半人半魔のデビルハンター   作:ピーターソン

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窮地の巫女

 かつて人間界を悪魔の侵攻から救った魔剣士スパーダ。彼と人間の女性との間に生まれた半人半魔のデビルハンター、ダンテ。彼は今、薄れていく意識の中で、つらつらと過去に思いを巡らせていた。

 

 

 

 ダンテの生涯はこれ以上無いほど波乱に満ちたものだった。

 

 母を悪魔に殺され、兄とは袂を分かち、父の尻拭いをさせられ、手痛い裏切りを受けた。しかしそれらがあっても尚、ダンテは前に進み続けた。彼をそうさせたのは生来の豪放磊落な気性だけが理由ではない。比類なき強さで人間を救った父。そんな父も参ってしまう程に気高く美しい母。二人から受け継いだ血と魂が自分の体に宿っている。その事実がいつも彼の背中を押してくれたから。

 

 何よりも誇りに思う血と魂。それらの命ずるままにダンテは剣を振るってきた。そこに後悔など1つも無い。

 

 スパーダの血族として、その誇りを受け継いだ者として、なすべきことはすべて成した。ただひとつ未練があるとしたら又甥の顔を拝んでおきたかった、それくらいだろう。

 

 取り留めもない事を考えていると、いよいよダンテの意識は遠のいていく。

 

 

 人間は生涯を終えると、その魂は天国か地獄に送られるという。もしそれが本当ならば、純粋な人間でも悪魔でもないダンテの魂は果たしてどこに行き着くのだろうか。勝手知ったる魔界か、それともまだ見ぬ天界か、はたまたファンタジーな異世界か。

 

 

 

 ――そんな事はどうでもいいか。

 

 ――――どこへ行こうと楽しむだけだ。

 

 

 

 ダンテはそこで完全に意識を落とし、激動の生涯に幕を下ろした。

 

 

 

 

 「――っ! ――――っ!!」

 

 複数の男のくぐもったような怒声によって沈んだはずのダンテの意識は無理やり覚醒させられる。

 しばらくは――いや、いっそのこと永遠にゆっくり眠れるだろうと思っていた矢先にこれだ。どうせならとびきりの美女に揺り起こしてもらいたかったと内心独りごちる。ダンテは腹いせにその怒声の主に嫌味でもくれてやろうかと思い、まぶたをゆっくりと持ち上げる。

 

「……んあ?」

 

 一番にダンテの視界へ飛び込んできたのは天蓋を被った7人の集団。容貌は虚無僧そのものだ。日本刀や槍で武装していることを除けば、だが。次に地面を見下ろせば、そこには石畳が敷き詰められており、そのまま視線を延ばしていくと石畳の途切れた向こうに木々が生い茂っているのが確認できる。この林はここら一帯を囲うように群生しているようだ。そして更に視線を上げると夜の帳の中、煌々と輝く星々。

 

 ……と、冷静に周囲の状況を確認しているようだが実際、ダンテは混乱していた。自分は死んだはずなのに何故見知らぬ場所に突っ立っているのか、まさか目の前の人間は新種のマスクドヒーローかなにかなのか、そういった疑問や推測が彼の頭の中をグルグルと駆け巡る。

 

 ううむと唸りながら思案するダンテ。その周りの視線などまるで目に入ってない様子に苛立った虚無僧がダンテに問いを投げかける。

 

「貴様……人間ではないな?」

 

 その言葉にダンテは眉尻をピクリと動かした後、ニヒルな笑みを浮かべる。

 

「hmm……俺の美貌が人間離れしてるって言いたいのか? だったらもう少し分かりやすく褒めてくれ」

 

 イエスともノーとも採れない言葉。ダンテに答える気など毛頭ない。虚無僧は天蓋の下で顔を顰める。顔立ちがやたらと整っているだけに更に癪なのだろう。虚無僧は気分を落ち着けるように一呼吸置いた後、再度問いかける。

 

「……もう一つ問おう。貴様はそこの穢れた親子に与する者か?」

 

 そう言って虚無僧は手に持った日本刀の先端をダンテの背後に向かって突きつける。その切っ先が示すものを確かめるため肩越しに振り向くと――。

 

 ――――そこには呆然とした顔でこちらを見つめる少女。そしてその傍らには自らの血で巫女服を赤く染め上げた女性の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 姫島朱乃は堕天使の父バラキエルと人間の母、姫島朱璃の間に生まれた子だ。

 

 

 姫島家は代々、表向きには神職に就き、裏では悪魔や堕天使といった存在を祓うことを生業としてきた一族だ。

 魔を祓う一族が魔と交わる。その前代未聞の事態に朱璃の親族達は堕天使と交わった朱璃、堕天使の血を引く朱乃を腫れ物のように扱ってきた。

 ――幼少の朱乃が勘付くくらいには。

 

 だがそれでも朱乃は幸せだった。

 

 いつも優しく、時には間違いを正してくれる母。強面で無愛想で、更には家を空ける事も多いが不器用なりに自分を愛してくれる父。

 朱乃はそんな二人が大好きで何より大切だった。この団欒を、温もりを、いつまでも享受できるのなら他には何も要らないとさえ思っていた。

 

 しかし、たまたま父が家を空けていた夜のこと。家族の住む神社に備え付けられた境内で母と二人で夜空を眺めていた折、突然前方から7人の虚無僧が現れる。天蓋を被ったその姿は姫島の戦闘装束。間違いなくその正体は姫島の一族または縁者の類の者だ。

 

 母娘二人の団欒が脆くも崩れ去る。朱璃はまた嫌味混じりの警告でもしに来たのだろうかと表情を険しくする。傍らの朱乃は状況を理解できずポカンとした表情。しかし事態は朱璃が思うほど生易しいものでは無かった。

 

 「……やれ」

 

 つぶやくように放たれた言葉と共に、無数の短刀が飛来する。月明かりに照らされ鈍色の光を反射するそれは、母娘に向かい突き進む。

 

「朱乃っ!!」

 

 朱璃はすんでの所で反応し、朱乃と飛来する短刀の間に身を滑り込ませる。そして朱璃の体に2本の短刀が突き刺さる。

 

「ふん、肩口と脇腹の2箇所。致命傷は免れおったか。」

 

  残念そうに吐き捨てる虚無僧。事実、朱璃の左肩と右脇腹には短刀の刃が半ばまで突き刺さっていた。

 

「くっ……!」

 

 朱璃は苦悶の表情を浮かべ、その場で片膝をつく。

 

「え……?母さま?」

 

 突然の母の行動、その後の何かを押し殺すような声。それを訝しんだ朱乃は朱璃の傍らへと歩み寄る。

 直後、朱乃の目に飛び込むのは母の体から滴る鮮やかなまでの赤。

 

「い、いやっ……いやぁぁぁっ!!」

 

 境内に絹を裂くような悲鳴が響き渡る。

 

 朱乃にとってたった一人の母。縁者たちにいくら蔑まれようと笑顔だけは絶やすことのなかった母が今、身を引き裂くような痛みに耐え、その顔に苦悶の表情を浮かべている。

 

 ささやかながらも幸せだった日常がもろくも崩れ去ったことを、目の前の現実が告げる。朱乃はその場に崩れ落ち、呻くことしかできない。

 

「ああ……母さま……なんで、こんな……。」

 

 震える手足、焦点の合わない瞳。誰の目から見ても朱乃は錯乱している。

 身を引き裂くような痛みに耐えつつも朱璃は。叱咤するように声を絞り出す。

 

 「朱乃……逃げなさいっ――!」

 

 絶叫。もしくは懇願ともとれる母の声に朱乃はハッと我を取り戻す。

 戸惑いつつも足に力を込めて立ち上がろうとするが――虚無僧によって遮られる。

 

「ここで死に別れるというのも辛かろう。案ぜずとも親子揃いで御霊をあの堕天使の生まれ故郷に送ってくれる。」

 

 仰々しくも、どこか軽蔑を孕んだ言葉。言うやいなや虚無僧たちはこちらへ向かってゆっくりと歩み出す。

 

 一歩、また一歩と彼我の距離が詰められていく。近づくごとに色濃なっていく殺気と威圧。

 母娘は共に足がすくみ、立ち上がる事は愚か声を上げることすらできない。湧き上がる恐怖は心だけでなく体をも蝕んでいく。

 

 ――あぁ……私、死んじゃうんだ。

 

 胸のうちでそう呟いた朱乃は、ならばいっそのこと――と、視線を地に伏せて今日一日ですっかり赤く腫れ上がってしまった瞼を閉じようとした。

 

 ――――その時。

 

 突如巻き上がる得体の知れないエネルギーの奔流。同時に朱乃の視界の視界に影が差した。

 

「……え?」

 

 驚きと僅かな期待。朱乃は一度は落とした視線を上にゆっくりと持ち上げる。

 

 目に映るのは赤のコートと神秘的な輝きを放つの銀の髪。こちらに背を向けていて尚、ただならぬ様相を呈する男が月明かりを遮るように立っていた。

 

 

 

 

 虚無僧に言われるがまま振り返ったダンテの目の前には、その場に崩れ落ちこちらを見上げる少女と、手傷を負い荒々しく息をする女性。少女の風貌はこの女性とよく似ている。

 

 ダンテは目線を合わせるためしゃがみこみ二人を見つめる。数瞬の間の後、先に口を開けたのは意外にも少女――朱乃だ。

 

「母さまが……母さまが大変なの――っ!」

 

 ダンテは母さまと呼ばれた女性に目を遣る。意識ははっきりしているようだが出血はかなりの量で、容態は芳しくない。あまり悠長にしている余裕はなさそうだ。

 朱乃に再び視線を戻したダンテは、彼に似合わない優しい声音で問いかける。

 

「これはあいつらがやったのか?」

 

「……うん。」

 

 朱乃は唇をかみしめ、悔しげに頷く。

 そこで今まで沈黙を保っていた女性――朱璃が口を開いた。

 

「朱乃を……娘を連れて逃げて! お願い、どうか娘だけは!」

 

 敵とも味方とも付かぬダンテに対して、朱璃は藁にも縋る想いで懇願する。

 

 その姿を前にしてダンテの胸に去来するのは在りし日の母の姿。家族の窮地に何もできなかった幼少の自分と悪魔に対する憎悪。あれから幾年も月日が流れたがダンテはその情景を忘れた事はない。

 

 しかし目の前の少女は違う。ダンテは力をつけ、なんの因果かこの見知らぬ母娘の前に降り立った。

 

 自分は救いになることができる。この少女に自分と同じ仄暗い過去を背負わせなくても済むのだ。

 

 ダンテは静かに決意を固め、そのための手段を模索する。再び数瞬の間の後、告げる。

 

「悪いが女一人おいて逃げられるほど腐っていないつもりだ。それに……育児の経験もさっぱりでね」

 

 だから、とダンテは続ける。

 

「ここは俺のやり方を通させてもらう。」

 

 

 その言葉から母娘はダンテが何をしようしているのか汲み取ることはできない。だがその瞳に宿る強い決意の色を前にすると何も声に出すことができず、彼女たちはただ黙して頷くことしかできなかった。

 

「ああ、そうだ。そっちの将来有望そうなお嬢ちゃんは目を閉じてな。」

 

「え?」

 

 朱乃は怪訝そうに首をかしげる。対するダンテは不敵な微笑を浮かべ、虚無僧たちに向き直りつつ告げた。

 

「ここから先はR指定だ。」

 

 不安や揺ぎなど微塵も感じさせない背中。対照的に夜風を受けて静かにたなびく赤いコート。その立ち姿は朱乃の心に鮮烈なまでの憧憬を抱かせた。

 

 

 

 

 虚無僧たちに向き直ったダンテはまず武装の確認をする。魔具は手元に無いが、彼の愛用する二挺の大型拳銃エボニー&アイボリーはしっかりと腰のホルスターに収まっている。元々、人間相手の闘争に首をつっこむ際には愛剣リベリオンを使うことすら珍しかったダンテだ。この双銃だけでも何ら不足はない。

 

 

 数瞬の間に一先ずの確認を終えたダンテは虚無僧たちに告げる。

 

「悪いが時間が無いんでね、手早く終わらせてもらうぜ」

 

「何だと?」

 

 この人数差を前にしてもまるで己の勝ちを疑わないダンテのセリフに虚無僧が怪訝そうに聞き返した。

 

 しかしダンテから応答はなく、その代わりとばかりに彼は右腕を真横に突き出す。その指先は軽く握りこまれた状態で。

 

 意図の読めない突然の行動に虚無僧たちは身構えるがもう遅い。彼がこの力を発動させるのに必要なのは『意思』のみだ。突き出した腕は気分を盛りたてるスイッチでしかない。詠唱すら必要の無いそこに虚無僧たちが介入する余地などなかった。

 

 「Keep still(じっとしてな)」

 

 ダンテの言葉と同時にパチンと音を立てて指が鳴らされた。瞬間、世界は彩りを失い、白と黒の二色――モノクロに染められる。

 

 今、彼が行使している力。それを彼は便宜上『クイックシルバー』と呼んでいる。この力は魔力と引き換えにダンテ以外のすべてを『遅滞』または『停滞』させる。その効果範囲は相対するものの動きのみに留まらず、その五感や思考、果ては重力から慣性までに効果を及ぼす。この世界ではいわばダンテのみが数十倍にも加速することになる。

 

 ダンテはホルスターからエボニー&アイボリーを引きぬくと、即座に発砲する。彼の庇護を受けた長大な双銃はこの力の支配下でも従来の性能通りのスピードで鉛玉を吐き出して行く。人智を超えたフルオートさながらの連射力で射出される銃弾は虚無僧たちの四肢、それも肘や膝といった関節を的確に打ち抜いていく。

 

 そうして銃弾は一発の漏れすらなく虚無僧たちを撃ちぬいた。しかし彼らは重力すらも遅滞させられたこの世界の影響下にあり、仰け反った状態で宙に浮いたままだ。

 

 ダンテはエボニー&アイボリーをホルスターに差し込む。あまりに一方的な戦闘に物足りなさを感じつつも再び呟いた。

 

「Time to up(時間切れだ)」

 

 すると世界に色が戻る。時が正常に回りだし、それと同時に慣性が働き出す。規格外の威力を持つ銃弾をその身に受けていた虚無僧たちは思い出したかのように石畳の向こうへと吹き飛ばされていく。これも『クイックシルバー』が生み出す風物詩だ。

 

 吹き飛ばされた虚無僧たちが誰一人として起き上がらないのを確認したダンテは朱乃たちへと向き直る。

 

「よし、もう目開けていいぜ、お嬢ちゃん」

 

「……あれ? あの人達は?」

 

 タンテの体が視界を遮っているため、朱乃からは虚無僧たちの姿が見えないらしい。しかし後ろの光景は文字通りのR指定だ。この年齢の少年少女には惨すぎる。

 

 とりあえずダンテは話を逸らすことにした。

 

「さぁな。それよりお母様の心配しなくていいのか?」

 

「あっ……母さま!!」

 

 やはり朱乃にとって虚無僧の事など母親への心配には勝らなかったようで、すぐさま朱璃へと駆け寄る。飛びつく朱乃の頭を何度も撫でながら朱璃は口を開く。額には玉のような汗を浮かべ息も荒いが表情は先程より柔らかい。

、 

 「ありがとうございます。なんてお礼をしたらいいのか……」

 

 「礼ならツケといてやる。それより手当てが先だ」

 

 「え、そんな……きゃっ!?」

 

 ダンテはこの期に及んで自身を顧みない朱璃にもどかしさを覚えるも、とりあえずの処置を施すため彼女を横抱きにしてヒョイと持ち上げる。その手つきは彼にしては珍しく壊れ物を扱うように丁寧だ。一方の朱璃はというと怪我も忘れて生娘のようにきゃあきゃあと喚いている。恋愛など数えるほどしか経験せず、ある日突然今の夫と駆け落ち同然で飛び出して今に至った彼女だ。夫以外の男性に対する免疫がないのも仕方ないのかもしれない。

 

 すると今まで二人を見上げるばかりだった朱乃は何か思いついた素振りで「取ってくる!」と言葉を残して神社へと一目散に駆け出した。きっと手当ての為の道具を取りに行ったのだろう。この年にしてはなかなか気の利く嬢ちゃんだとダンテは感心する。

 

 敵は無力化し終え、治療道具ももうじき届く。その安堵感と朱璃の初々しい反応も相まって場の空気が和らいでいく。

 

 しかし、ここに居る誰もがこれから手当てをするにあたっての重要なファクターを見落としていた。

 

 

「……さて、この俺がケガ人の手当てするなんて何十年ぶりだろうな?」

 

 朱璃の表情が僅かに引きつった。

 

 

◇ 

 

 

 その後、とりあえず神社の軒先に朱璃を横たえたダンテはタイミングよく治療道具を持ってきた朱乃と共に手当てを始めたのだが……作業は困難を極めた。

 

 ダンテの処置は以外にも的確だった。だったのだが、その工程でダンテの手が触れる度に朱璃が艶めかしい声を上げるのだ。その声の原因は痛みによるものかその他によるものかダンテには判断は付かない。ただその様子を訝しげに見ている朱乃の視線がダンテには辛かった。

 

 そんなこんなでやっとのこと治療を終えたダンテは軒先で一息つく。隣には失血と今日一日の疲れで眠っている朱璃、反対側には朱乃が座っている。朱乃はダンテを見上げつつ口を開く。

 

「なんで……助けてくれたの?」

 

「あぁ、なんでだろうな。なんとなくじゃダメか?」

 

「うん」

 

 ダンテが何故この母娘を助けたのか。その理由私怨、エゴにも等しい醜いものだ。できれば追求は避けたい。しかし、それではこの少女は納得しないだろう。ダンテは仕方なく苦笑しつつも答える。

 

「ガキの頃、母親を殺されたんだ。目の前でな」

 

「……え?」

 

「だから同じ境遇のお前らを放っておけなかった。それだけだ」

 

 母親を殺される。思えば自分も一歩間違えばそうなっていた、有りえたかもしれない未来。朱乃はそれを人事だとは思えなかった。しかしそれと同時になぜこの男はそれを些事のように言ってのけるのか不思議でもあった。

 

「なんで何でもなかったみたいに言えるの? 悲しくなかったの?」

 

「そりゃ悲しかったさ。だが、いつまでもそうしていられない。悪魔は泣かないもんさ」

 

 かつてダンテとそのパートナーが言った言葉、『悪魔は泣かない』。なんの気なしの思いつきのセリフだ。しかしその言葉はダンテが確かに人間の心を持ち合わせている事を強く裏付けてくれる。

 

 そんなこと知る由もない朱乃はまるでダンテ自身が悪魔であるかのようなセリフに対して怪訝そうに聞き返す。

 

「あなた、悪魔なの?」

 

「ああ。といっても半分だけだがな」

 

「私も悪魔になったら強くなれる?」

 

 悪魔の存在を疑いもせず、更には自らも悪魔になりたいと言い出す朱乃。こんなことに巻き込まれている手前、もしかしたらこの少女は悪魔の存在を認知しているのかもしれないとダンテは推測する。悪魔に魅入られ、破滅に追い込まれた人間を彼は幾人も見てきた。そのどれもが悲惨な末路をたどっている。それはこんないたいけな少女が迎えるべき結末ではない。

 

「さぁな。でもおすすめはしないぜ」

 

「なんで?」

 

 しかし馬鹿正直にそれを伝えるのも憚られる。悪魔に憧れた男は実の娘に脳天をブチ抜かれたなどと口が裂けても言えない。ダンテは面倒だがそれとなく朱乃をいなそうとする。

 

「なんでって、そりゃぁ――ッ!」

 

 彼が語りだそうとしたその瞬間、前方の境内から一筋の光線が飛来する。

 

 その光線の速度は凄まじく、明確な殺意が込められている。しかしそれは咄嗟にダンテが突き出した右手によっていとも容易く相殺された。

 

「なんだ、ご挨拶だな?」

 

 敵の第二波が来たのだと推測し、不敵な笑みと共に腰の双銃を抜き放とうとするダンテ。だがそれは朱乃の叫びによって中断を余儀なくされる。

 

「父さまっ!!」

 

 父様。そう叫ぶ朱乃の視線を追い、先程の攻撃が放たれたと思われる方向を見てみると……確かに居た。殺気をほとばらせた男が憮然とした表情でダンテを睨んでいる。父様と呼ばれたその男の顔の作りは朱乃とは似ても似つかない。むしろ正反対だ。いかにも武人といった風貌で、清純さなど微塵もない。

 

 父様じゃなくて軍曹殿の間違いじゃねぇのか? とダンテは内心毒づくが朱乃の様子を見るに間違いでは無いらしい。その男は無事な朱乃の様子を見て一瞬表情を和らげたが、すぐに引き締めるとダンテに視線を戻す。

 

「貴様っ! 悪魔か!?」

 

 ここでは初対面の人間は悪魔だと疑うのが普通らしいとダンテは結論付ける。本日二度目となったセリフに辟雍する。それに馬鹿正直に答えるのも悪手。唯でさえあの男は今にも飛び出さんばかりにこちら睨んているのだ。悪魔に恨みがあるのか知らないが、ここでイエスと答えればすかさず飛び掛ってくるだろう。

 

 とりあえずダンテの存在がこの場の緊迫を生み出しているのは確かだ。ならば早々に立ち去ろうと彼は行動に移す。

 

 「さて、邪魔しちゃ悪いし退散させてもらう」

 

 「ま、待て!!」

 

 言うなりダンテは林の中へ飛び去っていく。あまりの引き際の良さに父様と呼ばれた男性は唖然とし、引き止めようとするもダンテの疾走は止まらない。もとより林はかなりの密度で群生していたためダンテの姿はすぐに見えなくなり、気配もほとんど感じ取れないほどに遠のいていく。

 

 境内には親子3人が残された

 

 

 

 




最強のデビルハンターには巫女の血族が必要不可欠ということでこんな感じの第一話。
ダンテさんの死因がぼやかされているのは偏に私の実力不足が原因です。
まるで死ぬところが想像できない……。



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