英雄たちの墓参り   作:アズマオウ

8 / 12
どうも、アズマオウです!

前書き書くことないので、どうぞ!


七人目:一人になった母親

「ちぃーす」

 

 秋山は、総務省の職場のドアを開けた。そこにはすでに仕事している人が大勢いた。因みに出勤時間ギリギリである。まあ、そこは気にしていない。

 

「あ、秋山さんおはようございます!」

 

 秋山に真っ先に挨拶してきたのは、中野である。顔をほころばせながら山積みになっている書類を片付けている様はどうにも悲しくなる。

 

「この書類は……提出日過ぎてるじゃねえか」

 

 秋山は、乱雑におかれた書類をひとつ取り出した。汚い字で書かれている。まあ読めなくはないが。

 

「す、すいません! 片付かないもので……」

 

「ったくしゃーねーなあ、上をどうにか押さえつけるから、できるだけ早く終わらせろ」

 

 上とは、政府のことである。けれどアルゴに時間稼げと言えば、何とかしてくれる。無論金を要求されるが。まあ、聞くところによればあいつは100にもわたる政治家たちの隠しネタを持っていると言う。恐ろしい奴だよ全く。

 

「なんかすごく申し訳ないんですけど……」

 

「はっ、俺だって提出期限なんぞはなから守ってねえよ。お前の場合はなおさらだ。仕事より子供を大事にしろ。まあ仕事もほどほどにやっておけばいいけどな」

 

 中野の子供は重い病気を患っている。だから仕事ができなくても仕方がないのだ。それは仲間には伝えてある。

 

「じゃあ、頑張れよ。俺も仕事に戻る」

 

「はい!」

 

 秋山がそういうと、中野は早速ペンを動かして作業に取りかかった。俺も自分の机に座り、パソコンを起動した。書類を書くためである。俺は字がくそと言えるくらい汚いからワープロで書くのだ。小学校の時、アルゴに良くからかわれていた。ナメクジ文字と。

 

 ワープロで保存してあったファイルを開き、キーボードを乱打していく。エロ要素のあるタイピングゲームをやったからそれなりに早い自信はある。文字が次々に打ち込まれ、文を構成していき、紡いでいく。秋山は国語教師ではないため、そこに美は感じないが、面白いとは感じていた。

 ひとつの文字がいくつも集まって単語を形成しそれらを連結していくと、意味を成す文となる。それはすなわち世界の構築と同じ仕組みではないのかと思えてくるのだ。世界は、人と言う単語に当たるものがいて、それらが集まると集団ができ、集団が集まると国家を形成し、国家が集まると世界になる。世界の構造ってこんなにも簡単に証明できてしまうんだなと思うと、面白かった。マクロの世界がミクロで見えてくるのだ。

 だから、誰にだって独自の世界を作ることができるのだ。そう、あの茅場晶彦のように。0と1のみが合わさってプレイヤー、敵、オブジェクト等を構成し、それらが集まってあの世界を作り上げたのだ。世界が、小さなものが集まってできていると言うことに秋山はとても魅力を覚えていた。だとしたら、世界の始まりはどうなるのだろうか。何から出来ているのだろうか。何が集まったものなのだろうかーーーー。

 

「ーー大臣、秋山大臣っ!」

 

 ふと、部下の声によって秋山の果て無き思索は打ち切られ、現実へと引き戻された。

 

「あ、ああ。すまん考え事をしていた」

 

「もう、何をやってるんですか」

 

「んでなんだ?」

 

 山田という部下に向かって言った。正直こいつは秋山の椅子を狙っている。まあ譲ってもいいが、それは中野にするつもりだ。

 

「お客さんがいらしているようです。ロビーで待たせていますので」

 

「ふーん、美人の姉さんか?」

 

「いえ」

 

 そこは俺の冗談に乗れよこのKYがと心のなかで毒つくが、表情には出なかった。

 

「まあいいや、とりあえずいくか」

 

 ガタッと秋山は立ち上がり、スーツを着てロビーにある応接間まで向かった。

 簡素なロビーへと入り、キョロキョロと秋山は人を探す。すると、窓際のソファーチェアにひっそりと座っている女性がいた。40代前半くらいだろうか、それでも非常にきれいな人だ。秋山は一瞬胸を踊らせたが、左手の薬指に指輪があるのを見つけ、落胆した。けれど行かないわけにもいかないので、足をどうにか踏み込んで歩み寄る。

 待っていた女性は秋山に気づき、ペコリと会釈をした。秋山もそれに習う。女性は薄化粧をしており、唇がわずかに照っている。

 

「すみません、お忙しいところ急に呼び出してしまって……」

 

 柔和な声で謝辞をのべた。秋山はとんでもないと返し、座るよう言った。女性は静かに座り、秋山はドスンと座った。

 

「それで、今日はどのようなご用件で?」

 

「あの、秋山さんってあのゲームのお墓を運営なされているのですよね?」

 

 あのゲーム。つまりSAOのことだ。それだけでだんだん話が見えてきてしまう。察しが良すぎるのは我ながら少し怖い。

 

「はい、私ですが」

 

「今朝そちらへと伺ったのですが不在でしたのでこちらへと来ました」

 

 お墓の方に一応置き手紙は用意してあった。用がある際は総務省へと来いと。けれどまさか来るとは思わなかったのでビックリしていた。

 

「なるほど、ご足労かけて申し訳ありません」

 

「いえいえ。後日伺おうかと思ったのですが、どうしてもあの子に会いたくて……」

 

 女性の声が少し潤み始めてきた。恐らくこの女性はSAOで死んだご遺族の方だ。あの子と言うのだから、娘である可能性もある。そこまでは確証は持てないが。

 正直まだ書類が残っているため、墓は開けたくない。それに面倒くさい。けれど、女性の決意を無視することは秋山には無理だった。

 

「そうですか、分かりました。今すぐ行きましょう」

 

「え?」

 

 女性は目を丸くして呟いた。

 

「今から行っても大丈夫ですしね」

 

「い、いえそんな! まだお仕事残っているのに悪いですよ……」

 

 ほんとに悪いと思うなら来るなよと言ってもいいが、そんなことはもちろん言わない。それに仕事をサボれるならいいじゃないかと脳内で声高に叫ぶ声が聞こえていた。

 

「家に帰ってやればいいことですしね。問題はないですよ」

 

「そ、そうですか……ではお願いしますね」

 

 女性は立ち上がって、軽く頭を下げた。秋山は童貞なので何もできなかった。

 

 秋山たちは、総務省を抜け出していざ向かったが、電車に乗っている間もしゃべることができなかった。唯一誰の墓参をするのかは聞くことはできた。

 

「そういえば、誰の墓参りをするんです?」

 

 ガタンゴトンと揺れる車内で秋山は聞いた。女性は小さな声で囁いた。

 

「幸、如月 幸です。私の一人娘なんです」

 

 きさらぎ、さち。見覚えのある名前だ。そういえば、以前名簿で見たのだ。一人目の訪問者を相手にしたときに。確かプレイヤーネームは……。

 

「もしかして、《Sachi》さんのことですか?」

 

 秋山は携帯端末で名簿検索を行い、結果を画面で表示した。そこには顔写真と、本名、プレイヤーネームが記載されている。それを覗いた女性は、目を見開き顔をこわばらせてコクりと頷いた。

 

「そうだったんですか……本名と同じなんですね」

 

「ええ。……あ、電車もう着きますよ」

 

「おっといけない。降りましょう」

 

 今は朝9時くらいだがやはりまだ混んでいる。慣れない人混みをどうにかやり過ごし、改札を抜けて墓の場所まで行った。

 

「ふう、やっとついた」

 

 秋山はふうっと息を吐いて、中へとはいる。女性もあとに続き、あちこちを見ている。門は閉じられていたため、中は見ていないようだ。鍵をすべて開けて、事務所へと秋山は入る。そして例の端末を持ってきて手渡した。

 

「これは?」

 

「これは、墓の場所を教えてくれる端末です。電源いれると目的の墓までの地図が表示されます」

 

「随分と凝っているんですね……」

 

「SAOプレイヤーの情報は国家機密ですので、漏洩防止のためにご協力ください」

 

「分かりました」

 

 こればらしたらマジで日本は壊滅する。うん、マジで。秋山は念に念を押しておいた。

 

「それじゃあ、これでOKですので。お代はここに置いておけばいいですよ」

 

「はい」

 

 女性はポケットから財布を取り出して、100円玉をカウンターにおいた。秋山はそれを回収して、貯金箱にいれた。

 

 女性は手を振って、墓へと向かっていった。けれど、あの女性の嗚咽を聞くとなると、正直いい気分で見送れなかった。

 

 

***

 

 

 5分後、女性が帰ってきた。頬は涙で濡れていて、目は赤い。秋山はその度に悪いことをしたかもしれないという罪悪感に襲われる。

 

「お帰りなさい」

 

 けれどそれを隠して挨拶を言った。見ず知らずの人に気持ちを吐露するなんて秋山にはできない。

 

「すみません、久しぶりに話していたら、長くなりかけちゃって……私は一人ですから」

 

「一人? 旦那さんは?」

 

 秋山は気になって聞いた。女性は母親であるので、父親がいるはずだ。けれど一人とはどういうことなんだろうか?

 女性はそっと首を振って穏やかな声で告げた。

 

「出ていきました。もう、10年以上も前に」

 

「……すいません、聞いてはいけませんでしたね」

 

 驚きだった。まさか父親が家出しているなんて。どんな事情だかは知らんが、女の手一つで子供を育ててきたというのか。それがどれだけ大変なことか、秋山でも理解しているつもりだ。

 秋山の謝罪に女性はいえいえと素早く首を振り、再び穏やかな声で話した。

 

「あなたは何も悪くないです。悪いのは私と、あの人なんですから」

 

 それにたいして秋山は何も返せなかった。辛さをわかっているとはいえ、それを口には出せない。あまりにも薄っぺらすぎる。わかっていないのに言葉を投げるのは冒涜だ。

 だから、秋山は話題を少しだけ変えることにした。目の前にいる人を救える可能性のある言葉に。いや、もう一人救えるかもしれない。

 

「あなたに会わせたい人が一人います」

 

「え?」

 

 重々しくなっていた雰囲気を俺の言葉が壊した。けれど、これは女性を救うかもしれないのだ。

 

「あなたの娘さんへと参った人がいるんです」

 

「そ、そうなんですか? でもケイタ君とかはもう……」

 

 ケイタという人物は知らないが、少なくともそいつではない。

 

「その人じゃないです。たぶんあなたはご存じないでしょう」

 

「……誰なんですか?」

 

 秋山は寸前になって迷う。ここで無闇に晒してもいいのか? 少なくとも彼は守られる立場だ。彼の情報を明け渡すことは許されていない。けれど、その情報が、よい道へと使われるなら……。

 

「この、男子です」

 

 秋山は携帯端末に画面を表示させ、女性に見せる。そこには、顔写真と本名、そしてキャラクターネームが記されていた。住所は埼玉県川越市のみ。

 写真に写る顔は中性的で、良く整っている。落ち着いた雰囲気と、年齢のつかめない感じが特徴だ。下に記されている名前にはこう書かれていた。

 

『Player name《Kirito》 Real name《桐ヶ谷 和人》』

 

 

 

「どうします? 明日、彼に会いに行きますか?」

 

 秋山が問い、女性は、考えながらじっとその名前を見つめていた。ネットゲームに関わった人間と接するのは少し怖いようだった。

 

(この人が幸と何があったかはわからない。けれど、幸が生きてきた世界を、私は知りたい……)

 

 けれど、秋山は見た。彼女の目付きが決意に満ちたものになっていくのを。女性はこちらを見つめてはっきりと言った。

 

「会いに、行きます」

 

 




次回から、第2話の伏線回収を始めます。あ、もうやってるかw

もう皆さんお分かりですよね。では、お気に入り登録、感想などお待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。