英雄たちの墓参り   作:アズマオウ

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更新大幅に遅れました!申し訳ないです!

理由などは全て活動報告に示してあります。

今回の来訪者はタイトルで察していただけると思います。

ではどうぞ!!


一人目:黒の剣士

「いらっしゃい」

 

 そっけなく投げられた秋山の声は、カウンターに立つ一人目の来訪者の鼓膜に届いた。来訪者は黒のTシャツに黒のジーンズという出で立ちで全身黒ずくめだ。顔は中性的な印象を与えて、下手すれば女の子と間違えてしまいそうだ。

 

「ここが、死んだSAOプレイヤー全員の墓がある場所ですか?」

 

 年齢が掴みづらい、独特の響きを持つ声が発せられる。秋山はコーヒーをずずっとすすりながら、首を縦に振る。

 

「アンタの名前は何だ? お客さん」

 

 秋山はコーヒーを丸テーブルに置いて問う。来訪者は一瞬驚きの表情を見せるが、すぐに口を開く。

 

「ああ、桐ケ谷かず……」

 

「ちげえよ。プレイヤーネームだ。アンタ、サバイバーだろ?」

 

「え……プレイヤーネームを言うのか?」

 

「あったりまえだ。リアルネームでもサバイバーだってわかるけど、本名なんていくらでも入手できるしな。これじゃあ照合にならん。んで、キャラネームは?」

 

 黒ずくめの来訪者はまいったなという顔をしたが、諦めたらしく、吐き捨てるように二つ目の名前を言った。

 

「キリトだ。スペルはいいか?」

 

「一応頼む」

 

「≪Kirito≫だ。k、i、r、i、t、o」

 

「なるほどな」

 

 秋山はうなずきながら、スマートフォンにそれを入力し始める。スマートフォンにサバイバーの情報をすべて入れており、また検索機能も付いているので容易にサバイバーか否かわかるようになっている。

 

 秋山は情報を入力し終えると、ニヤッと笑いながら来訪者に言った。

 

「確かにアンタはSAOサバイバーだ。まさか一人目が≪黒の剣士≫様だとは思わなかったぜ」

 

「……知ってたのか?」

 

 来訪者――キリト(本名は桐ヶ谷和人)は嫌そうな顔をしながら秋山を見る。秋山は一層得意そうな顔をしながらうなずく。

 

「んまあな。攻略組の情報は結構入手してたしな。ちなみにお前がユニークスキルの二刀流を手に入れたこと、≪閃光≫と結婚したこともだ。まあ有名だからな、知ってて当然だが」

 

「アンタは前線にいたのか?」

 

 いつの間にかぞんざいになったな口調がという言葉を飲み込んで、首を横に振った。

 

「いんや、俺は中層プレイヤーだ。まあ、第25層でまいっちまってさ。そこから降りたんだ」

 

「そうなのか……」

 

「んで、剣士さんはそんな情けない俺を責めるか?」

 

「いや、そんなことはしないさ。第25層は死者が多く出過ぎたし、アンタがくたばっても無理はないよ」

 

「すまねえな。んでだ。アンタは誰の墓参りに来た?」

 

 秋山は頬杖を突きながらキリトに問う。

 

「ああ、≪サチ≫って言うヤツいないか?スペルは≪Sachi≫だ」

 

 キリトは自ら持っていたメモ帳にスペルを書いて秋山に見せる。秋山はそれをスマホに入力してデータを参照する。

 

「ああ、いるし、確かに死んでいる。死んだのは、2023年6月あたりだな。ずいぶんと早くおっちんだもんだ」

 

「やっぱり、死んでたんだな……」

 

 キリトはそう言うと、下を俯いて顔をゆがめた。恐らくかすかには信じていたのだろう。その≪Sachi≫が生きているということを。

 

「ああ、やっぱり例外なく全員の脳味噌がチンされている」

 

「そうか……。墓参りしたいんだけど、いいか?」

 

「構わねよ。料金は一つの墓につき100円だ。それと制限時間は10分だ」

 

 キリトは苦笑しながら、財布から小銭を取り出す。

 

「随分と細かいんだな」

 

「んまあな。個人情報は漏えいさせられないしな」

 

「なるほどね」

 

 ぱちりとコインがカウンターに置かれて、秋山はそれを可愛らしいピンクの豚の貯金箱に回収する。

 

「線香とかはあるのか?」

 

「ああ、ある。花も買ってあるし、大丈夫だ」

 

「そうか。≪Sachi≫の墓の場所はこのガイド端末が示してくれる」

 

「随分凝ってるなあ……」

 

 秋山はカウンターから一つの小型携帯器を渡した。ストップウォッチのような形をしている。まるで随分昔のバトル漫画に出てくるレーダー機械のようだ。確か、特殊なアイテムを探し出すためのアイテムだった気がする。

 

「デザインは俺が設計したんだ。あのマンガ好きだしな」

 

「言われてみれば似ているなあ。まあいいや、とりあえず俺は行くよ」

 

 そう言って、キリトは小型端末に視線を落として歩き始めた。その足取りは未だに死を認めず、どこか微かな期待を抱いて、焼け野原になった平地で大切な人を探す哀れな男のようだった。

 

 

                   ***

 

 

 右手には、水一杯の手桶に柄杓。左手には色とりどりの花が握られていた。先程渡された端末は墓の傍にあるタッチパネルにおいてある。そこに端末を置くことで初めてその人の墓に近づけるのだ。どこまでも厳重だ。しかも、そこに端末を置かない限り誰の墓かわからない。そもそも墓石に名前が刻印されていないので確かめる術は一つしかないわけだ。

 

 キリトは、新旧混ざり合うこの墓のシステムに思わず感心する。いや、すでに呆れている。とりあえず、手桶を地面に置いて柄杓で墓に水をかける。タッチパネルには≪Sachi≫と表示されていた。本名は書いていない。キリトはじっとその名前を見つめ続けて、そっとその文字を撫でる。そこからぬくもりを感じようとしたが、伝わるのは、液晶画面が与える熱だけで、二人でベッドに入ったときの暖かさとは全く違う。

 

 水をかけ終わり、花瓶の水を入れ替えて花を生ける。そのあとに、線香に火をつけて備え付ける。線香の焦げ臭いにおいが鼻につくが我慢して手を合わせた。目をそっと閉じ、あの時の記憶を思い起こした。

 

 

 サチという少女は、キリトがかつて所属していたギルドにいたプレイヤーだ。キリトはソロプレイヤーとして最前線を攻略していたが、いつしか人との触れ合いを求めるようになっていき、サチの所属するギルドに偶然誘われて加入した。

 そのギルドの名前は≪月夜の黒猫団≫で、弱小ギルドだ。当然レベルもキリトより低く、編成も不安定だった。ただ、他のギルドとは決定的に違ったのは、彼らがとっても仲が良かったということだ。リアルで友人関係だったから当然かもしれないが、当時のキリトにはとても眩しく映ったのだ。だから加入した。自分のレベルなどを隠して。

 

 しかし、このギルドは壊滅してしまった。とある迷宮区でトラップに引っかかってキリト以外のメンバーは全滅し、リーダーだった男はキリトにありったけの罵声を浴びせて自殺した。

 

 サチという少女は、キリトの目の前で死んだ時も、ウソをついていたキリトに信頼の目を寄せていた。あの迷宮区のトラップのことももちろん知っていた。にも関わらずキリトは教えなかった。偽りの信頼を失うのが怖かったからだ。

 

 サチという少女は、キリトの中でかなりのスペースを占めている。彼女は死ぬ一か月前、キリトに、負の感情をすべて吐露した。

 

 どうしてゲームなのに本当に死ななきゃいけないの?

 どうして茅場って人はこんなことしたの?

 何か意味はあるの?

 

 そのときにキリトは、君は死なないよと返した。だけれども。サチは死んだ。 己の手でサチを葬り去ったのだ。嘘で塗り固めて放った言葉を信じさせたせいで、サチは死んでしまったのだ。

 

 

 サチに関する記憶は未だに消えていない。死ぬ間際に見せたあの目線も、一緒にベッドで寝たときのあの温もりも、そして、己のしでかした罪も、一生忘れることはない。

 

 

 閉じていた目をゆっくりと開ける。目の前には、名前すら刻まれていないサチの墓だけがあった。そして、うっすらと涙がにじんでいた。

 

「あれ……変だな。何で俺、泣いてるんだ?」

 

 涙をあわてて拭うが、いっこうに止まらない。あふれ出した涙は頬を伝い、乾いたコンクリートを濡らしていく。

 

「ごめん……! 君は死なないって何度も言ったのに……結局死なせてしまった……」

 

 キリトは、塗れた顔を拭うのをやめて頭を下げる。謝ったところで、どんなに深く頭を下げたって、罪は消えない。けれどこれくらいのことはさせてほしい。

 

 

「すまない……すまない……」

 

 キリトは、謝罪の言葉を繰り返しながら、泣きじゃくる。跪き、サチの墓にすがりつき、ただひたすら泣く。

 愚かだった。失ってしまった。乗り越えられたけど、悲しかった。彼女はキリトのせいじゃないと、後に届いていたメッセージで言っていた。が、それでも墓の前にたつと、自己嫌悪にさいなまれる。

 

――辛いときはね、泣いて良いんだよ?

 

 聞いたことのある声が聞こえた。だが、ここにはキリトと秋山以外誰もいないはずだ。しかも女性だ。落ち着いた、優しい、けれど悲しそうな声は――――

 

「う、うぅ……ああぁ……」

 

 ダメだった。答えを出す前に、涙があふれてきた。後はもうブレーキは利かなかった。

 

「あああああああああああっっ!!」

 

 幼い頃に、親にありったけの涙を流したように、泣き出した。サチの墓を抱きしめ、顔を埋めて、ただひたすら泣いた。枯れるまで泣いた。

 

――ごめん、ごめんなあ……。

 

 5月の空に、1人の弱くて最強の剣士の泣き声が、響き渡った。永遠に消えない傷を負った、非力で愚かな少年の叫びだった。

 

 

                 ***

 

 

「おう、終わったようだな」

 

 カウンターの回転いすにふんぞり返って、コーラをグビグビ飲み終えた秋山は、帰ろうとするキリトに声をかけた。

 

「ああ。もう行く」

 

「ならせめてその真っ赤な目をどうにかしてから行け。家帰ったら笑われんぞ?」

 

「……分かったのか?」

 

 泣いていたのがという言葉が省略されていたが、秋山はすでに察していた。キリトの目は、散々泣いたせいですごく赤くなっている。それに――

 

「叫び声もしてたしな。まあ無理もねえけど……」

 

「聞こえてたのか……」

 

「ったりめえだ。そのせいでギャルゲーの女の子の声が聞こえなかったじゃねえか」

 

「おいおい……」

 

 恥ずかしさ半分、あきれ半分の表情でキリトはつぶやく。こんな趣味を持っているやつが総務大臣なのが驚きだ。日本は大丈夫なのだろうか?

 

「まあとにかく、気を付けて帰れよ。次もまた来いよ?」

 

「ああ。定期的に来るさ。サチに会いにいかないといけないからさ」

 

「待ってるぜ。黒の剣士」

 

「お、おう」

 

 最後はキリトは少し納得しかねてはいたが、手を軽く上げて背を向けて去っていった。

 

 旧式のモーターバイクにまたがっていき、うんざりするくらいうるさい音を豪快に――そういう仕様だが――エンジンを鳴らしながら墓を出るキリトを不快な顔で見送って、再びカウンターにふんぞり返った。

 

 あの少年は、キリトは傷を負っている。それは、何も知らない秋山でもわかる。ただ、それは秋山の問題ではない。解決するのはキリトだ。秋山はその手伝いをしたまでだ。

 

 秋山は、携帯ゲーム機をテーブルに置いて、カウンターを出る。そして、先程キリトが行った≪Sachi≫とやらというプレイヤーの墓へと行く。そこで忘れ物がないかチェックするためだ。

 

「おい……忘れものがあるじゃねえか」

 

 墓石の段の上に、白い横長の封筒が置かれていた。そこには「サチへ」と書かれていて、中には一枚の便箋が入っていた。

 

「置手紙ってやつかよ……なら読まねえほうがいいかな」

 

 普段の秋山なら何も考えず読んでしまう。けれど、今回はやめておく。なぜなら墓石から物凄いプレッシャーが放たれたからだ。霊感というのは鼻っから信じてはいないが、流石に無視出来るレベルじゃない。

 

「俺は今回読まないから、お前が読めよ?」

 

 そう呟いて、軽く手を合わせて目を瞑り頭を下げる。数秒後、そこを離れてカウンターへと戻った。

 

「今日はこれで終わりにすっか。総務省の仕事と、エロゲーノルマが一本あるしな」

 

 公私混同な言い訳をつぶやいて、ガラッとシャッターを閉めた。そして、第一の仕事場、すなわちオフィスに戻って施錠して、家に帰って夜までだらだらと過ごして寝た。

 

 これで今日の仕事は終わった。明日も、客が来ればいいなあとボソッと呟きながら夢に落ちていった。

 

 

 

 

                  ***

 

 

 1日後の早朝のことだった。秋山は、大あくびをしながら墓をぶらついていた。といっても墓場の見回りをしているので仕事の一環なのだが。

 

 回っていると、昨日訪れた≪Sachi≫の墓があった。そこには手紙がまだ置かれてあった。だが、秋山は目を剥いていた。昨日と今日のあいだに起こった変化に。

 

「どうなってんだよ、全く……」

 

 秋山は信じられない気持ちで目をそらす。再びその手紙に視線を戻すと、何事もなかったかのように、昨日と同じ状態だった。

 

「おいおい、朝からオカルトなんて聞きたかねえぞ……気味悪いから悪いけど早く帰らせてもらうぜ」

 

 わずかに震えている声で、墓に話しかけてそそくさとカウンターに戻った。最期にチラッとその墓にある手紙を見たが、封は閉じられていたままであった。

 

 

 

 

 だが、秋山の姿が完全に消えた瞬間。

 

 封が開けられた。誰もいないのに。開けられた手紙は、春風とともに宙に舞い、空高く飛んでいった。手紙は一旦ふっと急降下していった。しかし、再び急上昇していった。そのはるか上には、いるはずのない、黒と白が混ざり合った体色をした鳥が、勇ましく翼をはためかせていた。それを目指すように、手紙も風に乗って追い続ける。

 

 だが、その鳥の隣にもう一人の美しい銀の雌鳥が現れた。凛とした印象を思わせ、勇ましい黒鳥にはお似合いであった。手紙は飛翔を辞めて、力をすべて失ったかのように何の抵抗もなく落ちていった。

 

 かさっと微かな音を立てて、地面へと落ちていった。すっかり封は閉じられている。住宅街が立ち並ぶ一角に、小さな公園がある。草がわずかに生えている茶色い地面に白い手紙が置かれていた。

 

 近寄る足音が一つあった。その人は僅かに皺が生えてきた手を伸ばして、その手紙を掴みとった。

 

 数分後、地面に数粒の涙が、落ちた。そして、か細い嗚咽が早朝の公園に響き渡った。

 

 

 

「幸……」

 

 

 

 




さてと、レポートやルカ。最後の文章の意味はわかりましたか?

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