一話完結じゃなくなってきてますね。タグはずしたいと思います。どうして物語調になってしまいますね。こち亀とかああいうのも結局は元に戻っているのでああいいうのを見習いたいです。
今回は墓参りというよりかは、松本さんなるひとが出す答えを書くだけですね。まあ、それが正しいとは思っていないので、矛盾点とかありましたら遠慮なくおっしゃってください。
「はぁっ……、はぁっ……!」
息を切らしながらも秋山は走り続ける。秋葉原にあるとある病院へと向かう途中、雑踏があったが、秋山は構わず進む。不快そうな目で秋山を群衆は見ていたが、それを気にしている暇などなかった。
やがて病院についた。自動ドアを蹴破るかのような勢いで入り、受付のナースへと話しかけた。今はナース服に萌える暇などない。きれいな顔をした女性に秋山は切羽詰まった様子で言う。
「あの……はぁ……はぁ……まつ、松本 剛さんはどこの病室ですか!?」
息が切れているせいか、上手く呂律が回らない。だが、女性はちゃんと理解してくれたようで、聞き返すことなく答えを言った。
「現在手術中です。3階の集中治療室にて行われています」
「なっ……!?」
集中治療室で手術。ことの重大さは容易に想像できる。相当ヤバイ状況だと言うことは、本当のようだ。だが、一体何の病気だ? 一体どうしたんだ?
「一体どうして!?」
秋山は身を乗り出して問う。女性は再び答える。
「心臓病のようです。それも、もう末期です」
「バカな……!!」
――心臓病だと? そんな……嘘だろ……。
秋山はその場に呆然と立ち尽くす。心臓病は相当重い病気だと言うことは医学に無知な秋山でも分かる。最悪の場合、死に至る。
そう、死亡してしまう。その人がこの世から、消えてしまう。
「くそっ!!」
秋山はなんとも言えない怒りを吐き出すように受付から離れて階段で3階まで上がる。30代なのに一段抜かしで駆け上がるのは疲れるがこの際そんなこと言ってられない。秋山には何もできないけれど、行かないという選択肢はなかった。
3階についた秋山はそのまま看板案内に沿って集中治療室まで走る。すると、重々しいドアが見えた。上には集中治療室と簡素にかかれており、使用中とかかれた赤いランプが物騒に光っていた。不安を煽るには素晴らしい色だ。
秋山は更なる焦燥を覚えて走る。しばらくすると、ベンチにてうつむいているアルゴの姿が見えた。
「アルゴっ!」
「あ、とーるん! 遅かったナ」
アルゴはスーツ姿でいた。恐らく仕事中から来たのだろう。秋山はアルゴの呼び名に対しての突っ込みはせずに、単刀直入にいう。
「なあ、松本さんは本当に心臓病なのか?」
「アア、そうだ。お医者さんがそう言ってタ」
アルゴはいつになく真面目なトーンで答えた。よっぽど深刻なのだろう。秋山は唇を噛む。
俺たちはお互い一緒のベンチに座り、ただ黙って待った。互いに緊迫した空気が流れていく。言葉を吐く余裕もない。秋山はただ無事を願っていた。病院独特の消毒液の臭いが鼻につく。それに無性にイライラした。
腕時計のはりの音さえはっきりと聞こえる静寂の中、静かにドアが開いた。ランプが消え、老けた男が少々俯きがちに歩いてきた。秋山たちはすぐさま反応し、ベンチから立ち上がる。
「どう……だったんですか……?」
秋山は恐る恐る尋ねる。アルゴも神妙な表情を保ち続けていた。治ったのか、あるいは――。
老いた男は唇を噛んだ。暫し流れる沈黙。それだけで、アルゴは察していた。これから何をいうかを。秋山も薄々浮かんでいたが、必死に頭で否定した。
けれどーー老いた男は、顔をあげて秋山を見た。そして……口を開いた。
「申し訳……ありませんでした。手は尽くしましたが、もう……」
そのフレーズは有名だった。病院が関わるドラマとかで、宣告をする際に言われる台詞だ。そしてその意味を、知らないわけがなかった。秋山は、声が出なかった。ただ、こう言おうとしていた。
――ばかな……。
頭の中が絶望で埋め尽くされる。それ以外はすべて喰らいつくされていく。涙もでない。まるで、泣くことを知らない子供のようだった。ただ、膝が崩れ落ちそうなのを必死にこらえていることしか出来なかった。
しかし、その絶望を遥かにしのぐものが頭を喰らっていく。怒りだ。目の前にいる老人に、ここにいる医者すべてに対する怒りだ。そして……何も出来なかった自分に。溢れる激情を抑えることを止めて、飛び出し胸ぐらをつかんだ。
「ふざっけんなっ!! なんで救えなかったんだよっ!? あんたら医者なんだろ!! お医者様だろ!! なのに何でだよ……なんでだよぉぉぉっ!!!!」
人生でここまで怒鳴ったことは、なかった。近くにある花瓶が僅かに揺れ、ぴりぴりと空気が震える。秋山はただ、感情に任せて言葉を吐くも、医者が言う言葉は変わらなかった。
「申し訳、ありません」
その、ありふれたフレーズが秋山の怒りをさらに加速させる。
「なぁ、こっちは金払ってんだよ、だったら責任もって仕事しろよ!! 治せよバカ野郎!!」
秋山の悪罵に医者は何も言わず、耐えていた。挑発なのか? それともしてやったりとでも言うのか?
秋山は我慢の限界だった。ギリギリまで抑え込んでいた言葉を吐いた。
「まあそう謝ってらどうだってなるんだよなぁ手前ら医者は! 死人のことなんて明日寝りゃ忘れるんさ。どうでもいいとしか思ってねえんだろ? じゃなかったらこんなことにはならないんだよ、このヤブい――」
パシン。
乾いた音が病院の廊下に響き渡った。頬に鋭い痛みを感じた。柔らかい感触と、荒い感触を同時に味わった秋山は、呆然とした。秋山は、叩かれたのだ。幼馴染みに。たった一人の幼馴染みにはじめて。
秋山はゆっくりとアルゴを見る。アルゴははたいた手を動かさずにいた。目には、物凄い怒りが宿っていた。悲しみの色も、同じくらいにあった。
「今のは言い過ぎダゾ……秋山!!」
彼女が珍しく大声をあげる。秋山はそれに肝を持っていかれる。怒りで沸騰した頭がさぁーっと冷えていく。秋山はここでようやく、自分がいってはならないことをいってしまったと自覚した。
「……出過ぎたことを申しました。すみませんでした」
秋山はゆっくりと頭を下げた。アルゴもそれに倣う。老いた医者は目をつむり、ただ黙ってその場を去った。まだ怒っているようだ。当然だ。秋山はそれだけのことをいってしまったのだから。
「なんて……情けないんだ俺。言っても意味がねえって分かってたのに……」
秋山は力が抜けたようにどさっとベンチに座る。アルゴも秋山のとなりに座る。
「……」
アルゴはただ黙る。今はしゃべってほしくもないからちょうどいい。
「こんなんじゃ……死んだ松本さんに申し訳ないな……。葬式で会わせる顔がないよ」
秋山は自嘲気味に笑った。そうだ、もうあの人はいない。たった今、いなくなったんだ。何でこうも前触れがないんだ。どうしてこういきなり死んだという事実がくるんだ。一体俺が何をしたっていうんだ?
言葉を重ねても、なにも変わらない。これが結論だった。答えだった。秋山にできることはただ、俯くことだけだった。
沈黙が流れる。その沈黙は、興奮した体を冷ましていく。理性が戻っていき、思考も元通りになる。すると面白いことに。悲しみが生まれた。さっきまでそんなことを考えていなかったのに。ようやく心に大きな痛みが刺さった。
――もう、あの人はいないんだ。そうだ、もういない。死んだんだ。もう、会えないんだ。
事実を秋山は再確認する。たったそれだけのことをした。だが……秋山はそのとき、泣いた。涙をこぼすだけにとどまらず、声を漏らした。
「うっ……うっ……!」
何十年ぶりに秋山は泣いただろうか。いや、中学校に入ってから一度たりとも涙を流したことはない。アルゴはただ見ていているだけだった。ベンチに俯く俺をただ、見下ろしていた。
こんな情けない姿をアルゴに見せてしまった。秋山はこの場を離れることを決めた。
「悪い、アルゴ。俺は外に出る」
そういって、秋山は外へと出た。
秋山の心の中は静寂に包まれていて、あるのはただ、わだかまる悲しみだけだった。外に出ても、秋山を迎えるのは何も変わらない青空と、退院した少女とその両親と思われる人、一人の女性看護師、そして、松本さんを手術した老人の医師の姿だった。ああ、きっと。世の中というのは死を覆い隠すようにできているんだ。現に、ついさっき医師は死を看取ったはずなのに、屈託のない笑顔を浮かべている。こうやって人というのは死を忘れようとする。いつしか自分には関係のない人間だと切り捨てて、その人の居場所を自分の中から奪おうとする。秋山は殴りたかった。そこにいる、薄情者の医者に殴りたかった。
だが、車いすに乗った少女は心からの笑みを、浮かべていた。自分を救ってくれた人間への感謝の顔だ。殴ろうと固く握りしめた拳は、いつしか解けていった。
――俺には、あの子の笑顔を奪えない。
あの子の笑顔は、この歪んだ世界を、壊してくれそうな気がしたから。全てをなかったことにしようとする卑劣な世の流れに、終止符が打たれた、気がした。
そうだ。
俺もすっかり。
忘れてんじゃん。
何が殴り倒すだ。何が居場所を作るだ。何が居場所を与えているだ。
俺、今、泣くことで松本さんの死を忘れようとしてんじゃん――!
秋山は膝から崩れ落ちるようにして地面に着いた。つーっと流れる透明な滴がアスファルトを微かに濡らす。秋山は、はるか遠くへと逝ってしまった恩師を見上げながらただ、泣いた。先程は、忘れるために泣いた。今は、思い出すために、泣くんだ。あの医師は忘れてなどいない。泣かなかったり、秋山の悪罵に堂々と耐えられたのは、覚えようとする意志があったからだ。忘れることは、許されないと考えているのだ。なんて俺は、浅はかなんだろうか。
掠れ声が空へと放たれ、すぐに消える。秋山は、ついには手をつき、アスファルトに顔をうずめる。何事かと心配した看護士がこちらへ駆け寄ろうとしたが、老人医師はそれを止めた。
車いすの女の子は、秋山を見ていた。訝しげな視線を送る母親と父親の制止を振り切って、車いすを自分で転がした。ゆっくりと近づく音に秋山は顔を上げる。顔は涙と、砂で汚れていた。情けない社会人の模範だろう。
けれど、女の子は秋山の頭に手を置いた。秋山は驚いた。
「げんき、出た? こうすれば、ひとはなくの、やめるってこどもとらいのとらじろうがいってたんだ」
”こどもとらいのとらじろう”といえば、子供用の通信教育のキャラクターだ。よくそんなことを教えるな、人の頭に何の許可もなしに触ることを……。
けれど、そうは言わなかった。思ったけれどすぐに消えた。子供が浮かべる、自然な笑みによってそれはかき消され、凄く心が温かくなった。秋山は涙を拭い、笑った。
「ああ、元気出たよ、お嬢ちゃん。ありがとうな」
秋山は、女の子の頭にポンと置いて、立ち上がる。そして、距離を置いた。今は、彼女の退院を祝うこの場を壊したくない。
老人の医師は女の子に近寄って、言葉をかけた。
「おお、人助けができるとはな。いい子だなぁ」
「えへへ」
「さ、もうおうちに帰るころだよ。今日からはもう、独りぼっちじゃないよ」
「ほんとに?」
「ああほんとだとも。半年の間ごくろうさんだったね」
「あたし、がんばったよ。ね、ママ、パパ?」
「ああ、よくがんばったよ、七美」
「これからも一緒に暮らしましょうね」
「うん!」
「ほら、お医者さんとナースさんにありがとうは?」
「おいしゃさん、ナースさん、ありがとう!」
「はは、どういたしまして。気を付けるんだよ」
「このたびはお世話になりました。ありがとうございます」
「いえいえとんでもない。私たちは当然のことをしたまでです。さ、お父さん、早く七美ちゃんとご自宅へ帰られたらどうでしょうか?きっと、早く帰りたいですよ」
「そうですね。本当にありがとうございました。それではこれで」
「ばいばーい! また来るねぇー!」
「その時は元気な時でね。またね、七美ちゃん」
親子を乗せた車は、はるか遠くへと消えていった。老人の医師は見えなくなるまで手を振り続けていた。ナースさんは、ただ横に立っているだけだった。
姿が見えなくなり、医師は手を振るのをやめた。そしてゆっくりとこちらを向いた。
「いらしてたんですね」
「……ええ」
秋山は小さな声で答える。老人はそうかと微笑んだ。秋山があれほどの悪罵を浴びせたというのに、こんなにいい笑顔でいられる。しかも、開き直ったり、上から見下すような笑顔じゃなく、本当に、心から笑っている笑顔だった。
老人の医師はナースに席を外すように言った。ナースは雪苦後その場を離れ、病院の中へと入る。自動ドアのか細い開閉音が二回なり終えたとき、秋山は口を開いた。
「あの時は、失礼なことを申しまして、大変申し訳ありませんでした!!」
秋山は深く頭を下げる。老人医師は落ち着いた、優しい声で返した。
「いやなぁに。私たちの力量不足なだけです。責められるのは、仕方ないんです。こちらこそ、申し訳なかった」
そう言うと、老人医師は頭を下げた。秋山は激しく揺さぶられた。ああ、なんて偉大なんだ。なんて愚直なんだ。
「頭を上げてください! あなたは何も悪くない!」
秋山は悲鳴のように叫ぶ。老人医師はゆっくりと頭をあげる。老人医師は未だに笑顔を保っていた。
「俺は……どうせあなたはその日死んだ人のことなんて忘れていると思ってました。ですが、それは間違っていた。忘れようとしていたのは俺なんです。泣いて、泣いて泣きじゃくって、そして怒鳴り散らして、悲しみを忘れようと、その事実をなかったことにしてしまおうと、していたんです。なのに……知ったようにあなたに怒鳴った。本当に申し訳ないです」
秋山は再び頭を下げた。老人医師はしばらく秋山を見つめていたが、やがて、声をあげて笑いだした。
「はっはっは……今の若者でも、そんな風に考えているやつがいたとはな……。面白い人だ」
秋山は唖然として老人の顔を見る。老人はすごく、嬉しそうだった。
「今の世の中はな、医者というのは薄情で、患者を金儲けの道具としか思っていないという風潮がある。実際そういう医者もいるんだ。かつての私がそうだった」
テレビドラマとかでもよくあげられている話題だが、やはりそうなのか。だけれども、糾弾する気はない。
「若い頃はな、必死に出世だの、名誉だのを大事にしてきた。だけれど……私は気づかされた。人は死ぬってことをね。それを知ったのは、もうこうして院長になったころなんです。その時思ったんだ。私は、死んだ人の顔を覚えているのか。覚えていなかったんだ。泣きもしないし、感じもしない、ただ、次の患者に取り掛かるだけの、そんな作業としか思っていなかったのです。だからね、あなたはすごいですよ、若いうちからそんなことを考えているなんて。貴方なら、良い医者になっていたでしょうね」
はっはっと小さく笑い、言葉を続ける。
「先程あなたが言ったことはほとんどあっています。私が患者のことを忘れないということも、知ったようにしていたということも。でも、一つだけ間違っているんだ」
医師は意味のある顔を浮かべた。秋山は真剣に聞き入っている。
「それはね……泣くことが、人の死を忘れるということなんだよ。それは間違っているんだ。忘れようとしている人間ならこうします。さっさと違うことを考える。さっさと次のことをする。さっさと、その人に関する記憶を、存在を消そうとするんです」
「しかし……泣いたり、怒鳴り散らしたりして悲しみを紛らわせて、なかったことにしようとしていたんですよ、俺は!」
秋山は叫ぶようにして反論する。だが、それに対しても冷静に返した。
「いや、忘れないよ。他人が、それもあったことも話したこともないような人間が死んだ場合、貴方はすぐ忘れるでしょう? それは、その人について、覚えていようとする意識が、自覚している師弟内に関わらず働いていないから。逆も然り。関係がある人なら、覚えようとする意識があります。例え、大嫌いな人でもね。でも、忘れてしまうことだってあるんです。ならどうするか、簡単です。何か、その人の死に関して別の物事を加えてやればいいんです。今難しく言いましたが、要は、泣いたり、謝ったりすることです 私はね、こんなことをしているんです。その人のご遺族が泣いている姿をしっかり目に焼き付けるんです。そうすれば、覚えていられるから。あなたはまさにそれをしたんです。だから、忘れようなんてしていないんです」
「…………!」
秋山はもう何も言えなかった。自分の意見は間違っているのかと、落ち込む自分もいれば、納得している自分もいる。ただ確かなのは、あの医師が松本さんの死を告げたとき、ただただ謝っていただけじゃなかった。その時は、秋山の顔を見ていたのだ。それで――松本さんの死を覚えていようとしていたんだ。
「おおっと、いかんいかん。しゃべりすぎてしまいました。では、私はこれで」
老人医師はにこやかに笑って、その場を去ろうとした。秋山は、その後ろ姿に礼をした。
――俺も、そろそろアルゴのもとに帰るかな……?
秋山は、ポケットに手を突っ込んで病院へと足を向けた。だが。
「おっと、スッカリ忘れてましたな。貴方に渡したいものがあるんです」
「え?」
突然老人医師は秋山の方を振り返った。そして、ポケットから何かをまさぐって、取り出し、それを秋山に手渡した。簡素な封筒だった。
「これは……?」
「手紙ですよ。それも、松本 剛さんからです」
「――――!!」
松本 剛。
松本さんの本名だ。秋山はそれを震える手で受け取った。封筒を開封して、手紙を読む。
「秋山へ
たぶんこの手紙を読んでいる頃には俺は逝っていると思う。多分お前とは近くには会えそうにないから、今手紙に伝えたいこと言うな。
お前、前に墓の存在意義が云々って言ってたよな? 今もお前は悩み続けると思う。あるいは答えを出しているかもしれない。どっちでもいいがな。
俺はあの墓は必要だと思う。人の居場所を作るために、そして再び立ち上がるためだ。間違っても潰すなよ。
後お前、あの時なんで悲しまなきゃ前に進めないと俺に聞いたよな? なんでかっていうとな、悲しめばその人のこと、覚えてられるからだよ。そんで、踏ん切りがつくんだ。もう悲しむのが疲れるからだ。ま、答えになってねえかもだけど。それに正しいかどうかは、お前が決めろ。まだ、答えを知る機会はあるんだ。結論を出さないっていうのもアリだ。
まあ、長ったらしく書いたけどさ、今まで世話になったな。もし俺が生きてたら、後で酒、飲もうぜ。アルゴちゃんのことも、よろしくな。一度彼女と向き合うのもいいかもしれないな。
達者でな、秋山
松本 剛より」
手紙が、涙でぬれていたことに気づいたのは、読み終えたあと数秒経ってからだった。秋山はハッと顔を上げて周りを見渡す。すると、誰もいなかった。老人医師はその場から去っていた。
秋山はポケットに入っているハンカチを取り出して涙を拭く。そして、手紙を封筒に入れなおし、鞄にしまった。
「ありがとうございます松本さん。俺に、考える時間をくれて……。」
秋山は空を見上げた。相変わらず変わらない空模様だ。俺と同じ空を見上げている人は、どんなことを考えているんだろう、人の死について、この狂った世の中をどんな風に考えているんだろうか。
それを知る術などない。秋山は病院の中へと入る。何故か清々しい笑みを浮かべていた。秋山は、松本さんの言うとおりにする。松本さんや俺が出した、死に関する考えを正解だとも思わないようにする。そして――アルゴと向き合う。彼女が抱えていた過去を、俺は知りたい。
秋山は先程アルゴと別れた場所にたどり着く。そこには、アルゴがいまだにベンチで座っていた。秋山は声をかけた。
「よぉ」
「あ、秋山。頭、冷やしてきたか?」
「ああ、だいぶ冷えたよ」
アルゴの声は少し低かった。彼女も悲しいのだろう。言葉をかける気はない。掛けられる言葉などない。だから、秋山は彼女に近づいて、頭を撫でた。
「――――!?」
アルゴは突然体をびくんと跳ね上げて驚いた。そしてこちらをキッと睨みつける。少し顔は、赤い。
「ナ、なにするんダヨッ!?」
「何って、頭撫でただけだ」
あえてこういった。言いたいことはきっと違うだろうけど。
「なんでそう、いきなりナンダヨ!?」
「ちっちゃな子に教わったんだよ。元気がねえときは、頭撫でろってな」
「いや……それは……」
アルゴは何か言おうと口を開くが、俺が遮る。きっと、子供の勘違いだとでもいうつもりだろう。
「大人にだって気安くやってもいいんだよ。慰めることの、何が悪いんだ? ま、元気出せとは言わないけど」
「~~~っ!!」
アルゴはものすごく恥ずかしそうだった。しまいには秋山は殴られた。
「って!!?」
「秋山がそんな大胆なことをするカラダ!! 女子の体に容易く触れるナヨ!」
「わ、わるかったよ。だから止めろ!」
秋山は殴り続けるアルゴをなだめるが、アルゴは殴る手を休めない。
「いってぇ!? 頼むからやめてくれっ!」
秋山は腕を掲げて身を守るも、腕に容赦ない攻撃が加えられるので痛い。
一分ほどがたってアルゴが疲れたのかようやく収まった。だけど、アルゴはなぜかスッキリした顔をした。きっと今のでストレスがきれいさっぱりなくなったのかもしれない。
秋山は一息つくと、アルゴに言った。
「さて、俺はそろそろ帰るよ。アルゴも帰るだろ?」
「……アア」
「そっか。じゃあな」
秋山は手をあげて去っていった。だが、秋山はひとつ忘れていた。
「あ、そうだアルゴ。一つ忘れてた」
秋山は笑いながらアルゴの方を振り返る。目は、真剣だった。
「また、俺の墓に来いよ。過去に決着、未だつけてないはずだろ」
「ーーーーーー!!」
アルゴは息をひきつらせた。秋山はふっと笑いながら、去っていった。
彼女の傷を知りたい。向き合いたい。そして……死とは何かを、確かめたい。結論を出せなくても、考えは持ちたい。それが…SAOを生き抜いたプレイヤーにとっての義務だと思うから。
秋山は、今日起こった死を噛み締めながら、次なる光へと、足を運んだ。
いかがでしたでしょうか。
感想ではたくさんのご意見をお待ちしております。前回も申しましたが、反論やダメだし、指摘など歓迎しております。
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