兄者はおしまい   作:知らない半島

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Fallout4がアニバーサリーエディションで出るっていうじゃないですか。
その前に実績全解除するじゃないですか。
そんでアニバーサリーエディションにしたら、拠点襲撃を誘発する物があったじゃないですか。
これは悪い事出来るなと思って色々試してたら、結構遅れましたすみません。

私が今回で得た教訓は一つ。

「人は、過ちを繰り返す……」


ep012 緒山と穂月と健全な関係

ep012 緒山と穂月と健全な関係

 

 校門の門柱に背を預け、スマートフォンをいじる女子高生というのは、なんとも絵になる光景である。

 おそらく待ち合わせ。相手は友達か、はたまた彼氏か。合流した後は楽しい放課後タイムが始まるのであろうと思わせるその光景は、この場においては異物感の塊であった。

 

「ココで何してるんですか、かえでさん」

 

 話しかけられたことに気がついたかえでちゃんが、俺をその目で確認すると目を驚きで大きくする。

 

「あれ、カンナちゃん?」

 

 ちなみに俺がここに居るのは、別に驚かれるような事ではない。なんたってここは俺が通ってる中学校、その校門なのだから。

 中学の制服の群れの中に、女子高生が一人。目立たぬ筈もなく、皆がチラチラと視線を向けている。

 いやまぁ、視線を集めている理由は制服だけではないのだろうが。おいそこの男子、気持ちは分からなくもないがもう少し表情を隠せ。

 

「あぁそっか。カンナちゃん中学生だったから、ココに居てもおかしくないのか」

 

 そう言って俺の制服姿を靴先から頭の方にまでついーっと視線を上げてくるが、うん、まぁ分かるよ。

 

「似合ってないのは重々承知ですよ」

 

 言葉にせずともその表情を見れば分かる。大人が女子中学生の制服を着ているような違和感を覚えているのだろう?

 そ、そんな事は……なんて言っているが、目は泳いでいるし言葉も震えている。嘘がつけない子だ……。

 

「で、話を戻しますが、中学校にまで来て何しているんですか?」

 

「あぁっと、その、ちょっとね……妹を待ってるのよ」

 

 妹? という事はココに通っているのか。

 そういえば姉者とかえでちゃんが仲良くなったのって、中学生の頃からだったか。ならばその妹がココに通ってるのはおかしな話でもないな。

 

「実は今日みはりの家に行く約束してて。そしたら、妹も行きたいって言うから迎えにね」

 

「ウチに何か用事が?」

 

「ちょっとみはりに試験勉強を見てもらいに……」

 

 あぁ成る程。高校に入ってすぐ飛び級かまして大学に行く天才な友人がいたなら、そりゃ勉強見て貰うか。

 

「あれ、緒山さん?」

 

 後ろから声をかけられ振り向けば、そこにはクラスメイトが困惑の表情を浮かべていた。

「穂月か」

「おぉ、ようやっと来たわねー」

 

 やっと来た? と不思議に思っていると、穂月が「あ、お姉ちゃん」とかえでちゃんの方を見て言う。

 

「……何だ、穂月はかえでちゃんと姉妹だったのか?」

 

「うん、そうだけど……緒山さん、お姉ちゃんと知り合いだったの?」

 

「正確には、知り合いの家族って所だな。ウチの姉が友人関係で、俺はその妹だ」

 

「え~? 一緒にお買い物とか映画とか行ったし、もう私たち友達じゃない?」

 

 直接的な関係性はない、というつもりで言ったのだが、かえでちゃん的には直接友人関係を結んでいたらしい。流石はギャルだ。交友関係のフットワークが軽い。

「との事だ」とかえでちゃんの言葉に賛同すれば「あ~成る程ね~」と、穂月が呆れ混じりに納得したような顔をする。言いたいことがあるなら言えよと思うが。

 

 しっかし、穂月がかえでちゃんの妹か……と、数日前の会話を思い出す。

 元成人男性の兄者が、男の子に出会ったと思ったら、それはボーイッシュなファッションに身を包んだかえでちゃんの妹で、その子にちょっとホの字になっていたという話。

 なんともまぁ、複雑な心境である。兄をメス堕ちさせた男の正体が同じクラスの女子だったというのは……。

 

「な、なに? 言いたいことがあるなら言ってよ……」

 

「いや、そういえば何で穂月がウチに来たがってるんだろうって思って」

 

 追及を逃れるために話をそらす。しかし気になっていることに変わりは無い。

 姉の試験勉強に同行するって、別に楽しい事をするわけでもないし……よっぽど姉の友達に会いたいのか。

 そうでないならば、姉の友達の、その家族が目的か……。

 

「この子ったら、この前会ったまひろちゃんに夢中らしくってね~」

 

 と、考えを巡らせていたら姉の方から答え合わせが出た。

「ちょっと、お姉ちゃん!?」

 なんて言いながら穂月がかえでちゃんを問い詰めている辺り間違いないらしい。

 

「まぁ、家に来るのは良いが」

 本当は良くない。兄者に会わせるのは正体がバレるリスクがあるし、家には元成人男性の痕跡が多数残っている。

 ……だが、正直、このリスクは避けては通れないのであろう。

 

 ーー社会復帰に至るには、身内だけでなく、外部の人間とのコミュニケーションが必要になってくるだろう。

 

 いつの日か、吾妻准教授が言っていた言葉。

 あぁその通りだろう。そして、穂月は考える限り、一番リスクの低い相手なのかもしれない。

 だがしかし、進んで兄者の正体を明かすつもりもない故にーー

 

「ちょっとリビングで待っててもらえるか? 部屋に通す前に、ちょっと掃除しておきたくって」

 

 目的が兄者ならば、おそらく兄者の部屋で過ごすことになるだろう。

 とりあえず、あの部屋の中の隠す物を頭の中でリストアップしておくとしようか。

 

 

 

♂♀♂♀ あにまい ♂♀♂♀

 

 

 

 重々しい足音と共に大地が揺れるのを、その一帯の人々は感じた。

 恐竜だろうか。トカゲのような見た目のソレは、大体三階建ての建物ーー学校の校舎ぐらいの大きさをしており、二足歩行のためか胴体と足がかなり太い。そんな巨体が一歩前に進むだけで、人々が怯え逃げ出すのは当然だ。

 白亜紀の生物が現代に蘇ったのか? はたまた時間跳躍で現代に飛ばされてきたのか?

 いや違う。その姿にはハッキリと何者かの手が入っている様子が見て取れる。胸部分や肩周りはまるで鎧を着ているかのように金属に覆われており、右の手首から先は巨大で肉厚な曲刀。左手に至ってはガトリングガンになっている。

 さらには左目がカメラになっていることから、鎧や武器を身にまとっているのではなく、それらもろもろを改造で取り付けられていることが見る者によっては分かるだろう。

 

 一言にまとめると、見上げるほど巨大なサイボーグ恐竜が、町中で暴れているのだ。

 

 明確な命の危機に、人々は生存本能からソレに背を向け走り出す。ちょっとでもそのサイボーグ恐竜から距離を取るために。一秒でも早くそいつの攻撃範囲から逃れるために。

 だがそんな群衆の中、流れに逆らいサイボーグ恐竜の方へ向かって走る姿が三つ。

 

 それは年端も行かぬ少女達であった。

 

「出たわね、ガシャンリュー!」

 

「町を、人々を、無茶苦茶にしようなんて許せない!」

 

「アタシ達が相手になってやる!」

 

 行くわよ! と一人が声をかければ、ええ! ああ! ともう二人が応じる。そして懐から、白い素体にパステルカラーの装飾を施されたステッキをそれぞれ取り出した。

 それを3人が天へと突き出し、3本の先端が重なり合う。

 

『トランス、プニキュラ3! メーイク、アーップ!』

 

 三人が同時に叫ぶと、その姿を囲むように眩い光の柱がそこに現れた。

 その光量で中をうかがうことはできないが、3人がそれぞれ手を繋ぎ輪になり、額を付き合わせたり服が弾け飛んだり体が発光したりする。そして段々とその光った体が一つとなり、どこからともなく服が現れた。

 フリルが随所に見られる、黄色を基調としたまるでアイドルのステージ衣装のような物。ハート型のアクセサリーや、大きなリボンが次々と服に取り付けられていく。

 そして最後に、ショートのオレンジヘアーと、その下の勝ち気な瞳が現れた後、弾けるように光が飛散し、乙女の柔肌が姿を見せる。

 

 光の柱が収まっていき現れたのは、黄色主体の派手な衣装に身を包んだ、オレンジヘアーの女の子、一人だった。

 

「溢れるパワーで世界を動かす! キュラベアー!」

 

 ポーズと共に決め台詞。そんな少女を威嚇するかのように、サイボーグ恐竜、ガシャンリューが雄叫びを上げる。

 

「速攻で決める!」

 

 そう言って変身の時に使っていたステッキを取り出し、その先端を引っ張る。すると先端の宝石に繋がった鎖がステッキから伸びる。

 まるで鎖分銅のように振り回される先端の宝石から、風を切るヒュンヒュンという鋭い音が発せられる。

 

「行くぞ!」

 その宣言が決闘の合図であったかのように、少女、キュラベアーとガシャンリューが大地を蹴って距離を詰めた。

 片や少女とは思えぬ長い踏み込みで、片や巨体からは想像できない程の俊敏さで、一気に間合いは削られていき、先制を繰り出したのは射程の長いガシャンリューの方だった。接近の途中でガトリングガンをキュラベアーに向けて掃射する。

 一方、そんな物は読めていたとばかりのタイミングでキュラベアーは斜めにステップ。弾丸の雨をかわしつつ、さらに踏み込む。

 攻撃は止まない。今度はもう片手の曲刀をキュラベアーに向けて振り下ろす。見る者が見ればそれは見事な一撃だと称えただろう。刃の入り、速度、そして込められた力。原始的な本能により振るわれたそれはある種理想的な一振りであった。

 だが、キュラベアーはその上を行った。まるで曲刀の側面を滑るように彼女は飛び回避。そしてなんと振り落とされた腕に足を下ろした後、腕から駆け上がりガシャンリューの頭部へ接近を果たす。

 

「ソイヤー!」

 

 勢いをそのままに繰り出される跳び蹴り。恐竜の頭部、顎の下からかち上げるようなその一撃の威力は、建物じみた巨体を大きくぐらつかせる。

 

「ハイヤー!」

 

 そして作り上げた隙を突いて、今までためにためられた遠心力が解放された。まるで回転ノコのような音を出していた鎖分銅のような宝石が、勢いよく射出される。それは意思を持つかのようにガシャンリューの周囲を回り、一瞬で雁字搦めにしてしまう。

 

 蹴りでグラつき、鎖で縛られたガシャンリューは態勢を立て直すことができず、その場に倒れ込む。

 

 だがそれだけでは終わらない。

 

 キュラベアーはなんとその鎖を引っ張り、巨大なガシャンリューの体を引きずり回し始める。

 最初はズリズリと、次第にガリガリと、ガガガガガッと。大地を削る音は速くなる。

 そして次第に音はなくなり、なんたる事か……キュラベアーは巨大かつ相応の重量があるガシャンリューを振り回すうちに、その大質量を空中に浮かせ始めたのだ!

 

「ハリケーン……スローウッ!」

 

 そして、解放!

 キュラベアーを中心に高速で振り回されていたガシャンリューは、はるか上空へブン投げられたのだ!

 

「トランス、キュラジャガー!」

 

 ガシャンリューが空中に飛ばされている間に、キュラベアーがステッキを上に向けポーズを決める。

 

「メーイク、アーップ!」

 

 その姿が一瞬、目もくらむほどの光に包まれたかと思うと、今度は違う少女が現れる。

 コスチュームのデザインは似ているが、しかしイメージカラーがイエローからブルーに変わっている。髪も大ボリュームの銀髪縦ロールになっており、切れ長な瞳が開かれ、上空のガシャンリューを捉えた。

 

「ストーム、ブリンガー!」

 

 ステッキを、まるで鞘から剣を抜くように、左手の中を通していく。すると抜刀されたかのように、ステッキは光の刀身を持つ剣へと姿を変えた。

 

 少女、キュラジャガーが、まるで深い一礼をするかのように姿勢を低くする。その姿を見た者が居れば、まるで弓を引き絞るかのようだ、と思ったことだろう。

 それは限りなく正解に近い。次の瞬間、大地という弓から、キュラジャガーという矢が、上空にいるガシャンリュー目がけて放たれた。

 

「グァァアアアアアアア!」

 

 迫り来る脅威に気がついたのか、空中で身をひねり、腕のガトリングを向け掃射する。空中で姿勢を整え、銃弾を放つという曲芸じみたその技は、見事キュラジャガーへ放たれた!

 空中という逃げ場のない場所で、迫り来る弾丸の嵐! あわれ少女は無残な蜂の巣じみた姿を晒すだろうとなったその時、キュラジャガーの姿が消える。

 人間離れした動体視力を持ったガシャンリューは、何が起こったのかを捉えていた。

 なんと、跳んだのである。

 飛んだのではない。空中で、空気を蹴り、空で跳んだのだ。

 なんたる脚力! 現実離れした技、空中二段ジャンプにより難を逃れたキュラジャガーは、光る切っ先をガシャンリューに向け、さらに、もう一跳び!

 

「ハァッ!」

 

 ガシャンリューの装甲に覆われた胴体に、大きな切断跡! 考えるまでも無い、キュラジャガーの光の剣が、その猛威を振るった跡である。

 

「セイッ!」

 

 だが、それだけに終わらない。

 なんと剣を振り抜いた所から、もう一跳び! さらにガシャンリューに斬り傷が入る!

 

「ヤァッ!」さらに一撃! 「タァッ!」さらに一撃! 「トイヤッ!」さらに一撃!

 

 空中で繰り返される跳躍と共に、ガシャンリューの四方八方から斬撃が降り注ぐ。

 たまらずガシャンリューは身を丸くし防御姿勢を取るが、腕の武器は破壊され、足は走ることはもう叶わぬほど傷だらけ。尾は半ばで断ち切られた。

 

 そして、一拍の間。それは連撃の終わりを意味しているのではない。

 

 なんと、キュラジャガーは地上に居た。

 地上で、しっかりと大地を踏みしめ、剣をまるで、腰の鞘に収めているかのようにしている。

 再度言う。連撃の終わりではない。

 これは、強く、鋭く踏み跳ぶための、一呼吸だったのだ。

 

「チェストォォオオオオッ!」

 

 大地から上空へ。居合い抜刀による一閃。

 空気は裂け、風が鳴り、刃の通った跡が光となって、地上から空へと伸びる。

 その途中で満身創痍のガシャンリューが防御を崩され、空へその身をさらしている。

 そしてその先には、ステッキを上空へと向けるキュラジャガー。

 

「トランス、キュライーグル!」

 

 ステッキの先が、強烈な光を放つ。

 

「メーイク、アーップ!」

 

 三度目の変身。光に包まれる乙女。

 そして現れるのは、身長と同じくらいに長い、赤髪のツインテールを、まるで翼のように空へと広げる、ピンクの衣装を身にまとった少女だった。

 今まで肩幅程度の長さしか無かったステッキが、身長と同じ程にまで長く伸び、先端の宝石も片手に収まっていたであろう物が、両手でも収まらない程の大きさになる。

 

 もはや長杖となったその得物を、バトンのように回し、先端をガシャンリューへと向ける。

 向けているのは杖の筈なのに、その姿はまるで長銃を構え狙い澄ますかのような、静かで張り詰めた雰囲気に周囲の空気を塗り替える。

 しかしパチリと開かれ的を狙う双眸は、熱く、温かく、優しさをその中で沸き立たせるかのような輝きを放っていた。

 

「汝の心を光の下にーー」

 

 周囲に光の粒子が、まるで溶け出すかのように現れる。

 

「その身を覆う闇を祓わんーー」

 

 光の粒子は杖の先端に引き寄せられるかのように集まりだし、それは段々と大きな塊へとなっていく。

 

「世界に溢るる愛の力よ。私に力をーー」

 

 それは、直径がキュライーグルの身の丈よりも一回り大きいサイズにまで成長した。

 桃色に光るその巨大な光球は、内包された力の強さからか、何千、何万もの鈴を鳴らしまくるかのような音を発していた。

 

「ピュリフィケーショォォオオオンーー」

 

 一瞬、光は指先程にまで収縮しーー

 

「バスタァァァアアアアアア!」

 

 瞬間、キュライーグルを頂点とした光の柱が現れた。

 それは力の奔流。見た目に反し、その光に収まりきらない何かの流れ。

 されどその先に破壊はなかった。

 地は穿たれることはなく、空は裂かれることもない。そして柱の直中で光を受けたガシャンリューも、傷を負うことはなかった。

 ただ受けた傷口から洗い流されるインクのように、ガシャンリューの姿が溶けて流されていく。

 機械はなくなり、金属の気配は消え、恐竜の体も、四肢や首はもうない。

 ガシャンリューだった物が全て消え去った後に残されたのは、怪獣のソフビ人形を胸に抱いた幼い男の子だけだった。

 重力落下にしては不自然なほどゆっくりとした下降に、ふわりとキュライーグルは追いつき、その男の子を抱っこする。

 そして大地に降り立った後に、近場にあったベンチにゆっくりと男の子を寝かせてあげた。

 キュライーグルの視線は優しい物だ。

 同じ有翼だというならば、イーグルというよりはエンジェルだと思える程に……。

 

 

 

「いやー、いいなぁ、今期のプニキュラ」

 

 そんな手に汗握る戦闘シーンを画面越しに見ていたオレは、確かな満足感に包まれていた。

 

「最近5人編成が主流になってたけど、それが3人に減り、さらには一人に融合なんて……どうなる事かと不安だったが、コレはコレで良き良き。いや、むしろ熱いまである!」

 

 画面にはスタッフロールが流れ、エンディングがスピーカーから流れる。そんな部屋の中あぐらをかきながら、一人アニメを評価してうんうんと頷く。

 やはりニチアサの変身ヒロイン物は素晴らしい。積み重ねた経験からお出しされるキャラクターデザイン、ストーリー構成、そして演出が高いレベルでかみ合い、萌えと燃えの二重螺旋を描いている。

 特に今回の話。今までそれぞれのフォームでバラバラに戦っていたのに、なんとフォームチェンジを繰り返して連携技を繰り出したのだ。こんなの心が熱くならないわけがない。幼少からこんな傑作を見ながら育つことのできる現代っ子は恵まれていると感心するばかりである。

 

「よいしょ」

 

 傍らに置いておいたステッキを手に取る。無論、本物ではない。今期のプニキュラ、トランスプニキュラ3の変身アイテムを模したオモチャである。カンナに買ってきて貰った時すごい複雑そうな顔をされたが、頼み込んだ甲斐があったというもの。

 鏡の前でステッキを構える。

 女にされたことは腹に据えかねる事だが、しかしなったらなったでやりたい事というのは往々にしてあるものだ。女湯に入ってみたり、女声でアニソン熱唱したり、ヘアスタイルで遊んだりエトセトラ。

 その内の一つに、ごっこ遊びという物がある。

 

「トランス、プニキュラ3!」

 

 鏡の前で、少女の姿が跳ねる、踊る。

 魔法少女系の変身バンク。成人男性の体でやると不気味でしかないが、いやはや美少女ボデーでやると、かなり良い感じじゃないかぁ。

 

「メーイク、アーップ!」

 

 バチコンとポーズ決め! 女の子が変身アイテムではしゃぐ姿は、我が身ながらもなかなか絵になってーー

「兄者、ちょっといいか……」

 

 事前ノックも無しにガチャリとドアが開かれる。

 学校帰りであろう、制服姿の妹とバチコン目があった。

 お互い、何故か動かない。オレは魔法少女変身ポーズで固まり、カンナは半開きのドアノブを握ったまま制止している。そのまま秒針の動く音だけが何度が響き、先に動いたのはカンナだった。

 

「ごゆっくり……」

 ドアを閉め出て行こうとする所に、オレは瞬時に飛びつき「待てカンナ! 話を聞け!」と交渉を開始する。

「ち、違うんだカンナ! ほらあれだ! お前にコレ買ってきてもらっただろ? 所持するだけで満足感を得られるのも確かにそうだが、しかし今の俺は女の子! 見た目だけなら使って遊んでもおかしくない! ならば費用対効果を高めるためにもやってみようとしただけなんだ! そう、これはほらアレだ! 一流ニートとしての節約術とでも言うかその、な!?」

「大丈夫だ兄者。俺はこれでも理解ある方だと自認している。見なかったことにするし誰にも言わない」

「か、カンナぁ……」

 

 流石はマイシスター。オタク心に理解ある家族はやっぱ宝だよなぁ!

 

「ただできればティッシュは床にじゃなくてゴミ箱に入れておいてくれよ?」

 

「いや自慰じゃねぇよ!? お前まさか魔法少女の変身アイテムを煌びやかなアダルトグッズか何かに勘違いしてるんじゃないだろうなぁ!? ちっげぇよコレは女の子に愛と勇気と夢を届ける子供のオモチャで、欲と快楽と液にまみれた大人のオモチャじゃねぇから!」

 

 とんでもねぇ勘違いしてたよこの子! というか、そっちに理解あるのかよ! ちょっとお兄ちゃん複雑な気分だよぉ!

 

「つうか、オレは今やっちゃったら頭がパーになるんだからやるわけないだろうが! 流石に自分の理性とか知能を手放してまで一時の快楽に浸る程の短慮じゃないやい!」

 

「え? あ、あ~……そういえばそうだったな……」

 

 思い出した思い出した、みたいに言ってくる。お前にとっては他人事だろうがオレにとっては文字通りの死活問題なんだぞ。忘れてくれるなよまったく。

 

「って、そーいやーどうしたんだ? なんか用があって来たみたいな雰囲気だったけど」

 

 確か入ってくるときに言ってたのが「兄者、ちょっといいか……」だったような。

 

「そうだった。実は兄者に客人が来ていてな」

 

「オレに客って事は、かえでちゃん!」

 

「来ているが、そっちは姉者の客だ。兄者の客は妹の方だ」

 

「え、もみじ?」

 

 住所を教えたっけ? とちょっと考えたが、かえでちゃんがオレの家知ってるんだから、それに着いてきたら来れるのか。

 

「しばらく下で来客対応頼む。その間に、俺はこの部屋を片付けるから」

 

「片付け?」

 

「かえでちゃんといえど、あまり姉者の部屋には入れられないだろう。言っちゃなんだが、見せられない資料とか大量にあるだろうし」

 

 あー確かに? 読ませちゃいけない物とか置いてそうだな。主にオレ関連の研究資料的なサムシング。

 

「で、かえでちゃんが姉者に勉強を教わりに来ている以上、兄者と穂月の二人が居間に居ては邪魔になりかねない」

 

 勉強の横でおしゃべりしてちゃそりゃー邪魔だろうからなー。そんでオレの部屋に通そうって事か。

 

「でもお前の部屋に通せばよくないか?」

 

「俺の部屋は元々両親の部屋だからな……よそ様には近づけさせることもできん物も保管しているし、何より兄者の客だ。兄者の部屋に通す方が自然だろう」

 

「まぁ、言いたいことは分からんでもないが……」

 

 自室を見渡せば、そこは何処からどう見ても男のオタク部屋が広がっていた。パソコンにゲーム機、テレビにブルーレイディスク。壁の本棚には漫画にエロ本。ラックには煽情的なポーズのフィギュアがずらりと並ぶ。

 ココに女子中学生を呼ぶのは、その、駄目だと思う……。

 

「安心しろ兄者。すこし時間を稼いでくれれば、その間に俺が最低限人を通せるレベルにまでしておくから」

 

「そ、そうか? まぁ、そう言うなら……」

 

 ここは任せて、行くとしますか……。

 

 あぁちなみに、カンナにエロい物を触らせることには抵抗ないよ。引きこもり時代から散々部屋の掃除させてたからね……。

 

 

 

♂♀♂♀ あにまい ♂♀♂♀

 

 

 

「いらっしゃ~い」

 

 1階に降りてリビングを覗けば、テーブルの上に広げたノートと教科書に向かってペンを握るかえでちゃんと、その横で足組しながら教科書を肩肘つきながら読むみはり。

 そしてもう一人が、オレの客の筈なのだが……。

 

「あれ? もしかして、もみじ?」

 

 そこにはキリリとした印象ながらも、見覚えのある服を着た、オレをメスに堕としかけた女の子がいた。

 

「まひろちゃん! この前ぶり~!」

 

「わ~スゴイねもみじ! ソレ中学校の制服だよね!」

 

「あ、うん。学校帰りにお姉ちゃんについてきたから」

 

 そう、もみじは中学校の女子制服の姿だった。シャツに吊りスカートという、カンナがいつも着ている服と同じ物だが、しかし受ける印象は大分違う。

 

「うんうん、ちゃんと似合ってるよもみじ!」

 

「そうねぇ、ちゃんと似合ってるわよ、もみじちゃん」

 

「え、あの、ちゃんと似合ってるって何……?」

 

 オレとみはりがつい本音の評価をしてしまえば、その言い回しが引っかかったらしくもみじからツッコミが入る。

 いやまぁ、なんというか……。

 

「ほら……身内が……ね……」

 

「カンナの制服姿を見てると、どうしてもねぇ……」

 

 オレとみはりがカンナの名を出した途端に、かえでちゃんともみじも思い至ったのか「あ~……」という言葉にすることをためらわれる納得感を吐き出した。

 高身長に基本真顔で切れ長な目をした我が妹の制服姿。着ている人に幼さというか子供っぽさが足りないせいで、どーにも成人女性が女子中学生の制服を着ているような無理矢理感が否めないのだ。

 

「確かに、クラスでもちょっと浮いてるかもねー、緒山さん」

 

「あたしも、今日学校で見た時、ちょっと変な目で見ちゃったのよね~……」

 

「あの子にも自覚あるっぽいし、気にしてないと思うわよ? なんなら、スーツで通学できるなら絶対そっちが良いって言ってたし」

 

 ちょっと想像する。タイトな黒いスーツに身を包み、何故かかけている眼鏡をクイッと真ん中を押し上げて直すカンナ。

 に、似合いすぎている……。

 

「緒山さんには似合うかもしれないけど、でもそれでクラスの中に居られるのはなぁ……」

 

 もみじの言葉にハッとさせられる。確かに、まだ制服だからギリギリ中学生だと言い張れる所を、スーツ姿で教室に入ろう物ならソレはもう先生だろう。そんな格好で、生徒用の席に座って授業を受けるとか子供の群れに紛れ込んだ成人女性に他ならない。なんだこの人間社会のスイミーとはたまげたな。

 

「待たせた。部屋の掃除終わったぞ」

 

 と、そんな話をしていた所に噂の当人が降りてきた。

 中学校の制服を身にまとった、成人女性みたいな見た目の御年13歳の女の子が。

 

「……何だ、みんなして俺の事を見て。どっか汚れでもついてるか?」

 

「いや、別に何も……」と、本人以外の4人の声がハモった。

 

「そんじゃ、とりあえず試験勉強再開しましょうか! なんかつい流れで話し込んじゃってたし」

 

 パンパンとみはりが手を叩いて「ほらほらかえで~。ペンを動かしなさ~い」と促し、かえでちゃんは「もうちょいお話してたかったな~」と名残惜しそうにしながらも、視線を机の上に向けた。

 

「そんじゃ穂月、上がってくれ。案内する」

 

「うん! お邪魔しまーす」

 

 何やら嬉しそうに、もみじはニコニコ顔で立ち上がった。

 

 

 

♂♀♂♀ あにまい ♂♀♂♀

 

 

 

 カンナの仕事は見事だと感心するがどこもおかしくはない。

 部屋に散らばってたゲームのパッケージや漫画本はちゃんと棚に入れられて、コントローラーやヘッドホン等のガジェットも定位置にかけられている。

 布団も畳んで部屋の隅へ寄せられてるし、普段は俺の座椅子ぐらいしかない所を、座卓の周りに座布団を二つ持ち込んで、もみじと自分の座るところを作っている。

 と、普通の点以外にも……。

 本棚の方へ目を向けると、そこには少年漫画と青年漫画が並んでおり、一見してエロ本の類いは無いように見える。おそらくだが、あの健全本を取れば奥の方は不健全本が並んでいるのだろう。

 次にラック。R-18ではないけれど、劣情を刺激される芸術の立体物が並んでいたそこには、クローゼットの奥の方へ仕舞っていた筈の工具セットやドラゴン裁縫セット。あまり使わないガジェットやケーブルをまとめて入れていた筈のコンテナ。そして別の部屋から持ってきたであろうオーディオプレイヤーまで使って空きを埋められている。一見するだけでは、そこに別物があったなんて思わないであろう程の違和感のなさだ。

 もみじには見えない位置からカンナにグッジョブとハンドサイン。対してカンナはうやうやしく胸に手を当て、ちょっとだけ礼をした。

 

「意外と男の子っぽい部屋だねぇ」

 

「そ、そうかな?」

 

「なんて言うか、置いてる物とか、色合いとか」

 

 まー本当は成人男性引きニートの部屋ですからねー……大正解。

 

「この前会った時服がすっごく可愛かったから、それっぽい部屋なのかな~って」

 

「あ~、服はみはり……お姉ちゃんに選んでもらってて、そっちの趣味だから……」

 

「みはりさんの趣味なんだ~。似合ってたからてっきりまひろちゃんのコーディネートなのかと」

 

「オ……っと、その、ワタシの服の趣味だと、パジャマとかシャツ一枚とかになるかな~」

「外着ですらない!?」

 

 しまったつい引きこもり成分が顔を出しちまった……っ! えっと、話題の方向性を変えねば……!

 

「その、もみじの服の趣味って、前会った時みたいな感じなの? こう、ワンパクというかーー」

「ボーイッシュ、か?」

「そうそうボーイッシュ!」

 

 思い出すのはスーパーで出会った姿。短パンにスニーカー、シャツにキャップという、オレも幼い頃は同じような格好をしていたであろうコーディネイト。まぁオレはもみじ程魅力的な男の子ではなかったのだが。

 ……いや魅力的な男の子って何だよ。

 

「へ? あ~、うんまぁ……そうだね……女の子っぽい服は苦手かなぁ……スカートって足下スースーするし……なんか心許なくって……」

 

 そう言いながら、もみじは伸ばしていた足を体育座りみたいに折りたたむ。多分今の自分がそのスカートを履いていることから来る気恥ずかしさからだろう。スカートから下着を覗き込めないような姿勢を取っている。

 

「分かる。こう、下着が空気にさらされてるって感覚がすごく恥ずかしいんだよな。そりゃ普通にしてれば見れないけど、やろうと思えば見れる状態が恥ずかしいというかな」

 

 もみじの言葉に、カンナが深く頷き同意する。といっても羞恥を見せるもみじに対して、カンナはあぐらをかいて腕を組む亭主関白スタイルだ。

 なんか、二人ともスカート苦手なのは一緒なんだろうけど、根本的に何か違うような感じがする……。

 

 まぁかくいうオレもスカートは苦手なのだが。ほら、オレって元大人の男だからさ。どうしてもその辺恥ずかしさってのは感じてしまうものなのさ。

 といいつつも、もう若干慣れてきた所はあるのだが……。

 

「それに、そもそも私には似合わないし……」

『いや、それはない』

 

 被せ気味にオレとカンナの声が重なる。

 

「スカートはいてるもみじは、普通にかわいいと思うよ?」

「えぇ!?」

「顔立ち整ってるんだから、下手な物じゃなけりゃ大体合うだろう」

「え、ちょっと!?」

「そりゃ初対面の時は男の子に間違えたけど、印象としては綺麗な顔立ちの美少年だったし。そういうのは服装と化粧で美少女になるってのが定番なんだよ」

「あ、あうあう……」

「それに俺を見てみろ。スカートが似合わない女ってのは俺みたいなのを言うのであって、穂月は全然ーー」

『待ってそれは違う』

 

 今度はオレともみじの声が重なる。

 

「お前が学校の制服が似合わないのは、スカートだからじゃなくて見た目の年齢のせいだからな? 普通に大人の女性向けの服なら、むしろスカートを着こなせる方だろうが」

「いや、そんな事は……」

「私と違って、女性っぽく体も成長してるんだし、それでスカート合わないってのはちょっと傲慢じゃないかな」

「べ、別に俺の体は……」

「そりゃかえでちゃんやみはり程の起伏は無いけど、お前の良さは縦にスラリと伸びた綺麗さなんだから、そこを活かす服なら大体似合うって」

「それは、えっと……」

「試しにお姉ちゃんの制服着てみる? 多分似合うと思うよ」

「それは勘弁してくれ」

 

「っていうか大丈夫だって~。私が見る限り、二人ともクラスでトップクラスレベルの見た目なんだから。極端に似合わない服なんて早々無いって~」

 

 個人的な見解だけど、ファッションの善し悪しって大体は着ている人の美貌でゴリ押せる物だと思うんだよね。ほら、ただしイケメンに限る、って言葉があるんだしさ?

 

「う、う~ん……でもこの中で一番カワイイのってまひろちゃんだよね?」

 

 ……えぇ!?

 

「まぁ、そうだな。客観的事実として、顔面偏差値が一番高いよな」

 

「え、い、いや、それはそうかもしれないけれどっ!」

 

 確かに今のオレの見た目は、ハッキリ言って美少女と言って良いだろう。

 しかしこの体の見た目はみはりに薬を盛られて変化したもので、本当のオレはただの引きこもりニート成人男性。極度の不細工とは言わないまでも、良くて普通止まり。

 そんなオレが、この作られた見た目で美少女と褒められるのも……な、なんだか、なぁ? 違うっていうかぁ~……。

 

「あぁ~っ、認めたな~?」

 

 え? なになに何なの?

 なんかもみじが「フッフッフ……」なんて言いつつ、座った姿勢から四つん這いに。そこからニジリニジリと寄ってくる。

 思わず後ずさるが、思いのほかもみじが速く、オレはすぐに追いつかれてしまう。

 

「うぬぼれ屋さんは~……」

 

 こうだ! という言葉と共にもみじが飛びかかってくる。

 現役女子中学生に引きこもりニート少女ボディーが運動面で勝てる道理など有るはずも無く、オレはなすすべも無くもみじに捕獲された。

 

「こうしてやる~♪」

 

 もみじの10本の指がそれぞれ独立して意思を持っているかのように、コチョコチョとオレの体の周りを楽しげに這い回る。

 

「イッヒャヒャヒャヒャヒャっ、あーっ! あーっ待って! やめぇぇ~……ヒヒヒッ!」

 

 いわゆるくすぐり攻撃という、男同士のコミュニケーションではまず味わうことの無い刺激に……いやまぁ、そんなに親密な友達とか居たことないんだけどさ。とにかくオレの体は否応なしに跳ね回った。全然言うことを聞いてくれない。

 

「カ、カンナぁっひひひっ! た、助けてぇ~……」

 

 息も絶え絶えにこの部屋に居るもう一人に助けを求めるも、何故か知らんが我が妹はそっぽ向いてコチラを見ようともしない。

 

「……百合の間に挟まるのはイカンだろう」

 

 無駄に真面目ったらしい口調でカンナはそうのたまう。確かに百合の間に挟まるのは極刑物であることは間違いないのだが、しかしソレは男の話だ。女の子であるお前は問題ないし、なんなら片方は中身が男なんだから百合ですらないんだぞ。

 

「い、良いから止めてぇ~!」

 

「逃がすか~♪」

 

 あっ、ま、待って! 脇の下とかホントだめっ! いひぃっ、う、内太もも! 内太ももってこんなに感じやすい物なの!? 止めて手のひらなんて触り慣れてる筈なのにぞくぞくするぅ~!

 ガスッ! と……。

 くすぐったさから逃げようと暴れ回っていた四肢から、鈍い音と共にくすぐったさ以外の感覚が駆け抜ける。

 

「イギッ!」

 

 それは、痛み。どうやら勢い余って家具の何かーーバサバサと本が落ちる音がしたことから、おそらく本棚を蹴飛ばしたらしい。足の指からガツンと痛みが駆け巡った。

 

「いぃったい足がぁぁあああっ!」

 

 とっさに背を丸めてぶつけた足を手で押さえる。先ほどまではくすぐったさに悶えていた体が、今度は痛みで悶えまくる。

 

「わぁぁああああやりすぎた! ゴ、ゴメンねまひろちゃん!」

 

「少し待ってろ! 今救急箱を取ってくる!」

 

 思わぬハプニングにもみじのくすぐりは止まり、コッチを確認したであろうカンナがすぐさま部屋から飛び出していった。

 

「だ、大丈夫ぅ……」

 

 痛いことは痛いし、悶えることは止められないが……まぁ、うん、ダイジョーブ……タンスの角に小指をぶつけた程度の痛みだ……。

 

 ふーっ、ふーっ、と痛みを乗せて体から逃すように息を吐いていると、もみじが気遣うように背中をさする。それに甘えている数十秒の間にカンナが救急箱を持って戻ってきたのか、部屋の扉が勢いよく開く音がした。

 

「ほら、ぶつけた所を見せてくれ」

 

 言われて押さえていた指を放すと、ガチャガチャと箱の中身を漁る音の後に、シューッとスプレーを吹き付ける音がした。痛みで熱を持った足の指が冷えていくと共に、ちょっと痛みが消えていくような感じがする。

 

「あ、ありがとう、カンナ……」

 

「大事ないか?」

 

「あぁ、ちょっと足の指ぶつけただけだから、大丈夫大丈夫……」

 

「ホントにゴメンねぇ、まひろちゃん……調子に乗り過ぎちゃった……」

 

 自分のせいでこんな事になったという自責からか、もみじが本気で申し訳なさそうな顔で謝ってくる。

 

「まぁ……自分一人の時でもたまにやらかすし……へーきへーき……」

 

「うぅ~、ホントゴメン……漫画もこんなに散らかしちゃって……」

 

 カンナの手当のおかげか、痛みもだいぶ引いてきた。涙を拭えば、もみじが申し訳なさそうに床に散らばった漫画を拾う姿が目に飛び込んでくる。

 

「まひろ、まだ痛むか?」

 

 カンナがぶつけた指をにぎにぎしてくる。もう大丈夫、痛くない。と言えば、骨には達してないようだな。と返ってくる。

 

「流石に骨折の心配は大げさだろ~」

 

「運動不足と日光不足は、骨の強度を弱めると聞いたことがあるからな。ヒビぐらいは入るんじゃないか?」

 

 い、いや~流石にそこまで弱くはならんだろ~。大げさな~。なんて笑っている所に、今度はもみじの「ヒャウッ!?」という悲鳴じみた声が入る。

 何だ、もみじも足ぶつけたか? なんて思いつつ目を向けるとーー

 

 もみじはいくつかの漫画を抱えつつ、一つの本を持ったまま、赤面して固まっていた。

 

 本は閉じられたままでその表紙はもみじの方を向いている。だが、何度もお世話になったその背中から、それがなんという名前なのかをオレは瞬時に察した。

 

 ~みるきーすぷらっしゅ! 白くて甘い一日~

 

「わぁぁぁあああああああああっ!!」

 

 先ほどまで悶えさせられた痛み等一瞬で彼方へ吹き飛んだ。

 今はとにかくあの生臭いオーラをまとうあの一冊をすぐさま回収せねばならないという使命感に突き動かされていた。

 

 我ながら普段の運動不足が嘘のような機敏さでもみじの元へ跳んでいき、抵抗を許さぬ巧みな技でもってその猥本を回収する。とにかくこの娘から離さねばならぬと距離を取り、背中を向けて胸に隠した。

 

 だがまぁ当たり前だが、そんな事をした所で手遅れであったことに変わりはないのだろう。本ともみじの間に挟んだ背中に、とんでもない物を見たと語る視線が突き刺さる。

 

「ま、まひろちゃん……それって……」

 

「あ、いや、これは……」

 

 何か、何か無いのか……この場を切り抜けるナイスな言い訳はーーっ!?

 とっさにカンナの方へ視線を向ける。この頭のいい妹ならば、口八丁でこの状況を切り抜けられるのではという期待がオレにはあった。

 そんなオレのアイコンタクトに気付いたように、カンナは深く頷いた後、もみじの方へ向いて口を開いた。

 

「穂月、お察しの通り、今お前が持っていたのはエロ本だ」

 

 誤魔化せよお前ぇぇぇえええええええっ!!

 そんな心の絶叫を察してか、カンナは手のひらをコチラに向けてオレを制してくる。

 

「そ、その、そういうのって、まだ私たちが持ってちゃ駄目なんじゃ……」

 

「うむ、確かにコレは18禁。せいぜい13歳の俺らは、本来持っていてはいけない物だ」

 

「な、何でそんなものがまひろちゃんの部屋に!?」

 

 もう気恥ずかしさからか、もみじの顔は真っ赤であり、目が潤んでいて若干涙目になっている。

 オレもこの状況の悪さから、顔から血の気が引いていっているのを感じる。

 そんな中、動揺も照れも一切無い、冷静そのものの顔をしたカンナが「それはだな」と話を繰り出す。

 

「この部屋が元々、俺らの兄が使っていた部屋だからだ」

 

「……え、お兄ちゃん?」

 

 そこからのカンナの口八丁っぷりは、成る程みはりの妹なのだと思える程に説得力のある巧みな物だった。

 

「まず家系図の話になるんだが、正確には我が家は兄一人、妹二人の合計3人兄妹なんだ」

 

「えっと、あれ? みはりさんと、緒山さんと、まひろちゃん……3人じゃないの?」

 

「まひろは正確には従姉妹に当たる関係でな。実はこの家の子ではないんだ」

 

 おっといきなり家を追い出されてしまった。

 

「兄は今、大学に通っており一人暮らしでな」

 

「あーそっか……みはりさんがお姉ちゃんと同い年なら、そのお兄さんなら大学生でもおかしくないのか……」

 

 うっ……ホ、ホントは引きこもりニートなんだけど……

 もみじの中で膨らんでいっているであろう緒山家のお兄さん象と、現実のオレとのあまりの落差に、ちょっと胸を圧迫されるような痛みが走る。

 

「あぁ。この家を出て行く際に、荷物を減らすためにこれらの本は置いていったんだ。その後にまひろがこの家に来て、空いていたこの部屋を使うことになったんだな」

 

 ナイスだカンナ! この理由なら本来のオレである緒山家の兄が、オレ(女の子)に卑猥な本を読ませて、純白な心に薄汚れた白を塗りたくるような奴というイメージがつかない!

 

「…ところで、なんで従姉妹のまひろちゃんが、緒山さんと暮らしてるの?」

 

 た、確かに……普通は従姉妹と一緒に暮らしたりしないよな……。

 

「その説明に入る前に、穂月は内の姉者が飛び級して大学に通ってることは知っているか?」

 

「う、うん。お姉ちゃんに連れてきて貰う時に、みはりさんの事は聞いたよ」

 

「そうか。ちなみに、姉は薬学部で新薬の開発をしていてな。まひろはその治験……実験のために、内に居候しているんだ」

 

 お、おぉ……すごいぞカンナ、実にソレっぽい理由だ! まぁ確かに、実際オレは今治験をしているわけだし、そんなに嘘をついているわけではない。

 

「そっか……成る程ねぇ……」

 

 ところで……と、もみじはそう言いながら本棚の方へ目を向ける。釣られてオレらも、本が結構落ちてしまい、二重に並べられた内の奥の列が丸見えになった本棚を見た。

 並ぶ背表紙に書かれているタイトルには「巨乳」やら「背徳」やら「乱れた」がチラリホラリと並んでおり、まぁこれだけなら青年漫画とワンチャン騙せたかもしれない。

 しれないが……その、オレの性癖って、陵辱物なのよね……。「犯す」とか「無理矢理」とか「強姦」とか……もう、どうやっても隠しきれないワードの方がズラリと並んでおり……

 

「……これ、全部エッチな本……?」

 

 本棚の奥の列を埋め尽くすといわんばかりにならぶスケベブックスを前に、もみじは信じられない物を見たと言わんばかりに唖然としている……。

 いやまぁ……オレも言われてみると、これはちょっと多いかなと思わなくもない。結構大きい本棚が二つ。その半分がエロ本である。長年かけて買い足してきた少年漫画、青年漫画と、ここ数年買ったエロ本の数がほぼ一緒なのだ。

 

「穂月、お前は勘違いしている。世の成人男性なら、これぐらいの量はむしろ普通だぞ」

 

 カンナがもみじにフォローを入れるも、その内容は「そんなわけねーだろ」と言いたくなる物だった。お前はオレを基準にしているのかもしれないが、世の一般男性の所持数はここまでじゃない。……多分。

 いや、オレも実態を調べたわけじゃないし、単なるイメージだけど……こう、せいぜいが10冊少々なんじゃないかなって思う。

 

「だ、だとしても、まひろちゃんが使ってる部屋に、こういう本がいっぱいあるのは問題だよ!」

 

 あ、はい……せいぜい女子中学生ぐらいの女の子が使ってる部屋に、大量のエロ本があるのは良くない、という主張はごもっともです……。

 

「待て穂月! このお宝本の所有者は兄者だ。勝手に捨てることはまかり成らん!」

 

「べ、別に捨てなくても、せめて片付けようよ!」

 

 あーうん。捨てるとなると流石に駄目だけど……ま、まぁ、片付けるぐらいなら……。

 

(この体になってから最近、全く読んでなかったからなぁ……)

 

 間違いが起こってオレが大人の一人遊びで至ってしまったら、頭がパーになっちまう。そんなもんだから、最近はそういうの避けてたんだよなぁ……。

 

「片付けるのもちょっとな……」

 

「だ、駄目なの? 緒山さん」

 

「あぁ。俺が読む時、いちいち引っ張り出さなきゃいけなくなる」

 

「そうだねもみじ、この本片付けようか」

 

 何でぇ!? みたいな顔するんじゃないよカンナ。

 

「お前まだ誕生日来てないから12歳だろうが。18禁はまだ早いっての」

 

「何を言う! 世の中坊と言えば性的な物に興味を持つお年頃! むしろエロ本の一つや二つ持っているものだろう!」

 

「そんなわけ無いだろ。いいから、本を仕舞う段ボール箱でも持ってきて」

 

 うん、良い機会かもしれない。この妹の手の届くところに、過剰な量のエロ本があるのは教育上良くないんじゃないかとは薄ら思ってたんだ。これを機に、少し健全化を図るのも悪くはない。

 そんなぁ……。みたいな目をしながら、トボトボとカンナが部屋から出て行くのを見ながら、オレはそんな決断を下した。

 

 

 

♂♀♂♀ あにまい ♂♀♂♀

 

 

 

 十数分後。俺の本棚の半分を埋めていたエロ本は、3つの段ボール箱へと姿を変えた。

 作業自体は滞りなく終わった。もみじは本の表紙やタイトルに赤面しながらテキパキせっせと段ボール箱に入れていった。

 そんなもみじの作業に「待て穂月。右手のそれは陵辱物で、左手のは純愛物。ジャンルが違うぞ」とか「穂月、それは巨乳物と悪堕ち物だ。両方乳が大きくて似ているが実は別ジャンルなんだ。注意してくれ」とか「その両方は巨乳物だが、二次制作物は原作で分けるんだ」等などとのたまいながら、淀みない手つきでエロ本を仕分けて収納するカンナに「いいから全部仕舞う! 分類分けは本棚に戻すときにやってもらってよ!」ともみじがぶち切れる出来事があったが、まぁうん。順調に終わりましたよ、と。

 

「ふぅー……こんなもんかな?」

 

(さらば、戦友達……しばしの別れだ……)

 

 大変世話になった彼らとの別れを惜しみながら、ちょっとした達成感に浸る。

 

「……じゃあ、後は任せてくれ」

 

「待てカンナ」

 

「……どうした? まひろ」

 

「その段ボール箱、どうするつもりだ?」

 

「どうするって、このまま部屋の床に転がしておく訳にもイカンだろう? 部屋の収納へ入れておこうかなと」

 

「いや、この部屋のクローゼットでいいだろうが」

 

 今回の件は、お前からこのエロ本を離すのも目的の一つなんだから、そんな所に置いておけるわけがないだろう。

 

「クローゼットってココだよね?」

 

 もみじが指さしたそこに「うん、そこそこ」と返す。

 

「あ、待て穂月!」

 

 何かに気がついたのか、カンナがそう呼び止めるものの間に合わず、もみじは俺の部屋のクローゼットを開け……

 

「な、何これ……」

 

 もみじがソレを見て絶句する……。

 

 ギリギリ18禁ではないというだけの、やたら艶めかしいフィギュアの数々。

 中身に対して何でそんな体積と表面積があるのかと問いたくなるような、見るもアウトなエロゲのパッケージの山。

 後隅の方にあるけど、そのデカさから嫌でも目に入る抱き枕。

 

 そこは、エロ本以外の、もみじに見せられない物の置き場となっていた。

 

 まるで封入されていた瘴気が一気に解放されたかのように、粘ついたピンク色の生臭い空気が、ムワッと部屋の方へ流れ込む。

 それに気圧されたのか、もみじは数歩後ろへたたらを踏む。

 そこには畳まれた布団が置かれており、思いがけない障害物にもみじは足をとられた。

 

「わ、わぁっ!?」

「危ないっ!」

 

 とっさだった。頭の中に身の安全だとか、受け身だとか、そういうのは全然なく、ただそのまま倒れるのは駄目だ、という考えしか無かった。

 飛び出して下敷きになる、みたいな、漫画の主人公じみた動きではなかった。ただできる限りをと、中腰だった体を倒すように、もみじの下へと滑り込ませる。

 

 ドスッという衝撃が走り、グェッ! と体の中の空気が押さえられた風船がごとく口から吐き出される。

 薄い痛みと息苦しさを感じながらも、体の上にもみじの重さを感じることから、どうやら床と激突は避けられたようだ……。

 

「大丈夫か二人とも!」

 

「いってて……私は大丈夫……」

 

 そう言ってもみじは立ち上がろうとしたのだろう。

 

 そう、倒れたから立ち上がろうとした。コレは自然な事だ。

 その際、もみじはうつ伏せに倒れていたので、地面に手をつけて上半身を起こすのは何もおかしい話ではない。

 

「にゃうっ……」

 ただ、そう、運が悪いのか、それとも良かったのか……。

 もみじが起き上がろうと手をつけた先には、オレの、そのーー

 

「あっ……」

 

 ムニュっと……。

 ーーおっぱいが、ありました……。

 

「…………」

「…………」

 

 オレも、もみじも、陳腐な物言いだが、まるで時が止まったかのように動かなかった。

 オレはただ、もみじの上半身の重みを乗せた手のひらが、まるで胸を押しつぶすかのように食い込んでくることにひたすら意識を向けていた。

 苦しいような、くすぐったいような……そんな訳の分からない熱が、もみじの手の形でじわり、じわりと広がっていく……。

 目は、もみじの顔を見ている。幼さをまだ感じるが、何処かシュッとした、整った顔立ち。それがただ、じぃっと、わたしの目の奥へと吸い込まれていっている。

 

 今、わたしの体は、もみじを見つめる目と、もみじの手がふれている胸だけだった。

 ……それ以外にある自分の体を、認識できなくなるぐらい、頭の中はそれに満たされて、あふれかえって……

 

「ちょっとどうしたの!? なんかすごい音がしたんだーー」

 

 け、ど……。と、尻すぼむみはりの声でオレは一気に現実に引き戻される。

 オレらが倒れる音を聞いて、何事かと入ってきたみはりが見ている、この光景は一体なんだ?

 仰向けに倒れたオレと、それに四つん這いで覆い被さっているもみじ。その手は胸に形を残すぐらい深く沈んでおり、とどのつまりはエロゲの本番シーン一歩前である。

 少女と、中身成人男性の少女が、本番シーン一歩前、である。

 

「ち、違うぞみはりぃ……お姉ちゃんっ! 誤解なんだ!」

 

「そ、そうなんです! ちょっと転んじゃっただけというか! 決してわざとじゃないと言いますか!」

 

「そうそうそう! その際、ちょーっと手の位置が悪かっただけで、決してそんな事をしようとしていたわけではなくてでなー!」

 

「そのそのその、じ、事故だったんです! 信じてくださーいっ!」

 

 慌てて必死に言い訳を並べるも、言葉を重ねるごとに何だか嘘っぽくなるような気がする。

 何か、他に証明する方法は!? そう思い必死に辺りを見渡せば、いつの間に移動したのか、カンナが部屋の隅で体育座りをしながらジッとコチラを見ていた。

 

(頼むっ! お前からも弁明を!)

 

 そんな意思を視線に乗せていたのを悟ったのか、カンナはコクリとうなずき、スクッと立ち上がる。

 

「姉者、俺が証言する。今回のことはただのラッキースケベだった」

 

 カンナ、それ弁護になってるかな? いや、情事一歩手前って思われるよりはマシではあるんだけど。でももっとこう、なかったかなぁ!? 

 

「……成る程ね。まぁ、だいたい分かったわ」

 

 おぉ流石天才少女! 我が妹ながら理解が早くて助かった!

 すると階下から「みはりー、そっち大丈夫~?」とかえでちゃんの声がする。

 

「大丈夫~。ただのラッキースケベだったから、勉強に戻ってて~」

 

 おい、その弁明はどうよ……。

 じゃあ、何でもないみたいだから戻るわね。と踵を返すみはりだが、部屋から出る前に「あ、でも……」と何かを思い出したかのように振り返る。

 

「まひろちゃん。普通、そういうのって逆じゃない?」

 

 ちょっと吹き出しながら、からかい混じりの笑い声を残してみはりは部屋を出て行った。

 う、うっせぇやい。中身成人男性がマジモンの女子中学生の胸を揉んだら事案物なんだから、これで良かったんだよ!

 

 

 

♂♀♂♀ あにまい ♂♀♂♀

 

 

 

「今日はありがと~。おかげで良い点取れそう!」

 

「テスト頑張って! 大丈夫、頑張った分の成果は出せる。教えた私が保証するわ」

 

「アッハハ。飛び級天才少女のお墨付きもらっちゃった」

 

 玄関先、夕暮れ時のあかね色に染まるかえでちゃんの表情は、この数時間ミッチリ詰め込まれた学力からの自信で満ちあふれていた。

 

「ま、またね、まひろちゃん! それに緒山さんも」

 

「う、うん……!」

 

「あぁ。また学校で」

 

 横には一緒に帰る妹のもみじが、コチラに向かって小さく手を振る姿があった。

 その頬に、夕焼け色以外の赤みが薄ら見られるような気がするが、おそらく気のせいだろう。うん、気のせい気のせい……。

 

 頬と胸にうっすら宿る熱が、何故か秋風で消えてくれない。もみじの背中が遠のくほどに、熱の輪郭がハッキリしているような気さえしてくる。

 はたしてこのやたらと主張の強い熱を、妹たちに悟られてしまってはいないか。そんな事を平静を顔に被りつつ思っていると、みはりがオレの両肩を掴んでゆらゆら揺すって「ねーねー」と、やたら楽しげに話しかけてきた。

 

「お友達出来たみたいだね、お兄ちゃん!」

 

「いや、女子中学生とお友達って、犯罪くさいだろ……」

 

 見た目通りならともかく、実態は成人男性と女子中学生。この間につながる絆が友情というのは、いささか以上に世間体が悪いのではなかろうか。

 いや、だがしかし……。

 

(おっぱい、揉まれたんだよな……)

 

 まだ、手の形を覚えている。

 自分の柔らかい所にしっかり刻まれた、名前のごときもみじの形。

 

 この胸を揉まれた相手が、友達でもない、というのは逆に世間体が悪かったりするのだろうか。

 

「ところで兄者」

 

「ん? 何だよカンナ」

 

 我が妹は普段よりも深く刻まれた眉間の皺から何やら重要な事を話そうとしているらしい。喋る声にも何処か重苦しさが感じられる。

 

「……穂月と兄者がそういう関係になったら、俺は俗に言う“百合の間に挟まる男”となるのだろうか? 正直兄者の秘密の事もあるから、あまり深い仲になられると困るというのもある。だが信仰上、そうであったならば俺は俺を許せなくなる」

 

 答えてくれ、重要な事なんだ。そう付け足してくる我が妹に、俺はげんなりと呆れた表情を向ける。

 

「しっかりしろ。まずお前は女の子だ」

 

 それどちらかというとお前ともみじの間に入った男がオレなんだよ。

 コイツ、途中からやたらおとなしくなってたが、そんな事で悩んでたのか?

 我が妹のアホな発言にゲシッとスネに軽くケリを入れる。

 

「家に入ろうぜ。冷えてきた」

 

 そう言ってオレは夕焼けに消えていった穂月姉妹に背を向けて、家の扉を開いた。

 

 いつの間にか、胸と頬の熱は消えていた。

 

 

 

♂♀♂♀ あにまい ♂♀♂♀

 

 

 

 腕組み枕に頭を乗せて、体を沈めた湯船の縁に、体の重さを全部乗せる。

 シャワーが床を打って発生させた湯気の霧が風呂場を覆い尽くす中、姉が丁寧な手つきで髪を洗っている。

 

「今日、まひろちゃんと何して遊んでたのー?」

 

「えっ?」

 

 何気ない会話。ごく普通の話題のソレに答えようとして、今日あった出来事を思い出しーー

 

「あー……」

 

 まるで、治りかけのカサブタを剥がし、まだ血のにじむ傷を晒したかのようにソレらの記憶が頭の中を駆け抜けていく。

 

 大量にあった、想像の中のいかがわしいの、さらにその先。自分の知らない、なんだかネチョネチョした雰囲気の表紙の本や、箱や、フィギュアに、おっきなクッション……。

 あれから色々お話したと思うのに、どうしてもアレが頭の中を色濃くよぎる。

 

「ん~……」

 

 さらに、あの、感触……。

 自分の手のひらの中、やわらかな感触。沈み、ほのかに包まれたかのような錯覚。そしてわずかに感じた、あの硬さ。

 

「な、内緒……」

 

「え~? いいじゃーん教えてよ~」

 

 ねーねー何があったのさー? と絡んでくる姉を、何でもないー。とあしらう。

 

「ちぇーっ、ケチ~」

 

 ケチと言われても、ちょっと話せる内容ではない……。

 姉の追及を無視して自分の手を見つめる。

 あの娘に沈んだ、己の手を……。

 

(……柔らかかった、な……)

 

 チラリと姉に視線を向ける。シャンプーで頭を洗っている最中で、目をつむっているからか、見られていることには気がついていないようだ。

 手が髪を撫でるたびに連動して小さく揺れる体に、そこからさらに揺れる、大きな胸。

 柔らかさも、大きさも、暖かさも。記憶の中のアレよりおそらく上であろうソレを見ても、何も感じないのはソレが身内の物であるからなのか……。

 

 さらに言うなれば、だ……。

 今日触ったあの娘が、片付けたとはいえ、破廉恥極まりないアレやコレやと同じ部屋に居るのだとすれば……。

 

 己の奥底、胸のちょっと下あたりから、生暖かさを伴った何かが湧き上がっていくのを感じる。

 それが何なのか、今のも自分には理解ができない。できないが、なんとなくコレに飲まれてはいけないんだろうなという事は理解できたのは、はたして本能からなのか、理性からなのか。

 

 とりあえず、あの時使ったのとは逆の手で、己のソレに触れてみる。

 

「……硬い……」

 

 うん、自分は大丈夫そうだな、と、そう思った。

 

 

 

 

 




 ってなわけで、もみじ回でした。
 原作でもアニメでも、女子中学生が猥本とパイタッチを味わった劇的なシーンです。
 あ、それと魔法少女シーンをコッチに仕込みました。

 ところでニチアサのスーパー戦隊が終わるみたいですね……
 諸行無常、いつかは訪れるだろうと思っていたが、まさか自分が生きている間に来るとは思っていませんでしたよ……。
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