英雄たちの墓参り   作:アズマオウ

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こんにちは!アズマオウです!

今回は、な、なんとキバオウです!!あと今回のメインは墓参りではないです。

キバオウの性格少し丸くなってます。ではどうぞ!


四人目:軍の副大将

「ぅうん……やべ……寝ちまってたな」

 

 秋山は、散らかっている机から頭を起こして欠伸をした。そして視界に写るパソコンのニュース番組を消した。昨日消すのを忘れていたようだ。とりあえずシャットダウンして、洗面所で洗顔してきた。その後、乱れた髪を整え、朝食用のハムサンドを引き出しから取り出して、チンして食べた。

 

「まずっ」

 

 ふにゃふにゃしたチーズハムサンドに文句を言いながら、時計を見る。どうやら出勤時間まで時間はないようだ。

 

「仕方ねえ、行くか」

 

 秋山は、チーズハムサンドをごっくんと呑み込み、職場へと急いだ。今日は誰が来るだろうか、気にはなったが、楽しみではない。

 なぜそう思うか。昨日のアルゴのせいだ。彼女にしては珍しく、泣いていたのだ。涙を流さずに。心の傷と向き合ったことによって。だから、そんな傷に向き合って泣くくらいなら、来てほしくはない。

 

 ただ一応始めてしまったビジネスだ。とりあえず経営難に陥ったらやめようと決めて、職場のカウンターに向かう。カウンターにかけられている¨Close¨の文字をくるっと裏返しにして¨Open¨に変えた。

 

 これで一日が始まる。せめて静かな一日が過ごしたいな。こんなささやかな願いが叶わない訳がない。そう思っていたのだが。

 

「ここが墓参りの場所か?」

 

 やたらとうるさい声が聞こえた。秋山はそちらを見る。

 

「ああそうだ。用があるならこっちのカウンターへ来い」

 

 秋山は、近くで突っ立っている男に言った。男の髪の毛は、剣山のごとく尖っており、目は、獣のようだ。髪の色は茶髪で、顔は骨張っている。なかなか話しかけづらそうな人間だ。

 

「んで、金払えばエエんか?」

 

「そんな単純じゃねえよ。あんた名前は何て言うんだよ」

 

 どうやら初めての奴のようだ。すごく意外そうな顔をしているが、どうにか察したようだ。

 

「ワイはキバオウってもんや」

 

「キバオウか。聞いたことあるし、一緒に戦ったこともあるな」

 

「そらそうやろ。あんさんの顔、見たことあるで」

 

「だよなあ、軍のサブマスさんよ」

 

 秋山は、キバオウに向かってそういった。

 キバオウの名前を秋山は知っていた。彼は第1層からの古参攻略組プレイヤーで、なかなかの実力者だった。後に《アインクラッド解放軍》というギルドを作り上げて、情報や資源の均等分配を主とするギルド《MTD》を吸収して、合計メンバー1000人のギルドにまで大成させた。しかし、第25層攻略の時、精鋭が大量に死亡してしまい、前線から退いた後はキバオウは組織強化へと邁進し、無駄な肥大化と、弱いものいじめの多発を招いてしまった。挙げ句の果てには、追い詰められたキバオウは吸収した《MTD》のリーダーだったシンカーという男を難関ダンジョンの奥まで誘導して謀殺しようとしたが、失敗に終わり、キバオウやその一派は除名された。

 秋山がなぜここまで知っているかというと、アルゴにすべて聞いたからだ。500コル払って。ただ、500コルでここまで調べるとは、なかなかではあるが。

 

「ワイはもう軍やないで」

 

「以前は軍だっただろ?」

 

「せやけどな。今から思えば、ワイはなにやってんだろなって思ってきたんや」

 

「まあそうだろうな。昔のことだから四の五言わねえけど。……誰の墓参り行くんだ?」

 

「ああ、コーバッツはんや」

 

 スペルを聞いた秋山は、さっそくスマホを取り出して調べた。生死を確認するためである。

 

「死んでやがる。惜しかったな、あと少し長ければ生きて帰れたのにな」

 

「やっぱそうやったか」

 

「そうだ。他の奴らも例外なく死んでいる。同時期に死んだのはあと二人もいる。ひでえなおい」

 

 秋山はそうつぶやいた。キバオウは唇をかみながら下をうつむいた。何か関係があるのだろう。それも、後ろめたいことが。

 秋山はそれ以上詮索できないと割り切って、端末を渡した。

 

「なんやこれは?」

 

「これは墓の在り処を示してくれるレーダーだ。これを見ながら行ってくれ」

 

「ずいぶんと凝ってるやな」

 

 キバオウはぶつぶつ言いながらそれを受け取る。電源ボタンを押すと、コーバッツの墓までの経路が記された地図が映し出された。

 

「こうでもしねえとお国から許可もらえねえんでね。なんもわかっていないくそじじいどもにな」

 

「そうやのか……。ま、ええわ。金はドンくらいや?」

 

「100円だ。一人につきな」

 

「安いな。ホレ」

 

「サンキュ」

 

 すっとキバオウの手から100円玉が渡され、秋山は豚の貯金箱にそれを落とした。

 キバオウは端末に目を落として、印された道をたどっていった。

 

 

 

***

 

 

 

 キバオウは、コーバッツの墓の前へと立った。花と線香を手向け、手を合わせた。墓のそばにある端末リーダーの画面には≪Corbatsu≫と記されている。

 

 10秒間の黙とうを終え、目を開ける。しかし目の前の景色は全く変わらない。ただそこに、死んだ者の簡素な墓があるだけだった。しかも、己の浅はかなミスによって死なせてしまった者の。

 

「すまんかった、コーバッツはん」

 

 キバオウはひとり墓に話しかける。

 

「そりゃ無茶やな。たった十数人で倒すなんてな」

 

 そう言って、キバオウは頭を下げた。

 

 

 コーバッツは、キバオウの部下だった。彼は軍に所属していて、忠義に溢れる男だった。キバオウの命令には全て従い、命懸けでこなしていた。それが後に、軍の衰退を招くことを両者ともに知らずに。

 

 コーバッツは、デスゲーム終結の3週間前ほどに死んだ。理由は、第74層のボス《The Gleam Eyes》に、わずか十数名で挑んだからだ。しかも部下は疲弊しており、最悪の状態だった。

 当然歯が立つわけもなく、コーバッツとその部下2名が死亡した。そこに、ソロの《黒の剣士》とそのパーティーメンバーの《閃光》、そしてギルド《風林火山》が駆け付けてどうにか全滅は免れたからよいが、全ての責任はキバオウが負うことになった。

 ちょっと考えればわかったはずなのだ。たった十数名でボスに勝てるわけがない。それは自身が攻略組だったときに解っていたはずなのに。コーバッツに出撃命令を出したのはキバオウだ。だから彼を殺したのはキバオウだ。

 

 そのときコーバッツは、敬礼しながら御意と答えていた。そのとき、わずかでも戸惑いや疑問の色はなかった。声に張りもあった。だからキバオウは行かせてしまったのだ。100%死んでしまう、戦場へと。

 なぜそんな無謀なことをしたのか、キバオウは覚えている。第25層で甚大な被害を受けた軍は、始まりの街へと引きこもり、そこで組織強化を行っていた。初めは攻略のために頑張っていたのだが、次第にやる気を無くしてしまい、力への支配や、惰性化へと走ってしまった。そんな動きを避難する声が大きくなり、キバオウは考えた。ボスを倒せば、連中も黙るのではないかと。

 

 キバオウは、考えは正しいが、プロセスが最悪だったのだ。コーバッツの死は無駄となり、キバオウはますます立場を悪くさせてしまった。

 その後のキバオウの動きや末路は、先程述べた。

 

「コーバッツはんは、こんなバカなワイのいうことを聞いてくれたんやよな……。ありがとな」

 

 もちろん答えはない。けれど、どこか安心感を得ていた。声が届いている気がしたからだ。

 

「コーバッツはん。ワイは、シンカーはんに謝りたいと思うんや」

 

 キバオウは、決意のこもった声で墓に言った。墓はなにも答えないが、なぜか同意しているように見えた。

 

「そうか。そういってくれるんやか。わかったで。ワイは行く。あんがとな、コーバッツはん。たまには、ここに来るかんな」

 

 そういった瞬間、キバオウは背を向けて去った。なぜか早歩きになってしまったが構わず入り口へと向かう。コーバッツに対する申し訳なさはまだあったが、少しだけスッキリした。あまりにも墓参りが短かった気がするが、仕方がない。キバオウはこれから仕事なのだから。

 

「もう、帰るのかアンタ」

 

 カウンターまで戻ったキバオウは、秋山に声をかけられた。キバオウはこくっと頷いた。

 

「ほなまたな」

 

 キバオウはそれだけいって去った。けれど秋山は、すぐに呼び止める。

 

「おい」

 

「なんや?」

 

 キバオウは、イカツイ顔を浮かべて秋山をにらむ。秋山はまるで動じず、口を開いた。

 

「シンカーに会うなら、東京都の……だ」

 

「な、なんでそれを……!?」

 

 キバオウは動揺した。無理もない。自分がシンカーに会いたいなどとは一言もいってない。知らないはずなのに。

 

「だって、ここに来るっつーことは、すなわち過去と向き合うためだろう。仮にアンタがシンカーに会いたくなかったとしても、同じこと言ったさ。終わったことをいつまでも引きずるのもどうかしてるしな」

 

「あんさん……すげえな」

 

「これでも官僚だ。対したこたぁねえ。ああ、そうそう」

 

「なんや?」

 

「これ、やるよ」

 

「これは……?」

 

 秋山はキバオウに、一枚のチケットを渡した。結婚式の招待状だ。しかも、そこに記されていたのは、リアルのシンカーの名前だった。

 

「な、なんでや!? なんであんさんがそんなもん……」

 

「それはほんとにたまたまだ。こないだシンカーの会社に行ったときな、もらったんだよ。元SAOプレイヤーの縁としてな」

 

「な、なるほどな。さすが官僚や……」

 

「んなにはたいしたことねえ。とにかくそれもってさっさと行け」

 

「恩に着るで、お偉いさん! ほなまたな!」

 

 そう言ってキバオウは、駆け出していった。自分がいかなければいけない場所へ。そこで過去を全て終わらせるのだ。自身の撒いた、黒い歴史を。

 

 

 

「……さて、俺はどうするかな」

 

 秋山は、カウンターの椅子にふんぞりながら考える。時間は朝の9時だ。暇すぎる。

 

「まあいいや、寝てよ」

 

 秋山は、カウンターに突っ伏して眠りに落ちていった。客来たら起こしてもらえばいいし。

 

ーーキバオウは、うまくやってるだろうか……。

 

 そんな軽い心配を最後に思い、睡眠の欲に身を全て預け、闇へと落ちていった。

 

 

***

 

 結婚式が行われる教会で音楽が流れている。けれどキバオウはそれを楽しむ余裕もなく、シンカーを探す。よれよれになったスーツを来て、汗だくになって走り続ける。

 

「シンカーはんは、どこや……!?」

 

 息が切れ切れになって来はじめ、ついに足は止まった。だが、息をどうにか整え、再び視線を上にあげたとき、シンカーを見つけた。その妻、ユリエールが、美しいウェディングドレスを纏っていて、シンカーは、締まった銀の背広を着ている。とってもきれいで、お似合いだった。だが、キバオウは、感動を押し退けて一直線に走る。

 

「シンカーはん!」

 

 大声で呼んだ瞬間、談笑が一瞬止む。そしてキバオウを異物を見るような目で周りは見てくる。だがキバオウは意にも介さず、シンカーの目を見る。

 

「君はもしかして……キバオウ?」

 

 シンカーが緊張した声で問う。

 

「そ、そうや……。はあ、はあ……」

 

 息が苦しく思わず膝まずいてしまう。

 キバオウだと知ったユリエールは憤怒の表情を浮かべて、キバオウに詰め寄る。ユリエールは、今でもキバオウのシンカー謀殺未遂のことを許してはいないようだ。だが、シンカーが手で制した。

 

「ユリエール、きれいな顔を怒りで染めちゃいけないよ。で、キバオウさん。御用件はなんだ?」

 

 シンカーはやや厳しい声で問う。彼も警戒を解いてないようだ。

 キバオウは瞬時に察した。自分を許してはいないということを。だから、自分のできる限りのことはしなくてはいけない。

 

「なっ……!」

 

「うそ……」

 

 周りがざわついた。けれどキバオウはやめなかった。このくらいのことは耐えなきゃいけない。二人に、いや、他のSAOプレイヤーにしてきた非情なことに比べたら、対したことはない。

 

「そんなことして……許されると思って……!」

 

「止めろユリエール。彼は誠意を示しているんだ」

 

 そう、キバオウは土下座しているのだ。シンカーに、ユリエールに向かって。いっこうに頭をあげる様子はない。

 キバオウは、誠意を示しているつもりだ。伝わってほしい。自分が悪かったということを。今までひどいことをしてきたということを。それについて謝りたいということを。

 

「誠意? シンカーはこの男の偽りの誠意に騙されたのよ?」

 

「それはもちろんわかっている。けど、僕にはわかる。だって考えてみて。汗だくになって息切れになって、土下座して謝っているんだ。その行為からどうやって僕たちのなにかを奪うというんだ?」

 

「そ、それは……でもしかし……」

 

「僕は一度騙された。でもね、ネットゲームじゃよくあることなんだ。逆に言えば、ネットゲームじゃないところ、すなわち現実世界だと、そういう人ほど、騙せないものなんだ。しかもSAOは、狂ってたから、仕方がないのかもしれない」

 

「……優しいのね」

 

「僕は争いが嫌いなんだ。君と一生ゆっくりしたい」

 

「私も、よ」

 

 急にイチャイチャし始めたが、キバオウは、土下座を続けている。シンカーは、ユリエールから視線をはずして、キバオウに言った。

 

「顔をあげてくれ、キバオウさん」

 

「……っ」

 

 キバオウは、ゆっくりと顔を上げた。その顔は涙でぐちゃぐちゃだった。シンカーは目を丸くして驚いた。

 

「どうしてそんなに泣いているんだい?」

 

「し、しんかーはんがあ……わいの……わいの……ことゆるしてくれた……からや……! まさか……ゆるされるとはおもわんかった、からぁ……」

 

 声も涙で濡れている。シンカーは背広の後ろポケットに入っているハンカチでキバオウの濡れた顔を拭いた。

 

「僕は、確かにあのときは怒り心頭だったさ。けど、今となってはどうでもいいんだ。いつまでも過去に縛られちゃいけない。そんなことでくよくよ悩むくらいなら、ユリエールと一緒にいる未来を思い浮かべていた方が有意義さ」

 

「あんさん……」

 

「だから、キバオウさんも僕たちの間にあったことは気にしないで、未来を歩んでください」

 

 何て器の大きい人だろう。命を奪いかねないことまでやっておきながらあそこまでの発言ができるまど、常人にはできない。キバオウは再び涙が溢れてきた。

 

「赦してくれるんか……?」

 

「ああ、だから君も僕らの結婚を祝ってくれないか?」

 

 ほろりと涙を垂らしながら、キバオウは首を縦に降った。

 

「今まで、すまんかった……! シンカーはん、ユリエールはん!!」

 

「よし! これで全部解決だ!! この話を蒸し返すのは無しにして、宴を続けよう!! 新たにもう一人加えて!」

 

 シンカーの声に、全く3人の中の事件に関係ない人までが、呼応して、陽気な、いやいい意味で混沌な空気が戻っていった。

 

「ありがとう……シンカーはん」

 

「ほら、蒸し返すのは無しって言ったろ? 今は楽しもう。ほら、飲み物だよ」

 

 シンカーがとってきてくれた、オレンジジュースをキバオウは手に取る。あまり甘いものは好みでないキバオウだったが、文句も言わずのんだ。美味しかった。涙がまた出そうになったが、堪える。ここでまた流したら、シンカーを困らせてしまうからだ。

 

 宴は再び開始された。ありったけのご馳走、楽しい余興、社交ダンス、そして永遠の契りのキス。結婚式に乱入したキバオウは、騒ぎに騒いで、大いに楽しんだ。シンカーは本来来るはずだった秋山を心配し、ユリエールは両親に言葉をかけていた。

 そうして結婚式の楽しいひとときはあっという間にすぎた。結婚式が終わって解散になったとき、キバオウとシンカーは仲良く話すようになり、絆を手にいれた。いや、取り戻した。

 

ーーありがとな。秋山はん。アンタのお陰や。コーバッツはんも、勇気くれてありがとな。。

 

 シンカーとの昔話に花を咲かせながら、キバオウはここにはいない男たちにお礼を言った。

 キバオウが握っている、花びらがついたチケットが、わずかに暖かくなっていたのを、キバオウは気づくことは、なかった。




今回は、シンカーとキバオウがメインになりましたね。コーバッツもたてたつもりですが。

次は誰でしょうね?

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