箱入り娘のあの娘が通っている以上女子高かとも思ったのですがボーイミーツガールをやる以上共学にさせてもらいました。
悪しからず。
「え?今、なんて?」
「ん?
中学3年の冬が終わり寒さも落ち着きをみせ、卒業の日が近づいてくる今日この頃。
私を含め新生活に向けて動き出す同級生との残り少ない時間を過ごせる、そんな喜びを噛みしめていた時だった。
その話を聞いたのは。
「あれ?八百万さん居なかったっけ?先週の放課後、本人が教室で男子に話してたんだけど」
「え、ええ。先週は用事があったので通学していませんでしたわ……」
久しぶりに仲の良い友人と食堂での昼食を共にして弾んでいた気持ちはどこへやら。
私、八百万百は他の学友の皆様より一足先に受験を終えていたので先生方から自由登校の許可を得ていました。
天下の雄英高校、その推薦入学者。先生方はそんな私の事を誇らしく思うと言って下さり、普段以上に手厚く対応してくださいました。
「そっか。まぁあの雄英に通うんだもん、しっかり準備しないとだからしかたないよ!」
確かに新たな一歩を踏み出すための準備は万全だ。
しかし、こんなタイミングで動揺させられるような話題が出るなど思っても見なかった。
「まさか志揮さんが不合格だったなんて……」
「確かに意外だよね、志揮君勉強も運動もすごかったもん」
この中学校で過ごした3年間、進学クラスとして共に過ごしてきた志揮さん。
同い年の異性の友人などほとんどおらず、事務的な会話以外で自分から話しかける話題を持たない私が唯一気軽に話せた相手だった。
入学当時からずっと近い成績の彼を意識し続け、勝手にライバル視していたこともある。周りとの会話から彼もヒーローを志していたのは早い段階で知っていたし、優秀な彼は雄英高校へ入学する椅子を奪い合う相手になるだろうと考えたからだ。
だから入学してから1年ほどは彼に対して一方的に冷たい態度をとっていたように思う、そうしないと自分の中の醜い部分が顔を出し平静を装えなくなってしまうような気がしたから。
「はい、志揮さんはとても優秀でした。私自身ずっと彼の事を良きライバルだと思っていましたから」
「そうそう!八百万さんと志揮君の二人、ずっと試験の順位競ってたもんね!なんかピリピリしてたし近寄りずらかった!」
「そ、そうでしたか?」
「そうだよ!?なのにいつの間にか二人が仲良くなってて皆驚いたんだからね!?」
変化が起きたのは2年生に上がった直後だった。
互いに成績を落とすことなく進級しまたしても同じクラスとなった日、これからの1年も激しく競うことになるだろうと予想していた私はより一層精進しようと下校時刻ギリギリまで図書室で自習していた。
そろそろ戸締りの先生がやってきて止められるだろうと思った瞬間図書室の扉が開く。しかしそこに立っていたのは先生ではなく志揮さんだった。
「……マジ?」
彼は私を見るなり頬を引きつらせながらそう呟くのみ。
「何か御用ですか?」
そんな姿を見た私はいつも通り感情を抑え込み、努めて事務的に聞こえるよう口を開いた。自然と手元の参考書を隠すように端に寄せ彼の目を正面から受け止める。
なぜこんな時間に彼が来たのか?
なぜそんな表情で私を見るのか?
疑問は尽きなかったが自分から話しかけようとはしなかった。
ほんの数秒、互いの間にあった沈黙を破ったのは彼だった。
「ふっ!あっはっはっは!!は~!!マジでか!!」
「な、何が面白いんですか!?」
「ごめんごめん!あはは!」
謝りつつも彼は笑い止むことなく、しかもお腹を抱えて大爆笑といった様子で私を煽っているような態度に視線が厳しくなるのを抑えられない。
「志揮さん!貴方は──」
「降参!俺の負けだ!!」
「──一体って、え?」
お腹を抱えていた両手のひらを私に向けながら掲げた志揮さん、完全にお手上げといったポーズだった。
「いや~!1年間ずっと距離とられたからなんでかと思ったら、それだったのか」
彼が指さしたのは私が使っていた参考書。雄英高校の過去問題集だった。
それが分かった私は途端に恥ずかしくなり、慌てて鞄へと突っ込んだ。
その様子を見ながらまた笑顔を浮かべる彼はとても楽しそうに口を開く。
「ねぇ八百万さん」
「……なんでしょうか?」
「俺、雄英行かないんだけど?」
「え!?」
その後はいつも通り見回りの先生が来て解散となり、翌日から志揮さんは頻繁に私に話しかけてくるようになった。
最初はまだ警戒心を抱いていたがそれは次第に罪悪感に変わり、今では友好となった。同じ夢を持つ者同士とても波長が合ったのだ。
一緒に昼食も食べたし勉強もした、何より夢について語る時間はとても多かったと思う。
このままずっと一緒に歩めたらいいのにと、そう思った。
「ごめん八百万さん!友達が雄英受けるらしいんだけど、付いてきてくれって言われちゃって」
3年生でも同じクラスとなり、珍しく他の友人と都合がつかず私と志揮さん二人だけでの昼食となった日の会話。それを聞いたとき、内心舞い上がっていた。
かつては本人の口から行かないと告げられた雄英に、友人の付添いとは言え彼が自ら赴くと、そう言ったから。
「……約束破る形になっちゃうんだけど、許してくれない?」
「ふふ、別に構いませんよ。そもそもあれは別に約束ではなかったですから」
「あれ?そうだったっけ?」
「そうですよ、あの時の志揮さんが行くつもりはないと言っていただけじゃないですか」
彼なら受かる。
推薦を受ける私とは試験の内容は違うだろうが、きっと受かる!
「そっか、それなら良かった」
「ええ、良かったです」
「なんか楽しそうだね?」
それはもう。
なんといっても一番仲の良い、同じ夢を持った志揮さんとまた3年間過ごせるかもしれないなんてやる気になって当然です。
「い、いつも通りですわ!」
試験に向けて頑張ろうと、より一層深く決意した瞬間だった。
そして今に至る。
「まぁ皆薄々分かってたけどね、二人とも同じ夢を持ってるんだからすぐに打ち解けるだろうって」
「実際話すようになってからはすぐでしたわね」
「それでそんな二人が一緒に雄英で大活躍するんだ!皆でそれを応援するんだ!って。そう思ってたんだ……」
「……ええ」
私もそうなればいいと。
いえ、そうなって欲しいと、心から思っていた。
それが叶わなくて残念だし悲しい、そして何より寂しかった。
「いくら志揮さんが優秀でも試験は何が起こるか分かりませんもの、きっとなにか不測の事態が──」
「あ!
「おっすー、もう飯食った感じ?」
しんみりとしていた空気を変えてくれたのは数少ない異性の友人、志揮さんに雄英入試への付添いを頼んだ湧水さんだった。
彼は雄英の普通科の試験も受ける予定だったため、ヒーロー科受験だけの志揮さんと違い地元に帰ってくる時期が遅れていた。
その手にはお弁当の包みを持ち、いつも通りけだるそうに歩いてくる。
「そうだよー!そういえば湧水君はどうだったの?雄英!」
「あー、全然だったな。大人しく普通科行くわ、クラス違うけど3年間よろしくね八百万さん」
「ええ、こちらこそよろしくお願いいたしますわ」
よっこいしょと漏らしながら席に突き手を合わせてからお弁当を食べ進め始める湧水さん。
彼だって私達と同じクラスで優秀なはずなのに、ヒーロー科には受からない。
その事実が志揮さんの不合格を決定づけているようでやるせなかった。
「そうだ、二人は知ってる?
「うん、知ってるよ」
「私はさっき聞きましたわ」
お弁当をゆっくりと堪能しながら湧水さんが話題を振る。
「じゃあさ、そのデマ誰が言ってるか教えてくれない?」
「「え?」」
何てこと無さそうにそう口にする湧水さんだったが、その表情には明確な怒りが浮かんでいた。
私の中には淡い希望が湧いていた、何かの誤解で受かっていたはずの志揮さんが落ちたと勘違いされているのではないかと。
「紅陽が落ちるわけないだろ。ったく、誰が言い出したんだか」
「え、ええ!?でも本人が教室で……」
「本当に『落ちた』って言ったのか?『行かない』じゃなくて?」
「あっ!!確かに落ちたとは言ってなかったかも!!」
やっぱりな、と呟いた湧水さんは一つ大きなため息を吐くといつも通りの気を抜いた表情へと戻った。
『行かない』、それは確かに彼が発したことのある言葉だ。
『落ちた』訳ではない、志揮さんが自分で行かないことを選択したのだとしたら?
「結果は変わらないけどさ、アイツの名誉の為に訂正するよ」
「じゃあ志揮君」
「自分で受験資格取り下げたんだってさ、試験終わってすぐに」
まさか。
やっぱり。
何故?
あまりの衝撃に私は何も言えなかった。
ヤオモモは良い子ですが、中学の時はあまり仲の良い友人はいなかったのではないかなぁと思いますね。
雄英に行って、同じ夢に向かうクラスメイトが集まったからこそあれだけかわいい姿を見せるようになったんじゃないかな、と。
今回初登場の男子、湧水躁(わきみずそう)君は雄英の普通科に入りました。
雄英サイドの話に絡めるときにまた出てくる予定です。
ちなみに個性は『水操作』です、水を生み出して操れます。
強い個性ですが、実技試験では索敵が上手くいかず機動力も足りず、しかもかっちゃんと同じ会場出たので輝けませんでした。
次は紅陽と八百万の二人の話です。