そしていつも通り戦闘描写は少ないぞぉ!!
それから今更気が付いたんですがオリ主陣営初出しの話、9話で質変幾辿佳ちゃんがオリ主に投票した理由が時系列狂ってたんで直しました。
それとついでに彼女のコスチュームの説明を「軍服」から「軍用迷彩訓練服」に変えました。軍服だけだとかっちりした制服のイメージが強いですもんね。
「これは……」
千紬さんのあとを追いかけて森の奥に入った私は急に様子の変わった目の前の光景に息を飲む。
「千紬さんの作った狩場でしょうか?」
木々の間や地面には大量の蜘蛛の巣が張られておりうかつに踏み込めばあっという間に動きを止められてしまうだろう。それに加え木の枝や葉を一枚の幕のように繋ぎ合わされているせいで日光が完全遮られ、ただでさえ薄暗かった森の中が夜になったように視界を奪っている。
この場の全容を把握することは今の私には不可能だ。
「無暗に動くのは悪手ですが動かなければ千紬さんを見つけられない、気を引き締めないと」
腰のポーチに手を伸ばしサポートアイテムを取り出して脚に装着する。
彼女のテリトリーであまり悠長にはしたくなものの地の利を取られている以上自分の選択肢を増やしておくに越したことは無い。
「これで良し」
それに私の立場上この場で私が千紬さんを捕捉して抑えておかないと、私を放置した彼女が志揮さん達の元へと戻り終了時間まで私1人がここで時間を潰すことになってしまう。
『お宝』を奪った彼女がその選択を取るとは思えないが、もしそうなれば私達の陣営が勝ち切ることが難しくなる。
「っ!」
「へえ?流石に耳はええねんな?」
頭上のからわずかに聞こえた葉のこすれる音。
敏感にそれを拾った自分の耳を信じてその場から後退すれば、直後に視界いっぱいに広がる極彩色。
「動きも及第点、楽な獲物とちがうわな」
舞い降りてきた千紬さんは背後にいる私を気に留めることなく持っていた何かを袖の中に仕舞い込み扇子を取り出す。相変わらず彼女自身から発される音はその声以外ほとんど無い。
ゆっくりとこちらに振り返った千紬さんは何の気負いもない自然体で、その姿を見た私は無意識のうちに拳を握っていた。
「仮にもクラスメイトですよ?獲物とは心外です」
「そやけど自覚してるやないか、ここが狩場ってこと」
あんな呟く程度の声を千紬さんは聴いていた。
それはつまり、少なくとも私がこの場に着いたときにはもう彼女に捕捉されていたということ。そして私の耳を簡単に欺いて行動できるほどの高い隠密性を持って私のすぐ近くに潜んでいたことの証明だ。
「やっぱし兎やさかい出る発想?」
「ひっ」
うっすらと開いた千紬さんの瞳は相変わらず真っ黒で美しく、対面するとより一層吸い込まれそうなほど魅力的に感じた。そして同時に全身が粟立つものを感じて短い悲鳴と共に飛び退さる。
怯える私を黙って見ている千紬さんは特に動きを見せなかったものの浮かべていた笑みを一段と深めていた。その笑顔が何を表しているのか分からなかったが、どこか安心するような柔らかいものに思う。
「怖いなら帰ってええよ」
そう言いながら私の背後、志揮さん達の居る方向を示す千紬さん。つられて私も振り返る。
その異変を目にした私は言葉を失った。
「帰り道、見つかるとええなぁ?」
私が歩いてきた筈の普通の森はどこにもなく、闇が支配する狡猾な狩猟者の巣へとその姿を変えていた。
「一体、いつの間に……?はっ!千紬さん!?」
目の前に広がる巨大な蜘蛛の巣、その隙間から見える向こう側にも無数の蜘蛛の糸が張り巡らされていた。
あまりの変化に呆けて彼女から視線を外してしまう。正気に戻って慌てて彼女の姿を探すが煙のように消えており、またしても醜態をさらした事実に奥歯を噛みしめる。
「またかっ!まったく反省が活きてないじゃないっ!」
1度目は驚箱さんの奇襲を防げず、2度目は千紬さんの手の平の上で転がされる。この集団戦が始まってからというもの自分の力量不足を何度痛感させられたか分からない。
こんなことじゃ姉さんの役に立つなんて夢のまた夢だ、志揮くんや皆に合わせる顔も無くなってしまう。
だからこそ、ここで止まってしまえばそれこそ無能だ。すでに不甲斐ない私を晒してしかいないが、まだ挽回の余地はある!
「す~、ふぅ……」
思い切り自分の両頬を引っ叩きたいところだがそれをしてしまえば頼りの耳に不調が起こってしまうかもしれない、代わりに深呼吸で気持ちを切り替えて注意深く現状を再確認。
まず千紬さんの所在を私の方から明らかにするのは不可能。彼女の隠密能力は私の索敵を容易にすり抜ける、よって先程のように彼女自ら姿を現してもらわなければならない。しかし彼女には私の前に姿を現す理由がないし、なんならこの場を放置して離れることも出来る。主導権は完全に彼女が握っているのだ。
そしてどうにか彼女を捕捉できたとして、試合が終わるまで彼女をこの場に留めなければならない。その手段は十中八九戦闘になる。
身のこなしを見ればわかってしまう、私と彼女の圧倒的な地力の差。唯一勝っているのは蹴りの威力ぐらいだろうが、それを当てるまでの手段が無い。そんな状況では数分間の足止めは叶わないだろう、何か別の手段も考えないと。
「でもまずは行動あるのみ、考えるのはその次っ!」
頭の整理が終わり、少しはすっきりしたので行動を開始した。
「よし斬れる!このまま……っ!」
千紬さんとの問答の前に脚に取り付けていたサポートアイテム、ギプス切断用のオシレーションカッターを応用した人体や生物だけ斬れないカッターでも問題なく蜘蛛の巣を切断できた。まずは彼女の作ったこの盤面を壊すため片っ端から蹴り裂いていくことにする。
地面の巣に引っかからないように目標めがけて跳躍し空中で糸を斬り裂いて木の幹を足場に着地、次の巣を定めたら再び一飛びに跳躍して近づく。光の足りないこの場所では遠くを見通せないので近場の巣を順番に壊していった。
「巣を壊せばそれに紐づいてる枝も元に戻ってる、ほんの少しだけど明るくなってきたっ!」
日光を遮っていた枝葉の幕も綻びを見せ始め、木漏れ日が降り始める。その光は壊すべき蜘蛛の巣の姿を明確にしてくれてルート選定に大きく役立った。
それでも決して事態が好転しているわけじゃない。一連の動きの中でも耳は周囲の音を入念に聞き分けているが、千紬さんの音も気配も拾えずにいるからだ。
「このまま黙って見てるつもりですか千紬さん!?」
これだけ派手に動けば少しくらい動きを見せると思っていたのだがそんなに甘くなかった。すでにこの場から離れてしまったのか?そう思わせて私を完全に無力化するタイミングを計っているのか?巣に引っかからないように注意して動き回りながら耳から入ってくる音の情報も精査するのはとても神経が削られるし、その上駆け引きで心に揺さぶりを掛けられてしまえばいつか瓦解してしまう。
そうなる前に私からも口で彼女に揺さぶりをかけて少しでも反応を引き出さないと。
「ほらっ!また1つ巣を壊しましたよ!」
「カッターの電池切れを狙ってますか!?残念ですが満タンですよっ!」
「私もまだまだ動けますし、巣を壊し切るのもあっという間ですっ!」
「あ!このカッター人は斬れないので怪我の心配は無いですからっ!」
「他に気になることがあれば何でもお答えしますよっ!」
巣の破壊は引き続き行いつつ、少しでも千紬さんの気を引くために呼びかける。
「これで……最後っ」
それでも1度も返答がないまま全ての蜘蛛の巣を破壊し終えてしまった。
これ以上何をすれば千紬さんの気を引くことが出来るのだろうか?彼女がつい反応してしまうような言葉はずっと思いつかないし、そもそも誰かを熱くさせるような煽り文句は今まで口にしたことが無い。ならば時間と体力が続く限り周囲の木を調べて回る、やれることはこのくらいだろうが現実的な解決手段ではない。
「それでもやらないと」
皆まだ戦っているはず、私だけ先にあきらめるなんてできない。ここで私が動きを止めたら志揮さんが学級委員になれないかもしれないのだから。
それに私自身、私が初めて姉さん以外でヒーローらしいと感じた人がクラスを率いる姿を見たい。だから頑張ろう、私の為にも。
「彼の為にも」
「は?彼?」
「っ!?」
底冷えする暗い声。
背後の木から降ってくるその声と葉音に衣擦れ、その直後のおよそ同一人物が行ったとは思えないほど雑で精彩を欠いた奇襲に対し、私は前転するように地を這って距離を取った。
「それ、紅陽はんのこと?」
「千紬さん……?」
彼女の姿を捉えれば、先程まで汚れを1つもなかった綺麗な着物にたくさんの葉が付いているし、こちらに問いかけながら近づいて来る際にも着物の裾を引きずってしまっている。
さっきと違い今は日光が差し込んでいて美人な彼女を照らしているというのに、今の方が迫力も不気味さも段違いだ。
「どないな関係?今日会うたばっかりちゃうん?」
「そ、そうです。今日が初対面ですよ」
1度目の奇襲ではすぐに仕舞っていた彼女の武器、あれは一見簪に見えるが暗器の類だろう。逆らうのはまずいと感じて正直に答えた私の返事を聞き、彼女は簪暗器を扇子に持ち替えることなく胸の前に掲げ、その綺麗な右手に筋が浮かぶほど強く握りしめた。
「やっぱし、顔合わしたのウチが先やんな?せやったら……」
怒りに震える彼女の黒曜石のような目が大きく見開かれ、小さな唇の隙間から歯ではない黒い何かがゆっくりと顔を出す。
「いつ誑し込んだ雌兎ぃ……っ!」
腹の底から絞り出したかのようなドスのきいた声で叫んだ千紬さんが左手を振るう。
「なっ!?」
すると何か風を切るようなかすかな音が周囲から大量に聞こえ咄嗟にその場から逃げるが、どこに逃げても音が止まずその正体を捉えることも出来ない。
「逃がすわけあらへんやん」
どこにどうやって逃げればいいのか分からないまま数秒飛び回っていたが、見えない何かが左脚に触れたのを感じた瞬間全身が動かなくなった。
それでも音が止むことは無く、むしろ動きを止めた私を中心に音が集まっていく。
「全部話してもらうで」
「くっ!まさか見えない糸!?」
出来上がったのは空中に磔にされ糸で全身を覆われた1人の兎少女。音の正体は視認するのが極めて困難な細い糸で、私を捕らえる過程で寄り集まりようやく目に見えるほどの太さになった。
しかし正体が分かったところで脚に着けたカッターを使って脱出することも出来ず、目の前に突きつけられた彼女の簪暗器を防ぐことも出来ない。
「そもそも陣営に入ったのも擦り寄るためやったんやろ?無害で真面目そうな振りして油断させて、距離を縮める魂胆やった。こんなんならムキにならんと陣営に加わっといたら良かった。せやったらアンタみたいな卑しい女を彼に近づけへんで済んだ」
千紬さんは一体どうしてしまったのだろう。私の目の前で永遠に言葉を紡ぐ彼女は目を見開いているが私を捉えているわけじゃない、その向こうの志揮さん達が居る方を見ているのだ。
「そやけど紅陽はんも紅陽はんや、なんでウチより先にこの雌兎と話すん?確かにウチの席は扉から距離があったけどちゃんと目ぇ合ぅとったやろ?」
志揮さんと千紬さんが話している姿は教室でもこの演習場への移動中も見ていないし、もし以前からの知り合いならば作戦を立てるときにもっと詳しい情報を共有していたはずだ。わずかに残る可能性として元々知り合いだったが別の陣営になったことの公平性を保つために会話や情報を制限するというのも無いことは無いが、そもそも一緒に登校していなかったし最初に席順を聞く相手も彼女じゃなかったことから、やはり2人に面識がないと考えるのが妥当だろう。
「あの、2人はいつ知り合ったんですか?」
正直聞きたくなかったし聞いて少し後悔した。私の問いかけに反応した彼女は焦点を私に合わせ、その質問の真意を探るようにじっとりとねめつけてきたのだ。
「なんでそんなん聞くねん」
「し……彼から貴女の事は聞かされなかったので」
私があえて志揮さんの事を彼と呼べば千紬さんは視線を険しくする。
正直怖くて身が竦むがこれはチャンスでもある。まともに戦闘すればあっという間に無力化され時間稼ぎにもならないけれど、何故か志揮さんの話題なら簡単に彼女をこの場に留めておける。私がこの恐怖に屈しない限り、と但し書きは付くだろうが。
「貴女は彼に忘れられているのでは?」
「雌兎がぁ……何勝ち誇ってんねん……っ!」
いいえ、断じて違います。顔が引き攣っているせいで笑っているように見えるかもしれませんが怖いだけです。あなたに勝ってるなんて思いません。ぜんぜん負けでいいです。
というか、志揮さんも志揮さんです。彼女にここまでの感情を向けられるなんて一体何をしたんですか!?
「い、言いがかりはよしてください。むしろそう口にする貴女自身が私に負けていると思っているのでは?」
「……ええやろう、教えたるわ。ウチと紅陽はんの出会い」
いくらか険しさを霧散させて千紬さんは話し始める。どうせなら私の左眼に突きつけられている簪暗記もどけてほしい。
「あれは推薦試験でのこと。実施期間は2日間で、内容は軍隊式のブートキャンプとその後の長距離行軍やった」
そうか、彼女は最初学級委員の候補でもあったのだから推薦試験で受かっているのだった。
軍隊式なんて付いていけない者だらけのはず、多少強度を下げたとしても未成熟な子供に課すにはハード過ぎではないだろうか?
「当然えらい厳しおしてぎょうさんの受験生がついていけへんかった。そないな足手纏いのせいでメニューは追加され、ウチも相当疲弊したわ」
兵士の質の底は一律にしたいのが軍隊だろう、その訓練内容を試験という場で学生に課すのはいまいち理解しかねる。互いに競って優劣を決めている受験者同士なのに連帯責任で全員が罰を受けるなんて到底納得できないはずだ。
「帰宅も許されんと、受験生は皆寮に押し込められた。少ない椅子を取り合うライバル達と1つ屋根の下、当然ウチは仲良うなんてできひんしずっと張り詰めとって休めたもんやなかった」
足を引っ張った人も引っ張られた人も一緒に過ごす夜、友好を築くなど無理な話だろう。
そんなギスギスした雰囲気ではまともに気は休まらない、休息の時間ですら学校側はプレッシャーを与える手を緩めなかったのだ。
「翌日全員漏れなくコンディションは最悪や、そないな状態で行軍させられれば流石にストレスの限界やった。小さな口論を皮切りに男共の喧嘩も脱落者も止まらへんくなり試験は崩壊しとったで」
何の訓練も受けていない多感な10代を高負荷の状況で無理やり集団行動させる、暴走しない方がおかしい。
「早々に纏めるんは諦めたわ。せめてゴールまで辿り着くにはどうしたらええか、脱落者を出さない方法はあらへんかってその2つだけ考えとった。まぁ、そんなんウチだけや無かったやろうけど」
脱落した者はわかりやすく試験を放棄した訳だが、喧嘩し始めた者も試験官に止められて追い出されるのを期待していたのだ。その心はこんな試験を早々に終わりにしたいという諦め、投げ出したかったのだろう。
「その時や、紅陽はんに声を掛けられたんは」
ようやく本題だ、千紬さんの表情も心なしか明るくなった気がする。
ここまでの話は推薦試験の内容でしかなかったがいい時間稼ぎにはなった、このまま千紬さんには喋り続けてもらおう。
「ウチの隣にやって来て彼は言うた、『これでようやく纏まるね』って」
「纏まる?」
その場の状況は想像するだけでひどいもの、怒り狂ったチンパンジーの群れもと見間違うのではないだろうか?それがどうやって纏まるというのだろう。
「わけのわからへん男や、しかもにやけて言うさかい気に喰わへん。つい思い切り睨んでもうた」
気持ちはわからなくもない、もし自分が無力感や諦念、怒りに苛まれている時に横でニヤニヤ笑われていたら腹も立つ。
それはそれとして千紬さんに睨まれた志揮さんには同情する。
「感情を抑えもしいひんかった、えらいキツイ視線やったと自覚してたんやけどなぁ。それに全く怯みもせず彼、『やっぱり君が一番だね、そのまま彼らを見ててよ』なんて言うてまた笑うんや。ますますわけわからへんかったさかい言われた通りなんもせずお手並み拝見しとった」
そう話す千紬さんが浮かべる笑みは何も取り繕っていない素の笑顔に見えた。
「ほんなら試験を諦めて蹲っとった子達に話し掛け始めた。てっきり喧嘩を止めるのかと思たんやけどな、そんなん放って色んな子を回っては吸収して群れを作ったんや、それで群れの皆で話し合い。これからどないすんのか冷静に相談してるそないな集団目に付いて当然や、自然と喧嘩もおさまっていき飛び交ってた怒号も気まずそうにしぼんでいった。あっさり静かになったさかい拍子抜けしたわ」
気持ちが荒ぶってる人を無理やり冷静にさせるのは至難の業。声を荒げている人に対して説得を試みれば自然と声が大きくなりがちである、気が付いた時にはこちらもヒートアップしてミイラ取りがミイラになってしまっては意味がない。
その点受験生たちは溜まっていた不満を吐き出すために喧嘩になったのだ、本心では誰も試験を諦めたくは無かったのだろう。ある程度の線引きをしつつ好きに発散させて、周りが冷静に振舞ってやれば自然と正気に戻れたのだ。
なんて私も分かった風に言ってはみるものの、自分のことでいっぱいになってしまう状況及びストレス下でそんな発想と行動に至るかは別問題だ。だから志揮さんのその対応に感心してしまう、きっとそれは千紬さんも。
「喧嘩が完全に沈静化したタイミングで紅陽はんが群れから離れてウチに一言『お待たせ』って言うて手ぇ差し出してきた、ウチも不思議と何の抵抗も無く受け入れてたわ。それでウチを連れて喧嘩の切っ掛けになった受験生に近づいて『意見交換はもういい?ならこっちで方針を固めよう!』やて、ウチだったら皮肉でも言われへんわそんなん」
ようやく纏まる。それはつまり他の受験生が本心を偽らずにぶつかり合える状況が整ったということ。
志揮さんは試験の場なんて関係なく協力できるのだ、他の受験生を競う相手とは考えず同じ夢を追って同じ舞台に立つ対等な存在として見ているから。
「そっからは全員ちゃんと協力して無事に試験を終えられた。でも試験中もずっと気になっとったさかい終わった後で紅陽はんに聞いたんや、ウチの何が一番やったんかって。ほんならなんて言うたと思う?」
常に醸し出していた大人っぽい雰囲気も纏っておらず、年相応で私と何も変わらない女の子が楽しい思い出を話す姿。それはなんだかとても愛おしいものに見えた。
「わかりません、志揮さんは何て言ったんですか?」
「『君が一番綺麗で気高かった』……──」
初対面で何を言うんです志揮さんは!?
そんなこと言った相手に教室で再会したのに挨拶すらしないなんて何考えてるんですか!!
「──『喧嘩した負い目を感じた男は君と自分を比べて行動を見つめなおすと思った、思った通り態度が柔らかくなったしなんなら数人は君に見惚れていたね!』って、今思い返しても後半は蛇足や思うわ」
「はい、それは言う必要ないと思います」
「やろ?そやけど紅陽はんはその蛇足で皆を纏めてみせた、ウチに怯まず手も借りず喧嘩しとった男共を見さすだけで。そないな
ついには頬を紅色に染めてしおらしくなった千紬さん。大人っぽく振舞う姿も魅力的だったが、今見せている姿もその姿とのギャップで大層可愛らしい。
しかし楽しい思い出話が終わればいつも通りの彼女に戻ってしまう。
熱を帯びて柔らかかった表情は冷たく鋭いものへと変わり、それに伴って浮かべる笑みも妖しくなった。
「そやさかい今度は手ぇ貸したげたい、その為にウチは一番近くにおりたいんや。その最初で敵対したのは浅慮やったけどここでアンタを下して改めて価値を示す、悪いけど『お宝』は返せへんわ」
「……お話は分かりました。それに貴女から『お宝』は取れなさそうです」
「当然や。これに懲りたら手ぇ引きや、紅陽はんの隣はウチのもんに──」
「なりませんよ、残念ながら」
食い気味に否定する私を睨む千紬さん。最初は怖かったけれど今は平気だ、少し愛情が深いだけで彼女も同い年の女の子だってことが分かったから。
そして、完全無欠の存在ではないことも試験の話を聞いて分かった。その証拠に、彼女は志揮さんの作戦には気づいていない。
「だって千紬さん、もう『お宝』持ってないですもん」
「は?何を言って……え?」
私の言葉に怪訝そうな顔をしながら自分の袖に手を入れる千紬さん。そこにはきっと私達から奪った機胴陣営の『お宝』が入っているのだろう、しかし彼女の表情を見るに私たちの作戦通りに事は進んでいるようだ。
「いつの間にっ!?どうやって奪った!?」
彼女は私の喉元に簪暗器を突きつけ叫び、反対の手に持った糸まみれの小石を眼前に突き付けてくる。
「さぁ?調べたければこの拘束している糸を解いてみればいいのでは?」
「この……っ!」
私の服を調べようとすれば糸の拘束は緩まるから私を逃がさないようにするのは気を使うし、今の私を拘束している糸の量はその時の千紬さんの感情の爆発に比例していたので尋常じゃない。それを解いている間に試合時間は終わる、長話していたせいだ。
果たして彼女は時間に迫られるストレスの中で冷静にこの策を見抜けるのか?そして失敗すれば志揮さんの隣を手に入れられないと思い込んでいる彼女に冷静な判断なんてきっとできない。
「志揮さんと敵対して価値を示す……失敗でしたね?」
奥歯が砕けんばかりに力いっぱい噛み締め、まるで仇を見るような目で睨まれても恐怖は感じなかった。
推薦試験の話は完全に妄想ですし、何なら今回書く必要なかったかも。
次はオリ主視点に戻る。予定。