ヰ世界の歌 夜明け前のダークエルフ 王道硬派な大河ファンタジーの世界で一歩から始める人外愛譚 作:所羅門ヒトリモン
体調に問題は無く、怪我ももう治ってるというコトで、アイナノーアには薬ではなくテレジア印のスタミナドリンクをくれてやった。
「なにコレめっちゃキクゥゥ! あと百本欲しい!」
「百本はねーよ。てか、そこまで行ったら金とるぞ」
「国庫から出すわ」
「王族ジョーク怖っ」
そんな会話をして、見舞いは終わった。
アイナノーアがベッドに縛られているのは、心配性な侍女たちを安心させるためらしい。
帰り際、ヴィヴラがいなくなったので部屋に戻って来られたエルフメイドたち。
彼女たちに頻りに頭を下げられながら、俺とクリスは盛大なお見送りをされてしまった。
部屋を出た後、きゃいのきゃいの黄色い騒ぎ声もしたので、我ながら単純だと思うがなかなか気分は良かった。
クリスは照れ照れしていて、本当に純朴な好青年だと思った。
「ウッウン! メラン様。まだ時間はありそうですが、この後はどうされますか?」
「お、そうだな。とりあえず、ガンドバッハ王の息子たちを探すか」
「双子巨神の転生体だという?」
「ああ。あの王子たちとは全然まだ話せてないだろ?」
「敵情視察というコトでしょうか?」
「まぁ、それもあるっちゃあるが……普通にどんなヤツらなのか知りたくてな」
俺はセラスランカのように、剣を交える前に情は交わさない、なんて考えは持っちゃいない。
第一、俺たちは喧嘩をしにティタノモンゴットへ来たワケじゃないんだ。
目的は同盟。
つまり、仲良くなれるかどうかはいったん置いておくとしても。
仲良くなるための努力は、惜しんじゃいけない。
クリスは敵情視察と言ったが、俺たちは敵同士の関係ではない。
「現状、大闘技決闘会が開催されてまずは顔面にパンチを入れてから、みたいなノリになってるけどさ」
「あはは……」
「こうしている間にも、ヤツらは動いてる。ガンドバッハ王とティタノモンゴットさえ態度を改めてくれれば、俺たちはスムーズに次の段階に進めるんだ」
「……メラン様」
「だから、あの兄弟に会いに行こうと思ってな?」
ガンドバッハ王があれだけ強気な姿勢を崩さないでいるのも、過去の因縁の他に、自分の息子たちがこの
本人もそう公言しているし、大胆に挑発を繰り返しているし、昨日の試合を見ても神具の継承者ってのがかなりヤバそうだってのは想像がつく。
でも、当のふたり。
ティタノモンゴットの代表戦士に選ばれている
黒き兄、モーディン。
白き弟、ロフフェル。
彼らは父親と、同じではない。
言葉を選ばず敢えて言わせてもらうが、ガンドバッハ王があれだけうるさいタイプなのと比べて、プリンス・モーディンもプリンス・ロフフェルも明確に寡黙なタイプだ。
きっと父親がうるさいから、静かに育ってしまったに違いない。
初日の山王の間。
兄弟のどちらだったかは忘れてしまったが、客に対する父親の無礼を嗜めるような発言もあったと記憶している。
彼らは現状について、どう考えているだろう?
父王の命令に従うだけなのか。
それとも、本心では父王と違う考え方を持っているのか。
後者はこちらの希望的な期待に過ぎないが……
「ティタノモンゴットとの同盟が成ったとき、共に戦場に出るのはあの王子たちだと思うだろ? 昨夜は晩餐会にも出席してなかったし、ありゃ仲を深めるには、こっちから積極的に会話をしに行く必要があるなと思ってさ」
「メラン様」
「ん?」
「やはりメラン様は、王族ですね」
「は? なんだ急に。どういう意味だよ?」
「そのまんまの意味です!」
ニカっ!
クリスは急にゴールデンレトリバーみたいに笑う。
人懐っこい笑顔をしやがって。
(……まぁ、悪い意味じゃないみたいだからいいけど)
こいつがそばにいると、統治者として自分が善い方向を向けているか、日常的に答え合わせができるので助かる。
特に他の王や統治者の姿を見ると、俺って大丈夫かな? って時々心配になるし。
閑話休題。
とまぁ、そんな流れで。
俺は引き続きクリスを伴いながら、兄弟巨人を探してターリアをうろつくコトにした。
と言っても、許可されている行動範囲は俺たち用のフロアと山王の間だけなので、最初の捜索場所は必然的にあそこになる。
大昇降機に移動し、係の巨人に頼み込んで移動。
長ったらしい廊下を歩き終えて、試合会場作りをしていた巨人たちを発見。
残念ながら王子たちの姿は無かった。
ので、近くにいたひとりを捕まえて率直に居場所を尋ねてみる。
「モーディン様とロフフェル様に会いたい?」
「ええ。少し話をしてみたくて」
「どんな話をしたいんですか?」
「そうですね。まずは好きな食べ物は何かとか?」
「…………はい?」
俺がダークエルフの王族だと分かっているからだろう。
会場作りで忙しそうだった巨人は、丁寧な言葉遣いで対応してくれた。
だが、こちらの言葉は冗談だと解釈されてしまったみたいだ。
軽く流され、
「あのお二方なら、この時間は下の霊廟で祈りを捧げていらっしゃいますよ」
「霊廟ですか」
「お客人には許されていない階層です。お話があるなら、昼の試合か夜の晩餐をお待ちになられるとよろしい」
「……ああ、そうでしたか。お仕事中に、どうもありがとうございます。お邪魔をしてすいません」
「いえいえ。こちらこそ、光栄でした。偉大なるメレク王の血を引く方」
深々と一礼し、巨人は仕事に戻っていく。
エルノス人であるクリスも一緒だったが、特に嫌味な態度は取られなかった。
ティタノモンゴットの民たちも、必ずしもアンチ・エルノス人ではない証拠だろうか?
「残念でしたね、メラン様」
「うーむ。試合会場にしろ晩餐会場にしろ、素の会話をするには人目がありすぎるんだけどなぁ」
「でも、どうしようもないですよ。他の階には移動できませんし」
「うーむ。本当にそうだろうか?」
「……メラン様?」
「なあ、クリス。俺って実は、魔法を使えるんだよ」
「……………………知ってますけど」
「“
別名、暗幕の呪文とも呼ばれたりする汎用基礎呪文なんだが。
これは大抵、魔法使いが周囲の目を避けたい時とか、目眩しをかけたい時に使われる。
魔法使いが住んでる部屋のなかに、不自然に真っ暗な場所があったり、妙にタンスの奥が見えづらかったりしたら、“
なにか隠しておきたい物があると、魔法使いはだいたいこの呪文で物を隠すそうだ。
以前、俺はルカの部屋でへそくりを見つけてしまった経験がある。
なぜかって?
俺には普通に
不用心だな、と指摘したら「なんで!?」と驚かれたのは今でも覚えている。
会ったばかりの話なので、八年以上も昔のコトだ。
「いっちょこの呪文を使って、コッソリ会いに行ってみたりしちゃダメかな?」
「ダメに決まってますが」
「でもさぁ、クリスくん。ティタノモンゴットはどうせ裏でいろいろズルしてるんだよ?」
「だからって! 他国の王宮の禁じられている場所に勝手に忍び込むとか、ダメに決まってますって!」
「そうか……まぁ、そうだよなぁ……」
暗幕目的で“
仕方がないので、元の階層まで戻る。帰りは異界の門扉を使った。
思えば行きも、これで移動すれば良かったぜ。
すぐに開けてすぐに閉じたので、巨人たちもギョッとする間もない。
「メラン様。今のでさらに確信しました」
「え、何を?」
「メラン様は絶対、勝手に出歩いちゃダメです」
「はぁ? なにも泥棒するワケじゃないんだぞ?」
「疑いを持たれるような行動をするだけでも、充分にダメなんですよ!」
クリスはクソ真面目に正論を言った。
分かったよ。オマエがそう言うならやめるさ。
でも代わりに、コッソリ死霊術を使ってメッセージを送るくらいはいいだろう?
ティタノモンゴットのターリアにも、亡者の念はそこいらにこびりついている。
適当なヤツを浮かび上がらせて、用件を伝えて来てくれないかとお願いした。
「ああ。会って話をしたいって、それだけでいい」
「うわぁ」
クリスはマジかという顔で俺を見ていた。
「なんだよ。言われた通り、勝手に出歩いちゃいないぞ?」
「メラン様の死霊術って、視界の共有とかできますよね」
「そのくらい目を瞑ってくれよ」
苦笑し、どんだけ真面目なんだと降参のポーズを取った。
正直者の護衛は「誰にも見られてないといいですけど……」と辺りを見回す。
周囲に
俺は例の古代遺跡の前を指定して門扉を開けた。
このあたりは下の階層から吹き抜けになっているので、風通しがよく寒さも強い。
ロープによる如何にもな封印も施されているので、各国・各陣営とも、すでに好んで近づく者はいなくなっていた。
なんとなく気になり、柵に近づいて下を覗き込んでみる。
「霊廟ってどのくらい下の階層なんだろうな?」
「飛び降りたりしないでくださいよ」
「そこまでやんちゃはしない。ここからじゃ特にそれらしいのも視えんしな」
「どうします? 時間まで」
「そうだなぁ。そろそろカプリと合流しておくか」
小国家連合に関する昨日の手応えについて、優秀な祐筆から朗々と語ってもらうとしよう。
そしたら、昼の試合もじきに始まる。
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tips:古代遺跡に潜むモノ
ソレは見ていた。