ミリしらアーカイブ   作:こまごめピペット

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重荷が減りつつ増やしつつ


起きろユズ!そろそろ寝るぞ!

 シャーレの屋上。

 午前中の爽やかな青の空とは打って変わって、目に焼き付くような夕焼けの空が広がっていた。

 いつかに見たあの眩しい夕日はここでもそう変わらないらしい。

 

 荒廃した砂漠では見落としていたが、ここより少し背の高いビル。サンクトゥムタワー(と言うらしい)から広がった大きなヘイローの空は異世界に居るのだと実感させてくれる。

 

「あの輪っかは、地の為の冠なのでしょうか、玉座なのでしょうか……」

 

 

 "ホムラ?"

 ふわふわとした意識を戻し先生の呼ぶ声の方へ振り向く。

「はい、すいません。ボーッとしていました」

 

 

 俺は先生に連れられ、シャーレのオフィスに着いた。

 

 "そこの椅子、使っていいよ"

 

 そう言いながら先生はデスクに着席し、書類束を手にしていた。

 

 "何も無いけれど、ゆっくりしていってね"

「はい、お世話になります。先生」

 

 男同士だからか少し肩の力を抜ける。

 あれだけ可愛い女の子達に囲まれるのは流石に緊張する。

 先生は余裕そうだけども。

 

「先生。その書類束、仕事ですか?」

 "うん、そうだね。今回の件の報告書、領収書のまとめ、あと支給品やら諸々。今日一日はまあまあ忙しくてね。最近はテロも多いし、復興作業もあっててんてこ舞いだよ"

「それは、また……」

 

 やはり銃社会らしい。

 笑って話すが、テロなんて簡単に人が死んでしまうだろう。

 そんな世界に居る俺はもう既に死んでもおかしくない。あのアビドスの子たちだって……

 そもそも先生も平然としているのが恐ろしいのだが……。

 

 "でも、そんな生徒達を導くのが私の仕事なんだ。この仕事もやりがいがあるよ"

 そう言って先生は慣れた手つきで書類をまとめ始めた。

 

 …………。

 何を言ってるんだ……この人。

 普通の大人でもそんなの言う事ないのに嘘も打算もなく、平然と言うんだから驚いてしまう。

 俺が情けなくなるほど……いや、何時も情けないか。

 確かに立場上は皆の指導者の先生はちゃんとした人間だが……。

 

 "……どうしたの? ホムラ"

「……貴方は立派な大人なんですね……」

 "うん。子供達の責任は大人の私が持つべきだからね"

 

 そう言って先生は笑っていた。

 

 


 

 

 下のコンビニで買って来た弁当を食べ、のんびりとコーヒーを飲んで休憩していた。

 コンビニ……普通に銃の弾丸とか……グレネードとか売ってた……先生に聞いたら"何処にでもあるよ、ちょっとびっくりするよね"と笑いまじりで言われてしまった。

 これ歩いてるだけでも撃たれるんじゃ……治安が悪すぎる。

 ……でも、モモトークとかで話を聞くにこの銃社会はキヴォトスでは当たり前らしい。

 ……私も必要かなぁ……銃。

 そうだ、先生に寝る場所聞いておかないとな。雑魚寝でも問題は無いのだが……

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

『先生』

 "むにゃ……どうしたの……? プラナ"

 

 寝心地の悪いリクライニングチェアで寝ているとプラナに起された。

 

『先生、倉庫区画で侵入者を検知しました。調査を推奨』

 "わかったよ……ふぁ……"

 眠たげな目を擦り、ホムラを寝かせたソファーを見ると姿は無い。

 トイレでも行ったのだろうか、それとも……。

 

 "……"

 倉庫の前の扉まで行くと半開きでガサゴソと物音が……。

 ゴクリ、と喉を一度鳴らしドアの隙間から中の様子を伺うとそこにはペタリと床に座り、箱を漁るホムラがいた。

 ただ、少し様子がおかしい。

 

 

 "ホムラ……?"

 

 そっと近付いて、肩を叩くと、重力に引かれるように、そのまま箱に頭を突っ込んだ。

 

 "ホムラ?!"

 

 ぎょっとして体を立て直そうとするが脱力した人間を動かすのはかなり厳しい。長身なら尚のこと。

 

「ぐぅ……」

『バイタルを測定……先生、彼女は寝ています』

 "えぇ……"

 

 プラナの言葉に少しほっとした……。

 

 マンドレイクの箱に顔を突っ込んでるホムラを呼びながらゆさゆさと肩を揺らすとゆっくりと、ホムラは目を開けた。

 

 

「あ、せん……ぁ、っぅ」

 

 目が覚めた彼女は血の気が引くように顔が真っ青に、体が震えて息が荒くなっている。

 

 "だ、大丈夫?! 深呼吸して、ひっひっふー!"

 

 背中を摩っていると微かにホムラの声が聞こえた。

 

 

「せん……ライターっ、んっぅぅ……!」

 "らいたー? ライター……ちょっと待ってて、すぐ持ってくる!"

 

 ドタドタと倉庫を飛び出し、ライターを持ってくる。

 

 

 "おまたせホムラ! ……ホムラ?"

 彼女はラックにもたれかかって煙草を口に咥えていた。

 

「火を……ください……」

 

 未だ息苦しそうに浅い呼吸をしている彼女は、煙草を咥えたままそう呟いた。

 

 "……"

 

 そっとライターで火をつけ、煙を吸い込むと少し落ち着いたのか、徐々に血色が良くなっていった。

 

 

 胸元から小さな灰皿を取り出し灰を落とした。

 彼女はゆっくりと口を開いた。

 

「済まなかった。先生」

 "……大丈夫なの?"

「……もう問題ない」

 

 彼女は浅く吸い込みゆっくりと上へ紫煙を吐き出す。

 仄明るいタバコの先が、少し窶れたホムラの顔を照らす。

 

「……さっきの症状はなんだったのか気になるだろう? 先生。……ある程度俺が知ってる事は答えるよ」

 "うん。とりあえず一旦落ち着ける場所に移動してからね"

「……わかった」

 


 

「先生、少し離れて。吸い込むと碌な事にならないから」

 

 窓を開け、その枠に座るホムラ。

 蛍火の様に先端は赤く灯り、燃えていることが分かる。

 

 "ホムラ、煙草は体に良くないよ?"

「……そうだな……好きで吸ってる訳じゃないよ、先生も見てただろう?」

 

 清楚でお嬢様っぽい朝とは違い、ボーイッシュで砕けた言葉。猫を被っていないなら此方が素だろうか。

 

 初めて見た様子に少し戸惑いながらも私は何を聞こうか迷っていた。

 何処まで踏み込んだら良いのか。

 彼女の口ぶりからきっと何か過去がある事は確かなのだ。

 

 "とりあえず……なんであの倉庫に居たの?"

「なんでだろうな……寝てたから知らないよ……」

 

 それは……実際そうだったのか……

 

 "何で煙草を吸っているんだい? 学生は大枚はたいても買えないのに"

 

 倉庫の内容量を見る限りマンドラゴラの若芽を煙草にしてるのは間違いないが……

 

「……手が勝手に作った。これ自体が、鎮静剤みたいな物らしい。この身体を借りてるからだろうか……」

 "身体を借りてる?"

「……俺は……死んだんだ……自分で首を括って……あれ……なんだっけ」

 "ホムラ?"

 

 記憶が曖昧なのだろうか、支離滅裂な事を言っている。

 

「何か言おうと思ってたんだ……死んだんだ、俺は……役立たずで……名前……なんだっけか……いや、どうでもいいか」

 

 間を空ける様にゆっくりと燻る煙草を最後迄吸い、息を大きく上へ吐き出した。

 

「まぁ、とにかく私は死んだ。気付いたらこんな如何にも闇系みたいな身体で目が覚めた。黄泉帰ったみたいに。そっからはご存知のとーり」

 

 ため息をついて

 灰皿に吸殻を放り込んで鎮火し

 此方を見つめる。

 

「夕日に向かって棄てた命は、この手にないはずなのに。地から昇ってしまった私に何を求められるでしょうか」

 

 艶やかな声が鼓膜を撫でる。磔られた様に彼女を見つめてしまう。

 

 "あ……ぅ……"

 上擦って声すら出ない。

 窓から日が昇り彼女を照らす。

 金色の目が私を射抜く。

 ホムラがニッコリと笑うとフッと強ばった身体が楽になる。

 

「先生、火、ありがとうございました。朝食どうしましょうか」

 "あ……うん、私が作るよ"

 

 何故かぼーっとした意識を引き戻し、私は給湯室に向かった。

あれ?何してたんだっけか……そうだ、タバコは流石に気をつけさせないと……

 

銃何使うか決めてねぇや……

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