心なき模倣系魔法生命体が人間を理解するまで   作:プリプリ胸筋

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曇らせも善処はしますがあんまりかも……あんまりだったらタグ消します。


解き放たれた異物

 

 王国の中心から遠く離れた小さな村。そこからさらに森に入り、隠すように入り口が茂みで覆われた洞窟。

 そんなまるで人気のない不気味な洞窟に今、三つの影があった。

 

「うーわ、これ見てくださいよラークさん。やっぱここ教団の拠点ですって」

 

 聖教会の証である十字架を逆さにした刻印を指差し不満げな顔を隠そうとせずそう言い放つのはボロ臭いマントに身を包んだ短い銀髪の女。その手にはナイフが握られており気の抜けた態度とは裏腹に周囲を警戒していた。

 

「やべェよ、まじやべェって。厄ネタじゃねェかこの依頼。どォすんだよ」

 

 愚痴のような警告にラークと呼ばれた燃えるような赤髪を無造作に後ろで結んだ長身痩躯の男が応える。口ではギャーギャー騒ぎつつもいつでも斬りかかれるように腰に佩いた刀を抜き、刀の峰で肩を叩く仕草をとっていた。

 

「静かにしろ……クリスタ、どうだ」

「……人の気配はないっぽいですね! でも人が通った痕跡が残ってるんで警戒するに越したことはないと思いますが」

 

 ラークよりも一回り背の高いスキンヘッドの大男の問いに銀髪の女──クリスタが少しホッとしたような息を漏らしながら答える。

 

「そうか……」

「じゃァ誰かが戻ってくる前にさっさと終わらせて帰ろォぜ。ニコラスが寂しくて泣いてっかもしんねぇからなァ」

 

 ラークは大男……と言っても引き締まった身体をしており、横幅はあまり太い訳ではないその男──ウォルターの肩にポンっと手を置き野生児のような軽快な笑みを浮かべながらそう言うと、ゆらゆらと馬の尾のような髪を揺らしながら洞窟の奥へと步を進め始め、連なるように二人も幾分か肩の力を抜きながらその後を追って行った。

 

 

 ♢♢♢♢♢♢

 

 

「だからわたしは言ったんですよ、ギルドを経由しない依頼は怪しいからやめといた方がいいって。なのにあのクソリーダーときたらやれ報酬が美味いだの、やれコレやらないと借金がやばいだのガタガタ抜かしてその結果がこれですよ! 金の亡者の末路を味あわされました!」

「だよなァ、最近あんまり小遣いもくれねェしよォ。ケチ臭せェんだよなアイツ」

 

 止まることのないリーダーへの悪口をBGMにウォルターは思考する。今回の依頼の内容は指定の日時に洞窟内部にある鈍色の流体物質及び洞窟そのものの破壊だった。このうち鈍色の流体物質の破壊を終え、今は洞窟の入り口に戻っているところだ。培養槽で緑色の液体に浸かっていた鈍色の流体物質は不気味ではあったが培養槽を壊すと水が蒸発するように自壊していったため容易に破壊できた……故に疑問が残る。何故一般人でも出来そうなことをわざわざ大金を積んでまで依頼してきたのか。

 そもそも今回の依頼はおかしいところだらけだ。教団……正確には聖人教団。聖教会と似通った名前のこの組織は聖教会とは真逆に人体実験やテロなど多くの犯罪行為に手を出している。犯罪あるところに聖人教団ありとまで言われるくらいだ。その多くは聖人教団の名を騙った子悪党だったりするのでこの洞窟に彫られた刻印もその類ではないかと疑っているが、もしそうならここまで執拗深く洞窟を隠すわけがない。子悪党どもはその大きすぎるネームバリューで自分たちを大きく見せたいだけなのだから。つまりこの洞窟は本当に教団のものであるということになるがそうなると新たな疑問が沸いてくる。何故教団の拠点を知っていたのか、そして何故教団員がいない時間帯を知っていたのか、だ。

 奴らは徹底的な秘密主義を貫いており、教団員ですら教団のことをあまり知らされていない。よって教団員は首魁や幹部を知らないどころか本拠地や他の拠点の場所まで知らず、仮に教団員を捕まえても全くその足取りは掴めない。そんな教団の拠点を知っており、その行動予定まで把握しているのはその拠点を利用している教団員か教団の首魁や幹部くらいだろう。しかしそいつらがその拠点の位置を教え、研究成果や拠点の破壊を依頼するとは思えない。

 

 頭がおかしくなりそうだ。もはや大金を積んでまで俺たちに嫌がらせしたかったという説が一番濃厚まである。

 

 堂々巡りになり馬鹿みたいな結論に行きつこうとしていると視界が一気に光で埋め尽くされる。どうやら考えている間にいつの間にか外に出ていたみたいだ。

 

「うおォー! 外だァー! クリスタ、やれェー!」

「はぁ……この爆弾割と高いんですけど」

 

 クリスタがため息を吐きながら入り口に子供の握り拳ほどの小さな爆弾に火を着け投げ入れる。数秒後にはそのサイズからは考えられないほどの爆炎か上がり、帰る途中に道中に置いてきた同系統の爆弾に引火しドンドンドンと連鎖的な爆発音が鳴り響く。

 やがて土煙が晴れると崩落し行き来が出来なくなった洞窟が姿を表した。

 

「……なんか思ったより普通だな。つまんね」

「はぁ! 何言ってんですか! あれ一個でケーキが五個は買えるくらいの爆弾なんですよ! つまり今わたしはケーキ二十五個を失ったんです! それで『なんか思ったより普通だな。つまんね』は酷いですよ!」

「テメェ今俺のことバカにしただろ」

「してませ〜ん。ラークさんそっくりでしたよ」

「叩っ斬るぞ」

「……はぁ、さっさと帰るぞ。ケーキなど幾らでも作ってやるから機嫌を直せ」

「おぉ〜流石ウォルターさん! そこの野蛮人とは格が違いますね!」

「うるせェうるせェ」

 

 三人でやいのやいの言いながら宿泊している村に戻る。今日は何事も上手くいったはずだ。しかし、やはり胸には疑問が渦巻いていた。

 

 

 ♢♢♢♢♢♢

 

 

 

《数分前》

 

 

 

 ──しにたくない

 

 ──しにたくない

 

 ひたり、ひたりと雫が鍾乳石から分離する音が洞窟に反響する。正確には雫のようなナニカが。

 それらは寄り合い、重なり、一つとなると生物とは言い難い流体物質の塊となる。

 人の頭ほどの『それ』は鈍色の輝きを放ちながら淀んだ川の流れのようにゆっくりと、しかし着実に動き出し洞窟を彷徨う。

 遅々とした移動を遮るものは『それ』に取り込まれ、不自然な道程が洞窟に刻まれる。石、苔、爆弾……やがて岩の影に潜んでいた小指ほどの棒状の身体に無数の足の生えた……いわゆるムカデと呼ばれる生命体を取り込み──

 

『それ』は明らかに自身より体積の小さい『ムカデ』の姿をとった。

 

 謎の流体物質は露と消え、そこにあるのは一匹のムカデのみ。

 ムカデに成り変わり僅かな光と思考能力を得た『それ』は、先ほどとは見違えるような速さで洞窟の外へと駆けていく。

 

 しばらくするとドォンという音と共に洞窟が崩れていった。幸い爆炎自体は『それ』のところまで来なかったのでダメージはない。再び姿を流体物質に替えた『それ』は何故か失われなかったわずかな思考能力を頼りにときには岩の間をすり抜け、ときには岩を取り込みそして──『それ』は地上に解き放たれた。

 






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