半人半魔のデビルハンター   作:ピーターソン

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憧憬と再会

 時刻は真夜中。ダンテは人通りも疎らな夜道を気の抜けた表情で歩いていた。

 暖色の街灯がうらぶれた街をささやかながらに照らし、冷えた夜風がダンテの頬を撫でるように流れていく。その感触がなんとも心地良く、彼の眠気を誘う。閉じかけた瞼に活をいれるため、あくびを噛み殺しつつグッと目を瞑る。

 

 その最中、ダンテは左肩に違和感を覚えた。ともすれば見落としてしまいそうな程に些細な物だ。怪訝に思ったダンテは瞼を持ち上げた後、左肩へと目をやる。

 

 ダンテの左肩、そこにあるのは一匹のコウモリだった。しかしそのコウモリは一般的に言われるソレよりも一回り大きく、鉤爪や牙などに至っては人ひとり容易に噛みちぎれてしまいそうなほどに発達していた。少なくとも人が住むような場所に分布している類の種ではない。

 

 そんな猛禽が肩に留まっている。傍から見れば危機的状況にあるのは間違いない。だがダンテはソレを振り払う素振りも見せずにただじっと見つめる。シュールともとれる状況が幾分か続いた後、先にアクションを起こしたのはコウモリのほうだった。

 

「……っ!」

 

 コウモリはついと羽を広げたかと思うと突如、発光した。街灯の弱々しい灯りなど置き去りにしてしまうほどの光量にダンテは目を細める。が、しかしそれもすぐに納まったようでダンテは再び目を開けた。

 

「なるほど、粋な真似するじゃねぇか」

 

 するとそのコウモリは依然肩に留まっていた。ただその様相は大きく変わっている。そいつは全身に紫電を纏っているのだ。紫色に発光するコウモリなどガラパゴス諸島にだって生息していないだろう。むしろ生き物の範疇を越えている。

 しかしそれはダンテにとって大して珍しい物ではないらしい。その証拠に十年来の友人を相手取るように目を遣って笑っている。やがてコウモリは背伸びするようにダンテの耳元へと近寄り、その口をガバっと開いた。噛み付く訳でもなく片方の羽を耳に寄せる姿はダンテに耳打ちでもしているかのようにも見える。いや、事実そうなのかも知れない。現にダンテは未だバチバチと紫電をスパークさせているコウモリ相手に「ふん」だの「ほう」だのと相槌を打っている。

 

 ジェスチャーとは裏腹に物言わぬコウモリとそれに相づちを打つダンテ。奇妙な光景はその後幾許か続き、やっとひとしきり終えたダンテは満足気な表情で呟いた。

 

「こいつは朗報だ」

 

 

 

 

 時間は深夜、悪魔の時間。周囲には草木が生い茂り、遠目には廃屋が見える。

 そんなまともな人間なら寄りも付かないであろう場所を平然と歩く集団が居た。グレモリー眷属だ。目的は大公からの依頼を果たすため。その依頼内容ははぐれ悪魔の討伐、町はずれの廃屋に住み着いたはぐれ悪魔を駆逐せよ、とのことだ。

 

 次第に廃屋へと近づいていくと辺りはさらに不気味さを増し、鼻にこびりつくような臭気が漂ってくる。

 

「……血の匂い」

 

 『戦車』塔城小猫は呟くと同時に制服の袖でそっと鼻を覆った。その言葉に反応してか、先日新たに眷属入りした兵藤一誠は辺りを見回した。するとこういった経験の浅い彼でも認識出来るほどの殺意と敵意が周囲を充満していることに気付く。堪らず彼は足を竦ませ、傍らの主に不安げな視線を向ける。

 一誠の視線の先、リアス・グレモリーは物怖じなど微塵もせず、堂々と腰に手を当てて立っていた。

 

「イッセー、いい機会だから悪魔としての戦いを経験しなさい」

 

 リアスとしては最初からそのつもりで、あらかじめ決めておいた事項でもあった。

 対する一誠は途端に慌てた素振りを見せる。

 

「え、マジっすか!? お、俺、戦力にならないっすよ!?」

 

「そうね。それはまだ無理よ」

 

 分かっていたこととはいえ、改めて他人から言われるとつらいモノがあるのか、一誠はガックリと方を落とす。しかしリアスは一誠を無能と謗りたい訳ではなかった。

 

「でも、悪魔の戦闘を見ることができるわ。今日は私たちの戦闘をよく見ておきなさい。そうね、ついでに下僕の特性を説明してあげるわ」

 

 一誠はつい先日まで悪魔どころか人外や異能の存在すら知らなかった。生死を分ける場面など()()()()()()()()居合わせたことがない。そんな彼に戦いを強制させるなど酷というものだ。だから戦闘には参加せずとも、得られるものはある。リアスはそう言いたかった。

 直接の戦闘は無いと聞き一誠は目に見えて安堵するも、耳慣れぬ言葉に戸惑ったようだった。

 

「下僕の特性? 説明?」

 

「いい、イッセー? 下僕となる悪魔にはそれぞれ特性が割り当てられるの――」

 

 リアスは手間のかかる弟を慈しむように微笑むと、説明を始めた。

 その内容は悪魔の過去と現況、そして『悪魔の駒』というシステムについて。どれもこれも一誠にとっては初めて聞く事柄であるため、真剣に講義を賜っている。敵の棲家を前にして悠々と話に耽っていられるのは自信の現れなのだろうか、『騎士』の木場祐斗や『戦車』の塔城小猫もその話に耳を傾け、時には補足を加えていく。

 

 しかし『女王』姫島朱乃はその輪から外れ、ひたすら己の内に意識を潜らせていた。

 

 彼女の胸中を占めるのはあの赤い男。自分たち親子の窮地を赤子の手を捻るが如く打破した男の事だった。

 先日リアスの言葉を聞いた時、朱乃はまさかと思った。赤いコートに銀髪、見上げるような体躯。それだけであの男だと判断するには弱いかもしれない。しかしあの時は心が波立ち騒ぐのを抑えられなかった。それほどまでに朱乃は彼との再会を渇望していたのだ。

 

 朱乃は数年前のあの夜目にした光景を今でもはっきりと憶えている。

 世界が終わったとしてもあの男だけは余裕を湛えた笑みを絶やさず飄々と荒野を歩いているのではないか、そう思わせたあの背中。朱乃はその背中にどうしようもなく憧れた。そして反面、母の窮地を前にしてただ震えることしかできなかった自分が酷く惨めに思えた。

 力がなければ『大切』も『特別』も、果ては己の身すらも守れない。朱乃は幼いながらに世の無常さを思い知らされたのだ。

 

 それから朱乃はひたすら強さを追い求めた。あの男のような、どんな大事も些事とばかりに笑って流せる圧倒的な力を。

 そのためならば身に宿る血――堕天使の力を使うことも厭わなかった。居て欲しい時に居てくれなかった父、大層な肩書きを持ちながら妻子ひとつ守れない情けない人。そうやって忌み嫌う父の血すらも彼女は己の糧とした。

 

 そして朱乃は一歩でもあの男に近づけるなら、そう思って悪魔にもなった。あの男が属する悪魔という種。その高みに登りつめたなら、きっとあの男と再び見える事ができる。そう自身に言い聞かせて研鑽を積んできた。今もまだ飽く無き力への探求は終わることを知らない。

 

 しかし今、朱乃の目標へと至る道半ばとも言える現在、あの男と見えるチャンスが巡ってきた。その事実は朱乃の胸をこれ以上無く掻き立てる。中途半端な自分を、悪魔でも堕天使でもない自分を、結局中途半端な力しか得られなかった自分をあの男はどう思うだろうか――。

 

 内心に深く埋没していた朱乃はそこで思考をやめた。辺りに漂う魔の気配が一層濃くなり始めたからだ。見れば、リアスやその眷属の面々は会話を止めていつの間にか目の前にまで迫っていた廃屋を睨むように見据えていた。まだこういった感覚に鈍い一誠さえもだ。

 朱乃は内心で迂闊な自身を叱咤し、周りと同じように警戒を強める。ざっと周りを見回した後にリアスが口を開いた。

 

「ここが討伐対象の隠れ家ね……行きましょう」

 

 リアスは言葉少なながらに明確な意思を示した。上級悪魔である彼女からすればこの程度、恐怖すら覚えないのかも知れない。リアスを先頭にグレモリー眷属は進み、朱乃も追従する。

 

 廃屋に足を踏み入れた途端、朱乃は顔を顰めた。先程までとは比べようもない位の血の臭気が辺りを充満していたからだ。少なくともこれは人間の血が出せるような臭気ではない。恐らくは悪魔の血だ。しかし人間を襲うはぐれ悪魔の棲家に何故悪魔の血が流れるのか。朱乃は疑問に思うも探索を続けていく。

 

 夜目が利くという悪魔の特徴を活かして注意深く探索していく。するとソレは見つかった。朱乃の前方に赤黒い物体が横たわっている。確認するため歩を進めるとやがてその正体が明らかになっていく。

 

 横たわる物体、血臭の正体、それはやはり悪魔だった。そして目の前のソレは悪魔の中でもとりわけ特異な肉体を持っている。屈強な4本の足と多数の蛇のような尾を持った異形の種だ。普段ならその身を遺憾なく振り回して人間を襲い回っていたのだろうが、ソレは既に事切れていた。上半身には深々と袈裟状の裂傷が走っており、そこから脈々と血を滴らせている。恐らく殺害から時間はそう経っていない。

 

 朱乃の横に並び立っていたリアスは同じようにソレを見遣ると、若干ながらの狼狽を顔に漂わせた。

 

「これは……討伐対象のはぐれ悪魔バイサーね……でもなんで」

 

 死んでいるのか。そう続けようとした時、

 

「スクールメイトで仲良く肝試しか? 気持ちは分かるが感心しないぜ」

 

 この場に似つかわしくない軽薄な口調が廃屋に響いた。それはグレモリー眷属の誰のものにも当てはまらない。

 

 しかし朱乃はこの声に覚えがあった。数年の月日を経ても未だに鼓膜にこびりついている。

 

 万感の想いが溢れそうになる。朱乃は立所に振り向いた。そこに居たのは赤いコートと銀髪の男。朱乃はその姿に覚えがあった。瞼に焼き付いた形姿は自身が求める力の象徴でもあった。

 

「あ……あぁ……」

 

 朱乃の胸が早鐘を打つように踊る。あの夜と寸分違わぬ立ち姿、悪魔に身を堕とす程にまで焦がれ続けたその姿。それが今、目の前に居る。

 

 朱乃はもう居ても立っても居られなかった。勢い良く地を蹴ると脇目もふらず男の方へと駆け、その胸へ飛び込んだ。

 

「……おっと」

 

 男は困ったような表情をしながらも、些かスピードが乗りすぎたソレを優しく受け止めてくれた。多くを受け止めてきたであろう胸郭の広い厚い胸はなにより頼もしく、さり気に回された腕は無骨ながらも心地いい。

 

 朱乃は自身の心が水を吸う海綿の如く豊かに潤っていくのを感じた。肩の力は抜け、体は床の上に溶け落ちそうな程。再会した暁に言おうと考えていた言葉など霞のように消え去り、ただただ涙が頬を伝って流れていく。

 そして滲む視界に追憶する。気づけばあの日から一度足りとも涙を流したことが無かった。それはひたすらに力を追い求めていたからか、ただそう在ろうとしていたからかは定かではない。しかし今涙を流していることだけは確かだ。

 

 朱乃は男の胸からほんの少し離れ、ついと顔を上げた。そこには依然、困惑顔。自然と言葉が口走った。

 

「悪魔は泣かないだなんて……ひどい嘘」

 

 あのとき男は言っていた、悪魔は泣かないと。しかし現に泣いている悪魔がここに居る。ならばあの言葉は大嘘だ。そんな意味を内包した憎まれ口が咄嗟に口を衝いた。再会を彩る冗句としては冴えが足りないかも知れない。しかしこの男がどう返すのか、朱乃はそれが楽しみでもあった。

 

 しばらくは困惑した表情を浮かべていた男だが、その言葉を聞いた途端、朱乃の容貌をまじまじと見つめ始める。すると納得気に頷いた後に懐かしさに浸るような笑みを浮かべて言う。

 

「まぁ……そんな悪魔もアリじゃないか?」

 

 返ってきたのは投げやりにも思える科白。柔軟が過ぎる物の見方に朱乃も思わず笑んでしまう。でもそれだからこそ、きっとこの男は自分の荒んだ種姓すら許容してくれる。そう朱乃は確信した。

 

 

 

 

 突発的に起こった再会劇を前に、グレモリー眷属はただただ困惑した。それは赤いコートの男の威容に目を奪われたからだとか、普段の朱乃からは思いも寄らない行動に目を剥いたからだとか理由は様々だ。

 しかしこのままという訳にもいかない。積もる話もあるだろうが、死体の転がる廃屋ではきまりも悪い。リアスの判断で、一同はオカルト研究部の部室に場所を移した。

 

 テーブルを挟んで二点あるソファーの片方にダンテがどっかりと座り、隣には朱乃が花も綻ぶほどの笑みを浮かべて座っている。そして対面のソファーにはリアス。その後ろで他の眷属たちが控える。ダンテの側は弛緩しきった空気なのに対し、リアスサイドは差はあれど警戒の色が伺えるのが対照的だ。

 

 テーブルに置かれた紅茶を一飲みしたリアスは、憮然とした表情で切り出した。

 

「……で、あなたはあそこで何をしていたの?」

 

 一誠が襲われた公園と、先程の廃屋。リアスがダンテを目撃したのはこの二回。そのどちらも人外が関わっている。この町を取り仕切る彼女としては聞いておかねばならない問題だった。

 

「おいおい待ってくれ。自己紹介が先、だろ?」

 

「………ええ、そうね」

 

 リアスは苛立つ。言ってることは最もなのだが、ここに来ても余裕を崩さない丹力が気に障るのだ。そのフラストレーションは膝の上で握られた拳に如実に表れている。後ろで控える一誠など戦々恐々とした表情を浮かべている。

 しかしここで爆発すればやつの思う壺。そう自身に言い聞かせたリアスは深呼吸を繰り返した。

 

「……私はリアス・グレモリー。この町の管轄者よ」

 

 堂々と名乗ったリアスは次に背後の眷属たちへ視線を促す。ソレに頷いた眷属たちは各々の名を名乗っていく。

 

「グレモリー眷属の木場祐斗です」

 

「……塔城小猫」

 

「えっと、兵藤一誠です」

 

 それぞれの個性を言葉と表情に乗せてグレモリー眷属は名乗っていくが、一誠の顔を見た途端、ダンテが口を開いた。

 

「へぇ、あの時の坊やじゃねぇか。元気か?」

 

 一誠は顔の知らない親戚を相手取るように困惑している。ダンテはリアスをチラと見遣る。

 

「なんだ、説明してないのか?」

 

「イッセー、あなたが堕天使に殺された時に居合わせていたのが彼よ。前に説明したでしょ?」

 

 リアスは一誠が入部することになった際に、公園での出来事についても説明していた。しかし一誠はここ最近の悪魔稼業に追われてすっかり失念していたようだ。

 

「あ、そうでした! ……えぇと、その節はお世話になりました」

 

 一誠は経緯は定かではないが、彼が堕天使を追い払う素振りを見せていたとリアスから聞いている。故に礼を言ったのだが、ダンテはさらりと受け流す。

 

「気にすんなよ。行き過ぎた痴話喧嘩だと思って覗きに行っただけだ」

 

 ダンテは普段から褒められることなど滅多にしない。だから礼を言われると未だにこそばゆい気持ちになる。故に適当ににはぐらかす事にした。それに『堕天使』というワードが出てから途端に顔が曇り出した一誠を見ると話を広げる気にもならない。

 

 一誠が悪魔になった経緯を知る朱乃は、一誠の心情を汲んだ上で自己紹介を続行する。

 

「私はグレモリー眷属の『女王』姫島朱乃です。もう『お嬢ちゃん』じゃありませんわ」

 

「ああ。俺の生来有望って見立ては間違ってなかったな」

 

 朱乃はグレモリー眷属、ひいては悪魔になったことを強調する。彼女は結局のところダンテと同じ悪魔になれたことが嬉しいのかもしれない。対するダンテもそれを悪くは思っていない。

 あの夜ダンテが朱乃に言った『悪魔』とは自分の居た世界の悪魔の事であってこの世界の悪魔ではない。自身の意思で悪魔になったのならダンテは口を挟むつもりは無かった。

 

 このまま昔話にもつれ込もうといった矢先、リアスがこほんと咳払いをする。

 

「あなた達の関係も気になるけれどまずは自己紹介が先、でしょ?」

 

 思えばダンテの自己紹介がまだである。リアスの意趣返しにダンテは楽しげな笑みを浮かべた。こういった冗談を言い合える相手にここ最近出会ってないのだ。

 

 ダンテは居住まいを正す――背もたれに凭れた頭を立たせただけだが――と口上を述べる。

 

「俺はダンテ。この町でデビルハンターをやってる」

 

 デビルハンター、文字通り悪魔狩り。グレモリー眷属は眉をひそめる。自分たちを狩ることを生業としていると堂々と宣言しているのだ、心象は当然悪い。有無を言わさずダンテに飛びかからないだけまだマシなのかもしれない。

 

 しかしリアスはこのダンテという男が悪魔を狩る、その点に矛盾を覚えた。

 

「悪魔がデビルハンターを名乗るだなんてとんだお笑いね」

 

 悪魔が悪魔を狩る、それには大きく分けて二つのケースがある。1つははぐれ悪魔狩り。主人のもとを離れて邪智暴虐を尽くすはぐれ悪魔を狩る。もう1つは単なる私怨からくる殺生。しかしデビルハンターなどと銘打っている所から大方前者だろうとリアスは推測するが、斯くしてリアスの予想は当たる。

 

「それもそうだ。はぐれ悪魔を狩って生計を立ててるつった方が正しいのかもな」

 

 前の世界でダンテが悪魔を狩る理由としては、過去の悔恨が大きなウェイトを占めていた。しかし今は生計を立てる上で悪魔を狩っている。ただ金のためだけに、という訳でもないのは確かだが。

 

 ダンテの言葉でグレモリー眷属は胸をなで下ろした。特に朱乃の安堵のしようは半端ではない。ダンテの後を追って悪魔になった筈が、ダンテに狩られるなど救いようが無いのは確かだ。

 これでなぜ廃屋のバイサーが先んじて狩られていたのかは一応は説明がつく。自身の管轄地で無断ではぐれ悪魔を狩っている点についてはひとこと言いたい所だが、リアスはぐっと堪えた。

 

「それじゃあの公園に居合わせたのもその一環かしら?」

 

「まぁそんなところだな」

 

 悪魔狩りについてはさておき、公園の一件についてリアスは切り込んだ。ダンテの腹積もりがどうであれ、警告だけはして置かなければならない。

 

「ちなみに堕天使の件については手出し無用よ」

 

「へぇ、自分のお膝元で好き放題やらかしてるってのにか?」

 

 ダンテの言い分も確かに頷ける。事実、あの堕天使は一誠という被害者を生み出した。それ相応の報復を行いたいのはリアスとて同じだが、彼女はこの地の管轄者なのだ。時には理性で以て事を運ぶことが必要とされる。

 

「たしかに言いたいことはあるけれど、それ以上は外交問題に発展する恐れがあるの。そう簡単に手出しはできないわ。だからあなたも悪魔である以上、余計な事はしないでちょうだい」

 

 リアスは努めて真摯に警告した。

 現在三大勢力は表向きには冷戦状態にある。水面下での小競り合いは今も継続しているとはいえ、それらが大戦の引き金とならない保証は無い。リアスとしても無用な衝突は避けてこの一件を納めたい。

 

 対するダンテはというと、まるで気に留めた様子がなかった。リアスの言い分は人外同士の都合のために人間は犠牲になれと言っているのと同じだ。つまり今後もあの堕天使によって被害を受ける人間が出るかもしれない。それは彼にとって到底許容できることではなかった。

 若かりし頃ならリアスの警告など突っぱねて好き勝手暴れまわったかもしれないが、今のダンテは若くない。片手間で策を弄して最終的に我を通す程度の狡猾さを持ちあわせている。

 

「あぁ分かってる。『監視』するに留めとくさ」

 

「それは私たちの役目なんだけど……まぁいいわ。それとあなたがこの町ではぐれ悪魔を狩っている件、私は了承したつもりは無いから」

 

 ピシャリと言い放つリアスにダンテは苦笑する。ダンテははぐれ悪魔狩りについては有耶無耶のうちに流せたと思ったのだが、お嬢様のガードは予想以上に固かったようだ。

 

「こりゃ手厳しい。そこそこのお付き合いをさせてもらおうと思ってたんだが」

 

「だったら挨拶の1つでも寄越したらどうなの? あなた、『誠意』って言葉知ってる?」

 

 やはり無断で開業した件についてリアスは相当お冠のようだ。誠意という名の手みやげが無いと許可は降りないらしい。それも生半可な代物じゃ、きっと門前払いだろう。

 

 だがダンテにはリアスのご期待に添えるだけのネタがある。公園での一件の翌日に鹵獲した新鮮なネタが。

 

「『誠意』ならアテはあるぜ。乞うご期待だ」

 

 ダンテは絶対の自信をもって期待を煽る。ダンテの言う『誠意』とは前述の余計な手出しに繋がるのだが、そんな事リアスは知る由もない。

 

「そう、期待しておくわ。あなたは朱乃のお気に入りみたいだしね」

 

 つまり朱乃の顔に免じて『誠意』次第ではこの町でデビルハンター稼業を続けることもやぶさかでは無いと言うことだ。言質は取った。ダンテは胡散くさい笑みを尚更深める。

 

 対するリアスはさして期待などしていない様子だが、近日中にその顔は驚愕に見開かれることになる。

 

 

 

 

 




地味な展開で申し訳ない。お付き合い頂きありがとうございます。

ちなみに朱乃とダンテの昔語りは原作一巻終了後の閑話にて行う予定です。シークレットミッションということで。

次回、白髪神父との邂逅です。

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