夕方に玉座の間に戻ると
「御報告したい事と、各階層守護者から報告書が上がっていますのでご確認をお願いいたします。」
早速アランから仕事がやってきた。
「先ずはアランの話から聞こう。」
「ありがとうございます。
地図はこちらまで完成しております。」
映し出された地図は、北は原作のエリアまで届いており、西は海になっていて、北のスレイン法国の時点で分かっていたとはいえ、原作の書かれていた地域から見て南の大陸西部であることを改めて理解した。
北東に見えていたのは湖で、対岸には竜王国があるのだろう。
地図には黄色と赤のマークが入っていた。
「黄色と赤のマークは?」
「黄色は軽度の隠蔽がされている場所です。
恐らくばれずに隠蔽を突破できるかと。
赤は強度の隠蔽がされている場所です。
突破は困難なうえ、恐らく攻性防壁で対抗魔法が発動します。」
赤い点は二か所だ。
一か所は砂漠の中、空中都市エリュエンティウだろう。
そして北の赤い点は…多分ナザリック。
ほぼ同時の転移だったのか。
100年後とかならスレイン法国が存在している訳がない。
「対応はしているのか?」
「皐月の配下を送り込みました。現在帰還待ちです。」
下級精霊はぶっちゃけかなり馬鹿だから、自立判断はほぼできないと言って良い。
余りに遠いとアレンの制御が甘くなるので使えないのは確認している。
「この距離を?転移で送ったのか?」
「刺激しないようにある程度の距離が離れた場所に転移しましたので時間がかかっております。」
「何時頃が帰還予定だ。」
「シルト様の夕食後になるかと。」
「帰還したら、私の状況に構わず報告させてくれ。
帰還予定から、3時間以上過ぎた場合も同様にしてくれ」
「シルト様の就寝時間になるかと思いますが。」
「流石にこちらの件の緊急性が高いだろうから遠慮するな。」
「承知いたしました。
次に、昨日の戦闘跡に対して本日も遠視魔法による確認が来ました。
地図上での発信元はこの三か所です。」
一つはスレイン法国の首都と思われる場所。
一つはエナ多種同盟国のエリア。
最後はエリュエンティウと思われる場所からだった。
だとしたら、昨日の遠視は何処からだ?
「昨日の遠視の魔法は何処から来た。後、それぞれの遠視の強度は。」
遠視系の魔法は位階によって性能が違う。
因みに
「昨日の北からのものは、現在完成している地図より更に北からです。
遠視の強度もかなりの物で、昨日は世界樹の雫を持っていましたので恐らく隠蔽できましたが無ければ確実に隠蔽は出来ませんでした。」
恐らく隠蔽出来たと言っていたな、確かに。
多分、ツアーだ。
「昨日と同じ強度の物が、本日も来ております。
西、南、東から二か所、全てかなりの遠距離です。」
竜王同盟は六体だった筈だから、残りの竜王か。
「次いで南からのもの(エリュエンティウ)、北のもの(スレイン法国)、南東の物(エナ多種同盟国)となっており、最後の物はかなりの低位魔法です。」
「昨日と合わせて五か所のワールドアイテムクラスの遠視はかなりの脅威と思うが大丈夫なのか?」
「現状、直接的な脅威ではありませんので」
「既にしているかもしれないが、昨日戦ったキュアイーリムと同等の存在と思われる存在が最低でも後5体は居ると言うのは守護者の間で情報共有していてくれ。」
「承知いたしました」
これで、守護者達が現地住民の脆弱さを知った時に世界征服をしようと思うのにある程度のブレーキになる筈。
「あと、これらの黄色い点は確認して欲しい。」
キュアイーリムの魂の強奪の範囲内の隠蔽箇所だ。
多分、キュアイーリムに滅ぼされた国の宝物庫の類とは思うけれども、逆に言えば現地アイテムや現地通貨が手に入る可能性の高い場所でもあるからだ。
もう夜になるし、流石に明日か…一か所おかしくない?
その黄色い点は、
キュアイーリムも何かしらの宝物を蓄えていた可能性はあったのだが、消滅したと考えられた為、まともに探索はしていなかった。
逆に言えば消滅していない何かがある筈だ。
「アラン、早急にここの確認をして欲しい。」
「畏まりました。」
アランも言われておかしさに気が付いたらしい。
「どうも地下ですね。
砂に埋もれているようです。」
「できれば今すぐにでも、と言いたいのだけれども、発掘は明日にするか。」
「ご要望とあれば早急に発掘部隊を編制いたしますが。」
「他のポイントも確認がいるのだろう。
それも確認して編制して欲しいからどうしても明日になるな。
地図の作製は一旦停止してかまわない。」
「承知いたしました。
私からの報告は以上です。」
「書類は食事を取りならでも良いけども」
「緊急性のあるものは有りませんから、夕食後でも構いません。」
緊急性のある案件だらけの気がするけれども、即時の物はないから夕食後でも良いか。
親衛隊のメンバーと食事に付いた。
波の音、涼しげな夜風、非常にいい環境だけれども、一人で食事をしたくはないな。
予定が全く合わないらしく、一日一緒にいた親衛隊のメンバーと食事をすることにした。
アンネは食べないようだが。
ズワース?あいつは執事だ。
「本日のメニューは焼き魚定食です。」
「酒はないのか」
ぶれないな、市民にもドワーフはいるだろうに…ギルドのクエストをこなして飲んでいるか。
「シルト様のご許可なしではお出しできません。」
「クスタフ、今も護衛中ですよ。」
そうなるよね。
「少なくとも私はこの後も仕事が残っているから無しで。
で、何があるのだ。」
「基本的に果汁酒のみとなっております。」
後で知る事になるのだが、エールなどの穀物を使うものは禁止、バフがかかるアルコールは労働者限定、果汁酒用の果物はそのままでは食用に適さないのでOKと言う判断だったようだ。
「果汁酒のみか?エールや蒸留酒は?」
「クスタフ様が飲まれるのですよね?
シルト様が飲まれるなら制限は有りませんが。」
「果汁酒と言う事はボトルを開けるよね。
一杯だけならと思ったけれども。
クスタフ、酒が飲みたかったらエルグリラの現状をどうにかしてからだな。
ドワーフの国が見つかったらお前に行かせる予定だから。」
確かアベリオン丘陵にあったよな。
「エレアはスレイン法国への使者になってもらう予定だから。
他の守護者とも相談の上だから確定ではないけれども一応は頭に入れておいて。」
「「承知いたしました」」
お酒が飲めなくて残念そうだったクスタフの顔つきが一瞬にして引き締まった。
「この魚はおいしいな、捕れたてか?」
「ここの海で捕れたものです。」
釣りが出来るようになっていたのだから魚もいるよね。
「魚は街にも流しているのか?」
「そうさせて頂いております。
数が限られますのでかなりの高級食材ですが。」
「少しでも食糧事情を改善できたらと思ったけれども…高級食材なのね。」
「お気持ちはわかりますがこればかりは。」
私の言葉に、申し訳なさそうにズワースが頭を下げた。
食事を必要とする5万近い者たちの胃袋からみたら、ここの海は狭すぎると言う事だな。
「ズワース、POP限界がある以上は何ともならないことだ」
市民から見たら超高級料理であろう焼き魚を食べながらしみじみ思った。
「ところで、スレイン法国にはすぐに使者を出さないのですか?」
エレアが聞いてきた。
「逆に聞くが、もし私があの竜王の知識がなかったらどうなっていたと思う?」
「それであっても、シルト様の勝利は揺らがないかと。」
「勝利か…それはどういうものだ?」
「シルト様があの竜王を倒されるのは変わりませんので勝利では?」
「アンネはどう思う。」
「思うに、シルト様はあの竜王を倒す倒さない以外の事をお考えなのではないかと。
とすると、第一階層はアンデット、ゴーレムなどの魂を持たないもの以外は全滅しているはずですね。
最悪を考えると、シルト様、ガンダルフィー様、政宗様以外は全滅している可能性も有ったかと。
そういう事でしょうか。」
「そうだよ。
第一階層の住民はゾンビになりはて、その後挑んだ戦いで守護者、親衛隊のすべてがあのブレスで消滅した可能性が高い。
もう一度聞くけれども、エレア、それは勝利と呼べるものなのか?」
「シルト様が生き残っておいでならば勝利では?」
「ひょっとして、他にも同じ考えの者がいるのか?
千年王国(ミレニアム)が、エルグリラが崩壊した状態を俺は勝利とは認めない。
自分で自分を確実に許しておけない。
俺だけ生き残っていればいいなんて考えは今すぐ捨てろ。
最悪、俺が消滅することで残りの者が助かるならそれならそれでいい。」
若干苛つきながら話したら、その場にいた者、控えていたメイドや執事迄の全員が絶句して固まっていた。
あのズワースですらだ。
こうして見ると、シャルティア戦の時に、デミウルゴスがシャルティアやアルベドに切れていたけれども、あれが正常なのだな。
いや、アルベドも泣いて嘆願していたか。
自身で強烈な意思を示さないとだめだと言う事か。
「当たり前ではないのか?
一人対何人の命だ?
そもそも、エルグリラを崩壊に追い込むような者が上に立つべきではないだろうに。」
一斉に跪いて
「僭越ながら、他の至高の方々おられない以上、シルト様のお命は、全ての|僕《しもべ」の命よりも重いかと。」
「そもそも、我々親衛隊はシルト様をお支えし、お守りする事こそが第一義ですのでそれはないかと。」
「そもそも主様がお隠れになられたら、何のために生きていくのかが分からないのだが。」
「シルト様が私達を不要、不快とするなら自害して果てるのが本義ですのでそこは譲れないものがあります。」
と言ってきた。
もう、遺伝子レベルで刷り込まれていると思った方が良いのかもしれない。
例外は、他のギルドメンバーだけなのだろう。
思わずガリアやガンダルフが私を殺せと言ったら、とか嫌がらせのような事も思いついたのだが…流石に口に出すほど性格は悪くない。
「お前たちの気持ちはありがたいが、私は先ほどの考え方を改めるつもりはない。
あまり自分の意思を強制しないつもりだけれども、お前たちが私の事を思ってくれるように私もお前達の事を思っているのは解って欲しい。」
護衛が護衛対象を守れない、と言うのが問題なのは理解できるけれどもそれにしても限界があるだろう。
あの、終末世界から逃げだすためにユグドラシルを利用したような愚か者だけれども、一緒に着いてきて自分を慕ってくれるNPCを見捨てるほどに落ちぶれる気はない。
「跪くのはやめてくれ。」
脱線したな。
スレイン法国にはすぐに使者を出さないかだが、情報をまともに集めずに使者を送っても失敗する可能性が高いからだ。
可能な限りの情報を集めて失敗する可能性を可能な限り減らす。
失敗した場合の事も考慮しておく。
時間など他の事とのバランスもあるが、これはしておかなければいけないことだからだよ。」
皆が、椅子に座ったり立ち上がるのを見ながら話した。
「理解いたしました。
必要ならばリスクを負うのは仕方がないことですが必要以上に負うべきではないと言う事ですね。」
「私一人が生き残るより、皆で生きていく方がいいだろう。」
「それはおっしゃる通りです。」
「分かってくれればいいよ。
あの竜王は決して弱くはなかったし誇り高かった。
多分、同格以上との戦いを殆ど経験したことが無かったのだろう。
動きが読みやすかったし、あの巨体だから小回りも効かないようだったから避けられたと言う側面が大きい。
それにアレクの献策でブレスを使わせたことでHPを削れたことも勝因の一つだよ。
天使を召喚してくれたアンネにも助けられたわけだ。
一歩間違えれば私が負けていた相手であることは間違いない。」
「主殿が一気に魔法を叩きつければよかったのでは?」
「あの竜王は、過去に
実際に、普通は一人が二回使えない事も知っていた。
過去にもユグドラシルからの転移者がいて揉め事があったのではないかと思うよ。
だから、いきなり交戦する事になったと考えている。
他にも同じような存在がいるのならば、極力情報は与えたくはない。
本来の威力では一発であの竜王を殺しきれないと言う事実も知っている者がいる可能性は高いよ。」
我ながら前世知識で偉そうにしているよな。
「そこまでお考えだったとは。」
何だか感心されるのも歯がゆかった。