心なき模倣系魔法生命体が人間を理解するまで   作:プリプリ胸筋

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後悔先に立たず

 

 

 ラークは即座に身を翻し、土煙から飛び出た。

 斬れていないと確信したからだ。

 正確には届いていない、というべきか。硬いものに阻まれたというより、刀を掴まれて止められたかのような感覚がとても面白く、不快だった。

 

 依然、土煙は舞ったまま。これは風圧によるものだ。決して手を抜いてはいない、その証左。

 

 ラークは唾を吐いた。

 

「分からないなぁ。部外者の君たちが保護者であるボクからその子を奪う意義も意味もないと思うんだけど」

 

「保護者」は姿を現した。傷一つ、汚れ一つないコートを靡かせながら。

 

「あなたでは保護者足り得ないと判断したまでだ」

「その子は君たちに助けて欲しいって思ってないと思うけど」

「生きる道も知らねェガキに何言ってんだ。迷子の手ェ引いてやんのは何もおかしいことじゃねェだろ」

 

 

「……はは、はははっ、あはははははっ! いいねぇ! いいよそのセリフ! 自信に満ちていて、カッコよくて、頼りになる!! ……最っ高に憎たらしいよ」

 

 

「保護者」は嗤う。腹を抱えて嗤う。可笑しくて、哀れで、惨めな奴だと。仮面の奥に歪んだ笑みを隠しながら。

 

 

「ハッハァ! なんだ、嫉妬かァ?」

「いいや、憤懣さ! ボクはね、身の程を知らない奴が一番嫌いなんだ」

 

 抂笑を響かせたかと思えば、一転、底冷えするような声色で「保護者」は問いかけ、確かめる。簒奪者たちの、その本質を。

 

「……勘違いしてるようだから言っておくけど、どの道その子に選択肢なんてない。道具だからね。道具は道具らしく言うことを聞いていなければならないのだから」

「道具などではない。尊い命を持った一人の少女だ」

「道具だよ。ほら、よくあるだろう? ボタン押したら動く魔道具。それといっしょ。いや、知性はあるから、ちょっとだけハイテクだ」

「……」

 

 静寂が辺りを包み込む。

 

 絶句

 

 その一言に尽きた。

 少女を道具と言い張るその姿は、「保護者」の彼女の扱いを表していた。一体どのような扱いを受けていたのか、それは定かではない。ただ、ろくでもないものであるという一点においては確かだろう。

 

「言うことを聞かないならその子は道具にすらなれない。ただの害虫だよ。愛も義理も恩も理解せず、ただ己の生を貪る為に周囲を害する。しつけも意味がなく、捕まえようとしたらすぐ逃げる。手足をばたつかせてもがいているところとかそっくりだ」

「……もういい、よく分かった」

「じゃあ、返して」

「俺の答えは変わらない。あなたに彼女は渡さない」

「身の程を知らないのはどっちか教えてやんよォ。神様気取りの自己中野郎」

 

 

「……本当に、憎らしく、滑稽で、愚かな奴等だ」

 

 

 吐息は白く染まり、木々は氷の装束を纏う。明るんでいた夜空は本来の寒々しい色を取り戻していた。

 

 

「知らないようだから君たちにも教えてあげる。どれだけ力を持っていようと、どうしようもないくらいの理不尽に押し潰される事があるってことをね」

 

 

 氷の花園が美しく咲き誇る。冬を閉じ込めたような冷気が辺りを支配していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 術者を台風の目に氷の花片が舞い踊る。身体を傾げ、刀を振るい、拳を突き出す。それでもその身には数え切れない裂傷が刻まれていく。

 

「はははは! ははははは! さっきの威勢はどうしたんだい! 身の丈に合わない正義感をもつからだ!」

 

 何かに刈られるように一心不乱に術を行使するその姿は異様であり、奇怪。

 

 

「なんで斬れねェんだよォ!」

 

 

 刀は未だ届かず、拳は氷華に受け止められる。辺りに散らばる血はこちらの劣勢を示していた。

 また一つ、頬に裂傷が刻まれ、焼けるような痛みと冷気がその身を襲う。

 動きを止めれば、足元に氷華が咲き誇り、拘束を受ける。

 止まってはいけない。しかし、その場にいるだけで手足の動きはかじかみ、阻害されていく。

 このままでは冷気に侵され凍死するか、動きが鈍り氷華の餌食となるか……過程は違えど結末は同じである。

 

 早急に突破口を見つけ、奴を刀の鯖に──

 

 

「はははは! 逃げ惑うだけの臆病者が!! ボクに! 逆らうんじゃない!! ちっぽけな義憤を燃やしても! 何も変わらない!!」

 

 刀の鯖に──

 

「ちょっとぉ! 何やってんですか! こだわってないで早くやっちゃってくださいよ! 早く早くぅ!」

 

 鯖に──

 

「あああぁあ!! あああaaああaあぁあああああぁぁあああ!!!」

 

 

 

 ──うるっせェし、面倒くせェ

 

 

 

 ぷつりと集中力の糸が切れた。

 強引にでも、勝負を決める。ラークはかじかむ肢体に力を込めた。

 

 

「ああああああ! もういい! ウォルタァー!!」

「む、もういいのか?」

「勝ちゃあいいんだよ、勝ちゃあ! さっさとあの仮面叩き割って間抜けづら晒してやらァ!」

「では、いくぞ。一回で仕留める」

「ひゃはははァ! ぶっ殺してやる!」

 

 

 

 ウォルターは魔法を込め、放つ。

 

 

 

 ──『衝撃』

 

 

 

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

 

 

 大気が、氷が、世界が震える。

 

 指向性を持った咆哮は「保護者」を襲い、身体を震わせる。氷の花片は砕け散っていた。

 

 

「ッ……舐めた真似を──」

「もらったァ!」

 

 

「保護者」がふらつきながら再び術を展開する。その直前。ラークは刀をぶん投げ、草鞋を脱ぎ捨てる。無手での突進。頭のおかしい馬鹿げた行動。己を信じた、無鉄砲な判断。

 

 

 故に、冒険者。故に、Aランク。

 

 

 

「生きもんは止められねェよなァ? ご丁寧に刀だけ止めやがってよォ! 分かりやすいんだわ! ど素人がァ!!」

 

 

 

 肌が赤熱するほどに『加速』された蹴りが「保護者」の頭部を直撃した。

 

 

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