兄者はおしまい   作:知らない半島

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盛ったつもりだったんですよ。
せいぜい、見た目の色が変わるだけだろうって。
誕生日ケーキの描写から、ほぼほぼ他人の手で作れば大丈夫なんだろうって。
公式103話で超えてきやがった……後はデコるというか、盛り付けるだけで原型を放り投げるとは思わんじゃないですか……室崎みよ、恐ろしい女だ……。

というわけで11話。今回はほぼ原作の別視点で書いてみました。今回はカンナ成分控えめです。


ep011 もみじとヒロインとエンカウント

ep011 もみじとヒロインとエンカウント

 

 前世で約35年、今世で約13年。合計で50近くの年月を重ねた俺の結論は、現実は小説よりも奇なり、である。何せこの一文だけでも前世と今世という輪廻転生が存在していることを示しているのだ。さもありなんだ。

 

「あっ、ま、待って……みはりぃ……んぁっ」

 

 これでも前世のおっさんだった頃は現実主義というか、科学主義というか……幽霊? 妖怪? 魔法? そんなのあるわけ無いだろう。と鼻で笑うタイプの人間だったのだが、しかし己の身が前世の記憶を持って生まれた赤子になったことで、そんな長年のスタンスは覆さねばならなくなった。

 

「フフッ、ダ~メ。……ふぅ、ふぅ……さっき散々やられたんだから、お、か、え、し♪」

 

 さらに言うと今世の家族も大概である。まさか身内に歴史を大きく動かすような発明をしでかす姉がいるなんてな。性転換? そういうラブコメあるよね。若返り? シリアスでもコメディでもどっちでも書けるじゃないか。で、なんで両方やっちゃうんですかねこの天才は。しかも実の兄に……。

 

「い、イヤァ~……さっきからソレばっか、んうっ……だ、駄目だってぇ……同じの、擦りすぎぃ……」

 

 そしてトドメに、先日の林間学校での、あの冒涜的カレーである。メシマズ、という概念は知っていたさ。調味料の間違いから計量ミス。調理過程の失敗に、そもそも味見をする舌が狂ってたりと、その理由は多岐に渡る。が、それらは理解できるのだ。何だあのカレーは。由来の分からない色彩に、食った時に見せられたクトゥルフっぽい何か。科学じゃ説明できない漫画に出てくるようなメシマズに、強固であった筈の科学至上主義は今や無残な姿を晒すハメとなっていた。

 

「うふふふ……お兄ちゃんの弱点、見つけちゃった~……コレに弱いんだぁ……ほらぁっ、ほらっ、ほらっ!」

 

 こんなネット小説にありがちな物を、こうもバーゲンセールのように浴びせられた俺がこう思うのも無理はないと思わないか? 現実は小説よりも奇なり。フィクションは所詮人間の想像以上には至れず、そのような制限のない現実が、より奇妙な物となるのも無理からぬもの。

 

「やだっ、そんな……もどっ、戻れっ、戻れなくなるぅ……落ちちゃうぅ~!」

 

 しかしこうなってくると、他のネット小説要素もその内体験することになったりするんじゃなかろうか。真の仲間ではないと追放されたり、悪役令嬢としてヒロインをイジメる立場になったり、はたまたある特定の期間をループしたり。

 いや、別にそうなって欲しいってわけじゃない。というか、それなら転生特典やら原作知識みたいなチート要素こそ欠かさないで欲しかった。

 

「さぁ、トドメよぉ!」

「んあぁぁぁああああああああああっ!」

 

「ゴメンちょっと環境音にしては艶っぽすぎるかなぁ!」

 

 先日のカレーの負荷がまだ体に残ってるのか、少々体調不良気味なことから顔に濡れタオルをかけソファーで寝っ転がりつつ、己の人生のフィクションみたいな出来事に関して考えを巡らせているところに、コレだ。

 画面の中央に大きく「GAME SET」と試合終了を告げる文字を表示したテレビの前で、仲良く女の子座りでゲームに興じる兄姉がビックリした表情でコチラに振り返ってきた。

 

「い、いきなり何だよカンナ……あれか? お前もスマブラやるか?」

 

 コントローラーをぷらぷらさせながら交代を提案してくる兄者に対して「違うそうじゃない」と返す。

 

「艶っぽいって何よ。見ての通り、今やってるのは全年齢の対戦ゲームよ?」

 

 そう言って姉者がパッケージのCERO A表示を見せてくるも「それも違うんだ、そうじゃないんだ」と返す。

 

「対戦ゲームで声を出すなとは言わないが、まず兄者は喘ぐな!」

「喘いでないって!」

「兄者の声だけ切り取って音声作品にして出せば、ダウンロードサイトにあるR-18部門のランキングに載せられるくらいには喘ぎ声だったよ!」

 

 甘い声出しやがってっ、劣情を持てあますだろうが!

 

「お兄ちゃんはともかく、私は喘いでなんてないわよ」

「姉者に関しては完全に攻守逆転したロリコンのレズビアンなんだよ」

「おいオレをロリと言ったか?」

「ちょ、ちょっと! ロリコンもレズビアンも、お兄ちゃんが幼い女の子になってるからってだけでしょ!? 元の状態で考えれば普通よ普通!」

「戻ったらブラコンが生えてくるだけだし、そもそも兄者をそんな姿にしたのは姉者だろうが」

「なぁオレをロリ扱いしたか今」

 

 それは仕方ないだろう。今の兄者って大体11歳から13歳ってくらいの体なんだし。

 

「っていうか珍しいな。二人で対戦ゲームだなんて」

 

 兄者は四六時中ゲームやっているのだが、姉者がゲームに手を出すことはほとんど無い。やったとしても極希に兄者と遊ぶためにコントローラーを握るくらいだ。

 

「ちょっと賭けをしててね~」

 

 そう言って姉者は白衣の胸ポケットからピラ紙一枚を取り出した。受け取ってみれば野菜数点と肉に、それぞれの数量が書かれている。

 

「買い物メモ?」

 

「そう。私がゲームで勝ったら、駅前のスーパーまでおつかいって約束だったのよ」

 

 視線をメモから兄者にズラすと、ぐぬぬぬぬぬとゲームに負けた悔しさに呻き、今から行くおつかいへの不安に顔を若干青くさせたりしている。

 

「……か、カンナも、どうだ? お兄ちゃんとゲーム、やらないか?」

「やらない」

 

 縋るようにコントローラーをふりふりしてる兄者に、すかさずNOを突き返す。

 

「い、いやいや、一回やってみろよー。楽しいぞー?」

 

「で、俺が負けたら代わりにおつかい行ってきてくれってか? そんな誘いには乗れないし、そもそも賭けをして負けたなら、潔くその結果に従うべきだろう」

 

 男らしくないぞー。と付け足せば、さらにぐぬぬぬぬぬぬとうめき声が増した。

 

「くぅ~……し、仕方ない……男に二言はないからな……」

 

 観念したように兄者は項垂れつつも了承した。

 

 その言葉に気を良くした姉者は、用意していたのか小さいポシェットを取り出し、コチラに手を伸ばしてくる。手に持っていた買い物メモを渡せば、受け取った姉者はポシェットの中に仕舞い込んだ。

 

「はいコレ、買い物メモと、エコバッグ入ってるからね」

 

 そう言って淡いピンクのポシェットを兄者に渡す。笑みを浮かべながら「お釣りでお菓子買ってもいいよ~」とからかい混じりに言えば「だから、ロリ扱いすんな!」と兄者はひったくりながら憤慨した。

 そのままドスドスと音が鳴りそうな程大股で玄関の方に行くが、土間につく頃には内股になり、靴を履いた後はぷるぷると膝が震えだしていた。

 

「……い、行ってくるぅ……」

 

 視線で(なぁ、なんとか理由をつけて引き留めてくれね?)と訴えてきたが、俺も姉者も「いってらっしゃい」と無情に送り出した。

 

 扉がバタンと閉まり数秒、さてどうしようかと逡巡する。

 

 付いて行こうか、行くまいか。

 

 正直、ただのお使いだ。兄者とて成人男性。引きこもり期間にブランクはあれど、こなすことはできるだろう。

 ただしソレは兄者が成人男性のままならばという話だ。今の兄者の外見は幼い美少女だ。それが成人男性の無防備さで歩き回るのだ。悪いことを考えている人間にとってこんなカモはそうそういないだろう。

 

「……よし」

「良くない」

 

 すかさずガチリと姉者に肩を捕まれる。

 

「どうした姉者」

「どうしたもこうしたも、アンタ今お兄ちゃんに付いていこうとしてたでしょ。駄目よ社会復帰のための一環なんだから」

「大丈夫だ姉者。変装して俺だと分からないようにした後に、つかず離れず遠くから見守るにとどめるから」

「不審者としてしょっ引かれるから止めなさい」

 

 ……確かに、コレでは俺の方が不審者か。

 

「心配なのは分かるけど、大丈夫よ。お兄ちゃんに持たせたポシェットにはGPSタグ仕込んであるから、もしもの事があっても位置はすぐ分かるわ」

「ちなみにその事を兄者は?」

「私のポシェットにGPSタグを仕込んでいて、それを貸し出しただけだし、ね?」

 

 俺も過保護かなと思う所があったが、この姉も姉だな。本人に無断で発信器を仕込むとは……。

 

「それにしても、お兄ちゃんもだんだん外に慣れてきたみたいね」

 

「あぁ……まぁ、な……」

 

 確かに、ここ数ヶ月で兄者は劇的に変わったと言える。

 今まで飯風呂トイレ以外では部屋から出なかった兄者が、2年ぶりに外に出始めた。俺ら姉妹と一緒という条件ならば少しくらいの遠出はできるようになった。

 かえでちゃんという、家族以外との交友も持つようになったらしい。たまにリビングでスマホをいじっているなと思えば、なんとかえでちゃんとメッセージのやりとりをしていたのだとか。家族以外の他人を極度に恐れていた兄者が、である。

 さらにここ最近は食器の後片付け等の家事労働も、頼めばやってくれるようになってきた。ついでにここ最近、俺は兄者の部屋を掃除していない。

 そして今回の、一人での、外出だ。前までならば考えられなかった。おそらく、恐怖によりパニックになり、涙を流しながら錯乱し、家の扉にすがりつき、そこで終わりだっただろうに……。

 

(よく……ここまで復帰してくれたな……兄者……)

 

「このまま順調に、社会復帰までいければいいんだけどねぇ~」

 

「……できるさ。なんだかんだ言って、兄者の根っこの所は昔のままだし。さらに天才が手助けしているんだ」

 

 きちんとした社会生活を送るのは、そう遠い未来ではないだろうよ。

 

「そうねぇ。そしていつか、良いお婿さんを見つけてーー」

 

 そうだな。いい婿さんをーーちょっと待て?

 

「お父さん、お母さん。みはり、かんな……わたし、幸せな永久職に就きますっ」

 

 なーんて。じゃねーよ姉者。

 

「おい、何で兄者が嫁に貰われてるんだよ」

 

「さーって。家の掃除と洗濯やっちゃいましょうか」

 

「おい、兄者の体、本当に元に戻るんだよなぁ!?」

 

「あ、カンナ。アンタ宿題終わらせてないなら、晩ご飯までにやっておきなさいよ?」

 

「それは終わってるというか、おい! 薬が抜けたら、ちゃんと元の骨格に戻るんだよなー!?」

 

 ちょっと、姉者? 冗談だと言ってよ姉者ーっ!!

 

 

 

♂♀♂♀ あにまい ♂♀♂♀

 

 

 

 猛烈に、カレーライスを食べたかったんだ。

 ついこの間あった林間学校。夕飯ははんごう炊飯で作るカレーライス。けっこう楽しみにしていたのだけれど、私たちの班はなぜかそのカレー作りに失敗した。いや、何であんな色になったんだ……それにあの人を倒す程の力はどこから来たんだ。本当に謎だ。

 けどそこは班員の一人がごはんは炊き上げてくれていたから、他の班からカレーをちょっとずつもらって、カレー炒飯を作ってくれて事なきを得たんだ。

 それはとても美味しかったし、あそこからちゃんとした食事にまでしてくれたことにはすごく感謝している。

 

 でも私の、穂月もみじのカレーライスを食べたいという欲求は満たされなかったんだ。

 

 だから今日、私はお小遣いを手にこだわりのカレー屋さんへとお昼を食べにいったのだった。

 ココに出会うまで長かった……カレー屋さんはいっぱいあるけど、美味しいのは辛口だったり中辛だったりばかりで、甘口が美味しいカレー屋さんは少なかった。それを探し当てるまでに、どれほどのカレーライスを平らげてきたことか。

 

 そんなお気に入りのカレー屋さんから、おなかをさすりながら出てきたところだった。満腹感と満足感を抱えながら、家に帰ってさぁ後はどうやって過ごそうかと考えを巡らせていた。

 

 ふと建物の影でうずくまっている女の子が居るのを見つけた。

 

 ーーうぅ~……や、やっぱ無理ぃ……なんとかスーパーまではたどり着いたけど、流石に人が多い……し、しかし、このまま何もせず帰ったら、兄の威厳に傷がぁ……。

 

 フルフルと震えながら、スカートは地面につけないようなしゃがみ方で、表通りをチラチラと覗いている子。

(何か、トラブルでも起きてるのかな?)

 幸いにも今自分は暇だ。手を貸すことはやぶさかではないと、特に深い考えもなく話しかけることにした。

 

「ねぇ、そこの君……」

「ひゃいっ!?」

 

 立ち位置的に後ろから話しかけることになりビックリしたのか、目に見えて肩が跳ね上がった。おどろきに目を見開いて振り返ったその娘は……あぁ、多分私は、この出会いを忘れることは無いんだろうな。

 恋愛マンガから飛び出してきたような、とびきりかわいい女の子がそこに居た。

 

 振り返りと共にふわりと揺れる長い髪に、不安からかうるんでいる、ぱっちり開いた目。触れれば柔らかくさわり心地の良さそうなほっぺ。そのまま抱きつけば、すっぽりと私の腕の中に収まってしまいそうな程に細い肩幅。

 漫画に出てきたなら、あぁ、この子はヒロインなんだろうな、と納得できそうな、弱々しさと可愛らしさに溢れた女の子に、私は数瞬心奪われるも、何で声をかけたのかを思い出す。

 

「……顔色悪いけど、大丈夫? 体調悪いの……?」

 

「…………ふぇ?」

 

 困惑から漏れたであろう声は耳に心地よく、頭の中を甘い蜜でくすぐられるようなむずがゆさを感じさせる物だった。

 しかし、どうしたものか。いきなり声をかけられた驚きから回復していないのか、体調不良かどうかも答えてくれない。

 と、なれば……。

(うん、仕方ない、よね……)

 誰にともなく言い訳を胸にその子の額に手を伸ばす。ヒャイッ!? という小さく驚かれるも、そのまま熱を測るが、自分と大して変わりは無い。

 

「うん、熱は無いねぇ」

 

 となれば一体何が原因で、こんな所でうずくまっていたのか。

 

「ええっと、何か困ってる? 良かったら手伝うけど……」

 

 分からなければ聞けば良い。と直接問うと、数秒の後にポツリポツリとその子は語り出した。

 

 

 

 曰く、その子はお使いを頼まれているとのこと。

 お金とメモを渡され、スーパーの前まで来たのは良いが、人が大勢居て尻込みしてしまっていたらしい。

 

(初めてのお使いなのかな?)

 

 まぁそういう事もあるだろう。

 しかしスーパーは人の密集度の高い所だ。外で足踏みしている娘が入っていける所じゃない。

 どうしたものかと考えるも、原因はどうしようもない。まさか目の前のスーパーから人を消すわけにはいかないし、人の居ないスーパーなんてあるわけないし。

 ……根本的な解決ではないけど、そうだね。

 

「私が一緒に行けば、なんとかなるかな?」

 

 どう? と聞けば、その子は数十秒もの間の百面相の後、空気に溶けて消えそうな程か細い声で「お願いしますぅ……」とつぶやき、私の伸ばした手を取ってくれた。

 その細い指を触った瞬間、わーすべすべ、と我ながらアレな事を思っちゃったことは、不可抗力だと思いたい。

 

 そんなわけでスーパーで女の子と二人で、買い物かごを乗せたカートを押しているのだけれど、人の多いところが本当に苦手なようだ。店に入ってから私の袖を放す様子がない。

 

 

 

「な、なんか……ごめんね……」

 

「ううん全然。年も近そうだし、気になっちゃって」

 

 うつむき気味なのは、申し訳ないという思いからか、はたまた周囲の人混みに目を向けないためなのか。

 

「うぅ……我ながら情けない……」

 

「いやいや、私も人混みはいやだしさ~」

 

 と言ってはみたものの、買い物することさえ難しいというのは、正直なところ共感できる程度を超えているな、とは思った。これぐらいの人混み、普通に生活していれば珍しい物ではないと思うのだけど、この子は今までどうやって過ごしてきたのだろう。

 

「それで、一体何を買うの?」

 

「あ、あぁ。えっと、ココにメモが……」

 

 そう言って大して物が入らなさそうな肩掛けカバンを開いて、いそいそとメモを取り出し渡してくる。どれどれと受け取って見れば、そこにはとても綺麗な文字で「じゃがいも、にんじん、タマネギ、しらたき、豚肉」と材料が書かれていて、その隣には数量も添えられている。

 

「ん~、カレー……じゃないか。しらたきが入ってるし、肉じゃがかな?」

 

「え、えっと、どうだろう……?」

 

 どうやらこの子は何を作るのかも知らされてないらしい。まぁでも、このラインナップなら間違いは無いと思う。

 

「とりあえず、お野菜から見て回ろうか」

 

 カラカラと買い物カートを押して進む。スーパーはそういう決まりでもあるのか、入り口付近は野菜や果物が置いてある場合が多いと思う。ココも例外ではなく、入ってすぐの商品棚には色とりどりの新鮮な野菜と、瑞々しい果実が並んでいる。

 

「にんじん、は……えっと、どれにすればいんだ?」

 

 両手に一本ずつ持って、真剣に見比べている女の子の後ろから、片方のにんじんを指さす。

 

「こっちかな。色つやがいいし、芯が小さい方が育ちすぎてなくって、おいしいらしいんだ」

 

「はえー、コッチね……」

 

 しげしげと芯の所を見比べた後、わたしの指さした方のにんじんを買い物かごへ入れて、もう片方が戻される。

 

「じゃー次はじゃがいもか。これでいいの?」

 

「多分煮るから、ダンシャクイモじゃなくって、コッチの長いメークインって種類のがいいかな。煮崩れしにくいんだって」

 

「あー、そういやなんか昔そんなことを習ったような……」

 

「小学校の頃かな? まあ習ってその後使うことのなかった知識って、薄れていくものだよねー」

 

「で、タマネギか。コレのポイントは?」

 

「皮に光沢があって、根っこの所を軽く押して、へこまないやつを選んでね」

 

「ってーなると、コレかな」

 

「うん、良いと思うよ!」

 

 コレでかごの中に野菜類は全部そろった。次はちょっと寄り道して加工食品のコーナーへ行く。

 

「しらたきは~……白いのと黒いのがあるんだけど……ど、どっちがいいんだ……」

 

「しらたきの黒色は、海藻の粉を使ってわざと出してるだけで、中身は両方そんなに変わらないらしいよ。いつもおうちで食べてる方で良いんじゃないかな?」

 

「肉じゃがにはどっちも使われたことが有ったと思うし、じゃあ、まぁ安い方でいいかな」

 

 お~、ブヨブヨ。なんて言いながら黒いのに何故か「しらたき」と書かれた物がカゴに放り込まれる。

 

「それにしても、いろいろ知ってるねぇ」

 

「そうかな? 普通だと思うけど……」

 

「いやいや、すっごくありがたいよぉ」

 

 頼もしい……! とキラキラした目で見上げられ、胸の辺りがこそばゆく感じる。

 そんなにすごい事したわけじゃないのに、これだけ尊敬の念を向けられるとは……。

 

(それにしても、この子って一体……)

 

 少し、その正体に思いをはせる。

 身長は結構近いから、多分同年代。そんなに離れてはないと思う。

 そして極度の人見知り。スーパーの人の数で動けなくなるくらいだから相当なものだろう。そんな子が遠くまで出歩けるとは思えないから、多分住んでる所は近く。

 さらに容姿はちょっと見かけないくらい可愛らしい。学校中を探しても、これだけ美人な子は居なかったと思うぐらい。

 つまり、同年代の、近くに住んでる、ありえないくらい可愛らしい女の子。

 

(こんな目立つ子、話にも聞かないなんてことあるかな?)

 

 普通は噂になってると思う。というか、今なってなくてもいずれなると思う。自分も家に帰れば姉にこの子の事を話すだろうし、そこからいろんな所に話は飛ぶだろう。

 

 と、なれば、もしかしてーー

 

(引っ越してきたばかり、とか?)

 

 成る程。引っ越してきたばかりの美少女と出会って、困ってるところを助ける。

 まさに漫画の王道展開。これから始まるのはドタバタ恋愛劇なのか、はたまた彼女を巡ってのバトル物なのか……。

 

 なーんて、ちょっと漫画の読みすぎかな、と少し自嘲しながら最後の豚肉のために精肉コーナーへとカートを押していく。

 

「ーーん? あれ、なんか良い匂い……」

 

 そんな呟きと共に、捕まれていた袖が解放される。スンスンと鼻を鳴らしながら、視覚ではなく嗅覚を頼りにフラフラと歩き出す。

 彼女はそのまま匂いに導かれるように、お肉の加工食品のコーナーへ向かっていくのだった。

 

 次第に匂いだけではなく、耳にも鉄板の上で脂の乗った物が焼かれる、ジュージューと香ばしい音が届いてくる。

 その先には三角巾とエプロンを身につけたおばちゃんが、ホットプレートの上でウインナーを焼いているところだった。

 

「おぉ! 試食だー!」

 

 それを確認した途端、女の子が先ほどまでの人見知りはなんだったのかという勢いで一人スーパーの中を駆けていく。試食コーナーへたどり着くと、はいどうぞー、と半分に切られた焼きウインナーを爪楊枝で受け取り、齧り付く。パキッという小気味良い音を響かせながら「肉ウマー!」と幸せそうに頬を綻ばる。

 

(う~ん、同年代と思ったけど、背が高い年下だったりするのかな?)

 

 妹がいたらこんな感じだったりするのかなー。なんて思いつつ近寄ると、私に気がついたおばちゃんがコチラにも爪楊枝に刺さったウインナーを差し出してきていた。

 

「はーい、彼氏くんにもどうぞ~」

 

「あ~ありがとうございまーー」

 

 ーーいや、いやいやいや。

 

『彼氏ぃ!?』

 

 私と女の子の声が重なる。

 

「違いますよ!」

 

「あら、違った? ごめんなさいねー」

 

 はい、おわび。なんて言いつつそのままウインナーを差し出される。

 一応受け取りながら、まったく失礼な話だと内心腹を立てる。そりゃ、ちょっと男の子っぽい格好をしているとは思う。スカートじゃなくて半ズボンだし、かぶってる帽子もキャップだ。だけど、流石に男女を間違える程じゃないでしょう。

 ほら、私だって女子中学生なわけだから、それなりに女の子っぽい体になってきたと思うのだ。胸は控えめだけど、女の子は胸だけじゃないし。例えば、ほら、体のラインとか。

 ねぇ、そう思うよね? と女の子の方を見る。

 

「か、彼氏……そう見えるってこと? いや、まぁそりゃ、いい奴だけど、まさかそんな風に見られるとは……」

 

 おやおやおや?

 何やら顔を赤らめ、両手をほっぺに当ててあわあわしていらっしゃる。

 

(これってもしかして、彼氏彼女扱いさてて、まんざらでもないってこと?)

 

 なんて事だますます漫画じゃないか。

 引っ越してきたばかりの女の子と出会って、困ってたから助けて、そうしたら頼りにされて、恋仲扱いされて、照れられる?

 王道展開すぎる。ジャンプで見たやつだよコレ。

 

「も、もう! 出会ったばっかなのに、困っちゃうよー……ねぇ!」

 

 言葉では否定的だが、照れを大きな声と勢いで誤魔化そうとしているのが声音からにじみ出ており、まんざらではないっぽい。

 むくむくむくと、喉から衝動が駆け上がってくる。口のはしと目尻が惹かれ合い、自然と笑みが形作られる。

 

「本当に、困っちゃう?」

 

 自然と低い声が出た。

 自分でもびっくりするぐらい、男を意識した声だった。「ひうっ?」と小動物の鳴き声みたいな声を出されたけど、私も内心そんな感じだった。

 でも止められない。

 

「ボクがカレシじゃ……嫌?」

 

 ずいっと顔を近づけ、薄い笑みと共に流し目を送る。

 丸みを帯びたその頬が、段々赤みを増していく。ゆれるまつげに、震える唇。その間から白い歯が、ちらりちらりと見え隠れ。

 かと思ったら、きゅっと口が引き結ばれてーー

 

「ち、ちがぁぁぁああああうっ! コレは、何かの間違いだぁぁぁあああ!」

 

 羞恥心が限界に来たのか、両手で顔を覆いながら走り去っていってしまった。

 ……支払い用のお金を持ったまま、ボクと買い物かごを置いてーー

 

「あ、ちょっと待って! お会計ぇぇええええ!」

 

 まぁ、大丈夫だったよ。

 すぐに捕まえられたから万引きにはならず、ちゃんとお支払いはできました。

 

 

 

♂♀♂♀ あにまい ♂♀♂♀

 

 

 

 あ、危なかった……。

 目的の物を入れたレジ袋を手に提げてスーパーを出た私たち。

 

(あ、危うく男の子になるところだった……)

 

 恋愛漫画とかも、嫌いじゃないよ? ヒロインと恋愛する男の子に、かっこいいなと思うことだってあるさ。

 でもあんな風になりたいな、って思ったことは無かった筈なのに……これでも私だって女の子なんだし。

 いや、これでもってなんだ。私は普通に女の子だよ。

 

「ちゃんと買えて良かったね」

 

 頭の中を切り替えるために話をふると、何やら考え事をしていたのか、うつむき気味だった彼女は飛び跳ねるように「ふぇっ!? あ、あぁ、うん!」と返事をする。

 

「あ、ありがとうね……わたし一人じゃどうなってたことか……」

 

「助けになれて良かったよ」

 

 本当にどうなっていたことか……。人混みが駄目でお店に入れないまま終わってたかもしれない。

 

「それじゃぁ、わたしはこれでーー」

「あ、ちょっと待って」

 

 彼女が踵を返そうとしたところで、胸の下、みぞおちの所からぶわりと情動が湧き上がる。それは止めようがなく喉から飛び出た。彼女が別れの言葉をいいそうになったところに、かぶせるように待ったをかける形で。

 ここで「さようなら」なんて形で終わたせたくない。

 

「良かったら、連絡先交換しない?」

 

 まだつながりを持っていたい。

 

「そういえば、お互い自己紹介もしてなかったしさ」

 

 もっと彼女の事を知りたい。

 そんな思いから、スマホを取り出しながら提案する。

 

「あ、あぁ……そういえば、名前を知らないままだったね」

 

 えぇっと、スマホスマホ……。と呟きながら彼女は何処にスマホを入れているのか忘れてしまっているらしい。色んなポケットに手を入れながら「あれ?」なんて呟いている。

 そんな姿に苦笑しつつ自分の連絡先を画面に表示していると、けたたましい音が自分のスマホから鳴り響く。画面上部に姉の名前と共に、着信を知らせる表示が現れていた。

 

「あっと、ゴメンちょっと待っててね」

 

 お、お構いなくぅ。と言いながらポーチをあさりだした彼女を置いて、緑色の受話器のアイコンにスワイプして電話を取る。

 

「もしもし?」

 

『もみじ~? 今どこにいるの~?』

 

「今? スーパーの前。友達と一緒だよ」

 

 電話でのやりとりを聞いていたのか「と、友達……?」と彼女は驚いたような声をあげる。

 

「あ、あれ? 駄目だった?」

 

「あぁいや、お世話になりっぱなしだし……友達でいいのかなーって……」

 

「アッハハッ、そんなの気にしなくていいよー」

 

 何だビックリした。一瞬、嫌われちゃってたのかと心配になったよ……。

 

『あれ、もしかして、駅前のLIKE?』

 

「え? うん。そうだよ~」

 

『「な~んだ、ちょうど見つけたよ。おーいもみじ~」』

 

 スマホと、それと少し離れた所から、二重で声が響いてきた。

 目を向ければ、そこに学校帰りなのか制服姿で、コッチに駆け寄ってくる姉の姿があった。

 

「お姉ちゃん!」

 

 それは高校の制服に身を包んだ自分の姉であるーー

 

「かえでちゃん!?」

 

 となりの彼女の口から飛び出た、穂月家の長女、穂月かえでの姿であった。

 

「えっ? 友達ってまひろちゃん?」

 

 どこで仲良くなったの~? とのんきに聞いてくるが、コッチはそれどころではない。

 

「お姉ちゃんの方こそ、知り合いだったの?」

 

 一体ドコで? いつ? こんなカワイイ子と知り合っていたとか、聞いたことがーー。

 

(いや、そういえば……)

 

 あった、かもしれない。夏頃に姉がやたらとはしゃいでいた頃があったのだ。

 なんでも、お人形さんみたいにカワイイ子と知り合った、とか言っていたような。

 

 それがこの、まひろちゃん……?

 

「うん。同級生だった子の……妹?」

 

「何で疑問形なのさ」

 

「いや~、どういう関係なのかはあんまり詳しく聞いてなくってさ~」

 

 あっはは~と笑う姉。しっかりものだけど、たまにこういう大雑把な所が顔を出すことがあるのだ。

 

「あ、あぁそうだっ! かえでちゃん、前に妹いるって言ってたけど、弟もいたんだね!」

 

 そこに来て彼女……まひろちゃんが、私たちの会話で思い出したかのように声を出すけど……うん、弟……ね……。

 

「プッ……ククッ……」

 と、吹き出しそうなのを必死にこらえようとする姉を軽く肘でつつくと、ゴメンゴメンと形だけの謝罪が帰ってくる。

 

「まひろちゃん、違う違う……この子、もみじは私の妹でーす♪」

 

「へー……いもうと……ん? 妹……?」

 

 まひろちゃんが私のスニーカーの先から、被ってるキャップの天辺まで、ずいーっと視線を上げてくる。

 

「……え、女の子ぉ!?」

 

 信じられない物を見た、と言わんばかりに指を突きつけ、驚愕の声を上げる彼女に、あー、やっぱりそうだったかー、と若干不服ながらも納得の面持ちをしてしまう。

 

「なんか途中から勘違いされてるなー、とは思ってたんだよねー……」

 

 まぁそれを分かっててからかいに走ったところはあったけど……。

 いやだって、すごくいいリアクションしてくれたし……仕方ないというか、不可抗力というか……あ、あれは、ほら、まひろちゃんが悪いと思うんだ……。

 誰にするでもなく心の中で言い訳しながら人のせいにしつつ「そんなに男っぽいかなぁ」と自分の格好を見てみる。確かにスニーカーに短パンにシャツ、キャップと、男子でもしそうなファッションだけど……これ全部レディースなんだけどなぁ……。

 

「せめてスカートにすればいいのに」

 

「ズボンの方が楽なんだもん……」

 

 走った時に足に絡まるような感覚とか、めくれ上がるんじゃないかって不安とか、下から見たら下着が見えちゃうとかいう心許なさとか、そういうのもろもろ我慢して女の子っぽい見た目にするより、ズボンに逃げてしまうのは仕方ない事だと思うんだ……。

 

 そんな女性ファッションへの不平不満を心の中で浮かべていると、まひろちゃんが突然その場に座り込み出した。

 女の子座りで両手を地面につけた、思いっきり脱力した姿で、お腹の奥から絞り出されるような、深く長いため息の後ーー

 

「良かったぁ……」

 

 なんて、少し声を引きつらせながら吐き出していた。

 

「……どうしたの? まひろちゃん」

 

 お姉ちゃんが不思議そうに聞いてくるけど、思い当たる節の無い私には「さぁ?」と返すしかなかった。

 

 

 

♂♀♂♀ あにまい ♂♀♂♀

 

 

 

「あ~、もみじちゃん?」

 

 あの後もみじと連絡先を交換して別れ、今は夕飯時。

 肉じゃがが出来るのを待ちながら、みはりに今日あった事を話していた。

 

「やっぱ知ってたか」

 

「そりゃーね。確かカンナと同い年で、中学一年生ぐらいだったかな」

 

「となれば、カンナと同じクラスだったりするのか」

 

「私とかえでが同じ学校だったし、クラスメイトかはともかく、同学年にいたりはするかもねー」

 

 それで何があったの? と急須からコポコポとお茶を注ぎながら聞いてくる。

 

「あーうん、スーパーの前で出会ってさ。買い物をいろいろ手伝ってもらって……」

 

「買い物を手伝ってもらうって、え? 何を?」

 

 オレの分の湯飲みを差し出しながら我が妹が聞いてくる。

 

「えっ、いやその……食材のぉ、目利き、とか……」

 

 オレはソレをあさっての方向を見ながら受け取る。陶器越しに感じるお茶の熱さを冷ますために、息を吹きかけることで自分の口を塞いだ。

 まさかスーパーの前で人混みを恐れて尻込みしていただなんて、妹たちには言えないしな……。

 

「あーそういえば、お兄ちゃんに食材の選び方とかは教えてなかったっけ。そこを助けてもらったんだ……」

 

 ズズッとすする音を立てた後に、あれ? と何かに気がついたように声を上げる。

 

「食材の選び方で迷ってたのに、スーパーの前……?」

「あっ! あぁそうだ! みはりっ、そのっ、ちょっと聞きたいことがあってさぁ!」

 

 イカンその辺の事に思い至る前に話をそらさねばと、疑問符にかぶせるように大声を上げる。

 

「そのっ、今日会ったもみじなんだけど、男の子みたいな格好してたんだよねぇ!」

 

「へー、どんな?」

 

「ああっと、スニーカーに、短パンに、シャツと、キャップ。それも前後逆に被るスタイルだった」

 

「ずいぶんボーイッシュにまとめてるのねー、もみじちゃん」

 

「そんで、うちの妹も男物着るようになったし、最近あの年頃の女の子では、そういうのが流行ってるのかなーって」

 

「どうだろ? 多分お兄ちゃんの身近にいるのが例外なんじゃない? そもそもカンナは体の成長速度の関係で、一時的にお兄ちゃんの服着てるだけだし。体の成長が止まれば、普通に女物を着るんじゃないかしら」

 

 そういえばそうか。オレの服がお役御免になれば、また昔みたいに女の子の服を……。

 

「……着るかなぁ……女物」

「怪しいわよねぇ……あの子……」

 

 この前デパートに行った時に被ってた帽子は、完全に男物を意識した帽子だったし。二人が服を見て回ってるとき、オレの隣で遠巻きに眺めるばかりだったし。

 アイツ、新しい服買う時にメンズ選ぶんじゃないだろうな?

 

「あー、それでもみじちゃんの服だけど、多分カンナのソレとは別物よ。あくまでボーイッシュは男の子っぽさであって、男物ではないからね」

「どう違うんだよ」

「ズボンとかシャツとか、スニーカーとか。スポーティーで男の子っぽい物でまとめていても、全部レディースなのがボーイッシュ。カンナのアレは男物着てるから男装」

 

 ほーん、そんなものなのか。

 まぁ確かに……思い返してみれば、一人称も「私」だったなそういえば。

 仕草も思い返せば女性っぽさもあったように思う。足をあまり広げないし、脇は基本締めていた。

 それに声だって高めでーー

 

 ーーボクがカレシじゃ……嫌?

 

「ど、どうしたのお兄ちゃん、突然顔を赤くして……」

「ふぇっ!?」

 

 みはりの指摘に、とっさに頬を両手で隠す。手の平から伝わる高くなった体温が、自分が赤面していることを伝えてくる。

 

(いや、いやいやいや! 相手は女子中学生だぞ!? 成人男性であるオレがそんな……)

 

「ま、まさかお兄ちゃん……ロリコンに……」

 

「そんなわけあるかぁ! 大体、オレはかえでちゃんの妹って知るまでは男の子だと思ってたんだぞ!?」

 

「……ショタコン?」

 

「もっとヤバイだろうがそれは! オレは成人男性だぞー!」

 

 ないないないない! と机をバンバン……とは鳴らず、ペチペチと叩く。

 

「兄者、肉じゃがを置くからその台パンもどきを止めてくれ」

 

 気がつけばすぐ後ろに、お盆に肉じゃがを乗せたカンナが居た。ほら、開けてくれ。と促されるまま身を引くと、目の前に湯気と匂いを立ち上らせる本日のメインディッシュが置かれた。

 行き場を失った憤りを抱えたままじっと座っていると、そのままコトリコトリと人数分の器が卓上に並べられる。オレらが話している間に配膳は黙々と進んでいたのか、ごはんや味噌汁、小鉢などもすでにそろえられており、夕飯の支度は終わっていた。

 

 お盆を置いて、エプロンを椅子の背もたれにかけながら座るカンナを待った後、誰ともなく手を合わせ「いただきます」の声が揃った。

 

「それで何の話をしていたんだ? 時々俺の名前とか男とか聞こえてきていたけど」

 

 言って味噌汁をすするカンナに、小鉢のひじきを飲み込んだみはりが答える。

 

「かえでのボーイッシュな妹を、お兄ちゃんが男の子って勘違いして惚れちゃったって話」

「いや違うぞぉ! そんなメス堕ちみたいな事してない!」

 

 誤解だぞカンナぁ! というオレの訴えを聞いているのかいないのか。ジャガイモを口に入れたカンナの咀嚼が一瞬止まり、悩むように眉根をよせつつ目をつむり、数秒後ーー

 

 

「えっと、兄者とかえでちゃんの妹で、見た目はNL、中身は男女逆。体はGLだけど兄者視点ではBLだったってことか?」

 

「言葉として並べられるとすっげー複雑な状況だなソレ」

 

 いや、オレは惚れてなんかないんだがな? と念押しするが、マジで複雑だなコレ。性別周りの恋愛事情網羅しちゃってるんじゃないか?

 

「まぁ、何にしてもだ、兄者?」

 

「あぁ? 何だよカンナ」

 

「成人が13歳に手を出すのは犯罪だと思うぞ」

 

 違うし男のオレが男子に惚れるなんてそんな事はーーあぁいやもみじは女の子だからそこは問題ないって違うそもそも成人男性が女子中学生は駄目ってでも今オレは女だから成人女性かっていやいや成人女性も女の子に手を出すのはって待てよオレ若返らされてるから肉体的には同い年で同年代の女の子同士ってわけにはイカンだろうが!

 

 性別だけでもこんがらがってたのに、オレが成人か否かも混ざってこんがらがったソレを、オレは夕飯の卓上にぶちまけるのだった。

 




 もみじ視点というか、緒山三兄妹以外で書く時の最大の障害は、出来る限りネットスラングというか、ミームカルタを使えない所にあると思うんですよ。

 今回の話、実はリテイク入りまして、ドラマCD版みたいに11話から13話へ繋げるような話で書いてたんですが、めっちゃ文字数増えたので分断する事にしました。途中で2万超えてたのを見た時流石になって思いました。

 ちなみに原作とアニメしか知らなくて、趣味に使える金銭に余裕があるならばドラマCDオススメですよ。電子版とか手を出しやすいし割引もけっこうしてくれるので、イメージよりはお手軽かと。声優さんたちの演技が心地よい。

 後pixiv等で二次創作の供給が今もなされている事にも感謝を。
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