 セラスランカ・オブシディアンが、そわそわと部屋の中を歩き回っている。

 「まだかしら……」

 ティアドロップ・オブシディアンが、部下に持たせた姿見の前でしきりに髪型や服装を気にしている。

 「ふたりとも、もっと落ち着きなさい。そして着替えなさい。殿下はきっと、もう少し胸元の空いた服のほうが好みなはず。足も出したほうがいい」

 「「黙っていてくださるお父様?」」

 バルザダーク・オブシディアンは双子姉妹に、メランズールの貞操を狙わせるつもりしかない。

 黒曜石家はすっかりアンポンタンになってしまった。

 「セドリック。どうすれば、こいつらをマトモに戻せると思う?」

 「恐れながら、テルーズ様も少々浮き足だってはおられませんか?」

 「なに?」

 「先ほどから、溜め息の数が多くていらっしゃいます」

 「それは、目の前のこいつらのせいだろう」

 「そうでしょうか? 私の気のせいでなければ、扉に目を送った後での溜め息が一番多いようでしたが」

 「チッ!」

 「こら、ダメでしょうテルーズ。舌打ちなんて」

 「ルフリーネ! 王太后だからといって、呼び捨てはよせ。私のほうがずっと歳上だぞ」

 「でも、見た目はこんなにちっちゃいし可愛いし」

 「あ、こら! ええいっ! 頭を撫でるな!」

 あの煌夜祭以来、テルーズの周りは終始こんな感じだ。

 つくづく、度し難い。

 あの弟が国を出て行ったせいで、テルーズは離宮に引き篭もるコトも叶わなくなった。

 だからコレはあれだ。文句を言いたくてウズウズしているのだ。絶対それだけだ。

 だいたい、あの弟と言葉を交わしたのは短い時間だけだし、そんなに仲良くなっていたワケでもない。最後にはたくさん蹴ってやった。

 まぁ? たしかに? 結構カッコよくなっていたけれど? アレ、私の弟なんですってウッカリ自慢してもいいくらいには立派になってたみたいだけど!

 「まったく……たかが再会程度で、どいつもこいつも!」

 これじゃあ溜め込んである文句が、どれだけぶつけられるものやら。

 ルフリーネもセドリックも、すでに泣きそうになっている。やめろ。私はもらい泣きしやすいんだ。くそ!

 女王陛下は嘆くように深く息を吐いた。そう、無意識のうちに、扉に目を送って。

 

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