兄者はおしまい   作:知らない半島

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 モンハンやったりしつつにしては、早めに書けたんじゃなかろうかと思います。
 はい、みなさん。おっぱい回です。
 間違えた、三人兄妹の他にようやっとレギュラーメンバー登場の回です。
 
 


ep007 まひろとギャルとお姉ちゃん

 

ep007 まひろとギャルとお姉ちゃん

 

 

 

「う~トイレトイレ」

 

 今、トイレを求めて全力疾走しているオレは、学校に通わず就職もしないごく一般的な引きこもりニートな成人男性。強いて違うところをあげるとすれば、妹に薬で女の子にされたってことかナ。名前は緒山真尋。

 そんなわけで、部屋を出てすぐのトイレにやって来たのだ。

 さっと扉を開けると、一人の女性が便座に座っていた。

 

(オッホッ、いいJKギャル)

 

 そう思っていると、突然オレはそのギャルが見ている目の前で、トイレのドアを閉めたのだ……!

 

「……誰だアレ……」

 

 いや、伝説のホモネタ風に言ってみたが、マジで誰だアレ。

 覚えてるだけで、大きい胸、短いスカート、女子高生の制服、ピンク髪のウェーブのかかったサイドテール。足に下ろされていたパンツに、たわわなおっぱい。

 こんな特徴のある知り合いはいない……というか、女子高生でギャルとかオレとは一番遠いと言っていい人種だろ。高校時代同じクラスにもギャルは居たが、教室の真ん中でワイワイ騒ぐあの子らと、一人スマホをいじってたオレの間には、お互いが見えなくなるほどの物理的ではない壁があった。

 そんなまず学校でも関わることもないであろうような人種と、何故か他人が居ないはずである我が家にてエンカウントだ。絶賛オレは大混乱である。いきなり民家から出てくる漆黒かよ。

 

 そんな疑問符に埋もれてフリーズしていると、扉の向こうから水の流れる音がした。あぁそういえばオレもトイレしたくてここまで来たんだったと、扉が開くのを待っているとーー

 

「みぃ~……」

 

 ちょっと開いた扉の隙間から、ネイルアートされた細い指が這い出てくる……。

 

「ーーたぁ~……」

 

 そしてさらに開かれた、されどまだ細い扉の隙間から、コチラを覗いてくる目と視線が合ってしまう。

 

 みはりの目とも、カンナの目とも……兄を見る目じゃない……父さんや母さんの息子を見る目とも違う……。

 他人が……オレを、個人を、認識して、見て、見比べて、失敗、みはりの兄で、オレは、何も、カンナと、すごい、飛び級、誰も、そんな、オレ、なのにーー

 

「ーーなぁー!」

 

 そして、トイレの扉から完全に飛び出してきた、見知らぬ女子高生ギャルと、オレは正面から対峙することとなりーー

 

 喉が開かない……全身に入った力の抜き方がわからない……細まった首は上手く酸素を送り込めない。息苦しさから呼吸は荒くなるけど苦しさは全然改善されること無く喉から下の体の中で何かが暴れ回るようででも痛い苦しい怖い苦しいヤダ誰かダレかヤダたすけーー

 

 気が遠くなっていくと、思ったら、ふとそれが軽くなる。

 見ればーーというか、前が見えない。何かが目を覆い隠しており、女子高生との視線が切れたようだが、何が起こっているのか……。

 

「アハッ、かーわいーっ!」

 

 ふと頭上、すぐ近くからそんな声が聞こえてくる。上? と視線を上げると赤い布を経由して、白い喉がすぐ目の前に現れる。

 え、喉? とさらに視線を上に向けると、薄くリップの塗られた唇が、せりふに合わせて目の前で踊る。

 

「ちっちゃーい、ほそーい、かるーいっ」

 

 そんな言葉を紡ぎながら、後ろから押さえる力がかかり目の前の何かに押さえつけられる。厚いゴムで作られた水風船が入った布袋。それ二つの間に無理矢理押し込まれたかのような感覚。グニグニとオレの頭に合わせて形を変えるそれらが、鼻や口を塞いだり解放したりで息が思うようにいかない。たまに鼻から入る空気にはしょっぱいような、甘いような不思議な物の中に、若干の柑橘系の臭いがする。

 

 いったい何が……どうなってると、必死に頭を回していると、オレの脳細胞が一つの結論にたどり着くと同時に軽自動車にF1カーのエンジンを積んだかのように不相応な回転を始める。

 

 上を見上げれば人の口が見えるような位置にある、大きな二つの塊ってなーんだ。

 答え、特盛りおっぱい二つで一人前。

 

(いやっ、えっ!? おっ、あの、え!? おっぱって、あの、胸!?)

 

 知っている! オレは、このシチュエーションを知っている! 抱きついて胸の谷間に男の頭を埋めるっていう、エッチ要素強めのマンガやラノベでよくある奴だ! ちょっと人の目がある所では読めないようなシーンだ! おぉぉぉおおおお、男の桃源郷が今ここに!

 いや言ってる場合か!? イカンだろ! これ、相手はオレを女の子だと思ってこんな事してるんだろうけど、オレ実際は男だし! 大人だし! となれば、これってひょっとして犯罪なんじゃ!? 成人男性未成年にヒワイな行為って新聞の見出しにーー

 いやいやいやそれ以前にだ! みはりの言葉を思い出せ!

 

 ーー女の子の快感はね、男の100倍ぐらいーー

 ーーショックで頭が壊れて、パーになっちゃうーー

 

 マズイ、本当にマズイ。このままじゃ犯罪がどうとかの以前に、オレの脳味噌が壊れちゃう……! な、なんとかしてこの嬉し恥ずかしい脱出しなければ……。思えば、なんかこう、今は無き息子を想起させる、股間からせり上がってくるようなナニかも感じるし……。

 んあ? 股間から、せり上がってくる……?

 

「……何してるの?」

 

 そんな混乱のさなか、現状を打破する第三者の言葉が流れる。

 この聞き覚えのある声! 理知的でありながらまだ子供らしさを感じられる若々しい少女ボイスは間違いない!

 

「あっ、みはり~。この子何? めっちゃ小さくてカワイイんだけど~」

 

「……いや、ホントに何してるの、二人とも……」

 

 何してるって見りゃわかるだろおっぱいに捕食されてるんだよ!

 いやそれよりも……。

 

「た、助けてみはりぃ……」

 

「……えっと、ホントに助け、要る?」

 

 要るよぉ~、今幸せだけど抜け出さないとヤバイんだよぉ~……

 

「も、漏れるぅ~……」

 

「かえでその子放してあげて!」

「わ、わーゴメンゴメン! そういやトイレに来てたんだったー!」

 

 場所はトイレ前。

 女の子に捕まって動けないオレのそんなSOSに、二人の状況判断は早かった。

 

 

♂♀♂♀ あにまい ♂♀♂♀

 

 

 

 まぁ肉体は女の子になろうと、オレは元成人男性。早々に粗相などそもそもする筈がないのである。

 とりあえず窮地を脱した後、オレはまたおっぱいさんに捕まりみはりの部屋へと連れ込まれたのだった。

 

 曰く、オレを危うく天国行きにしかけたこの女子はみはりの客人らしい。

 

「紹介するね。中学時代の同級生でーー」

 

「かえでだよー。よろしくねー」

 

 ということは、このかえでちゃんは今年17歳。みはりと違い、飛び級してないとするならば花の女子高生ということか。たわわを持ちながら現役高校生とは、恐ろしいポテンシャルである。

 そしてそのかえでちゃんは今、オレをまるで大きなぬいぐるみか何かのように、あぐらをかいた足の上に座らせて抱きしめている。オレがでっかいテディベアならば実に絵になる構図だが、その実態は女の子の体をした成人男性だから普通に逮捕待った無しだ。

 というか、さっきから背中でグニグニと動く塊二つはやっぱアレだよな? 女の子の象徴であり男の夢だよね? これってオレが女の子だから無遠慮に押しつけてるのであって、見た目派手な感じの娘だけど、流石に男相手にはこんな事しないよね?

 もう、さっきのトイレ見ちゃった件も含めて、オレの正体がバレるような事でもあればーー

 

 ーーこの覗き魔! 痴漢! 変態女装ゴミニート! 死刑ぇ!

 

 ーーオレ、実刑は免れないかもしれない。

 

「ふむ、年上のお姉さんだから緊張してるのかなー?」

 

 いえ、己の罪を数えた結果未来が怖くなったからです……。

 

「お名前、聞かせてもらえる?」

 

「え、あ、あのっ、緒山真尋……です……」

(……あ、マズイ。普通に名乗っちまった!?)

 

 頭いっぱいいっぱいなところに、すぐ答えられる質問が来たものだからつい条件反射で言ってしまったが、これはマズイ。

 緒山真尋は男のオレの名前だ。こんな小さい女の子が、男の名前を名乗ってるなんて、疑ってくれと言ってるようなものだ。ど、どうする!? こんなところからオレが男だってバレたらーー

 

「アッハハっ。照ーれちゃってカ~ワイイ~」

 

(おぉ~っとバレてない~!?)

 

 あ、いやまぁ、そうか。まひろって、考えてみれば男でも女でもどっちでもいけるタイプの名前か。思い出してみると、前に銭湯でみはりに呼ばれた時も違和感無くてスルーしちゃってたな。

 ヤバかった……みはりの部屋で某少年探偵みたく本の背表紙にあるタイトルや著者で名前を作ってたらとんでもない事になるところだったぜ。科学雑誌とファッション誌とスポーツ誌で作る名前って何になるんだよ。合体事故不可避だろ。

 

「……あれ? でもみはりの妹って、カンナちゃんじゃなかったっけ?」

(いや別の問題が発生したぁぁぁあああ!)

 

 そうだよ! みはりの友達ならカンナのこと知られてるのも道理だよなぁ! 姉妹だもの会話に出てくるだろうよ!!

 え、どうする? どうするんだ、みはりぃ!

 

 すがるようにマイシスターに視線で助けを求める。頑張れみはり、やればできる子誇張なし! オレを女の子にしたその頭脳で見事な機転をきかせてこの窮地を脱してくれ!

 

「あぁ、その子はね……ちょっと訳ありで~……」

 

 悲報。オレの妹はバカかもしれない。

 どうしたみはりぃ! お前のその天才的頭脳はどこ行った!? 訳ありって確かにそうだけど! 成人男性が薬で女の子にされたって人には語れぬ事情があるけどぉ!

 

「へ~、そっかそっか~」

 

 ……え、それだけ?

 訳ありの女の子が家にいる、なんて気になるであろう話、根ほり葉ほり聞かれる物だと思っていたが、そんなもんで済ませられる物なのか?

 オレの困惑を余所に、かえでちゃんはあまり興味がないとでも言うように「うんうん、カンナちゃんじゃなくてまひろちゃんねー。よろしく~」とオレにかまってくる。

 ……多分、無関心なのではない。みはりがはぐらかしたことから、聞いてほしくない事だと察して、気を使われたのだろう。

 そこは対人能力がほとんど死んでるオレでも、なんとなく分かった。

 

「あ、そうだ。ごめんかえで。悪いんだけど、ちょっとその子と遊んでてくれる?」

 

(ーーはいぃ!?)

 

 おそらく話題そらしなのだろうが、みはりがとんでもない事を言い出した。

 

「大学のレポートがちょっと残ってるの忘れてて……頼める?」

 

「おや、飛び級大学生は大変だねー。おっけおっけー。暇なJKにまっかせなさーい」

 

 付き合いの長さからか、話はオレの届かぬ所でトントン拍子に決まっていく。

 

「じゃ、リビングに行ってようか、まひろちゃん」

「あっ、やーその……」

 

 かえでちゃんは立ち上がりながらオレを抱え上げる。抵抗しようにも暴れて怪我させるわけにもいかず、オレは押されるままに部屋を出ることとなるのだった。

 その際チラリと見たみはりの表情は、いたずらの成功した少年のような笑顔でヒラヒラとこちらに手をふっていた。対してオレは、これから起こるであろう気まずい空気感から、不安感の拭えぬ引きつったような顔で助けを求めた。

 無情にも数秒後、オレとかえでちゃんの背後で、みはりの部屋の扉は閉められた。

 

 

 

♂♀♂♀ あにまい ♂♀♂♀

 

 

 

 女子高生、それもギャルという人種は、オレみたいな美少女系が好きなヲタクとは一番縁遠い存在であろうことは、誰しもが納得するであろう。

 彼女たちがファッションやメイク、スイーツや男女のあれやこれやを話しているその内容を、オレらヲタクは半分も理解できないってことは分かり切った話だ。事実教室で聞こえてきたそういう会話は、単語も動詞も形容詞も分からず、文法が同じの別言語を聞いているようだった。

 

 そしてそれは彼女らも同じだったことだろう。ロスクエやエルエフならコマーシャルで耳にしたことがあるということもあるかもしれないが、ラノベのヒロインを指して「オレの嫁」とか言ってるのを聞けば何を言っているんだお前らは、と、信じられない物を見るような目をしてくるだろう。フラグやルート、スチルに差分、特典、天井、かぐや消し。これらを会話に織り交ぜよう物なら「理解できぬ」となり、意味を知れば信じられない物を見るような目をされるだろう。水着おじさんカワイイよねって話してたクラスメイトの方を見て、は? え? 何だって? と音もなく語るあの顔をオレは忘れることができない。

 

 そんな同じ日本人でありながら別の人種のような彼女らギャルと、同じ部屋で二人きり。いったいこのシチュエーションでオレにどうしろと言うのだみはり。もう帰りたくなってきたけどココがオレの家なんだよなぁ。

 

「まひろちゃんはさ、普段は何して遊んでるの?」

 

「ふぇあっ!? あ……えっと……」

 

 そんなオレの内心を知る由もないかえでちゃんは会話の切り口にと、オレが普段してる事を聞いてくる、が……ヲタクに対してそれは地獄への手招きである。

 美少女がエロい事するゲームやマンガを嗜んでまーす。

 こんな事を女子高生に言おうものなら表情が凍ってから軽蔑の眼差し不可避である。特にオレが好きなのが陵辱系なのがヤバイ。

 

(あ、でも……最近は全然そういうの手を出してないか……)

 

 感度100倍! ボク、おにゃのこマン! のため強制オナ禁週間なオレは成人向けコンテンツから距離を置いている。

 

「マンガ、読んだり……とか……ゲ、ゲーム、とか……」

 

「ゲーム! あたしもやってるよー!」

 

 え、ゲームやってるの?

 これは、あれだろうか。伝説のオタク趣味のギャルってやつなのか? ネットでたまに見かける「アタシもオタクだよー。フロムゲーとか全部やったし」とか言うタイプのギャルなのか。

 

「ほら、人気のパズルのやつ!」

 

 そう言ってオレに見せてきたスマホに映っていたのは、コラボが頻繁なパズルでドラゴンなアレではなく、積ム積ムされた丸い頭を線でつなげて消していく、ネズミーなあのゲームだった。あまりレベルとか戦略とかのない、成る程女子高生がやりそうって感じのゲーム。

 

「あ~……その……それ、やってない……」

 

「あ~違うか~!」

 

 いや、まぁ、そりゃそうか。女子高生、特にギャルが美少女はびこるソシャゲとか、やってるわけないもんな。

 

「え~っとそれじゃーねー」

 とか言いながら、かえでちゃんはスマホを操作し始める。おそらく話題になりそうな物を出そうとしているのだろうが、そこで時計の音が鳴った。

 といっても、別にシックな時報を告げる柱時計がうちにあるわけでもなく、単にオレの腹が昼飯時を告げたのだが。

 

「おう? そういやもうお昼過ぎてるじゃん。一緒に何か食べよっか」

 

 オレの腹の音が面白かったのかちょっとクスクス笑いながら、かえでちゃんは立ち上がり、リビングに隣接してるカウンターキッチンの向こうへ歩いていった。

 

「残り物で勝手に作っちゃおっか。冷蔵庫の中の物使わせてねー」

 

 と、気負った様子もなく喋る様子は、かなりの慣れを感じさせる雰囲気だ。どことなく、みはりやカンナが料理を始める姿に似ている。

 

「……料理、するの?」

 

 言ってはなんだが、見た目からは料理をする姿がイメージできない。なんたってギャルだ。

 料理? やったことなーい。コンビニ行きゃーお弁当買えるし、今時できなくても大丈夫っしょー。

 とか言ってる方がシックリ来る外見だもの。

 

「あたしも妹いるんだよねー」

 

 冷蔵庫からヒョイヒョイと食材を取り出し並べながら。

 

「よく作ってあげてんの」

 

 まな板や包丁、箸にボウルと、使う道具もあらかじめ分かってるように取り出していく。

 

「家庭的っしょー?」

 

 イタズラっぽく笑いながらそう言う姿はとても頼もしく、不思議とその身につけたエプロンが、とても似合っていた。

 

 

 

 よく作ってる、というかえでちゃんの言葉に嘘は無かったのだろう。料理をしているその姿は実によどみない物だった。

 包丁がまな板を叩く音はタンタンタンタンと途切れることなく、箸はボウルの中の卵を瞬く間に黄色い液体へと変えた。

 フライパンで炒める時には、時々米が空を舞い、その全てがまたフライパンに着地して、また熱にさらされる。

 味付けも迷い無く、これぐらいだろうと調味料を目分量で投入していく。味見している時に一発で頷きながらヨシ、なんて言って盛りつけに移るところから、適当は適当でも、イイカゲンというよりは良い加減、といった具合か。

 

「へーいお待ちどー」

 

 そう言ってテーブルに並べられた三つの皿。中華のチャーハンというよりは、家の残り物で作った焼き飯って感じ。鼻に届く香ばしい香りは、これが旨い物だと保証してくる。

 

「お姉ちゃんの分は、後で食べられるようにしておこうか。レポートの邪魔しちゃ悪いだろうしねー」

 

 そう言って一皿はラップに包まれる。残り二つの前に、オレとかえでちゃんは座り、いただきます、と両手を合わせた。

 

 スプーンで一口。

 細かく切ったベーコンやピーマン等の豊富な具と、米。それらを香辛料や塩、醤油と共に、卵でまとめ上げた、しょっぱくも香ばしい味。チャーハンの中華! って感じとはまた違うその味は、なんとなく、土曜日のお昼に食べる味って感じ……。

 旨い。落ち着く旨さだ。幸せに興奮する感じじゃなくて、ふわーっと暖かくなっていく、そんな幸福感を、オレはスプーンに乗せて、口の中に運んでいく。

 家庭的な味って、こういう感じなんだろうな。なんてぼんやり思いながら、それが目の前のギャルな娘が作った物だというミスマッチ感に、どことなく心がくすぐったくなっていく。

 

 食べている時にはあまり会話は無かった。

 ただ黙々と、淡々と。けれどその沈黙はイヤな物ではなかった。時々かえでちゃんがオレの食べてる様子を見て、うんうんと嬉しそうに頷きながら自分の皿へ視線を移す。そんな無言のやりとりが数回あったからだろうか。

 

 その後は、一緒に洗い物をしたりして、やる事やったって感じになり、ソファーで並んでまったりと満腹感に身をゆだねる。

 

「お腹いっぱいだねー」

「うん……」

 

 深くソファーに沈み込み、ちょっと膨らんだお腹をさする。薄ぼんやりとした温もりに包まれ、自然と目は閉じていく。この体を覆う眠気に、無抵抗にゆっくりと身をゆだねる幸福感は、何物にも代え難い価値があると思う。

 

 それにしても……と、半分閉じて、ぼやけてしまっている視線を隣のかえでちゃんに向ける。

 

 最初は苦手なタイプの女の子だと思っていたけど、接してみると信じられないぐらいに優しくて良い娘だった。

 正直オレからの会話はぎこちない物だったろうに、それにイラつくでもなく、穏やかに話しかけ続けてくれた。クラスにいたギャル達とは大分違う。いや、クラスのギャル達と会話したことなんてないけど……もっとこう、乱れてるイメージだった。これはオレがギャルって人種を深く知らないからなのか……。

 

(はたまた、このエロゲ脳がいけないのだろうか……)

 

 正直、直接話したことない上に、触れてきたギャルはだいたいエロコンテンツのギャルだったのが、オレに変なイメージを植え付けてきたのはあまり否定できない。

 

「ねぇ、まひろちゃんってさぁ……」

「んぇ?」

 

 名前を呼ばれて、自然とかえでちゃんの方を見れば……ちょっとこっちに詰め寄って、じーっとオレの方を見つめているところだった。

 ……え? な、何?

 

 

「まだ……シたことないでしょ……?」

 

 

 ……んんっ!?

 

 ……え、何? まだシたことない? 何を? ってナニを!?

 いやいやいや何を考えとるんじゃオレは!? 今の今まで穏やかな休日の午後を過ごしていただろうが! そんないきなり導入が雑なエロマンガみたいな展開になるものかよ!

 

「みはりは"そういうの"疎そうだしねー」

 

 頬に指を当てながら、どこか蠱惑的な眼差しで、オレの顔を隅々まで舐めてくる……。

 み、みはりは疎そうって、いやそりゃ、まだアイツ17歳だし……女子だし……妹だし……あんまり、そういうのには否定的な奴だけど……でもぉ……。

 

「おねーさんがーー」

 

 さらにかえでちゃんが身を乗り出し始める。

 

「代わりにーー」

 

 後ずさって距離を取ろうとするオレに、ソファーの上で四つん這いになり、オレに迫ってくる。

 

「教えてあげよっか……?」

(乱れまくりだぁーーっ!?)

 

 え、何これ!? なんかいきなりエロコンテンツ始まったんだけど!? オレ知ってる! すっごい見覚えがあるこのシチュエーション! 画面の向こうでこんな感じに迫られて、何度童貞を喪失したことか!

 

「大丈夫、私に任せて……」

「え、いやちょっ、まっ、待って!?」

 

 あ、ヤバイ……四つん這いの体勢のせいで、胸が……いつもと違う重力の掛かり方のせいか、ブラジャーの支えから若干解放されてまっすぐ果実が吊り下げられている……。

 

「オ……私! そういうのは、ちょっと……!」

「最初は照れくさいかもだけど、恥ずかしがることないんだよー?」

 

 一歩、こっちに詰め寄ると、その揺れで二つの塊がブルンと震える。その質量の大きさと柔らかさから揺れは大きく、そして張りの良さから勢いよく跳ね戻る。

 

「ま、まだ早いかなって……思う、というか……」

「覚えるのは早い方がいいんだから」

 

 さらに一歩……オレはもう後ろに下がれず、ソファーの角で寝そべるような状態になるまで追いつめられた。

 その上におっぱいとかえでちゃんが、覆い被さるように詰めてくる。

 

「ほーら、目を閉じて……」

「ふぇあぁ……」

 

 情けない悲鳴が口から漏れる。というか、今時のJKってこうなの!? こう、小さい子にそういう事を実践形式で教え込む物なの!? そんなのオレの常識にないぞ!?

 

「私に任せて……」

 

 もう、逃げ場はない……。

 本当なら、オレはかえでちゃんをはね退けて逃げ出すべきなのだろう。拒否するべきなのだろう。そうしなければならない筈だ……。

 だがオレの体は動かなかった。いきなりの展開に驚いた、というのもある。緊張感や恐怖感に身をすくませたのも、間違いではない。だがそこには、間違いなく、男としての欲望も、わずかながら有ったのだろう。

 おっぱいの大きいお姉さんに、迫られて、そういう展開になる。オレのお宝の中にも、似たような物はたくさんあり、この状況に憧れる思いは間違いなくあった。いつかこんな目にあってみてー! そんな思いを抱き続けていた。

 そして、今まさにそんなシチュエーションに遭遇した。

 自らはねのけて拒絶する、なんて、できる筈がなかった。

 かといって、自ら積極的になる、というのも、こんな状況でも残っていた理性の部分が許さなかった。

 オレにできたのは、拒否するでもなく、受け入れるでもなく、ギュッと目を閉じて、自ら動かないことぐらい、だった。

 

 視界を閉ざした闇の中、記憶の中のみはりの言葉が頭の中に響きわたる。

 

 ーー女の子の快感はね、男の100倍ぐらいーー

 ーーショックで頭が壊れて、パーになっちゃうーー

 

 こんな事間違ってると思う罪悪感。頭がおかしくなるということへの恐怖感。そしてそれらを押さえ込む、男の夢へ一歩一歩近づいているという高揚感。

 それらでごちゃ混ぜになり、頬に添えられた手の感触にビクリと震える。

 

 ……パァ~になるぅ~……。

 

 口から漏れる空気の音ぐらいしかない大きさの悲鳴を聞く者はいなかった。

 

 

♂♀♂♀ あにまい ♂♀♂♀

 

 

 結論から言おう。アバンチュールなんて無かった。

 かえでちゃんのシたこと無いっていうのは、エロコンテンツ的サムシング等ではなく、化粧の話だったらしい。目を閉じたオレの顔はその後キャンバスにされ、まるで絵を描くかのように筆やらスポンジやらが踊った。

 10分か20分か。目を閉じてジッとしていると時間の感覚が分からなくなるがおおよそそれぐらいで「でーきたっ」なんて上機嫌な声の後「ほーれ見てごらーん」というお許しをいただき、オレはまぶたをご開帳。

 

「……わぁ……」

 

 男の頃は、顔を洗う時か歯を磨く時ぐらいしか鏡を見なかった。そんなオレだが、女になってからは着替えた時や風呂上がり等、ふとした時に目に入った鏡を覗くようになっていた。

 なもんで、その差に気がつけたのは、そんな習慣の積み重ねで、普段のオレがどんな顔なのかをしっかり覚えていたからなのだろう。それぐらいメイクでの変化は僅かな物だった。

 そう、僅かな変化だが、しかしそれは確かな変化だった。引きこもり故に日光に当たらず、若干青白い感じだった顔。そこに薄くひかれたメイクで暖色が入ったのか、何処か健康的で生気があるように見える。

 さらに追加で入れられたチークにより、頬には周囲と比較して若干赤みが強くなっている。キャラメイクできるタイプのゲームでよく見かけていて、こんなの使ったところでどうなるものかと思っていたが……成る程。なんか頬だけがちょっと丸みをおびたような感じがするし、雰囲気もどこか明るさを増しているように思う。

 

「うん、可愛くなったねー。元の素材がいいと、ちょっと手を加えるだけでいい感じに仕上がるね」

 

「……こういうの、詳しいの?」

 

「ん~、まーそこそこ? 詳しい方だとは思うけど、あくまで女子高生にしてはってぐらい。プロの人ほどではないかなー」

 

 はえー。ってことは世のJKの何割かはこんな事できるのか。なんかすごいなー、なんて思いを馳せながら鏡に映った自分を見る。右を見たり左を見たり、アングルを色々変えて鏡の中の自分を眺める。

 

「ただいまー」

 

 自分のビフォーアフターに感心していると、玄関扉を開く音と共に帰宅を告げる声がした。

 

「いやー、参った参った。夏に備えて日除けシェードを買ったはよかったんだが、自転車に乗せたら座席に座れなくなっちまって。ホームセンターから家まで押して帰る事になっちまった」

 

 おかげで汗だくになっちゃった。と続けていた台詞は尻切れトンボとなりリビングの中に溶けて消えていった。

 

「あれ、お客さん?」

 

 日除けシェードとやらなのであろう、長い巻物を肩に担ぎながら入ってきたカンナは、オレと一緒にいる見知らぬギャルであるかえでちゃんを見て不思議そうに聞いてきた。

 

「どうも、お邪魔してまーす。初めましてですかね? お兄さん」

 

 と、かえでちゃんはカンナの方を向きながらそう言った。お兄さん、と。

 普通女性を男性と間違えるのは失礼なのだろうが、今の我が妹を見れば男と間違えるのも無理もない事だ。

 服装に関して言えば体が縮んだことでオレには着ることができなくなった男物の服。それも少々ダボッとした物で体のシルエットがわかりにくい物を着ているせいで、体格がわかりにくい。

 そして顔は眉間に皺のよったしかめっ面気味であり、可愛げという物を感じられない。これで髪型がみはりと同じツインテールとかの女性っぽい物ならばそうでもなかったのだろうが、しかしこの末妹、可愛いから遠い事を度々やらかす才能でもあるのか、その髪型は長髪ながら男っぽい物だった。耳から前の髪を全部後ろに撫でつけ後頭部でお団子みたいにまとめた髪型。なんかスポーツ選手で見たことあるような気がするぞ。

 

「あの、コイツはお兄ちゃんじゃなくって……」

 

「え? 私間違えた?」

 

 うん、でも悪いのはかえでちゃんじゃないと思うよ。

 

「ウチの末妹のカンナだよ」

 

 そう教えてあげると、かえでちゃんは頭の中で捜し物をするように「カンナ……カンナ……」と小声で数回呟いた後、

 

「えっ、ウソぉ! あのカンナちゃん!?」

 

 信じられない物を見るようにカンナの方を見て、視線を足から頭の天辺まで何回か往復させる。

 

「うわー、ごめんね間違えて! 大きくなってたし、男物着てるしで間違えちゃったよ!」

 

 久しぶりだねー。それマンバンヘア? と再会を喜ぶようにかえでちゃんはカンナに色々聞いてくる。が、カンナの方はと言えばかえでちゃんに覚えが無いのか、いつもはつり上がった眉尻が、困惑で下がって八の字になっていた。

 

「あの、かえでちゃん。カンナと知り合いだったの?」

 

「……かえで、ちゃん?」

 

 オレの質問はかえでちゃんに向けられた物だったのだが、それを聞いたカンナが名前に覚えがあるのか反応する。

 

「もしかして、姉者の友達の、かえでちゃん……?」

 

「そうだよー。久しぶりだねー」

 

 かえでちゃんがそう言うと、今度はカンナの方が信じられない物を見るような目でかえでちゃんを凝視する。具体的には頭と胸を。

 

「おい、同性相手でもその視線はぶしつけじゃないか?」

 

「え、いや、だって……俺の知ってるかえでちゃんは、オカッパ頭の素朴で家庭的な女の子で、こんなピンク髪のギャルじゃなかったんだが……」

 

「オカッパじゃなくてボブカットって言ってよ! ってそうか! カンナちゃんと会ったの高校デビュー前か!」

 

 困惑するカンナの言葉に、かえでちゃんが慌てたように叫び出す。

 

「かえでちゃん、高校デビューだったの?」

 

「ま、まぁね……ウチの中学、校則厳しめで……お化粧もマトモにできなかったからさぁ……あたしだって、生まれた時からギャルだったわけじゃないし……」

 

 言われてみれば、確かにギャルって生まれつきの物ではないか……。なんか、かえでちゃんのギャルスタイルがしっくりきすぎてて、なんとなく生まれた時からこうなんだろうなって思っちゃってた……。

 

「いや、だとしても……」

 

 カンナは何処かまだ納得できないといったふうにかえでちゃんを見る。……具体的には、その豊かな山々を。

 

「い、いやこれは……高校に上がるぐらいから急に大きくなりだして……」

 

 と、いうことはそっちも高校デビューだったのか……。

 第二次性徴というか、女体の神秘というか……そうか、中学校から高校までで一気に大きくなったのか……成る程成る程。

 その事実を、頭の中でかみ砕き、心の中で反芻する。ふむ、このポヨンプリンが、たった数年ですくすく育った賜物だったという事実を。

 

「ほんと二人とも、昔とはだーいぶ見た目変わったわよねー」

 

 この世の神秘に胸が熱くなっていると、ニヤニヤという擬音を声に含ませた、我が妹の声がリビングの入り口、カンナの後ろから入ってくる。

 

「あ、みはり。もうレポートは終わったのか?」

 

「一段落ついたし、お腹も空いてきたから、何か食べようと思ってね」

 

「あ、みはりの分のお昼、勝手に作っておいたから。チンして温めたらすぐ食べられるよー」

 

 かえでちゃんの言葉に「はいはーい」と気楽な様子で答え、キッチンの方に行くみはり。

 

「あ、ごめん。カンナちゃんの分作ってなかったや」

 

「お気遣い無く。昼は過ぎると分かってたから、腹に適当に入れてきた」

 

 何食べてきたの? と聞けば、短く蕎麦、と。

 

「かえで、どう? 久々に会ったカンナの感想は」

 

 電子レンジをバタンと閉める音を台詞の間に挟みながらみはりが聞くともー驚いたよー、とかえでちゃんは訴えるような声音で言う。

 

「数年見てないだけで、こんなに成長してるとは思わなかったよ。見た感じもう私の身長も抜いてるっぽいし」

 

「家族の私は、ジワリジワリと迫ってきて、とうとうって感じに抜かれたなー」

 

 チーン、とレンジで温め終わったことを告げる音がした。

 

「その時はちょっと、姉として悔しかったわよ」

 

 焼き飯にかかってたラップをクルクルと球体にしながら、からかうようにみはりは言う。

 

「気にするほど身長が低いわけでもなかろうに」

「身長が低い高いじゃなくって、姉としてのプライドの問題ですー」

 

 その気持ちはよーく分かるよ。オレも身長を抜かれたからね。今目の前で焼き飯頬張ってる妹に薬を盛られて、縮められたからねぇ……。

 兄としてのプライドをジトーっとした目に乗せてみはりを見てると、オレの言いたいことを察したのか、あーかえでのご飯美味しいなー、なんて言いながら明後日の方向を見始めた。

 

「身長は良いとして……カンナちゃんの服、男物だよね? 何でそんな格好してるの?」

 

「あーそれはオーー」

 ーーオレの服……と言おうとして危ういところで踏みとどまる。

「ーー兄ちゃんの服のお下がりで……どうせすぐ着れなくなるなら、新しいの買うのは勿体ないって、最近カンナはそういうのばっか着てる」

 

「成長期の悩みかー。みはりのじゃもう入りそうにないもんねー」

 

 そのみはりのお下がりはオレの方に来てるけどね。

 

「お下がりとはいっても、正直着心地はいいし動きやすいしで、俺に不満はないよ」

 

 カンナはコンロの方で注ぎ口の細い薬缶でお湯を沸かしながら、背中を向けたままそう言う。

 飲むか? とだけ聞いてきて、オレはカフェオレ、みはりは微糖と短く告げる。

 

「かえでちゃんはどうする? コーヒー」

 

「あ、カンナちゃんが淹れてくれるの?」

 

 飲むならついでに淹れるよ、と、キッチンの上の棚から、来客用のマグカップを出すカンナに、じゃーカフェオレをお願いしようかなーとかえでちゃんのオーダーが入る。

 

「あ、そーだ。服で思いついた」

 

 ねーまひろちゃん、と話をふられたので、オレは特に何を考えるわけでもなく、なーにー? と返す。

 

「お化粧ついでに、お洋服コーデもしてあげるから、ちょっとお部屋見せてー?」

 

 おー、服も見てもらえるのか。かえでちゃんセンス良いだろうし、さっそくお任せを……。

 口から出る前にそこまで巡った思考で、ちょっと待ったと、オレの危険予測が止めてくる。

 

 オレの部屋を、かえでちゃんに見せる?

 あの、20歳成人男性の部屋へ、かえでちゃんを招き入れる?

 ……美少女フィギュアや少年マンガが棚に並び、ゲーム機とそのソフトがデカい顔で居座っている、あの男丸出しの部屋へ?

 ま、マズい。あの部屋、どう見ても女の子の部屋じゃない。もしかすると、オレの性別に疑問をもたれるかも……。

 い、いやいやそれよりも、もっと根本的な問題としてーー

 あのエロゲやエロマンガ等の、18歳未満お断りなグッズが山と積み重なっている所に、17歳であろう女子を招き入れる?

 

「そ、それはダメぇ!」

 

「え、そんな叫ぶほどダメ!?」

 

 叫ぶほどダメだ!

 だけどその理由は口にできない……部屋が男の性欲丸出しな万魔殿だから入れるわけにはいかないとか、じゃー何でそんな部屋に居るの? と聞かれたら答えられん。

 オッケーMAHIRO、部屋に女子高生を入れない言い訳を考えて!

 

「その様子だと、また部屋の片づけをサボったな?」

 

 検索結果はカンナの方から出力された。

 コチラを見るでもなく、コーヒーカップやらドリップに使うであろうあれやこれやのついでにと、都合のいい嘘まで並べだした。

 

「まったく、日頃から自分で掃除しないから、こういうときに困るんだぞ」

 

 ナイスだカンナ! オレはそれにのっかり「う、うん。今ちょっと人を入れられる状態じゃなくって~」と申し訳なさそうに言う。

 

「え~? じゃー片づけ手伝おうか?」

 

 頼もしく腕まくりしながら「お姉さんに任せなさーい」と善意でオレを追いつめてくる……。

 

「かえで、やめてあげなさい」

 

 今度はみはりから、レンゲで皿の上の焼き飯をかき集めながら援護が飛んでくる。

 

「人には見られたくない物ってものがあるものよ」

 

「ありゃ、そんなヤバイ感じ?」

 

 みはりの援護に乗っかり、オレはかえでちゃんにうんうんと激しく首肯する。

 

「かえでだって、見られたくない物あるでしょ?」

 

「えー? 私は別に無いけど……」

 

 なんか有ったかな? と頭の中を探すかえでちゃんに、みはりはスマホを取り出し、数回の操作の後、その画面をかえでちゃんに向ける。

 そこには何が映っていたのか、かえでちゃんはそれを見たとたんにみはりの方へ飛びかかっていった。

 

「ちょ、ちょっとみはり! アンタそんな画像残してたの!?」

「そりゃー友達との思い出ですもの。消すわけないじゃなーい」

「やーめーてー! そんなの人に見せないでよー!」

「えー? どうしよっかなー?」

「分かった。分かったからー! 人には見られたくない物があるって、理解したからー!」

「別に恥ずかしがるほどの物じゃないと思うんだけどなー」

「やーんもー!」

 

 そんな年相応の友人同士のじゃれ合いみたいな光景を眺めていると、横からカップが差し出される。

 見ればカンナが自身のカップを傾けながら出来たカフェオレを渡してきていた。サンキュっと軽い礼をして受け取り、まだちょっと熱いそれに数回息を吹きかけ冷まし、ちょっとだけすする。

 妹が年相応に友達とキャッキャしてる光景を眺めながらの一服は、何故だろう、胸にじわりと熱が広がるような、そんな味がした気がした。

 

 

 

♂♀♂♀ あにまい ♂♀♂♀

 

 

 

「それじゃ、あたしそろそろ帰るね!」

 

 あの後まったりコーヒータイムを楽しんだり、かえでちゃんのやってるパズルゲームをちょっと触ったり、連絡先を交換したり……そんなふうになんやかんやとしていたら、外の景色に赤が混じるような時間帯になっていった。

 

「バイバイまひろちゃーん! みはりとカンナちゃんも、楽しかったよ~」

 

 ヒラヒラと手を振りながら、そう言ってかえでちゃんは帰っていく。

 なんとなく、オレはその背中が見えなくなるまで家の前から動かずに手を振っていた。

 

「……そういえば、かえでちゃんはどういう用事で家に来てたんだ?」

 

 見送りも終わり家に入ろうかと扉を開けながら、カンナが唐突に口にする。

 

「え? ふつうに遊びに来てたんじゃ?」

 

「女子高生が、昼間っから制服着たままでか?」

 

 そういえば、制服着てたってことは学校だったんだろうけど、じゃあ何で昼前から家に来てたんだ? って話になるのか。普通あの時間は授業受けてる時間だろうし。

 

「今夏休み前の半日授業で、今日テストの結果が帰ってきたらしくってね。その結果報告に来てたのよ」

 

「何でかえでちゃんがお前に結果報告するんだよ」

 

「私がテスト勉強をかえでに教えたからね」

 

 靴を脱ぎながら聞けば、みはりは何でもない事のようにそう言った。

 まぁそうか。考えてみればコイツ飛び級で大学いけるほど頭いいんだし、そりゃ勉強の面倒もみれるってものか。

 

「それより、どうだった? かえで」

 

「え、どうだったって……」

 

 質問の意図が分かるように聞いてくれ。

 

「人当たりもいいし、お兄ちゃんの人付き合いの練習になるかなって、二人にしたんだけど」

 

「お前なぁ……」と呆れた声で返すもしかし、実際いい感じに喋れたように思う。最初こそJKと何を話せばと悩みもしたが、かえでちゃんの方からこっちに合わせてくれるからか、お昼を食べた後からは、あまり苦手意識のような物を感じなかった。

 

 なんというか、そう……。

 

(年上の兄弟というか、理想のお姉ちゃんってのは、きっとあんな感じなんだろうな……)

 

 正直、人見知りというか、若干のコミュ障入ってるオレをもってしても話しやすいし、頼れるし、何より、素直に甘えられる何かがかえでちゃんにはあった。

 

 チラリ、とみはりの方を見る。

 

 オレをこんな体にして、何かと構ってきつつ、それでいてお姉ちゃんと呼べば気持ち悪い笑みを浮かべ、お兄ちゃん可愛いと言いながら暴走するかえでちゃんと同い年の妹のことを。

 

「よーく見習えよ? みはりオネーチャン」

 

「……ん? うえぇ!?」

 

 ちょっとどういうことー!? という姉のように構ってくる妹を背に、オレは自室へと階段を駆け上っていった。

 

 

 

 

 

 




 何気にずっと疑問だったんですよね。
 お昼前に何でかえでちゃんは制服姿で緒山家に居たのかって。
 で、時期を考えたら半日授業だったんじゃないかってのが個人的推察でした。

 それにしても並べてみるとコイツら全員昔と見た目変わってるんだな。

 お兄ちゃんは成人男性から女子へ。
 みはりは女学生から年中白衣へ。
 かえでちゃんは素朴なこけしからJKギャルへ。
 カンナは小学生からチャラ男へ。

 あ、ちなみにマンバンヘアは画像検索すれば出てくると思いますが、アニメキャラで言うとアレです。呪術の夏油スタイルです。
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