俺のグレートマンスクール   作:鳥居幾人

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前話のヤオモモのお友達女子は今回出ません。

代わりに男友達の湧水君がちょっと出てきます。
本音もポロリするよん。


5話 堀須磨大付属中学・放課後

「しつこく聞いて悪いとは思うが、本当に良かったのか?」

「はい先生。あそこは個人主義というか、自由過ぎるというか。あまり相性が良くなさそうなので」

「そうか……」

 

 卒業式が近づく中、忙しいにもかかわらず俺の事を気にかけて時間を作ってくれた先生と職員室で向かい合う。

 この先生は俺の決定を尊重して進路の相談に乗ってくれた、そのおかげで問題なく予定通りの進路へと進める。

 

「これが士傑高校の入学者用資料だ、ちなみに推薦試験の成績はトップだったとも聞いた」

 

 先生が机の引き出しからそこそこ厚みのある冊子を取り出す。

 これを今まで渡さずにいたのはきっと、俺の雄英受験資格の取り消しが正式に決まるのを待っていたからだろうな。

 

「おお!頑張った甲斐がありました!」

 

 雄英高校にも劣らないネームバリューを誇る士傑高校、その推薦を受けられたのも先生のおかげだ。もし他の先生だったなら渋りに渋って雄英に申し込みかねなかった。

 まぁ、目の前の先生の表情もどこかやるせなさが漂っているので、本音のところは他の先生と同じだったのかもしれない。

 何はともあれ士傑高校だ。受け取った資料にその場で軽く目を通した後に鞄に仕舞い込む。

 

「そうだ、試験の担当プレゼントマイクだったんだろ?どうだった?」

「やっぱり最高でしたね!!絶対俺もあんなふうに周りをノせてみせますよ!!」

「ふっ、そうだな。志揮(しき)ならできる、頑張れよ」

「はい!まずはクラス委員長の座をものにして~それから──」

 

 士傑高校での楽しい生活に思いを馳せ計画を口にする。

 先生も肩の荷が下りたように晴れ晴れとした笑顔で相槌を打ってくれた。

 

「さて、まだ仕事があるからな、志揮ももう帰りなさい」

「っと、そうですね。先生、いろいろ相談に乗っていただきありがとうございました」

 

 今日で俺の進路相談は終わった。

 新生活の準備やもろもろを考えると、先生と会う回数はもう数えるほどしかない。

 そして、じっくりと話す機会はもうないだろう。

 

「気にするな、先生も志揮の力になれて嬉しかった。……準備、しっかな」

「はい!では、失礼します!」

 

 先生の机から離れ、職員室の扉へと向かう。

 周りでは他の先生たちが作業しながら各々俺へと視線を寄こしてきた。

 それらに若干の申し訳なさを感じながら軽い会釈を返して進み、最後にしっかりと一礼してから職員室を後にした。

 

「……ふぃ~、なんか気まずいな~」

「そりゃ自業自得だろ」

「お?おお!我が友じゃないか!」

 

 扉を閉め独り言ちたと思いきや返事する者が傍にいた。

 共に雄英の試験を受けた友人、湧水(わきみず)(そう)だ。

 その後ろには久々に見る八百万さんも居た。

 少し表情が優れないようだが。

 

「わざわざ一回『我が友』って呼ぶのやめてくれ、めんどくさい」

「はいよ、躁。それで何か用か?」

「俺は別に。あ、でも強いて言えばお前の発言には物申したいけどな」

「というと?」

「お前自分で雄英蹴ったくせに、さもあっちに切られたみたいに言うのやめろ」

「えぇ?でも俺程度が雄英を見限ったみたいに言うのはなんかさぁ?うお!?」

 

 そこまでいつも通りの雰囲気が一変し、躁が俺の胸ぐらをつかむ。

 眉間には深いしわが刻まれ、いつも気だるげだった瞳は大きく見開かれている。

 

紅陽(こうよう)()()()()に切られるヤツじゃねぇ!いくらお前でも俺のヒーローを貶すのは絶対に許さない!」

 

 躁が急にヒートアップしたことに背後の八百万さんが驚愕している。

 俺も少し驚いたがすぐに頬が緩んでしまった。こんなに熱くなった躁を見たのは2年生の時以来だ。

 躁と八百万さん二人の付き合いは3年になってからだから、躁のこんな姿は初めて見たんだろう。

 

「そうだな、これからはちゃんと俺の意思だって伝えるようにする」

「頼むぜほんと、お前が言うのも我慢ならねぇが周りが言うってると本気で歯止めが利かなくなりそうだ」

「そりゃ大変だ!あっはっは!!」

「はぁ、わざわざ訂正して周れとは言わないが、これから先聞かれたらちゃんと答えてくれよ」

「心得たっ!!」

 

 俺が敬礼しながら返事をすると躁も満足したようで表情も柔らかくなった。

 胸ぐらをつかんでいた手を放し、ワイシャツのしわを伸ばすように軽く整えるとくるりと反転して玄関へと歩き出した。

 

「じゃあ俺は帰るわ。八百万さん、あとよろしく」

「わ、わかりましたわ」

「また明日な!躁!」

 

 未だ衝撃から抜け出せないのか、若干言い淀んだ八百万さん。

 俺が躁の背中に向けて声を掛ければ、片手を上げるだけで返事は無かった。

 

 

──────────

 

 

 八百万さんは今日は歩いて帰るらしく、俺たちは一緒に学校を出た。

 俺は先週登校していなかった彼女が知らないであろうクラスの話題を中心に話しかけたり、仲の良い後輩がすでにべしょべしょに泣いてる写真を見せたりした。

 しかし彼女の表情が晴れることは無く、力ない相槌が帰ってくるだけの独り相撲状態がしばらく続いていた。

 

「躁って八百万さんと同じクラスになったの3年からだったでしょ?あんな躁は2年の時以来だったから俺も驚いちゃったよ!八百万さんはさらに驚いたでしょ?」

「……そうですね、とても驚きました」

 

 言いふらす訳にはいかないから詳しく話せないが、俺と躁の出会いは2年の夏だった。

 今まで部活に力を注いでいた躁がその時期伸び悩んでおり、夏休みの補講で学校に学校に来ていた際に偶然出会ったのが最初だ。

 まぁ、なんやかんやあって躁は悩みを吹っ切って勉強に力を入れるようになり、俺がそのきっかけになったらしく友人になった。

 

「2年からめちゃくちゃ勉強頑張って、3年で進学クラスになれるなんてあいつも大概だわ」

「……あの、志揮さん」

「はいよ、なんだい八百万さん」

「えっと……その……」

 

 意を決して話を切り出したもののどうすればいいのかわからない、といった感じで口を開いたり閉じたりする八百万さん。

 普段のなんてことない会話ならばいい加減慣れただろうが、あまり真剣な話題を振るのはどこか遠慮してしまうのだろう。

 

「どうして、湧水さんの事は名前呼びなのですか?」

 

 俺の様子を窺うように、ややうつむいた状態で上目遣いがちにそう尋ねる八百万さん。

 言われてみれば俺がこの学校で名前呼びしてるのは躁くらいだ、理由は俺もわからない。

 

「え?……あぁ~」

「先程仰られていたように湧水さんと同じクラスになったのは3年生、紹介されたのもその時でした。知り合ったのは何時なのですか?」

「えっと、2年生の夏休みだね」

「去年の夏……」

 

 俺の言葉をかみ砕き何やら考え込む八百万さん。

 すっかり歩みを止めてしまったので俺もそれに倣い、歩道を占拠しないように歩道の端に寄った。

 

「では、どうしてそれよりも前に知り合っていた私の事はいまだに苗字で呼ぶのですか?」

「う~ん、ノリかなぁ?」

「ノ、ノリ、ですか?」

「うん。例えば、『百さん』」

 

 びくりと肩を震わせる八百万さん。

 

「『百ちゃん』」

 

 今度は耳が赤くなる。

 

「『百』」

 

 ついに顔まで赤くなり、半歩後ずさってしまった。

 

「こういう呼び方、俺がしっくりこないのもあるけど、八百万さんが慣れてないみたいだしさ」

「たっ!確かにそうですわね!」

 

 いつも通りの呼び方に戻せば体の緊張もほぐれた様で、あからさまに胸をなでおろしている。

 まだ通常運転には戻っていないが会話は問題なさそうだ。

 

「ですが今!一度は呼ばれたのですし、この機会に変えてもいいのではないでしょうか!?」

 

 撤回、まだまともに会話できなさそう。

 両手を胸の前で握りこみかなり身を乗り出してくる。それになんだかプリプリしてていつもよりだいぶ幼く見えるな。

 

「え、ええ?」

「そうですわ!私も名前でお呼び致しましょう!」

「あ~、そう?なら俺も合わせるけど」

 

 まあ、八百万さんはいまあまり冷静ではないみたいだけど、これを機に互いの呼び方を変えても面白いか。なんだかんだで3年の付き合いだし。

 となるとさん付け、いやなんか百さんって声に出すとしっくりこない。

 かと言ってちゃん付けはなぁ、しっくりはくるけど流石にこの年で呼ぶのは憚られる。

 呼び捨てがちょうどいい気もするけど……彼女のさっきの反応的に慣れるまで名前を呼ぶだけで会話にならなさそうな気がする。

 

「こっ!ここ、こう!こ!」

 

 さっきからずっと鶏みたいになってるけど、これ本当に呼べるのか?

 ん~、まあ俺は八百万さんに合わせるか。さんならさん、君ならちゃん、呼び捨てなら呼び捨て同士、かな。

 

「こ、紅陽っ!……──」

「はいよ、百」

「──さんっ!えっ!?」

 

 答えるのがちょっと早かったようだ、まだ彼女のターンだったのにはやとちった。

 

「あ、ごめん、躁みたいに呼び捨てにするのかと。さん付け──」

「はい!湧水さんと同じように呼び捨てでお願いしますわ!!」

「──に、しないね、わかった」

 

 食い気味で肯定されてしまった。

 まあ、これからは八百万さんの事は百と呼ぼう。彼女が俺の事を紅陽って呼ぶならね。

 それに前置きはこの位にしておこう。

 

「それで、卒業目前で何か心変わりすることでもあったの?百は」

「え、えぇと、それは」

「俺が雄英に行かないことについて、とか」

「そう、ですね……やはり、直接理由を聞かせていただきたいです、こ、紅陽の口から」

 

 まあ、せっかく受験したのに結果を待たずに辞退するなんて百からしたら疑問だよな。

 

「わかった、この後時間は?」

「勿論ありますわ」

「じゃあどこかお店入ろうよ、流石にまだ寒い」

 

 互いに新生活が控える身、身体を労わらないとね。

 なんてことを軽く考えられるくらいには隣の百はいつも通りだった。

 

「それでしたら近くに紅茶の美味しいお店がありますの!いかがですか?」

「いいね!あんまり詳しくは無いけど」

 

 そういえば百は紅茶が好きだったな、と考えながら彼女との初めての寄り道を楽しんでいる自分が居る。

 彼女も同じなのか、足取りは軽い。困難事ならもっと早くに誘っていればよかったな。




次こそはヤオモモと紅陽のさしでの話し合いじゃ~

ヤオモモキャラ崩壊してたらごめんね。
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