半人半魔のデビルハンター   作:ピーターソン

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斜陽と堕天使

便利屋『Devil May Cry』、その店内でダンテは今日もデスクに足を放り投げて寛いでいた。まるで清掃がなっていない室内を気にもせずに彼は雑誌を読み進めている。

 

 すると、ジリリリとけたたましい音を上げて机上に備え付けられた電話が鳴る。

 

 2コールほどそれが鳴った後にダンテは今まで読んでいた雑誌をパタンと閉じ、次いでおもむろにデスクを蹴りつける。その衝撃を受けた受話器はたまらんとばかりに宙に飛び上がった。ダンテはクルクルと回りながら飛翔するそれを掴み取る

 

「デビルメイクライ……あぁ黒歌か」

 

 第一声こそはよそ行きの口調で取り繕ったダンテだが、電話の相手が誰だか分かると途端に砕けた語調に変化した。他人の無駄話を好まない性質の彼は、すぐさま本題を聞き出す。

 

「それで、今日はどんな耳寄りな情報を仕入れたんだ?」

 

 せっかちな催促に電話口の相手は不機嫌になりつつも、これも毎度の事のようで努めて冷静に報告を進めていく。

 

「……へぇ、確かにそいつは怪しいな。分かった。こっちでも調べておく」

 

 やりとりを終えたダンテは乱雑に受話器を放り投げる。ガチャッと元あった場所へ見事に納まったそれを眺めながらダンテはハァとため息をついた。

 

「堕天使ご一行様が招待状も無しに敵地を散策か……いいご身分だ」

 

 ダンテは心底面倒そうに吐き捨てた。酷く気落ちした様子の彼だが、そこでふと堕天使という種族の特徴を思い出す。

 

「そういえば堕天使の女ってのは、美人揃いだって聞いたな……いいね、やる気出てきた」

 

 ダンテのモチベーションがV字を描いて再上昇する。景気づけにデスクをドンと叩くとコートを翻し、活き活きとした足取りで玄関ドアに歩みだした。

 

 人間だろうと悪魔であろうと男の気分を盛りたてるモノはきっと同じに違いない。

 

 

 ◇

 

 

「死んでくれないかな?」

 

 夕暮れ時の公園。駒王学園2年生変態3人組が一人、兵藤一誠はその一言に困惑した。言葉を放ったのは目の前の美少女、天野夕麻だ。一誠は彼女と出会ってから日が浅いが、だからこそ彼女とのやりとりは全て鮮明に記憶している。今日のデートだって完璧とは言えないが、怒らせるようなことをした覚えは微塵もない。

 

 きっと聞き間違いに違いない。そう思考を区切った一誠は訊き返した。だが、

 

「死んでくれないかな」

 

 彼女ははっきりと言った。笑いながら。聞き間違いでは無いなら彼女なりの冗談なのかも知れない。むしろそうであって欲しい。懇願にも似た想いで一誠は次の句を述べようとした、その瞬間。

 

 バッと彼女の背中から黒い翼が生えた。天使の羽ともカラスの濡羽とも例えられるそれは彼女の容姿と相まって幻想的な雰囲気を醸し出す。

 

 突然の出来事に目を剥く一誠をよそに彼女は告げた。

 

「初々しいデートをありがとう、一誠くん。ままごとあそびみたいで微笑ましかったわ」

 

 彼女の声は冷たい。そして口元には冷笑。

 

 するとドンッと鈍い音がする。と同時に腹に何か触れたような感触がした。一誠が腹部を見下ろすとそこには光を槍状に収束させたような物体が己の腹を貫通していた。やがてその槍は霧散し、ぽっかりと穴の空いたそこからおびただしい量の血液が噴きだしていく。

 

「私たちにとってあなたは邪魔なの。恨むならその身に『神器』を宿させた神を恨みなさい」

 

 一誠はその言葉を問いただすこともできずに崩れ落ちる。次第に意識が遠のき、死が近づいてくるのを実感する。

 

 一誠の思考に浮かぶのは父や母、友人たちの顔。自分が死んだと聞いたら彼らはどんな顔をするだろうか。そんな事を考える。

 

 そして今尚、流れていく自身の血を眺めていると唐突に浮かんでくるものがある。それはあの紅い髪をした美人。見かけるたびに鮮烈に目を引くあのストロベリーブロンド。どうせ死ぬならあんな美人の腕の中で死にたかった。

 

 そんな折、内心で独り言ちる一誠の耳が誰かの声を捉える。

 

「なんだこりゃ、痴情のもつれか?」

 

 この惨状を前にして、とぼけた調子で誰かが言った。余裕の溢れた声音に不思議と安心感を覚えてしまう。一誠の気が不意に緩む、――と同時に彼の意識はそこで途絶えた。

 

 

 ◇

 

 

「なんだこりゃ、痴情のもつれか?」

 

 兵藤一誠を始末し終え、その場を後にしようとしていた天野夕麻――堕天使レイナーレの背後から声が掛かる。咄嗟に振り向いたレイナーレの目に映るのは赤いコートに銀髪の男。背には自身の身長程もある禍々しい大剣を背負っている。異様な風貌と鷹のような眼光は一般人の持つソレとは遠くかけ離れていた。

 

「あなた、もしかしてずっと見ていたの?」

 

「そんな悪趣味じゃない。それともそういう男がお好みなのか?」

 

 威圧したつもりのレイナーレだが男――ダンテはどこ吹く風とばかりに軽口を叩く。しかし口調とは打って変わってその顔は凍えるような無表情。そして瞳には燃え盛るような怒りが見て取れる。まるで一貫性の無いチグハグな有り様にレイナーレは歪さを感じ、逆に気圧されそうになる。

 

 しかし、この現場を目撃された以上生きて返す訳にはいかない。危険分子となりうる者は見境なく始末せねばならない。レイナーレはコクリと喉を鳴らした後、己を鼓舞するように叫ぶ。

 

「まぁどちらでもいいわ……死んでちょうだいッ!!」

 

「そうこなくちゃな!」

 

 レイナーレは再び右手に光の槍を顕現させ、ダンテは背のリベリオンの持ち手に手をかける。互いの視線がガチリと噛み合い、まったく同じタイミングで地を蹴り出そうした――がその時、眩い紅い光が辺りを包み込んだ。

 

「あ?」

 

「なッ!?」

 

 両者は足を止め、辺りに漂う光に注意を向ける。拡散していた光はやがて一誠の傍らに集結し、その地面に丸い刻印のような物を浮かび上がらせた。それはグレモリーの転移魔方陣。つまりリアス・グレモリーかその眷属が今ここに転移しようとしている。

 

「これは……事情が変わったわ、また会いましょうコートの素敵なお兄さん?」

 

 至高の堕天使が悪魔相手に負けるとは思わないが、ここで手傷を負えば後々に支障を来すのは必定。そう考えてレイナーレは飛び去っていく。それに口ではああ言ったもののレイナーレはダンテの力量を測りかねていた。出来ることなら再会は御免被りたいのが本音だ。

 

 第一、勝負の勝ち負けとはそれぞれの気持ち次第でどうとも取れる。勝敗を決定づけるのは実力の優劣ではなく気分の優劣だ。夕焼けの太陽をバックに黒い羽が舞い散る光景はきっとあの男に感銘と屈辱を与えるだろう。今回は私の勝ち、そうして無理やり優越感に浸るレイナーレ。慢心からなのか背後に気を遣る素振りすら見せない。故に彼女は背後から迫る凶弾に気づかなかった。

 

 「え? きゃあッ!?」」

 

 直後、レイナーレの翼を何かが貫いた。それに付随するように吹き荒んだ強風が彼女の背を強く押す。急いで体勢を立てなおそうとするも、自身の翼は腱が切れたかのように言う事を聞かない。

 

 何が起きたのか理解もできぬまま、レイナーレは迫るアスファルトを見つめることしかできなかった。

 

 

 ◇

 

 

 遠方で為す術も無く墜落していく堕天使。それをダンテは満足気に眺めていた。

 

「一石一鳥ってとこか」

 

 呟くと同時、エボニーを腰のホルスターに収める。逃げ出す女性を前にして追いかけないというのは相手に恥をかかせる事に繋がる。つまり先程の追撃はダンテからの粋な計らいだった――生憎、追いかける役目を担ったのはダンテではなく鉛玉だったのだが。

 そして本来ならこの後お迎えに上がるのが紳士としてのセオリーなのかもしれないが、ダンテとしてはあの少年の方が気がかりだった。

 

 そう、あの坊やだ。ふと思い出したダンテは少年の方へと視線を向ける。すると、相変わらず地に伏せたままの少年、しかしその傍らにはいつの間にか紅髪の美女が立っていた。北欧系の顔立ちと欧米の成人女性の平均を大きく逸脱した抜群のスタイル。それに負けじと目を引くストロベリーブロンドはどうやら地毛らしく、彼女の高貴さを一層引き立てている。が、しかしながら見にまとっているのはハイスクールの制服だ。大人びた彼女の雰囲気とは真っ向から相違する服装にダンテは微笑ましい気持ちになる。

 

 ほっこりと微笑むダンテとは対照的にその美女は整った容姿も引っ込む程の眼光でこちらを睨みつけている。この敵意の篭もった眼差しには見覚えがある。これはまた面倒なことなりそうだ。ダンテがそう苦笑うと、美女が問いただした。

 

「この子はあなたが殺したのかしら?」

 

 疑われているというよりは、そうと断じているような語調。ここまで徹底されると、ダンテの反骨心が刺激される。

 

「だったらどうする?」

 

 ダンテの言葉と同時、紅髪の美女は右の手の平に魔力を籠めてこちらに突き出す。対するダンテもエボニー&アイボリーを構えた。

 

 そして数瞬の間の膠着の後、美女はふっと破顔すると魔力を霧散させた。

 

「わかってるわ。堕天使の仕業でしょ?」

 

 どうやら今のは彼女なりのジョークらしい。迫真すぎる演技にさすがのダンテも身構えてしまった。一般人からしたら寿命が縮むような所業だが、むしろダンテは気を良くする。ヤバい女は嫌いじゃないのだ。

 

「ご明察だ。それよりそっちの坊やは気にしなくていいのか? 堕天使に狙われるくらいには厄介なモノ宿しているみたいだぜ」

 

「……そのようね、ご忠告痛み入るわ」

 

 地に伏せた一誠に目をやり、幾らか逡巡した美女は答えた。この少年から『神器』の脈動を感じ取ったのかもしれない。堕天使が危険因子と認識するほどの『神器』を悪魔である(・・・・・)彼女がみすみす見逃すはずもない。次会う時には人間ではなくなっているかもしれないが、それに伴う苦悩も生きていてこそのものだ。少年には悪いがそれで勘弁してもらおう。

 

 ダンテは少考の後、一応のヒント(・・・)だけは足元にそっと残し、くるりと踵を返すと公園の出口へと向かっていく。

 

「それじゃ、俺は帰らせてもらうぜ。ここのところ物騒みたいだしな」

 

 肩越しで視界に映る紅髪の美女は無責任に立ち去るダンテを咎めるような表情をしているが、ダンテは気にもとめない。

 

 もとより悪魔が徘徊しているようなこの町だ。それを知る者からすれば、物騒など失笑を買うかもしれない。

 

 この駒王町は人と悪魔が入り乱れた歪な環境。しかもデビルハンターたるダンテはこの町に腰をすえている。職務怠慢もいいところだが、しかしダンテはこの町の悪魔を狩る気にはなれなかった。この町に生きる悪魔はギブアンドテイクの関係で人間と共存している。人間が欲し、悪魔が与え、人間もまた与える。それはダンテが生きた世界では成しえなかった人間と悪魔の共存の在り方だ。時折眩しくも感じるそれを、ダンテは嫌いじゃない。

 

 だがあの堕天使は人間との歩み寄りを嘲笑うように否定した。あれは己の都合で弱者を貶めることになんの感慨も抱かない輩だ。共存を、他者を慈しむことを捨てたその姿はダンテが生きた世界の『悪魔』と寸分違わず一致する。

 ならば今こそがデビルハンターたる己の本分を十全に果たす機会に違いない。

 

 確固たる決意の表れか、ダンテの歩みは力強い。

 その姿を前にして紅髪の美女はダンテを引き止めることができなかった。

 

 

 

 

 その晩、駒王学園の旧校舎の一室に、紅髪の美女――リアス・グレモリーは居た。その部屋では唯一の光源であるロウソクの火だけがゆらゆらと揺れている。温かみのある明かりの中でリアスは今日の出来事を思い返していた。

 

 リアスが呼び出しに応じた時、既に血の海に沈んでいた少年――兵藤一誠は『悪魔の駒』を用いた転生を行ったことで事なきを得た――まさか『兵士』の駒すべてを費やすことになるとは思わなかったが。しかしそれもいい。転生に駒を8個も消費したのだから一誠には強力な『神器』が宿っているのは間違いない。そう考えるとリアスの胸は途端に高揚してくる。あの赤い男は『厄介なもの』と形容していたが、リアスからすれば『大当たり』だ。

 

 が、そこでリアスの高揚は鳴りを潜める。そう、あの赤いコートの男だ。人の身では到底振り回せないような大剣を背負った銀髪の男。常に余裕を崩さない表情に、人を喰ったような態度。リアスは最初、あの男が一誠を殺したのだと本気で勘違いしていた。しかし足元に転がる堕天使の特徴である黒い羽を目にしたことで、寸前のところで思い止まった。あの男が堕天使である可能性もあったが、リアスそれを瞬時に却下した。身に宿しているであろう膨大な魔力から、光の力を微塵も感じられなかったからだ。3大勢力で当てはめるなら悪魔が一番しっくりくる。リアスはそう考えていた。

 

 しかしリアスが一番に懸念しているのはそこではない。あの男がここ駒王町に住んでいること、それがリアスの頭を悩ませている。

 

 あの男が立ち去った後、その場所には紙片が落ちていたのだ。名刺のような材質のそれには電話番号が記されていた。これは連絡を寄越せということだろうか。リアスには判断が付かなかった。

 なので仕方なしに部室に持ち帰った後ぼんやりとその数字を眺めていると、その数字の中4ケタに既視感を覚え始める。そしてリアスはハッと気付いた。それは正しく駒王町の市内局番だということに。悪魔の管轄地である駒王町は、その特殊性から世帯数の兼ね合いを無視して市内局番を町1つで独占している。つまりあの男は駒王町に在住、もしくは滞在しているのだ。

 

 あんな得体の知れない悪魔が己の預かり知れぬところでこの管轄地に滞在している。それはリアスの頭を悩ませるに充分な事実だった。ミスリードという可能性も多分にあるが悪い予感とは大抵当たるもの。一度予感してしまうとなかなかその焦燥を晴らすことはできない。

 

 その時、頭を抱えるリアスに何者かがティーカップを差し出す。ふと見上げればそこに居るのはリアスの『女王』、姫島朱乃だった。烏の濡羽とも例えられる流麗な黒髪と大和撫子を体現したかのような柔和な笑みを浮かべている。彼女はリアスと共に駒王学園生徒の人気を二分する『二大お姉様』として言わずと知れた存在でもある。

 

「どうかなされたんですの、部長?」

 

 きょう一日でやたらと老けこんだように見えるリアスを心配してか、朱乃は声をかけてくる。彼女の気遣いは本当にありがたいのだが、リアスは歯切れの悪い返答しかできない。

 

「えぇ、ちょっとね」

 

「水くさいですわ。話せば楽になる事だってありますのよ?」

 

 思わず全てをさらけ出したくなるような甘い声音。それに加えて母性すら感じさせるこの包容力だ。これこそが彼女の人気の要因の1つなのだろうとリアスは密かに結論づける。

 

 そんな朱乃の魅力に絆されたのか、リアスはポツリと切り出した。

 

「ねぇ朱乃?」

 

「はい」

 

「あなた、町で派手な赤いコートに銀髪で身長190cmくらいの男を見かけ――って、どうしたの朱乃?」

 

 リアスはダメもとで件の男を見かけたことがないか尋ねようとしたのだが……朱乃の様子がおかしい。顔は驚愕に見開かれ、体は感動に打ち震えるようにプルプルと揺れている。そこそこ付き合いが長いリアスでも朱乃のこんな表情を見たことがない。

 

 この姿を眺めているのもいいがしかし、このままでは埒が明かない。リアスは朱乃を正気に戻すためその肩を叩こうとする――が、逆に物凄い勢いで肩を掴まれる。

 

「その男性とどこで知り合いましたの!? まさか町で見かけて手を出したなんて言いませんわよね!? もしそうならリアスであっても容赦しませんわ!!」

 

「えぇっ!? ちょっ、朱乃!? 落ち着いて!! ツメが食い込んでるからぁっ!!」

 

 朱乃は普段の優雅さなどかなぐり捨ててリアスをブンブンと揺すった。矢継ぎ早に飛び出す質問にリアスは応対しきれない。比喩でなく悪魔も泣き出す形相の朱乃に、半泣きで懇願するリアス。まるで主従が体をなしていない。

 

 そんな状況が幾分か続いた後、リアスの決死の想いが届いたのか朱乃が正気を取り戻す。こほんとワザとらしい咳をしてから仕切り直した朱乃は、打って変わって澄ました顔を繕った。

 

「それで、その男性とはどこでお会いになられましたの?」

 

 どうやら朱乃の中ではさっきまでのひどい狼狽ぶりはさっぱり無かったことになっているらしい。リアスは自身の『女王』はこんなにも面の皮が厚い女だったかと己の目を疑う。

 

 しかしここで突っかかってさっきのアレをまたやられたら堪らない。リアスは渋々ながらも答える。

 

「イッセーに呼び出されたときにたまたま居合わせたのよ。堕天使を追い払ってくれたみたいね。彼、どうやら駒王町に住んでるみたいよ」

 

「そうですか……」

 

 リアスの言葉の後、途端に朱乃の表情が綻んだ。実際どうなのか分からないがリアスにはそれが恋する乙女の表情に思えてならない。怪訝に思った彼女は思わず尋ねてしまう。

 

「あなた、あの赤いコートの男と知り合いなの?」

 

「いえ、そういう訳では……」

 

 頬に手を当ててイヤイヤと身をひねる朱乃。まるで女子同士での語りの場で意中の男子との交際を疑われたかのような反応だ。いつもは大人びた雰囲気の彼女だが意外にも年相応な一面を持っているようで、リアスとしても微笑ましい気分になってくる。

 

 しかし今回は相手が相手だ。あんな底意地の悪そうな男に引っかかって人生を棒に振るようでは目も当てられない。朱乃はリアスにとって『女王』である前に親友なのだ。その責務を果たすためリアスは親友へ真っ向から立ち向かう。

 

「朱乃、目を覚ましなさい。あの男、絶対に女癖がわる――ィッ!?」

 

 リアスは言葉を言い終えることができなかった。否、般若のような形相をした朱乃がそれをさせなかったのだ。

 

 さっきまでの花も綻ぶような甘い様相はさっぱりと消え失せ、全身で憤怒を顕わにする朱乃。彼女の全身にはまるで瘴気のように魔力が漂っている。

 

 それに気圧されたリアスはピクピクと引きつった笑みを浮かべることしかできない。

 

 朱乃はゆっくりと口を開いた。

 

「リアス、今なんと言いました?」

 

「えっ? えぇ、あっその……」

 

 瘴気にあてられてまともに呂律の回らないリアス。先程から膝が盛大に笑っている。もちろんそれは疲労から来るものではなく、目の前の恐怖がもたらしたものだ。

 

「女癖が悪いと仰っしゃいましたね?」

 

「……はい」

 

 実際には言い終わる前に目の前の女に遮られたのだが、それを指摘できるほどリアスは肝が据わっていない。ただ頷くことしかできなかった。

 

「いくらリアスといえどもその発言は看過できませんわ。二度と私の前でそんな事仰っしゃらないでもらえませんか?」

 

「あの、その……はい、ごめんなさい」

 

 暗に謝罪を要求する朱乃。リアスとしては色々と言いたいことはあったのだが、あまりの剣幕に謝罪せざるを得なかった。『王』の面目は丸潰れだ。しかしメンツと引換に朱乃も気を落ち着かせる。

 

「そう、ならいいんですわ」

 

 朱乃はリアスの謝罪を聞くやいなや、あっさりと機嫌を良くした。次いでくるりと踵を返すと鼻歌でも歌い出しそうなほど軽々とした足取りで部室を後にする。リアスの目にはその姿が奇しくもあの男と重なるように見えた。

 

「なんなのよ、もう……本当にツイてないわ……」

 

 斜陽企業の中年管理職さながらの哀愁を放つリアス。

 

 あの男の連絡先は朱乃だけには絶対に渡さない。せめてもの仕返しに、リアスは強く心に誓った。

 

 

 





バトルはお預けになりました。
そして最後シリアス展開の筈が何故かギャグ展開に。

次回、再会編を予定しています。

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