第1章1話 転移
打ちあがる花火を見ながら時間を確認した。
あと十分か、あと十分でこのゲームが終わる。
記憶に間違いが無ければ、終末を迎えようとしているこの世界からおさらばできる筈である。
終末、と言ってもこの世界の事では無く現実世界の事である。
人類と言うより世界自体が、点滴で延命治療をして終わりの時を先延ばしにしているようにしか思えない世界だ。
何せ、外に出るのに前世ならば原発作業員のような防御服がいると言う時点で終わっている。としか言いようがない。
最も、外に出る機会自体がさほどないのも現実ある。
上級国民はアーコロジーで前世とさほど変わらない生活をしているようではあるが、アーコロジーの外に住む住人は、殆ど外には出ない。
各建物をつなぐ地下通路があるし、生まれた頃にはニューロン・ナノ・インターフェイスで学校の教育も仕事も可能になっていた。
最も、アーコロジーの中は知らないが、外の建物の空気清浄器や浄水装置が完全ではないとおもわれる上、奴隷労働が標準化しているので、50歳まで生きられたら長生き、と言う世界だ。
完全に前世の記憶が戻る前も、知識自体はそれなりにあったのだろう。
アーコロジーの外の人間としては珍しく、中卒で、アーコロジーの外の人間としてはかなりの上級である。
何せ小卒でも上位層で学校にも行かずに働いている子がごろごろしているのだから。
そんな俺が前世の記憶を取り戻したのは偶然と言っていい。
ユグドラシルと言うゲームのギルドマスターをしていて、他のメンバーが全員引退してしまい、自分も引退するか、と思った時に急に頭痛がして前世の記憶を取り戻したのだから。
前世と言っても過去なので、使える知識は殆どなかったが、唯一、前世に読んでいたオーバーロードの世界の転移前の世界である可能性が高いと言う事以外はほぼ役に立たないし、死因も名前も思い出せないのだが。
そこからは、2138年の終了に向けて準備を重ねた。
上手くいくのだろうか?
一応、拠点の第一階層とは言え都市型拠点であるここは、空が普通に見えているしユグドラシルのマップ上である。
玉座の間にいないと拠点ごとの転移にならない可能性がある為、空に打ちあがる花火を名残惜しみながら玉座の間に転移した。
ゲームシステム上は玉座の間になっているし、実際に玉座と言っていい椅子もあり、その左側にはギルドの紋章である鶴の旗が、右側には私個人の紋章である亀の旗が置いてあるのだが…名称と実際の部屋の印象が一致していない。
実際に、他のギルドへの内装データーの売り込みで他の友好的ギルドやプレイヤーとのパーティー会場として使っていたのを思い出す。
玉座の間の後ろには巨大な枝垂桜が咲き誇っており、他にも梅やら桃と言った花が咲いた木々が植わりその木の内、14本はかつていたメンバーの旗が置かれている。他にも水仙、芝桜と言った花々が咲き誇っており、現在は夜なので花々を照明が照らしていた。
要するに玉座の間と言うよりもお花畑なのだ。
前世の記憶がある身としては、春の花と言ってもそれぞれ花が咲く時期が違うから変だと言う疑問を抱いてしまう。
なので、これらの花も転移して具現化したらどうなるのだろう?と言う疑問を抱いてならない。
居住階層自体、内装データーの売り込みサンプルとすべくかなり凝っていて、あんな世界だからだろう、かつてあった自然をモチーフにした内装になっている。
参考資料を見ながら、皆で作っていた時の記憶が思い出されてなんだか懐かしい。
モモンガさんほどかつての仲間に執着している訳ではないけども、やはり楽しかった。
今のうちに、呼び出せる限界数である5体の傭兵NPCも出しておく。
転移後に拠点防衛NPCが絶対の忠誠を誓う事は知っているが彼らがどう動くかは正直不明である。
そもそも転移後の世界に具現化するのかどうかも。
が、拠点防衛NPC戦力でも拠点防衛能力でもワールドアイテム数でも確実にギルド アインズ・ウール・ゴウンに劣る以上、5体のLV100NPCは正直捨てがたい。
それがどうなるかももう少しでわかる。
11:59:50
後十秒
時間が00:00:00になると同時に見えていたステータス画面が一気に消えた。
それどころか出していた傭兵NPCも守護者統括のアランも明らかに見た目が変わった。
容姿自体は変わらないのだが、明らかに見た目が鮮明なのだ。
モモンガさんが焦ったのもわかる。
オーバーロードのモモンガさんには分からなかったのだろうが気温も感じるようになったのだ。
自分が賭けの第一関門は成功したのらしい。
問題はまだ山積みであるが。
「アラン、話があるがよいか?」
私が声をかけるとアランは跪き
「シルト・クレーテ様、いかなるご用件でしょうか」
そうなる、と知っていてですらNPCと会話できるのは驚いてしまう。
モモンガさんはさぞや驚いた事だろう。
動きもそうだ。技術上の制約と言うよりも、データー容量や法律の都合上あり得ない動きをしているのだ。
「話すために一々跪く必要はないから。そんなことよりも、このエルグリラに異常事態が発生したと思うのだが、お前は何か感じないか?」
ふと見渡すと、傭兵NPC達も一斉に跪いていた。
「お前たちも跪かなくてもいいから」
申し訳ないが、支配者ロールなど、私には無理である。
「そう言う訳にはまいりません、いと高き御方に対してご指示を頂くのに立ったままなどと言う失礼な事をいたすわけにはまいりません。」
「これは命令、式典でもないのに跪く必要を認めない。」
「承知いたしました。」
軍隊が敬礼で済ます訳だよ…
「でアラン、何か感じるか。」
「はい、都市内部では、第一階層を除き異変は有りません。第一階層では客人が急に全員いなくなった模様です。転移の形跡もございません。シルト・クレーテ様がリアルに行かれた際のような気配です。ただ、これほどの方々が一斉にいなくなるのは過去に例がありません」
アランは設定上、拠点内部の異変はわかるようになっているが、問題は無いようである。
客人、恐らく第一階層に居たプレイヤーは転移しなかったのだろう。
第一階層には幾つかのクランの拠点もあった筈なのだが、やはり転移はギルド単位でワールドアイテムの所持が必須なのだろう。
「外部の様子を知りたいな、ハサン、誰かひとりを連れて外部の確認をして欲しい。戦闘は厳禁で。戦闘になりそうな場合は即座に帰還せよ。2時間以内に帰還できる範囲で良い。アラン、各階層守護者を呼んで欲しい。場所は闘技場で。2時間後だ。スキュエルは呼ばなくても良い。」
「「承りました」」
ふと気が付いたが、傭兵NPCにも命令を出していたよ…
「その前にアンネ、お前にとって私はどんな存在か?」
最古参の傭兵NPCに質問してみた。
「最強の
自分で育成したアンネから言えばそうなるのか。
「エレア、お前から見た私はどのような存在か?」
「私を生み出し、育てて下さったガルト様の友にして盟主である、ガルト様より守るよう託された大切なお方です。至高のマジックキャスターでもあります。」
傭兵NPCと言っても自身やギルドメンバーが育てたNPCだからな。拠点防衛NPCと同じ程度の忠誠心はありそうだ。レンタル傭兵NPCがどうなるのかは知らないが、まあ、試す機会ももうないか。
「大体お前たちの考え方は解った。先の命令を実行してほしい。残った者は私の護衛について欲しい。私も現状を把握する為に各所をまわってから闘技場に向かう。」
「承知いたしました」
「ハサン、私も第一階層を確認したい。私と一緒に移動した方が早いだろう。とりあえず付いてきてくれ。」
リング・オブ・ミレニアムがある以上絶対に早いからな。
私は、元傭兵NPCと共に第一階層の都市長の館に
窓から見た第一階層が明らかに人数と広さが可笑しいのだ。
「シルト・クレーテ様、御手を煩わせてしまい申し訳ありません、これより私はオックスと外部の確認に参ります。」
気を取り直した私は返事をした。
「よろしく頼む」
ハサンとオックスがテレポテーションで恐らくは一層入り口に転移していった。
私は疑問に思うのだが、他の者は疑問に思わないのだろうか?
「人が多くないか?」
「今日は祭りがありましたからこの時間でも人が多いのでしょう。」
アンネの返事に私は驚いてしまった。
どうもNPCから見た場合、この人数も第一階層の広さもおかしくはないらしい。
それ以前になんのお祭りだったのだ?
ユグドラシルでは最終日の祭りだった訳だが…
「何の祭りだったか?」
「最後まで残られたシルト・クレーテ様をたたえ、
何という皮肉だろう。
NPCの視点から見れば、今まさに消滅しようと言う時に永遠を願う祭りをしている認識だったわけだ。
「そうだったか。皆は楽しんでくれたのかな?」
私は無難な回答を返した。
「エルグリラの住民で楽しまない者はいないでしょう。」
何故、これほどの住民がいるのか?第一階層(都市部)が何故明らかに広くなったのかについて考えてみる。
恐らくは、エルグリラの設定が現実として具現化したのではないか?それ以外に考えらない。
エルグリラはユグドラシルのマップ上では、直径約1KMの都市で、そのうち中心部の直径300M程が都市長城館エリアとなっている二重城壁だった筈だ。
無許可者が侵入すると衛兵に捕まった都市長城館エリアは、明らかに直径300Mではなかったし、都市型拠点の町造り設定では、最終的に4万人ほどの人口の町で広さも100万平米(大体東京ネズミーランド+ネズミーシーの広さ)になっていた筈で、その設定の広さと人口言われたら納得できる大きさなのである。
都市型拠点の税収用の町づくりゲームが具現化したらしい。
第二階層も元とは違う様子になっていないか?と言う疑問が出てきた。
この拠点、第一階層が都市なら、第二階層は生産階層だったりする。
ここを攻略する際は、その謎解きに失敗して一発クリアーは出来なかったわけではあるが、現状の防衛能力としてはかなり低いと言わざるをえない。
住民の戦闘力がどれくらいかは分からないが、最悪、リ・エスティーゼ王国の国民レベルかもしれない。
その確認もしたいが…LV100から見たら、LV1もLV30もほとんど変わらないよな…
後で第一階層守護者のステラにでも聞けばよいか。
睡眠とは無縁だろうし。
祭りが終わった以上、町の様子を夜、しかも深夜に見てもやっていたとしても酒場か娼館くらいだろうし町を見るのは後で良いか。
第二階層の闘技場に向かうのはまだ早いので、第二層の他のエリアに転移した。
第二階層は完全分離した5つのエリアになっていたのだがどうなっているのやら。
この完全分離した5つのエリアは、第二階層の4つのエリアでクエストを攻略すると第一層のエリア場ボスが出現。それを撃破した後に地下闘技場に向かいそこで連戦を行う。と言う攻略時の仕様を引き継ぐ形で形成されている為である。
つまり、第二階層のそれぞれのエリアは第一階層に5つある階層転移門から別々に行く仕様になっていたのだが…普通に一体化しているよね、これ。
第二階層鉱山エリアの標高の高い場所から眺めた景色は月明かりの下で草原(牧畜)エリア、農園(果樹園、薬草)エリア、工業エリアが普通に見えていて、中央にドーム球場のような建物が見えていた。
どう考えてもあの建物が闘技場である。
地下闘技場ではなくてドームだったんだ…思わず現実逃避して頭の中でしょうもないことを考えてしまった。
この調子だと、三,四,五階層も自分の記憶と違う可能性を否定できないな。
原作のナザリックではこんな描写は無かった筈だが?
…流石に、第三、第四階層は記憶との差は無かったので安心した。
第五階層は…下手に入るとまずい気がするので未確認ではあるが。
使えるのは分かっていたし、何となく使えるのもわかってはいたが、やはり使えるとなると感動してしまう。
「シルト・クレーテ様、如何しましたか?」
「周辺の様子はどうなっている」
「周辺は森林地帯でエルグリラは丘か山の上の高原にあるような状態になっております。」
「エルグリラは平野部にあった筈だが?周辺の耕作地帯は無いと言う事か?」
エルグリラの元はイベント拠点で周辺は初心者でもモンスターを狩れるような難易度の低い場所にあった訳ではあるが
「さようでございます。かなり遠方にかすかに明かりが見えますので知性をもつものがいる可能性はありますが、夜が明けない事には細かいことまでは解りかねます。」
「細かい説明は階層守護者と一緒に聞きたい。可能な限りの情報収集を行ってくれるか」
「承知いたしました。」
一体どこに出たのやら。
なんだか精神的に疲れてしまい、居室に戻る事にした。
一旦居室に戻る事にした。
「13時45分になったら呼んでくれ。」
頭を下げる護衛(傭兵NPC3体)に告げると自身の居室に戻った。
居室?と言っていいのか分からないがメンバー用の居室は水上コテージとなっている。
玉座の間が春なら、居住用エリアは夏をモチーフにしている。
第六階層の居住用エリアを四季もモチーフにして構成していて作られているのだからナザリックとは違う意味で凝って作った訳だ。
おかげで、拠点のデーター容量的に防衛用ギミックはかなりのザルとなってしまっているのだが…まあなんだ。防衛用ギミックデーターは売れないからね。
我がギルドは商業ギルドで内装データーやNPCや武器、防具などの外装データーと言ったようなものをリアルマネーで依頼を受けて製作、販売していたのだ。
だからこそギルドメンバーが少ないし、拠点が防衛用ではなく商売用のサンプルとして凝ったものとなり、ここを攻め込もうと言うプレイヤーも殆ど出て来なかった訳ではある。
何時の時代でどの場所に転移したかは分から無いけれども、極力ナザリック陣営とは敵対したくは無いものである…ナザリック陣営はカルマ値マイナス限界だらけのNPCぞろいなので厳しい気がするが…
巨大な枝垂桜
三春の滝桜で検索してください。これをそのまま取り込んだと思って貰えれば良いです。
著作権の問題で写真を張り付けて良いのかどうかわからなかったので。