ヰ世界の歌 夜明け前のダークエルフ 王道硬派な大河ファンタジーの世界で一歩から始める人外愛譚   作:所羅門ヒトリモン

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#341「次なる戦場に向けて」

 

 

 渾天儀暦6028年2月1日──同盟会談が終わった。

 北方大陸(グランシャリオ)の主要国家群は、東境の大峡谷ネルネザゴーン、またの名をグリムランドからの卑劣な宣戦布告に対抗するため、正式に同盟を締結した。

 旗頭はトライミッド連合王国であり、その旗手を務めるのがティタノモンゴット、メラネルガリア、星辰天秤塔。

 第二世界の天使たちは、当初の態度がなんだったのか不思議なまでに全面協力を申し出て、ここに強固な協力体制が結ばれたのである。

 

 ただ、少なくない損耗もあった。

 

 巨人王ガンドバッハは両足がデモゴルゴン化してしまったため、切除を余儀なくされ、今後の戦争では自ら先頭に立つコトは不可能になった。

 本人は「御輿にでもかつげェ!」と怒鳴り続けているが、山のようにデカい巨男を載せられる御輿など造れるはずもない。

 兵士たちの被害に関しても、彼らは巨体であるがゆえに邪視に晒されるリスクが高かったため、相当数が犠牲になった。

 

 その恨みを、生き残った巨人たちは決して忘れないだろう。

 

 神具の継承者である黒白の兄弟を『双王』とし、ティタノモンゴットは現在、至急軍備の増強に努めている。

 幸い、ララヤレルンからの霊薬提供によって、命にかかわらない負傷程度であれば即座に治療も可能だった。

 

 メラネルガリアも、それは同様だ。

 

 彼女たちの死傷者は最も少ない。

 もともとの最大数が少ないというのもあるが、錬金術に明るい才媛を真っ先に治療したコトで、あれだけの脅威に晒されたにもかかわらず、軍隊の再編は極めてスムーズに行われた。

 

 一番重症だったのは黒曜公、バルザダーク・オブシディアンだったが、腹を貫かれてなお頑丈。

 

 貴石貴族であり男である彼は、娘たちの介抱もあって三日程度で快復している。

 

「ラグナルに妬まれてしまうな」

「「馬鹿」」

 

 軽傷で済んでいた長女からも珍しく世話を焼かれ、ダークエルフの貴公子はだらしなく喜んでいたそうだ。

 女王と王太后も無事であり、ただ、彼女たちはとある人物たちの処遇をめぐって頭を悩ませていた。

 

「ナハト。それにフィロメナ嬢」

「姉上……お久しぶりです」

「女王陛下」

「チッ……まずは感謝を伝えておくが、人工の英雄現象だと? どんな魔術式だ!」

「む。何を騒いでいる、幼子よ。喧嘩はやめよ。余の命令である」

「なんでコイツ消えないんだ!」

「痛っ!?」

 

 ナハトは脛を蹴られ、フィロメナは横でオロオロ。

 追放された罪人である元第二王子とその婚約者。

 メラネルガリアは彼らを、戦力として無視できない。

 過去のクーデター首謀者という事実があっても、これからの戦いに向けて、メレク・モルディガーンの存在は放置できるワケが無かった。

 テルーズは叫ぶ。

 

「女王なんてうんざりだ! もうひとりの不肖の弟はどこにいる!? 呼んでこい!」

「まぁまぁ、落ち着いて」

「ルフリーネは黙っていろ! セドリック! 黙らせろ!」

「いや、しかし……」

「コイツめ! デキてやがるから甘い対応をするな!」

「なっ!?」

「ま、まずい! テルーズ様が癇癪を起こされたぞ……!」

「駄々をこねる子どものようだ……!」

「キィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!」

 

 と、途中から近侍に駆け寄られ、女王はひどく御乱心だったが、主だった被害はその程度。

 ララヤレルン太公も程なくして呼び出され、ナハトとフィロメナのふたりは風貌も変化していたコトから、同性同名の別人という体で今後は合流する流れになった。

 

 巨人の王子たちとも、ふたりはしばし別れの挨拶を済ませたそうである。

 

 もしかすると、案外〈第五円環帯(ティタテスカ・リングベルト)〉種族の再結束は、彼らがもたらすのかもしれない。

 

 それから、トライミッド連合王国。

 こちらは、王族に死者が出てしまった。

 

 レオナルド・ダァト。

 

 彼はデモゴルゴンに変貌し、その姿をリンデンの騎士長が討った。

 だが、そんな話は彼らだけに限ったものではなく。

 邪視の脅威に最も晒された彼らの騎士と兵士たちは、およそ三分の一が同様の末路を辿ってしまった。

 じきに、国葬が執り行われる。

 

「許してくれ……許してくれ、レオナルド……! 私は弱かったのだ……信仰に縋らねば、不安で仕方がなかったのだ……弱い父をっ、許してくれ……!」

 

 ヴィヴラ・ダァト公の嘆き。

 彼は息子が自分を追って戦場に出てしまった事実を知り、崩れ落ちた。

 その懺悔を、カルメンタリス教の女神は果たして聞き届けているだろうか。

 彼に対してよくない感情を抱いていた者たちも、今はその心に幾ばくかの慰めがあらんコトを祈るばかり。

 

 エリンの姫、アイナノーアもまた涙を流した。

 

 レオナルドと彼女は、いろいろありはしたが、幼馴染である。

 家族のような友人。

 その事実に違いはない。

 国葬では、エリンからの弔辞を彼女が読むと決定された。

 

 三叉槍の一角に瑕を負った連合王国。

 

 ティタノモンゴット同様、いや、それ以上に彼らは今回の犠牲を忘れはしない。

 同盟の旗頭であり、実質的盟主の立場となったトーリー・ロア・トライミッドは、リンデンの領主、刻印騎士団の長、宰相とともに早くも次なる戦場へ目を向けている。

 

「第二次エリヌッナデルク? いいや、違うね。これは少しだけ大掛かりなだけの魔物退治だよ。決して、世界を巻き込んだ大戦なんかにはしない」

「そうだ。俺もまだ、もうちっとやれるぜ」

 

 王と老雄は頷きあう。

 

「今度はこっちから……」

「──ああ、攻める番だ」

 

 彼らには悲嘆に暮れていられる暇が無い。

 当然だ。彼らが手をこまねけば、それだけ犠牲が増える。

 よって、聖地パランディウムに対する追及も手を抜かなかった。

 

 聖女アイヴィは最初から、北の同盟や援軍云々などよりも、大魔の討滅が目的だったのではないか?

 

 戦場の混乱によって、拝光聖騎士団がターリアの外に出た小国家連合の亜人たちに、何をしたのか。

 それは()()()()()()()()()()()()()()()

 ただ、不審な行動をしていたのは事実であるため、トライミッドもメラネルガリアもティタノモンゴットも、揃って追及したのである。

 

 聖女は答えた。

 

「たしかに、我々の目的は大魔の討滅です」

 

 灑掃機構でも討滅できなかった魔物を、今度こそ叶えるために援軍を名乗り出た。

 そして鯨飲濁流の討滅は今回不可能ではあったけれど、その仲間の大魔を一体、討ち果たすコトには成功した。

 

「これが、その証拠です」

 

 聖女はスカイハイに証拠品を提示させる。

 それは、()()であった。

 

「西の戦場で、群青卿の使い魔と交戦していた大魔ですが、一度逃亡を図った後で再び戦場に舞い戻っていたのです」

 

 つまり、第八の有角神グラマティカ。

 その頭部にあったツノを、討滅の証拠として提示したのだ。

 

「……たしかに、間違いないわ」

 

 黒詩の魔女が、ツノの来歴を保証したのもあった。

 よって、聖地パランディウムに関して、多少の不審はあったが目的は一致していると見なされ、引き続きカルメンタリス教の総本山から援軍は続くコトになった。

 

 とはいえ、拝光聖騎士団の大半を失った聖女は、一度聖地に戻るらしい。

 

「次は、灑掃機構全機を連れて参ります」

 

 そう言って、寡黙な聖騎士を伴って、理想の少女像とともに空へ飛び立っていった。

 

 

 

 

 

 ────────────

 ────────

 ────

 ──

 

 

 

 

「よし」

 

 月の瞳は、拳を握りすべての瞳から血を垂らす。

 

「これでいい。このルートでいい」

 

 深淵の叡智、月暈の啓蒙光、悪魔の頭脳を以ってしてなお高負荷演算。

 あまりにも膨大な要因をすべて計算に入れて、その未来を視る魔は血涙に頬を濡らしながらも静かに呟く。

 

「ここからだ。ここからが──」

 

 最後の戦いだ。

 巨大彗星再来の可否は、〈中つ海〉の深海を経て、この〈渾天儀世界〉の秘密に迫り確定するだろう。

 世界を救う鍵は、月の瞳が王子と呼ぶダークエルフと……

 

 

 

 

 

 

────────────

tips:群青卿と近衛騎士

 

 「で、なんか眷属になったんだって?」

 「あ、はい。なんか眷属? になっちゃったみたいで」

 「軽いな」

 「え? あ、そうですよね。僕、もうちょっと考えたほうがいいですよね?」

 「まぁ、クリスが嫌じゃないなら、俺としては嬉しいよ」

 「ねえねえ、クッキーの騎士さん? クッキーちょうだい?」

 「え! 困ったな……ララヤレルンに帰らないと、もう手持ちがないです」

 「えー? ギンぬんにもあげたいのに」

 「クッキーってなんだ?」

 「てか、ギンヌンガもララヤレルンに来るのか?」

 「そうだぞ! アタシはみんなを守らなきゃいけないからな! みんながいる場所がアタシの居場所だ!」

 「ギンぬんは行き来するの。私が門扉を開けてあげるわ!」

 「そうなのか……そうなのか……しかし、クリス」

 「あ、はい!」

 「ヴァシリーサを助けてくれて、本当にありがとう。オマエを連れて来ておいて、良かった」

 「……ッ! いえ! 僕のほうこそ、ありがとうございます!」

 「? なんでオマエが感謝するんだ? 守ってもらったのは、俺だろ?」

 「うわぁぁぁぁぁ!」

 「!? なんで泣くんだよオマエ! 俺、なんか悪いこと言ったか!?」

 「ぷぷぷ」

 「ぷぷぷ?」

 

【評価】

【感想】

 






第三部 宣戦編はここまでです。
続きは、恐らく本編最終章となるだろう第四部にて。

またしばらく、どうしても時間がかかってしまうと思いますが。

【ヰ世界の歌 夜明け前のダークエルフ】

よろしくお願いします。

ここまでお付き合いいただけた読者の方であれば、
今後も対戦いただけるときっと信じて。
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