今回のゲストは、圏内事件でも有名なグリムロックです。とはいっても私はこのエピソードはそこまで好きでなくて……間違いとかありそうで怖いです。
それと、先にいっておきますが、グリセルダのリアルネームは原作ではユウコと表記されていますが、本作品ではあえて優子と表記しました。優しい人と言う意味を込めて。
ではどうぞ!
『今日は、結婚式場の特集です! 若いカップルの結婚を応援するーー……』
「結婚か……そういや考えたこともねえな」
秋山は朝のテレビを見ながら呟いた。一応結婚式というのは言ったことがある。部下の結婚式に招待はたくさんされるからだ。まあ俺は部下を手なずけるのは得意だと自信もって言える。
結婚式を見ると、とっても幸せそうなのだ。ウェディングドレスを纏った美しい女性と、そのとなりに立つ、凛々しい男の姿を見ると、自分もそこにたちたいと思ってくる。
けど結婚したいとは思わない。好きな人がいるわけでもないし、夫婦とは人生において上司部下の次に束縛のある関係なのだ。秋山はそういった関係が嫌いなのである。
うんざりしてきた秋山はテレビを切って、職場へと向かった。俺は独身でやってやるかなと、悲しい決意を抱きながら。
***
午後11時。ようやくお客さんが来た。シルクハットに、ずいぶん使われている背広のスーツを着た男性だ。コツコツと革靴を鳴らして、カウンターに来たときは、秋山はもう退職した前のとても優しく慕われていた総務大臣かと思ってしまった。それほどまでに雰囲気がにているのだ。
「こんにちは、ここがSAOの墓ですね?」
穏やかな声で秋山に尋ねた。
「ああ……いえ、そうです」
思わず敬語で話してしまうほどだった。秋山の尊敬していた総務大臣によくにている。もちろん顔は全く違うが。
「グリセルダ、というプレイヤーはいますか? その墓に」
「少々お待ちください」
やべえな総務省の受付の女事務員のようだな俺と、思いながらスマートフォンを取り出して調べる。見事に死んでいた。
「申し訳ないです。すでにお亡くなりになられています」
「そうですか……お墓の場所を教えていただけないでしょうか?」
「わかりました。ですがその前に、あなたのプレイヤーネームを教えていただけないでしょうか?」
「わかりました。グリムロックです」
「グリムロック……確かにサバイバーですね」
聞いたことのある名前だ。アルゴから聞いた気がする。まあ、いいか。
「では、地図を渡しますね」
秋山はとりあえず思念を振り払って端末を出した。それを手渡し、グリムロックと名乗った男性が、訝しげにそれを見た。
秋山はそれを説明し、理解させて料金を支払わせた。もちろん入場料だ。アルゴみたいなセコい手はしない。
「ありがとうございます。それでは」
グリムロックはペコリとお辞儀をして、お墓へと消えていった。秋山は、久しぶりに恩師と話している気分で楽しかった。
「松本さん、元気にしてるかな……」
俺は久しぶりに、電話を掛けることにした。あとでアルゴと一緒に訪ねてみよう。そう思って、懐かしい電話番号を入力し、呼び出した。
***
グリムロックは、グリセルダの墓の前にたっていた。端末をかざして初めて使用できる不思議な墓についつい苦笑してしまう。
「端末をかざさないと墓参りすらできないんだ。不思議な墓だろう? 優子」
優子とは、グリムロックの妻で、グリセルダのリアルネームだ。SAOにおいても、現実世界においても、夫婦だった。とても仲の良かった夫婦だった。いつもにこやかで、優しく、理想の夫婦だったと思う。
けれど、SAOで命を落としてしまった。あることが原因で。
グリムロックとグリセルダ夫婦はある攻略ギルドを立ち上げた。《黄金林檎》というものだ。最初は二人だけだったが、後にメンバーが集まって、合計8人のギルドにまで成長した。
ある日、フィールドを攻略していると、レアな指輪がドロップした。その指輪をどうするかでもめ、結果的に売却の方向へと向かった。しかし、競売屋に向かったグリセルダが殺されたのだ。何者かによって。
その結果、ギルド内で疑心暗鬼の状態になり、解散となった。グリムロックは何処かへと身を潜め、他のメンバーはどこかのギルドへと加入していった。
その事件から何ヵ月かたったある頃。後に圏内事件と呼ばれる事件が発生した。圏内で、カインズという元ギルドメンバーが、殺すことができないはずの圏内で殺されたのだ。
その時に使われたショートスピアを作ったのはグリムロックだが、グリムロックはそれに加担したわけではなかった。
カインズが殺されたあと、死んだグリセルダが現れて、元ギルドメンバーのヨルコを殺した。同じく元ギルドメンバー、シュミットがそれに怯えてグリセルダにすべてを自白するはめになった。グリセルダ殺害に関することを。彼が、グリセルダ暗殺の書をレッドギルドに届けたことを。
しかしすべてはヨルコとカインズの作戦だった。彼らは実は生きていて、殺害されたと見せつけたトリックだった。すべてはグリセルダを殺した犯人探しのため。シュミットを自白させたのも、彼らの仕業だ。
その時、殺人ギルド《ラフィンコフィン》のトップ3が現れてシュミットたちを殺そうとしたが、ソロプレイヤーのキリトと、KoBのアスナに救われ、その後グリムロックが現れた。
グリムロックをキリトたちは疑った。はじめは否定していたが、ヨルコの最終弁論によって論破してグリムロックは認めた。
そう、グリムロックがグリセルダを殺したのだ。殺人者に頼んで、殺させたのだ。
「大変すまないことをした……グリセルダ。いや、優子」
グリムロックは、手を合わせて、謝罪した。左手には結婚指輪がついている。
「私はね、君が変わってしまうのが怖かった。君が私を捨てるのが怖かった。だからこんなおろかなことをしたのだ。すまなかった」
グリムロックはすべてを告白した。胸がそのたびに痛くなる。だが、こらえなくてはいけない。愛した妻を殺したのだから。
「お義父さんにもお義母さんにも話した。絶縁されたさ。当たり前だがね」
自嘲気味の笑みを浮かべる。グリムロックが現実に帰ってきたとき、優子の実家を訪れた。そこで自分が優子を殺したことを伝えた。義母はグリムロックにナイフをつきだした。義父は、ゴミを見るような目で、立ち去れ、二度と来るな、顔もみたくないといった。
それだけのことをしたのだった。
「私はね、帰ってきたらすぐに警察へと向かったんだ。君を殺したことを自主するためにね。でも、逮捕をしてもらえなかった。どうやらSAOでの罪の責任は、茅場晶彦に押し付けられているようだ。だから誰も私の罪をさばいてくれないんだ」
グリムロックに対して何のいらえも返さない。けれどグリムロックはそれで良かった。黙って話を聞いてくれている方がいい。優子は、黙って話を聞いてくれる人だったのだから。
「だから今日ここに来た。罪と向き合うためにね」
そう彼女にいう。不意に、暖かいものが頬を伝った。それがなんなのか、解るまでに時間がかかった。私が生涯ほとんど流さなかった涙だ。流したときといえば、優子と恋人になれた瞬間と、優子と結婚したときだけだった。こんなことで、流したくはなかった。私は愛していたのだった。
「ある一人の少女がグリムロックに向かってこう叫んでいたんだ。『あなたがグリセルダさんに抱いていたのは愛情じゃない。ただの所有欲だわ』、と。確かにその時はそうだった。自分のところから離れてほしくなかった。自分のそばにいてほしかった。納得がいってしまったよ」
あのときほどおろかだと思ったことはない。だから残りの生活は隠居を続ながらも、彼女に謝り続けた。愛というのを思い出そうと努力していた。
「けどね、今なら少女に違うと言える。今は君は私のものではない。私の妻だ。だから君以外の女を愛したりはしない。君以外の妻などあり得ない。だから私の妻でいつまでもあってほしい。こんな駄目な、最低な夫だけれど……」
答えはない。けれどそれでいい。答えなどゆっくり聞けばいいのだから。グリムロックは立ち上がってそこから去った。
***
「終わりましたか?」
秋山は丁寧な口調で話しかける。グリムロックの頬には涙の跡がある。それを見てしまった秋山は、罪悪感を感じた。また、向き合いたくもない過去に向き合わせてしまったと。その結果、悲しんでしまった。拳をそっと握りしめる。
「ええ、終わりました」
「そうですか」
「ええ。では」
「ま、待ってください!」
秋山は、立ち去ろうとするグリムロックを呼び止める。
「どうして……泣いているんですか?」
グリムロックは、どういうことだろうと首をかしげていたが、やがて何のことだかわかり、ああと呟く。
「さあて、ね。あなたはわかっているでしょう? 私に関することを。私がどんなに愚かなことをしたかを」
優しい声で秋山に言う。実際は知っている。最初は思い出せなかったが、アルゴからすべてを聞いていたのだった。この男が起こした事件の全てを。
「知っています……けれど俺はわからないことがひとつあるんです」
「なんだね?」
「俺はこの墓を作って良かったのだろうかって。あなただってもう二度と触れたくなかったでしょう? 過去なんて」
己の所有欲だけで妻を殺したことに関しては正直俺はなにも言ってはいけないと思う。なにかを言うのはあまりにも浅はかで、物知らずだ。だからそこに関しては追求はしない。
でも、グリムロックはなぜこんな過去を振り返りたいと思ったのかは俺は聞きたかった。
「確かにここにいるだけで逃げ出したくなります。でも……それは許されないですし、ここにいることで、私を裁いてくれそうな気がするんです」
「裁く……?」
「そうです。現実では誰も私をさばいてくれないでしょう? でも、こうやって過去に向き合えば、私は一生彼女の死を背負わなければいけない。それこそ償いなんです」
己の罪と向き合うことによって己を裁く。そういう意味もあるのか。理解はできる。だけれども……俺はどうなんだ? この墓を作ったことによって俺は、何をしようと思ったんだ?
ーーいや、それはまた後でいいだろう。一人じゃわからん。それにアルゴがこういっていたじゃないか。そこで見ているだけでいいと。
「そう、ですか……余計なことを聞いてすいませんでした」
「いえいえ、お構い無く。では、失礼します」
「では、お気を付けて」
グリムロックは、手を小さくあげて立ち去った。
「夫婦って……難しいんだな」
秋山はふとそう呟いていた。しばらくグリムロックがいた玄関口を見つめ続け、さて事務所に戻ろうと言うところで携帯のバイブがなった。
秋山は舌打ちを派手にならしながら通話ボタンを押した。
「もしもし、SAOサバイバーの墓を経営している秋山と云うものですが」
『おお、とーるんじゃないカ! 明日お前行くんダロ? 松本っちのトコロ』
「気軽にそう呼ぶんじゃない、アルゴ」
アルゴからの電話だったようだ。どうやら明日の松本さんとのお食事の話のようだ。こいつも松本さんにすげえお世話になっていたから、誘われたというわけだ。
『松本っちは優しいカラナ、ダイジョーブ!』
「フン、確かにな。俺の一番好きだった上司だ。まあ、俺もいくよ、食事にさ」
『じゃあ、松本っちのお気に入りのトコロナ。覚えてるダロ?』
「ああ、覚えてる」
『そこに11時集合ナ』
「やけに張り切ってるな」
『暇ダカラナ』
「あっそ……」
どや顔で言うなよストーカー記者めがと心のナかで罵りながら、呆れ声でいった。
『とにかくお墓の方も頑張れよ、とーるん』
「わかった。じゃあな」
秋山は、通話終了ボタンを押して、携帯をポケットに仕舞い込んだ。秋山は、ふうと一息吐き、事務所へと戻る。まだ勤務時間だが、もう店仕舞いしよう。なんだかこの仕事が面倒くさくなった。それに、松本さんとの久しぶりの食事だ。早く寝ておきたい。単純に秋山の気まぐれだ。
秋山は、事務所から早急に退出して家に帰り、7年前に松本さんに借りたエロゲーを3時間やって寝た。ある決意を抱きながら。
ーーそういや、明日アルゴに会うのか。だとしたら、聞いてみよう。彼女の過去を……。
一瞬、アルゴの泣き顔が頭をよぎるが、すぐに眠りに落ちていった。
次回は再びアルゴ回です。書いていて楽しいです。
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11月4日:修正しました。