ヰ世界の歌 夜明け前のダークエルフ 王道硬派な大河ファンタジーの世界で一歩から始める人外愛譚 作:所羅門ヒトリモン
「斯くして──【城塞】を巡り、過去と現在で交錯した因縁に終止符は打たれ、最終章の幕は次なる
群青卿と鉄鎖流狼の決着を覧終え、吟遊詩人はポロン、ポロロン……とリュートハープを鳴らした。
すぐそばには、極光の帳に消滅する小魔の群れがいたが、カプリは気にせず楽器を爪弾きながら大峡谷を歩いていく。
「さてさて。フェリシア殿も上手くやった様子」
英雄は戦乙女に寄り添われ、いよいよ魔城へと足を踏み入れる。
大峡谷の深部はもはや、天地をひっくり返したがごとき大騒乱に包まれるだろう。
今頃はネルネザゴーンも、大慌てで原因を突き止めている頃だろうか?
「突き止めたところで、
ククッ、と悪辣に笑みを溢し。
白毛と緑衣の
勘違いしてはいけない。
カプリは依然として、洗脳されたままだ。
洗脳されたままなのだが。
「我が友ムーングラムは、幾つか見誤った」
その内のひとつが、カプリの性質だった。
洗脳を施し、魔軍が有利になるよう情報を提供させる。
そこまでは良かったが、世の中には仲間に引き入れてはいけない厄介な人種が存在する。
例えば、カプリのように正も邪も娯楽の対象とする不道徳者など。
こういった手合いは始末に負えない。
明確な指示や命令、
言っておくが、今のカプリはきちんとネルネザゴーン側だ。
消滅していく小魔の軍勢にも、「これは参りました」と心から自陣営の劣勢に胸を痛めている。
ただ、それはそれとして──こういう思いもあった。
どれだけの窮地に陥ろうとも、どれだけの劣勢に追い込まれようとも。
「このワタクシを洗脳してまで勝とうとした」
そんなモノが、負けるはずがない。
群青卿はかなりの強敵だが、強敵と戦う主人公は人気が出る。
いい歌を作りたい。
いい歌物語になって欲しい。
だからこれは、ちょっと盛り上げどころを増やしてみただけなのだ。
洗脳されていなければ、カプリはきっと群青卿陣営にも同じようなコトをしただろう。
今はネルネザゴーン側なので、心からネルネザゴーンを応援する気持ちで……戦いのバランスを調整した。
大峡谷にあった超巨大魔槍は、いま、すべての魔力を失っている。
第八世界で何千年も……下手したら何万年も蓄え続けた魔力を、すべて失った。
カプリが盗んだ。
残っているのは、ただ無駄にデカい
魔界礼賛領域は停止し、これによって大峡谷には次々と『強敵』が現れるだろう。
「大変ですな!」
ワクワクが止められない。
ぜひ、ネルネザゴーンには
途中でフェリシアが尾行して来たので、一見すると魔力を盗んだのは、フェリシアのように見える仕掛けも残して来た。
フェリシアは困惑し、何が何だか分からないまま、犯人扱いされて──先ほどどうにか追っ手を撒いたらしい。お疲れ様である。
「しかし不思議ですなぁ。我が友ムーングラムは、こうなるコトが視えていなかったのでしょうか?」
なんて、
カプリは薄ら笑いを貼り付けたまま、群青卿が開けた道を平然と潜り抜ける。
そのとき、一際強く。
大峡谷の底から、新鮮な生肉のようなブヨブヨとしたピンク色の光が、明滅した。
「……フッ」
魔界の臭気が、微かに香る。
ムーングラムが見誤ったのは、カプリの性質だけではなかった。
カプリの素性や能力も、見誤っている。
ただ、それを責めるのは酷というものだ。
責めるなら、現状、普通に月の瞳に負けている点である。
「まぁ、それも無理もありませんが」
一方は余力を残し、一方は余力を残すつもりが無い。
月眼=ムーングラムは本気ではあるが、死ぬ気ではない。
月の瞳は本気だし、文字通り死ぬ気を尽くして全霊を吐き出している。
初幕の勝敗、天秤を傾けたのはその違い。
「ただしここからは、我が友もいよいよ大詰めといったところ」
ニコストラテー城の王の間から、ムーングラムは逃げた。
もっとも、本人に言わせれば「最低限の目的は果たした」と言える状況だろうか?
群青卿も魔城に留まりはしない。
鯨飲濁流は〈中つ海〉の深海にいる。
そして、
「望まれざる【予言】が、彼方に謳う……!」
次なる戦いの幕は、ほど近い。
「おぉ……覧るがいい……第八の神よ」
中つ星に堕ちたオマエの眷属は、今日ここに滅びるやもしれぬ!
カプリの眼下には、群青卿が解錠した複数の〈異界の門扉〉があった。
大峡谷の深部都市に、青褪めた死と冬の巨門が乱立し……
最初に境界を超えたのは、
「ほぅ? ここが、バケモノどもの巣穴か。思った通り、反吐が出る」
刻印騎士団〈炎の隊〉隊長にして、ララヤレルン支部の支部長。
戦場の不運と凶運を烈火と翻し、爆ぜ立てる猛火猛将の女傑。
──『
ベロニカ・レッドフィールドが、火の粉を散らしながら紫炎を
凶悪な相貌を憎悪に歪めて、赤髪橙瞳はある大魔の忌み名を口にした。
「あのアバズレは何処だ? 『黄衣の女怪』は何処にいる──!」
紅蓮の戦意。
師の怒声に気がついたのか、その隣には空から弟子も舞い降りた。
「師匠! 案内しますっ!」
翼を生やしたフェリシア・オウルロッド。
白き風と黒き智慧の夜女神、ミナを宿した『神人』が、ともに怨敵を目指して移動を始めた。
その後ろから、ララヤレルンからもう一人も現れるが……果たして運命はどう転ぶのか。
「よっこらせっと!」
次に境界を超えたのは、豪放磊落を体現している大男。
トライミッド連合王国から、白いマントを堂々風に流し。
──『憤怒の剣』
人界最強、刻印騎士団長。
アムニブス・イラ・グラディウスが、熊よりもデカい体躯と銅鑼声で笑う。
「ガッハッハッ! 来てやったぜ? ゼオメイガスッ!」
魔力が尽きているはずの老雄は、『堕ちた大魔法使い』との決着をつけに魔境へ現れたのだ。
その背には、少数ながらも精鋭と思しい刻印騎士団の手勢もあった。
「パパ──いえ、団長」
「おぉう!? なんだよルカッ! かなりガッツリ言い間違えたな!」
「指揮は私がします。くれぐれも独断専行は控えてください」
「おう!」
最強の英雄を父と呼ぶ、銀縁メガネの女もいた。
水晶杖のルカ・クリスタラー。
人界を守る白騎士としての異名は、それだが。
多くの者は、彼女をこう呼ぶ。
──『英雄の娘』
巨人王国ではネルネザゴーンの軍勢を、数多と爆殺した攻性魔法陣の使い手だった。
彼女は養父を、無駄な消耗なく相応しい戦場へ届けるため、やって来たのかもしれない。
そのすぐ隣で、同じく連合王国から境界を越える者がいる。
「メランさんは……さすがね」
エリンの姫君、聖槍の担い手。
白き輝きのアイナノーア・エリン。
彼女はいつもの特性戦闘装束に身を包み、バチバチと雷光を纏いながら即座に空を征く。
──『白雷聖姫』
同じ連合王国王族であり、幼馴染であったレオナルド・ダァトを弔うため。
国葬の場で弔辞を読み上げる役を引き受けた彼女は、その最中に王都でネルネザゴーンからの襲撃を受けた。
いま、その怒りと三叉槍の白熱が。
「ぜッッッたいにッ、許さないッ!」
群青卿の大魔法によって、国を守る使命から解き放たれ。
闇の公子の麾下に集ったモノを、滅ぼしに向かう。
「ああああッ! プリンセスッ! 待ってください!」
ただ、飛び立ってしまった彼女の背中を、やや哀れを誘う様子で追いかける者もいた。
長い黒髪をリボンで後ろ結びにし、赤みのあるブラウンの瞳を持った中性的な少年。
彼は東方の伝統衣装を感じさせるドレスチックな武人服に身を包み、〈
そのカラダは、隻腕だった。
──『英雄剣』
西方大陸にて、アイナノーアや群青卿とともに異界の最厄地を攻略した者。
ケント・トバルカインが、ついに約束を果たすため北の大地に戻って来た。
ただ、少し気になったのは……ケントの後ろから謎の人物が現れたコトだ。
「いえーい。初上陸ぅ〜」
「クッ……! エルフの姫はみんなこうですか!」
「フェリシアちゃん元気かなぁ」
世界最高学府、エルダース魔法魔術賢哲学院のローブと制服。
エルフの少女が、ケントとともにマイペースな感じで、ネルネザゴーンにやって来た。
「僕も『外道鍛冶』に用があるのに! なんで世話係みたいな感じに!」
「先生に会いた〜い」
彼と彼女は、どちらも確かな目的を持って、大魔を探しているようだ。
さらに、やや遠いところで開いた境界では──
「[
理想の少女像に欠けるもの、華やげる日々は撃滅の果てに──[
灑掃機構・三番機。
女神が手がけた聖遺物が、登場と同時に天罰機能を発動した。
聖地パランディウムが、とうとう南方大陸から北の巨悪を討ちに乗り込んで来た!
聖女や聖騎士団長の姿は無かったが、恐らくネルネザゴーンには鋼鉄の機械天使だけが送り込まれたのだろう。
大峡谷の深部で、空を駆ける美しき乙女たち。
状況は早くも、〈渾天儀世界〉の史に大いなる戦いの痕跡を残そうとしている。
だが、忘れてはならない。
聖地の連中には不審がある。
有角神グラマティカを討ち取ったという事実は、存在しなかった。
真っ赤な嘘をついたのか。
はたまた彼奴等も思い込んでいたのか。
真相はじきに明かされる……
そんななか。
「よし。メラン、行きましょう」
「えっと……?」
群青卿は、何やらアルバエルフのダスク・グウェンドリンと共にいた。
眠りの女神の使徒であり、じきじきに祝福も授けられた古代種族だ。
「彼は立派に役割を果たしました。槍の時は終わったのです。次は、私の海の時」
「どういう、コト……?」
其れは星の内海に隠されし〈渾天儀世界〉の秘密。
最新最強の英雄は、最果てにて──猛き勇者、海の益荒男を識るだろう。
名も無き吟遊詩人は、「フ」と微笑み。
誰にも何にも気取られずに、物語の行く末を見定める。
- ヰ世界の歌 夜明け前のダークエルフ -
- 第4部 城塞編 【了】 -
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tips:第二次エリヌッナデルク動勢・2
大戦緒戦は、人界同盟側が優位で終わった。
戦線は各国各主要地で、引き続き小魔に脅かされ被害も出ている。
巨人王国からは、前王ガンドバッハが三百のグラトロンを相手取り堂々の戦死。
星辰天秤塔からは、大闘技決闘会に出場していたサティアという黒天使が死亡。
連合王国は名のある人物を失っていないが、損耗はどこよりも激しかった。
だが、群青卿の空輸&投下作戦の成功。
これにより、当初の絶望感は各戦線から気配を薄くした。
同盟の生命線となっていたララヤレルンも、難局を凌ぎ切ったことで士気は依然として高い。
メラネルガリアは霊薬によって双子姉妹を救われ。
リンデンは老いた刻印騎士が復帰不能となったが、命に別状は無かった。
黒詩の魔女は大魔の侵入を防ぐため、ララヤレルンの支配権を強めている。
したがって、同盟側は次に『堕ちた大魔法使い』の撃破を目指す戦局に進んだ。
連合王国の海岸上空には、灑掃機構一番機によって聖地の援軍もあった。