心なき模倣系魔法生命体が人間を理解するまで   作:プリプリ胸筋

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決着

 

 

 足に衝撃が伝わる。

 

 今までついぞ感じることの出来なかったその感覚は、自身の読みが正しかったことを証明していた。

 

 確証はなかった。『魔法』の条件を誤認させて相手を釣る。魔法使い同士の戦闘では多々あることだ。

 

 しかしラークには目の前の人物がそんな小手先の技に頼るようには到底見えなかった。

 

 ラークの「保護者」に対するイメージ。

 それは凶器を振り回す子供だ。『魔法』は強い。が、それだけ。相手の動きを読むこともなく、ただただ力を振りかざすのみ。端的に言えば、戦い慣れていない。

 

 演技の可能性もある。だが、結局のところ、それが演技かどうかなんてどうでもいい。何も問題はない。

 

 反応されるより速く、反撃されるより速く、動けばいいのだけなのだから。

 

「大当たりだ」

 

 当たれば儲け。憶測に過ぎないはずの直感は確信へと変わる。

「保護者」は凍りついた木々に叩きつけられた。

 

「ふぅ……俺にかかれば教団もザコだな。ビビって損したぜ」

 

「保護者」は木を背に座り込み、動かない。その様子を確かめるとラークは肩をすくめた。

 

「おいクリスタ、他にはいねェんだよなァ」

「もちろん! この辺りには私たちしかいませんよ!」

「む〜〜! むむぅうううっ! むううううぅぅ!」

 

 クリスタの自信に満ちた声色にラークは怪訝な目を向ける。彼女の両手は少女の体と口に回されているが、彼は主張の激しいサムズアップを幻視していた。

 

「なんですかその目は! もっと私を信頼してくださいよぉ!」

「むうぅ──ー! うううっ! うううううぅぅううう!」

「いやお前、この辺に人の気配はないとか言って二人もいたじゃねェか」

 

 そこの少女と、「保護者」。両名はクリスタの『探知』に引っ掛かっていない。

 

 洞窟に入ったときには居なかったであろう事はほぼ間違いない。故に何がしかの手段を用いて短時間の内に此処に戻って来たのだろう。

 

 そしてその手段は『魔法』である可能性が高い。移動用魔道具は森の中を走らせられる程使い勝手の良いものでは無い上に、それなりに音が出るからだ。

 

 であるならば「保護者」を運んだ仲間がいるはずだ。

 

『魔法』は一人一つしか持てないのだから。

 

「……こいつか?」

 

 ラークは少女を訝しみ、見つめる。

 

 血と泥に塗れてはいるが、よく見ればその顔立ちはとても整っている。幼さの残った怜悧で切れ長の瞳に、存在を忘れてしまいそうな程小さな鼻。髪は新雪のごとく、月明かりに煌めいている。

 

 まるで作り物のような少女。だがその瞳に渦巻く恐怖が少女を人形ではなく生きた存在であることを証明していた。

 

 不意に視線を逸らす。

 

(……わかんねェ)

 

 ラークにはそれだけしか分からなかった。

 

「え、どこ行くんですか」

 

 踵を返したラークにクリスタは問いかける。

 

「あの雑魚縛っとくんだよ。まだ死んじゃあねェだろ」

 

 背を向けたままぶっきらぼうにそう返す。投げ捨てた刀を拾い、彼はすたすたと歩き去っていった。

 

「……なんか急に機嫌悪くないですか?」

「あれでいて、意外と不義理なことは嫌いだからな」

「黙れやァ!」

 

 ラークは僅かに歩調を速める。背後から聞こえる賛辞の皮を被った揶揄いに腹を立てながら。

 気がつけば「保護者」との距離は十数歩程になっていた。それほど近ければ必然と言うべきだが、その仮面にはひびが入っているのが見えた。

 

 先の蹴りで入ったひびだろう。そう考えれば仮面の尋常じゃない程の硬さに恐れ入る。少なくともファッションで着けている類いのものではない。その仮面の用途が気になるところだが、もっとラークの興味を惹くものがあった。

 

「保護者」の仮面。その奥だ。あのすかした野郎の潰れた顔面を拝んでやりたくなったのだ。

 

 ラークは興味本位でひびの隙間を覗き込む。

 

 

 

 彼は見た。

 

 真っ黒な靄に覆われた顔を

 

 爛々と輝く赤い眼光を

 

 唸るような魔力の昂りを

 

「……ッ」

 

 反射的に刀を振るい、気づく。「保護者」に刀は届かないのだと。ラークは己の失態に舌を打ち、その相貌を歪ませた。

 

 殺意の応酬。予想通り鮮血が飛び交う事はない。

 

 場には樋鳴りと──鏡が割れるような音が響きわたった。

 

 

「……は?」

 

 

 ぐらりと重心がブレる。まるで右足を掴まれ、グッと引っ張られるような感覚がラークを襲った。

 

 否、実際に掴まれている。

 

「保護者」から目を離さないようにチラリと視線を動かせば、凍った地面から細い女の手が生えているのが見えた。

 

「やっぱまだいるじゃねェかよォ!」

 

 怒声が響く。

 

「斬ってもいい奴がよォ!!」

 

 今の一瞬で、「保護者」背後にある木からも腕が生え、その体に回されている。体の半分近くが木に、いや、木を通じた何処かに向かっている。

 

 回収するつもりなのは一目瞭然。今から『加速』しても間に合うかは分からない。手の持ち主だけでも斬りつけるか。だがそんなことをしても意味はない。勝利に届かない。ならばどうするか! 

 

「両取りだァ!」

 

 勢いよくバク転し、掴まれた右足を振り上げる。

 

 意図に気づいた手の持ち主が慌てて足を離す。ラークは肩まで露出したその手を掴み、バク転の勢いのまま引き揚げ、投げた。

 

 その先にいる筈の仲間たちに向けて。

 

「ナイスパスだ」

 

 拳が唸りをあげる。

 

 ──『衝撃』

 

 爆音が轟いた。

 

 

 

 

 ♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 

 

「ありえねェ……」

 

 場所は変わり、貸し出された村の家屋。その一角。ちゅんちゅんと雀の鳴き声が響きわたる中、ラークは嘆いていた。

 

「どうやったらあそこから逃げられるんだよォ」

 

 あの後、場には氷の破片だけが残され、二人の姿はつゆと消えた。ラークとしては確実性を重視し、自分の手柄を譲ってまで完膚無き勝利をもぎ取りにいったというのに、結果はちょい勝ちくらいであったことにそれは酷く拗ねていた。

 

「それいつまで擦るんですか? 帰り道もずっとそれだったしうるさくて敵わないですよ」

 

 床にぐでーっと溶けたクリスタがひらひらと手を振りながら物申す。彼女は疲れていた。主にラークの愚痴と小さな怪獣の世話に。

 

「テメェが一番なんもしてねェだろォがよォ!」

「してました〜。ちゃんとシロちゃん守ってました〜」

 

 小さな怪獣──その正体はシロちゃんと勝手に呼ばれている『それ』である。

 

 今でこそおとなしく食糧を貪り散らかしているが、森での帰り道はもう凄かった。その暴れっぷりたるや、差し押さえに抵抗するリーダーを彷彿させる程だ。

 

「ああァ! んなもん誰でもできるわ! ボケ!」

「できませんよ! 両手の内で暴れる可愛い怪獣を抑え込みながら氷の縫い目をこう……しゅっと、しゅしゅっと、しゅしゅしゅっと! できますか!」

「ごちゃごちゃうるせェんだよ! バーカ!」

「あ、今バカって言った! 聞きましたかウォルターさん! バカって!」

「ああ。バカは良くないな」

「黙ってろハゲ」

「ハゲではない。スキンヘッドだ」

「ハゲはハゲだろ。ハゲてんだから」

「ハゲは認めた方がいいと思います!」

「……スキンヘッドだ」

 

 コンコンと扉を叩く音が鳴る。

 

「……またかよ」

 

 無視を決めれば開けるまでコンコンコンと騒音が鳴り響くことは分かっている。

 ついでに言うならその犯人も、動機も全て。

 

 気怠げにラークは扉を開ける。

 

「うるせェんだよガキ。そんなにあいつに会いたいか」

 

 そこには村の少年がいる。木の枝を持ち、そばかすをつけた、いかにもガキという感じのガキが。

 

「ち、違うって言ってるだろ! 修行だよ! 修行! あいつが強くなりたいって言うからおれが修行をつけてやるって言ってるんだ!」

「あーもう黙れ黙れ。耳が痛くて堪らん」

「だからおれは──」

 

 バタン。

 

『おい開けろ! おい! 聞こえてるだろ! おーい!』

 

 ガンガンと扉が殴りつけられる。

 

「会わせてあげましょうよ。可愛いじゃないですかー」

「こいつは俺の弟子だ。あんなガキに変な癖教えられたらどォすんだ」

「オカワリ」

「……もう食い物はない」

 

 数日前からは考えられない状況にウォルターは混乱する。頭を整理するためにもう一度あの日からの出来事を遡った。

 

 

 

 

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