俺のグレートマンスクール   作:鳥居幾人

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和服美人クモ少女、参戦!



12話 学級委員決定戦・集団戦の部4

 それは焦りから出た行動だった。

 急に乱入してきた志揮に俺の斬撃はいなされ続けたことで苛立ちが募り、何か仕掛けてくるような動きを見せた志揮を止める為に咄嗟に体が動いていた。

 その攻撃もあっさりとかわされ尻まで蹴られ、追撃に備えようとしたときには既に志揮は逃走していた。

 

 さらに場が混乱を極めたのはその後からで、志揮達がせっかく奪った『お宝』が宙を舞うわ単独行動していたはずの驚箱が参入してくるわ、更には大量の鎖に飲み込まれるところでもあった。

 迎撃の為に腰を落として構えていたのか、はたまた咄嗟の事で足が動かなかったのか。自分でもわからないままその場に留まり続けていた俺の腰に何かがまとわりつき、不意に森の方向へと引っ張られ難を逃れる。

 

「あれを前に待て出来るなんて、太刀川はんはずいぶんとお利口どすなぁ?」

 

 森と岩場の境目に生えている木の根元へと引きずられ、辿り着いたタイミングで話しかけられた声を聴いてようやく俺を引っ張ったのが千紬の糸だと気が付いた。

 

 姿を見せない彼女が言うあれとは『お宝』の事だろう、作戦では俺が機胴から奪うはずだったのだから。

 木の上から降ってきたその声は嘲笑を隠そうともしていなかったうえに侮りの感情も含まれている、女性とのやり取りが苦手な俺は言い返せず向けられた言葉と感情を受け入れた。

 

「……こうなったらもう作戦も何もあらへん、しゃあないさかいウチが取ってくるわ」

 

 呆れたようにそう言った彼女は俺の腰に巻き付けていた糸をほどいて開放すると、さして興味も無さそうにこう続ける。

 

「一言も喋らんとほんでも男なん?取ってこいも出来ひんで、これなら犬のほうがマシやわ」

「あ、その……すまな、かった……」

 

 既に気配の消えた木を見上げながら、ようやく重い口を開いて謝罪を口にする。

 

 彼女の放った言葉自体はとても鋭かったものの、悪意や敵意が混じっていたわけではないように感じた。

 よく考えれば助けたついでに2人で話し合い、少しでも作戦の穴埋めをするべきだったのだ。それを俺は助けられた身でありながら礼の一つも口にせず、まるで勝負を捨てたような態度でいたのだ。

 彼女が呆れるのも無理は無かった。

 

「次こそは役目を果たしたい、しっかりと彼女の援護をしなければ」

 

 視線を動かせば鎖に捕らえられた驚箱と質変幾が戦っており、志揮と機胴はそれぞれの陣営に指示を飛ばしている。

 当然『お宝』の取り合いも激しくなるだろう、なら俺はあの2人をしっかり足止めしておかないと。

 目標を新たに定めてすぐに動き出す、陣営を勝利に導くために。

 

「とはいえ千紬のあの言いようは……かなり堪えたな」

 

 俺の中の女性全般が苦手という認識が、千紬1人抜きんでてしまった。

 

 

──────────

 

 

「「「「返せっ!!」」」」

 

 兎山さんの蹴り、鼓拍の拳、多鎖の鎖、遠手の見えざる手が千紬さんの持っている『お宝』を取り返そうと同時に迫る。

 4人から標的となった彼女は少しも焦りを見せずにほんの少しだけ膝を曲げると、一飛びに近くの木まで跳躍した。

 

「いっぺんに相手するのんは慣れてへんの」

 

 そう言う割に動きに全く淀みが無いし表情も柔らかい笑顔のままな千紬さん。

 よく見れば身に纏っている十二単のようなコスチュームには一片の汚れも見られず、動きづらそうな格好でもこの自然の中で問題なく動ける身のこなしには素直に関心させられる。

 

「そやさかい1人づつおもてなしさしてな?」

「打出さん避けてくださいっ!」

 

 上機嫌そうに細められていた目がほんの一瞬うっすらと開かれ、白目の無い瞳が黒曜石のように艶やかに光る。その眼光の怪しさを瞬時に察知した兎山さんは回避行動をとった。

 口元を隠していた扇子を傾けた千紬さんはふっと息を吹き、その口から勢いよく糸が射ち出されて前線の3人に迫る。糸は1本1本がとても細いものの空中で寄り集まって丈夫な紐となり、回避の遅れた鼓拍と迎撃できなかった多鎖が捕らえられてしまう。

 

「打出さん大丈夫ですか!?今助けますから!」

「ぬぎぃ!意外と硬ぇな!」

「ちっ!ご丁寧に足まで地面とくっつけやがって!」

「くそ、ひらひら避けやがって!」

 

 2人の男子は何とか逃れようと力を入れてみたりその場から動こうとするが、紐糸は隙間なくぴっちりと巻き付いており上手くいかない。兎山さんが鼓拍を助け出そうとポーチから取り出したナイフで四苦八苦している間、遠手は個性で千紬を捉えようとしていたが失敗続きだ。きっと彼女の着ている裾の長い着物のせいで足元が見えず動きの予想が立てづらいからだろう。

 

「これで邪魔はできひん、ほなウチは森で待たしてもらうなぁ」

「一瞬で陣形がぐちゃぐちゃだ、参るねこれはっ!」

「そこをどけ太刀川」

「悪いが出来ない相談だ、2人ともこのまま終わりまで俺と試合ってもらうぞ」

 

 森へと踵を返す千紬さんを追いたいところだが、先程よりも技のキレが冴えている太刀川に足止めされて俺も機胴も動けない。

 さらに機胴は新たに指示を出そうにも陣営内に動ける戦闘要員が居ないことで若干焦っているようだ、先程から攻撃手段が刀のみの単調なものになってきている。それでは全身刀の太刀川を倒すのは至難の技だ。そしてその雑な攻めのしわ寄せは俺に降りかかり、確実に俺に向かう太刀川の攻撃を増やしている。

 

 この状況で、俺に千紬さんを追う術は無い。

 

「兎山さん!鼓拍の右手だけ自由にしたらすぐに千紬さんを追ってくれ!!」

 

 だからここは兎山さんに任せる。

 俺は機胴と太刀川の足止め、辿佳ちゃんと濡木くんは驚箱から『お宝』の奪還、鼓拍には自由になり次第戦闘してもらう。今すぐに行動出来て万が一千紬さんを見失っても自力で見つけることが出来る兎山さんにしか頼めない。

 

「ユオちゃん行って下さい!この小悪党は私が絶対とっちめるのです!」

「僕も居るからね~?」

「俺からも頼む兎山。こっちは絶対足止めする、誰にも後は追わせねぇからよ!」

 

 俺の発案に同意し皆が兎山さんに声を掛ける。何とか右腕が自由になった鼓拍はその腕でドンと胸を叩きいつも通りの笑顔を浮かべた。

 

「ええ、お願いします皆。彼女は私に任せてください!」

 

 兎山さんも力強く頷いてそう返し、木の影で隠れていく千紬さんの背中を見つめる。

 

「誰でもかまへんわ、ちゃんと追うて来られるならね」

「甘く見ないでください!」

 

 振り返りもせず言い捨て姿を消した千紬さんを追って森へと入る兎山さん、彼女はその健脚で木の間を縫うように跳ね進んで行った。

 これで千紬さんという実力者を排除出来て、残りの試合時間をしのげる確率が上がる。

 

「鼓拍!こっち手伝ってくれ!」

「おう!今行くぜ!」

 

 あとは驚箱を完全に無力化できれば完璧。なのだが。

 

「柔人くん!もっと速く動いて下さい!」

「無理だって~辿佳ちゃんが僕を乗せてよ~」

「ぬめぬめしてるので嫌です!」

「え……」

 

 動きが素早く、意外にも戦いの心得を持っていた驚箱を中々捉えきれていない。

 その素早さに対応できているのは辿佳ちゃんだが近接格闘だけでは驚箱には決め手に欠け、濡木くんの身体を張った広範囲攻撃が何度も惜しい結果を生み出しているが動きが遅いせいで空振りに終わっている。

 

「はぁっ!はぁっ!しつこいなぁコイツら!」

「あっ!待つのです!何じめじめしてるんですか柔人くん!追いますよ!」

「うん……ごめんねじめじめしてて……」

 

 若干かみ合っていないが、まぁ、問題は無いだろう。うん。




千紬ちゃん退場!

彼女と兎山さんの戦闘は森の中で行われるので、別視点で書きまする。
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