今回だけ一人称が俺なんですけど理由はあります。今回は秋山が主役だからです。普段は主役じゃないので、秋山という風にしています。
途中よくわからない文章が出てきますがご容赦ください。ではどうぞ!
東京都の秋葉原。俺はそこに来ていた。もうすっかり夏に変わりつつあり、白いワイシャツが汗で濡れてくる。リア充カップルがくそ暑いのに腕を組んだりして体を密着するところを見ても気持ちよくないので、早足で目的の場所までいく。
世間を見ると、実に平和だ。VR技術なんぞ全く知らなかった頃、すなわち2010年代とまるで変わってない。世の中は物で溢れ返り、欲に溺れ、快楽に身を委ねる様はやはりどの時代でも変わらないようだ。文明だけは進化しても、人は進化していない。あの恐ろしいSAO事件だって、もう人々の記憶に深く刻まれているかどうかすら怪しい。
気がつくともう目的地だった。近くにはカードショップが何件も並んでいて、ガチ勢どもがそこにぞろぞろと入っていっている。なんだこの日本の腐敗っぷりはと嘆くことはもうしないが、あきれてものも言えず、さっさと目的の店ーーカツ丼屋さんーーに入った。
今は昼の11時なので混雑している。カウンター席は結構埋まり始めていた。テーブル席も人が結構いて、なかにはテーブル席でカードゲームをやり始めているやつもいる。なんでもそれはもうかれこれ30年は続いているらしい。やったこと無いからわからんが。
とりあえず俺は、人を探した。今日2人と待ち合わせしている。アルゴと、松本さんと言う人だ。
「おーい、秋山ーー!」
俺が探していると、突然自分の名前が呼ばれた。アルゴの声だ。今回はあだ名で読んでないがむしろ今回は助かったといっていい。いい歳してそんな子供みたいなあだ名で呼ばれても困る。俺はそちらを振り向いて、近寄った。
「遅かったジャナイカ」
「悪かったな。アキバは俺あんまいったこと無いんだ」
「ダメだぜ秋山。てめえそれでも漢か?」
俺にそういってきたのは、アルゴのとなりに座っている男性だ。彼がそう、松本さんだ。
体は巨体で、脂肪でなく筋肉で、できている。アゴヒゲも生えており、白髪も生えはじめている。御年は55歳で、7年前までは総務大臣だったのだ。現在は俺だが、俺の年はまだ30歳で、本来なら大学卒業から1年後で総務大臣になれるはずはないのだが、松本さんの推薦のお陰で総務大臣になれたのだ。俺は御免だったが。
そういうと松本さんは完全無欠のいい人だと思うだろう。確かにいい人だ。けれど、完全無欠ではない。むしろ残念な要素しかない。まず、趣味はアキバのメイド喫茶通いと、カードゲームだ。エロゲーやギャルゲーも俺より持っている上に、一度痴漢で逮捕されたこともある。無論冤罪だったが、二次元の痴漢ゲームにはまってしまったという話だ。また、アイドルにも精通していて、松本さんが現役の時は俺もライブや握手会にも付き合わされた。その度に金をもらえたからいいけど。
松本さんは、出されたお茶をすすりながら俺を見た。俺は軽く会釈をして挨拶する。
「お久し振りです松本さん。遅れちゃってすいません」
「別にいいさ。アルゴちゃんと話できたしな」
松本さんは、いたずらな目を浮かべて再びお茶をすする。
「また嘘っぱちな話でも聞いたんですか?」
「心外ダナ! 俺っちは秋山がちっちゃい頃上級生に殴りかかってドブに突き落とされたことくらいしか話してナイヨ!」
「んなこと話すなぁっ!!」
俺の恥ずかしいエピソードを語られ、大声で叫ぶ。それを松本さんは快活に笑った。
「全く、お前らは毎度毎度面白いな。さすがは幼馴染みだ」
「こっちの気も知らないで……」
俺ははあとため息をついて、席についた。僅か一つしかなかったテーブル席だ。冷たいお茶が出されて、俺はカツ丼の大盛り、アルゴはカレー、松本さんはカツ丼の並盛りを頼んだ。
「松本さん……ほんとここすきですね」
「目の前にカードショップがあるからな 。休憩には便利だよ」
今いる店は、松本さんのお気に入りの店だ。カツ丼の味は普通で値段はくそ安い。コストがいいのだ。
「あ、松本っち! 俺っちとデュエルしないカ?」
「おう、やるか!」
アルゴも松本さんのやっているカードゲームを嗜んでいる。俺も一度やったが、マジでしんどくて疲れた記憶がある。何だよチェーン発動って。何だよ対象をとるとかとらないって。なんでこんな難しいの?
「頼むからデュエルはあとにしてくれ。んで松本さん、最近どうですか?」
一応そう断っておく。すぐにでも始まってしまいそうだからだ。マジでアルゴならやりかねない。挙げ句の果てには近くにいるガキどもに勝負を挑み出すかもしれない。だから俺は話題を変えた。
「んまあ、引退後は家でくつろいでるよ。妻は死んだしな……やることがねえんだけど」
「そうですか……」
松本さんの奥さんは、1年前に亡くなられた。それもSAOによって。それを聞いたときは俺は涙を流した記憶がある。奥さんは美人で優しく、俺はよく悩みを聞いてもらっていた。
それからは松本さんはすっかりアニメや萌え文化にはまってしまった。けれどそれは愛の裏返しで、美少女ゲームにはまることで寂しさを忘れようとしているのが何となくわかる。攻略する女の子も奥さんに似ている容姿の子しか選ばなかったほどだ。無論性格も。
「たまには俺たちのところに遊びに来てください」
「ああ、昨日アルゴちゃんのところに行ったぜ」
アルゴの肩に手を置いて、なぜか勝ち誇った笑みを浮かべながら秋山に言った。
「なんでそんなどや顔なんですか?」
「いや、まあな。したくなる年頃なんだ。でもアルゴちゃんのところって結構殺風景だな……」
「殺風景?」
どういうことだろう。職場の雰囲気が悪いのだろうか? 気になった。
「ニャハハ。みんな出世したいカラナ。俺っちはどうでもイイケドナ」
笑いながら返している。けれど俺にはそれに影があるように感じた。そしてその理由がなんであるかもわかってしまった。彼女の性格と競争社会との相性を考えればすぐにわかる。
「ま、そういったもんなら、あれと一緒だな。総務省によくにてる」
「それは言えますね……」
たしかにそうだ。総務省なんかはもっとひどかった。俺が総務大臣になったときまでだが、やはりみんなエリート上がりだから、自身を上げたくてしょうがないのだ。学歴は早慶以上がほとんどだ。そのなかで俺は、地元大学だが。俺が総務大臣に選ばれたときは非難の嵐だった。
俺たちが話していると、カツ丼やカレーがトレーに運ばれてきた。それを受け取って食べ始める。腹が減っていたのでとても美味しく感じる。
「はあ、生き返る……」
「秋山、お前朝から食ってねえのか?」
「食べましたけど、ハンバーガー一個だけです。時間無いんですよ」
「イツモ暇なクセニカ?」
「うるせえ」
軽口を叩きながら、それぞれの料理を口に運んでいく。まあ味なんて気にしないさ。まあ、松本さんはすげえうまそうに食べているが。
「俺さ、昨日総務省行ってみたんだけどさ、秋山お前いなかったぜ?」
「ああ、すいません。出掛けてたんで」
「ふうんそうか。お前がいない総務省を見てきたんだけどな……なんか緩そうだったぜ」
松本さんは苦笑いしながら俺に報告した。俺は目を大きく開ける。
「そりゃそうでしょう。俺がそうしてますもん」
「全く……。中野は元気にしてるのか」
「中野ですか? ええ元気にしてますよ」
中野は、総務省で働いている人間だが、競争が苦手であえて平社員を続けている。その意図を汲み取って俺は毎月お小遣いをあげている。まああげられない年もあったが、文句は一切言わなかった。
しかも不真面目だ。提出物は必ず1日遅れで出す上に、仕事中はよく熟睡している。だが、俺は咎めはしなかった。中野の子供、男の子なんだが、手足が非常に悪くて一人じゃ何も出来ない体になってしまっている。しかも奥さんも共働きのため世話が出来ない。そんな環境にあるので、提出物を遅らせたり、寝てても起こったりせずむしろ寝かしてあげた。給料は減らしたりしてない。
「お前がいれば総務省は平和だな。だからたまには行け。みんな喜ぶ。不満もねえみてえだし。あとやめんなよ」
「わ、わかりました」
俺はこくこくと頭を降って了解した。
アルゴは頭に後ろに手を組んでニタニタ笑った。まあこいつの情報収集力は半端無いからいいが。
「とりあえず秋山、お前に一つ頼みがある」
「なんです?」
突然松本さんは動かしている箸を置いて俺の方を向いた。その目は真剣だ。ある種の決意を抱いているようだ。俺は次に続く言葉を待った。
「SAOで死んだ俺の奥さんの墓参り、いかせてもらえないか?」
俺は目を丸くして、言葉が出せなかった。
***
「なんで俺が墓事業やってるって知ってるんですか?」
銀座から離れた墓場で、俺はため息混じりに聞いた。あまり知られたくはない事業だった。
「総務省の野郎に聞いただけだ」
「まじすか……それだけは知られたくなかった……」
恐らく言ったのは、中野以外のだれかだ。あとで絞めておくか。
「秋山、お前これで何人目だ?」
「6人目だ。どうやら一日一回しか来ないようだ」
「アララ。まあ安定しているからイイケドナ」
「たった100円じゃきついだろ」
そこに松本さんの突っ込みが入る。俺はがっくりと項垂れる。まあ総務省の給料があれば十分だが。
「んで、どんな風にすりゃいいんだ?」
「この端末の電源を入れて、表示された地図を見ていってください。プレイヤーの名前は?」
「んなもんしらねえよ。本名はダメか?」
「サバイバーじゃないことはわかりますからね。奥さんの本名でいいです。由美子さんでしたっけ?」
「そうだ」
俺はスマホで検索をかけて、アバター名を割り出す。何てことはない。《Yumiko》、つまり本名だった。
端末を取り出して電源を入れると、画面に地図が出てきて親切な経路説明がなされていた。
端末をまじまじと見つめていた松本さんは、呆れた顔で俺に言った。
「へえ、けっこうすげえな。つか凝りすぎだろ」
「まあそうでもしないと国から許可得られないんです」
俺の言葉に腕を組んで頷いた。
「まあそうだろうな。とにかくサンキュ。100円だ」
「毎度。上司とて金は貰いますよ」
「墓参り、アルゴちゃんにはタダにしたくせにか?」
「さっきの店は俺奢りだったでしょうが!! なあアルゴ!?」
「な、なんのことカナー?」
「とぼけんな糞ネズミ! IC読み取り機に俺の財布押し付けたんだろうが!!」
「財布に入れるカラダゾ。いれなきゃよかったんダヨ」
「普通いれんだろ、社会のごみが!」
「ゴミにやられるお前は一体ナンナンダ?」
わーわーと悪口の応酬を繰り広げている俺とアルゴを見て松本さんは、快活に笑う。因みにアルゴとの口論はいつもこうなる。
「やれやれ、お前らは面白いな」
「からかってないでさっさと墓参り行ってください」
「はいはい。若い男女の間には入れねえからな」
「だからそうじゃないっていってるでしょうが!!」
悲鳴のように俺は叫んだ。こうしていじられるのは何年ぶりだろうかと懐かしくも感じてしまったが。Mじゃないぞ?
カウンターの近くでわいわい騒ぎ、収まった。急に静かになり、松本さんも顔を俯かせる。松本さんは、なかなか一歩を踏み出せないでいたようだ。足が少し震えている。
けれど、松本さんは笑っていた。やがて顔をあげて俺たちに笑顔をみせ、いってくるとだけ言って、墓へと向かっていった。
「じゃあ、いってくる」
そのときは笑っていたが、どこか作り笑いな気がした。足取りも重い。やはり過去とは向き合いたくないのだろうか。そう思うと俺は罪悪感を感じてしまった。ここ最近抱いている罪悪感に。
けれど、俺たちは声をかけることはできなかった。ただ黙っていた。口出しする資格もない。だから、二人で黙って、カウンターで待っていた。お互い話すこともなく、ただただ待ち続けていた。
***
「待たせたな」
松本さんが姿を見せた。俺たちは黙って出迎えた。目が少し赤い。泣いたのだろう。そりゃそうだ。松本さんは愛妻家なのだから。
なぜ二人一緒にゲームに入らなかったのか。理由はある。松本さんはちょうど仕事だったからだ。先に奥さんにインさせてあとからはいるつもりだったのだ。だが、奥さんは帰らなかった。二度と……二度と。
「……帰りましょう」
「お前、ここに残らなくていいのか?」
「明日は休みにして、総務省にいきます」
「そうか……」
俺はそれだけいうと、下を俯く。アルゴも軽口を言わなかった。松本さんを悲しませてしまったから。俺は自分を責めていた。アルゴも察してくれているのだろう。この重々しい空気の意味を。
暫く俺たちは無言で歩き続けた。話す話題も見つからないまま。空はオレンジに輝き始め、影が差し始めた。もう夕方だと思うと、何か寂しくなってくる。大人になると、こういう風に思うんだろうか。よくわからない……。
「秋山」
松本さんが小さな声で俺を呼んだ。俺ははっと松本さんの方を振り向いた。アルゴも同様だった。
「はい? なんでしょうか……」
「ありがとう」
「えっ……」
いきなりすぎて俺は何を言いたいかわからなかった。なぜ急に感謝の言葉を言われたのだろうか。
「松本っち……それはどういう意味ダ……?」
「アルゴちゃんならわかると思うけどな……この墓の存在意義を考えりゃあわかる」
松本さんの言葉を聞いたアルゴはうーんと考え込む。その数秒後、漫画なら頭の上に豆電球が現れるように、何かひらめいた表情を浮かべた。恐らくわかったのだろう。でも、俺にはわかんない。
「どうして、お礼なんかいったんですか?」
「……久しぶりに妻と話せたからだ」
意外にもすぐに話してくれた。でも、実際奥さんが生き返る訳じゃない。だから話したことになんかならない。そう、俺は、松本さんを悲しませているのだ。
「でも、もう戻ってこないんですよ」
「んなことはわかってる……でも、そうでもしねえとすがれねえんだよ。失った悲しみから、逃れられないんだよ」
要はすがるためにあるのか。俺はこう解釈した。墓が大切な人になり、その人を癒すのだ。それは何となくだが理解した。失ったときに襲いかかってくる悲しみから逃れるのも。でも、腑に落ちない。
「多分な、俺以外の人間もこういう場所を必要としている。だからお前は、胸を張れ。立派な事業をしているんだ」
「……!」
俺は驚いた。どうして俺が墓についてなにか思っていることを知っているんだと。松本さんは、ははっと少しだけ笑い、説明した。
「いや、そんな感じの顔してたからよ。お前はきっと、悲しむ人がいるからそう悩んでんだろ? けど、悲しまなければ、前になんか進めねえんだよ」
前に進むために悲しむ。何て悲しいのだろう。俺は納得がいかない。そんなのおかしい。悲しみながら前に進むなんて、惨すぎる。
「納得が、いきません。なんで悲しまなければ前に進めないんですか……?」
本音の質問だった。答えてほしかった。
けれど松本さんは、ふうと息を吐いて短くいった。師匠のような、それでいて親しみやすい笑顔を浮かべながら。
「お前はまだ若い。この事業を続ければきっとわかる。だからもし分かったら、俺に教えてくれ」
「いや、こっちは真剣にーー」
「真剣さ。いいか、ここで俺が答えをいっても、お前はなにも得しない。学べないからだ」
俺の言葉を遮った松本さんは、真剣な表情に変えて告げた。俺は黙るしかなかった。
「だからいろんな人を見ろ。そうすりゃ、分かるから」
「あ、あのそれはどういう……」
俺は、何をいっているかあまりわからなくなってきた。けれど松本さんは背を向けて手を上げた。俺は口をつぐむ。
「じゃあな。今日はごちそうさん。カミサンに呼ばれてんだ」
「……」
そういって松本さんは帰っていった。俺は呼び止めることもせず、ただ見ていた。背を向けながら歩いていく松本さんは大きかった。そういえば松本さんが現役だった頃もこういう意味のわからない言葉と宿題を課してきた。いつもは下らないナゾナゾで終わってしまうが、今回は違う気がする。俺は真剣に考えようと思った。
ふと俺は回りを見回した。するとアルゴも、何時の間にいなくなっていた。
「あいつ、帰ったな……やれやれ。じゃあ俺も帰るか」
俺は、ポッケに手を突っ込んで歩き始めた。課せられている課題について、考えながら……。
なんかもうまじでつかれた。テストもあるしね。
次回は、誰になるでしょうね。路線戻しますね。
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