心なき模倣系魔法生命体が人間を理解するまで   作:プリプリ胸筋

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逃走

 

 その日のうちに『それ』は狩りを終了した。

 

 魔力は潤沢にあり、己を害することが出来る存在がいないと判断したからだ。生物の根幹である代謝がない『それ』にとってこれ以上の狩りは必要ない。必然的に何もすることがなくなってしまうのだがそこになんら問題は無かった。『それ』の行動理念は死を回避することであり、原動力も死の恐怖から来るものであったため死の危険が無いと判断した今、『それ』の欲求は消え失せていたのだ。『それ』は月明かりを浴びながら目的もなく静謐な夜の空に羽ばたく。

 

 

 

 その安寧が傲慢な判断からくる虚構だとも知らずに

 

 滑稽に

 

 悠々と

 

 

 そして──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(見つけた)

 

 

 

 

 氷の花片がその翼を貫いた

 

 

 

 

 

 ──なっ……

 

 

 突如として自身の翼を突き破った氷の花片に『それ』は驚愕する。今まで自身にダメージを与えた存在はいなかったはず。にも関わらず翼は依然として鈍痛を訴えてやまない。その事実は未知の敵──それも自身を死に至らしめる程の敵の出現を示していた。

 

 そう、痛いのだ。『それ』はこれまで身体が壊されたことはあっても痛みを覚えたことはない。それこそが傲慢な判断を招いた要因の一つであり、魔力切れ以外の死因を想定しなくてもよい理由であった。

 

 しかしてその防壁はイレギュラーに崩される。

 

 気づけば地面は眼前に迫っていた。

 

 

 ♢♢♢♢♢♢

 

 

「こんな夜更けに鷹が飛んでるなんて疑って下さいって言ってるようなものだよ。いや〜、分かりやすくて助かるね」

 

 地に落ちて死んだように動きを止めている『それ』に仮面の人物が朗らかに歩みよる。誰に向けるでもないその言葉はどこか浮ついていた。

 

 その隙しかない体に『それ』は容赦なく無数の鈍色に輝く触手を叩きつける。それは触手にした部分の五感を失う代わりに『それ』にとって最も殺傷力の高い攻撃であり、当たればその箇所を抉り取ることができる。奇襲のように繰り出したそれはまさしく必殺技と呼べるものだった。

 

「おっと危ない」

 

 しかしその人物に当たることはない。触れる直前、何かに阻まれたかのように触手が停止したのだ。

 

「しつけが必要かな?」

 

 そして仮面の人物は『それ』を氷の花片で貫いた。

 

 何度も、何度も

 

 執拗に

 

 痛めつけるように

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、流石に死んではいないだろう。回収を……いや、もう始めるとするか」

 

 どれ程の時がたっただろう。

 

「ああ、待ちきれない……! 待ちきれないよ! やっと、やっとだ! 遂にこの時が……!」

 

 仮面の人物は興奮を隠せないでいた。一人でどこかを見つめながら熱心に叫ぶ姿は狂人そのもの。その勢いのまま仮面の人物な懐から愛おしいモノのように──否、事実として最も愛おしいモノである氷に包まれたナニカを取り出し、『それ』に押し付け、取り込ませた。

 

「これで……ボクの──」

 

 その声は歓喜を抑えきれないように上擦り、震える。

 

 

 そしてその期待を裏切るように突然『それ』は耳をつんざく鋭い音を立て、極光を放つ。

 

 爆炎が仮面の人物を襲った。

 

 

 ♢♢♢♢♢♢

 

 

それ(ネコ)』は爆心地から逃げるように森を駆けていた。

 

 ーーあぶなかった

 

 『それ』は最初の奇襲を防がれた時点で『タカ』の存続を諦めていた。自身の出せる最高の攻撃をああも簡単に無効化された時点で『タカ』が勝てる可能性は無い。魔力は半分にしていたため、『タカ』の損失は中々手痛いが、最悪『ネコ』が無事なら魔力など幾らでも集められる。そう結論づけた『それ』は『タカ』の体内で爆弾を大量に模倣し爆破した。

 威力の程は分からないが、夜空が明るくなっているのを見るにかなりの爆炎が出たに違いない。これは殺れたかもと『それ』は思いつつ、生きていたら殺されるかもしれないので様子を見に行くこともなくただひたすらに逃げる。

 

 『それ』は仮面の人物にめちゃくちゃにビビり散らかしていた。

 

 

 

 

 

 

 ♢♢♢♢♢♢

 

 

 「まったく……お転婆なところは変わらないね。ボクじゃなかったら死んでたよ」

 

 「でもやっと会えたんだから逃げる事はないだろうに」

 

 「まぁ、久しぶりにおにごっこでもしようか」

 

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