日の出になったが、私は書類の山と格闘していた。
神域と名前を変えたギルド会議室と居住階層連結区画以外の部屋は窓が付いていて時間に合わせて空が変わるのが分かるから、時間感覚が無くならないのは
恐るべきことに、天気まで設定できる…尋常じゃないデーター量を消費したのだが。
モモンガさんと会えると言うので、一種の興奮状態なのか、意外と眠くもなく、書類作業も考えていたよりも早くこなしていた。
遠足に前日や、彼女との初デート前日に緊張していて中々眠れないのと同じ状態である。
会う時に睡眠が不要になるアクセサリーを付けないとミスをしそうだな。
暫く作業を続けていると、ズワースが朝食と共にやってきた。
「朝食の時間となりました。
後、私を御呼びと伺いましたが。」
「書類を汚すといけないから外で食べよう。
食べていないなら、ズワースも一緒に食事をしよう。
他はいないし、そこで話をしたいから遠慮は無しで。」
「わかりました、ご同席させていただきます。」
執務室のある
春、即ち玉座の間にも和傘と毛氈付きのベンチが設置されているのだから。
ご飯とみそ汁のメニューを外のテーブルとベンチで食べるのもなんだか違う気もしないでもないのだけれども、今は外で食べたい病になってしまっている。
厳密には外ではないと言うのは無しで。
執務室のある建物から一番近くのベンチに座り対面にはズワースが座った。
紅葉の並木が美しいが秋の朝なので少し肌寒い。
例のごとく、紅葉の時期の違う木が同じように紅葉しているのは明らかにおかしいのだが…
私はズワースと二人で朝食を食べ始めた。
正確には食事を持ってきたメイドと護衛のアンネが居るが食事を食べるのが二人と言う意味だ。
「「いただきます。」」
食べながらズワースに話し始めた。
「北に発見された拠点らしき場所だけれども、ギルド アインズ・ウール・ゴウンの拠点ナザリックのようだ。
知っているか?」
「存じております。
確か、ギルド長のモモンガ様が来られた事がありますよね。」
「今日、先方に伺う事になった。
付き添いは三人までの指定なので、アンネ、ハサンとお前についてきて貰う。」
「私ですか?」
「お前が、ズワースさんのコピーだから心配しているのだけれども、会談の際に私が嘘をついた時に顔に出さないよな。」
「事前に分かっていれば大丈夫です。」
ユグドラシルでは表情は無くアイコンだったのだが、ズワースは声で嘘かどうかが直ぐにわかるほどだったのだ。
昨日の朝食の際に、執事としていたにもかかわらず話してきた辺りで怪しいと思ったのだ。
「逆に言うと分かっていないと顔に出る可能性があると言う事だな。
逆にズワースさんの真似は可能か?」
「真似、と言うよりも素を出す形になりますができない事もございます。」
「私を完全に裏切る事か?」
「それは確かに出来かねます。」
「裏切ったふりは…素がズワースさんならバレバレになるか。」
「誠に遺憾ながら。」
「今日の会談は私に言われて行動する以外は極力何も考えずに聞き流してくれ。
そうすれば顔に出にくくなるだろう。」
「承知いたしました。」
食事を終え、食器が片付けられるのを確認してから次の質問に移った。
この質問の返事によっては、自分がどのような行動に出るか想像ができなかったからだ。
「ズワース、お前は、いや、お前たち三人は元になったメンバーの記憶があるのか?」
NPCにはユグドラシル時代の記憶がある、と言う事は十分にあり得るのだ。
「いえ、リアルの記憶はございませんので。」
「それって、ユグドラシルの記憶は残っているって事じゃないのか。
俺だって、ズワースさんのリアルなんてメールぐらいでしか知らないよ。
くそ運営、なんで引退した奴のログなんて残しているのだよ。
馬鹿じゃないのか。
何人のプレイヤーが居たのだ。
どうやってデーター容量を確保していたのだよ。」
私は泣きながらズワースを抱きしめていた。
「私はズワース様ではありません。
敢えて言うならズワース様とシルト様が作られた
「知るかよ、そんな事。
ズワースさんの記憶があるならなんであいつが引退したかも知っているよな。
お前がズワースさんでないなら生まれ変わりだ。
違うのか?」
「…」
「そうだよな、なんでお前を作ってくれって言ったのか知っていたら答えられないよな。
こんな事なら設定文なんて書かなければ良かった。
お前だけでない、三人ともだ。」
「お言葉ですがシルト様、私はシルト様に設定文を書いて頂いた事を誇りにしておりますので、例えシルト様でもその発言は承服いたしかねます。」
「わかったよ、お前たち三人は私的な場所ではため口と呼び捨てをしても良い。
無理にとは言わないが」
NPC達が特別な三人と言う筈だよ。
半分は創造主と言う訳だ…設定文を私が書いたから、と言う可能性を無視してそう考えた。
「完全に他の者が誰もいない状況と言うのが考えられませんので、できる限りになりますが。」
こういう所はやっぱりNPCなのだな。
ズワースを抱きしめるのをやめて少し離れた。
「お前がズワースさんではないのはわかったよ。
同性愛者ではないのでズワースさんと私の間の子供のような存在かと思うと妙な気分だ。
でも、これは言わせてくれ。
良かったな、ズワース。」
ズワースが頭を下げた。
「ああそうだ、ハーレムは許す気はないけれども気になる子がいたなら言ってくれ。
純愛を許さないほど狭量ではないつもりだよ。」
「シルト様、イエス・メイド・ノー・タッチです。」
あいつなら言いかねない…メイド達もハーレムは許さなくてもカップルになるのを嫌がると訳では無かろうに…
予定とか仕事は、感傷に浸る時間をあまり許してくれない。
アンネは始めから知っていた筈なのでおいておくとして、不可視化した護衛の僕(しもべ)から他のNPCに伝わるのか…考えてみればアランが知らない筈がないか。
ズワースではないけれども、このエルグリラではアランに隠し事は出来ないのだな。
エルグリラの事実上の最高権力者はアランなのではないのか?と言う気分だ。
とすると、恐らく
代わりに相当過保護に…その傾向はあるな。
私は書類仕事をしながらそのような事を考えていた。
全書類仕事を終えたのは10時頃だったので、一時間仮眠をとり、その後風呂に入り、昼飯を食べてからナザリックに伺う事にしてナザリックに伝令を送った。
身綺麗にする為にアンネ、ズワース、ハサンにも風呂に入るように指示を出した。
出来れば一緒に入りたいと…アンネは別だけれども。
昼飯は確認したいことがあり、最低金額である金貨10枚で出せる食事の用意をお願いした。
物価やドロップする金貨の枚数を思い出し、嫌な予感がしたためだ。
本気なのか聞かれたので半ば確信したけれども。
多分、本当に寝たのは30分にも満たない。
それでも、寝ないよりはましだろう。
アンネに起こされて一緒(微妙に場所は違うが)に風呂に向かうと、脱衣室でズワースとハサンが待っていた。
「先に入ってもらって良かったのに」
「「そう言う訳にはまいりません」」
「そ、そうか、よければ背中を流すぞ。
裸の付き合いだからな。」
「よろしいのですか。」「できればお願いしたく」
拒否しないのかい。
NPCのこの辺の感覚がいまいち掴めない。
ハサンは尻尾を振っているし、ズワースは変身し始めた。
モフモフが二人…この手の話だと、かわいい女の子の尻尾とか耳とかを触るのではないのか?
野郎のモフモフに需要はあるのだろうか?
吐いた唾は飲み込めないので
「どちらかの背中を流すから、流さない方が私の背中を流してくれ。
じゃんけんでも何でもいいから、どちらにするか直ぐに決めてくれ。」
じゃんけんを開始したシェパード(獣人)と獅子(ライカンスロープ)を放置して先に浴室に入った。
結局、ハサンの背中を流してズワースに背中を流して貰う事になったのだけれども…変身を解けよ。
物理防御が紙装甲の私の肌は弱いのだ。
因みに、恐ろしかったので耳と尻尾には触っていない。
ナザリックに伺う前に身綺麗にする為にお風呂に入った訳で、のんびりと楽しんで入れないのは残念だが、微妙に寝ぼけていたのが治ってリフレッシュできた。
二人は、いざとなったら時間を稼ぐので逃げてください。
みたいな事を言っていたのだけれどもね…多分二人掛かりでもアンネには敵わない筈だよね。
一々指摘しないけれどもさ。
お風呂から出てきたら、声が聞こえていたのかアンネが二人を冷たい目で見た。
アンネもそう思うんだやっぱり、(※違います、別の理由)でも顔に出すのは良くないかな。
そのまま昼飯に移ったのだが…
「なあ、これは食べ物か?」
「ですので御確認いたしましたが、他の物に交換いたしますか?」
そこには、アーコロジー外で育った私でも躊躇する食べ物?があった。
因みに、リアルでの食べ物は人工合成食料、前世の感覚ではドッグフードかキャットフードの人間版だな。
味気が無いわ、代わり映えしないわで、ただ栄養を取っているだけだった。
カ〇リーメイトしか選択肢が無いと思ってもらえば大体あっている。
アーコロジー外では一応エリートでもこの食事だった訳だけれども…
しかし、これを食べたらデバフがかかるってことは無いよね。
「食糧が無くなって金貨で食事を用意する事態に備えて確認したかったのだけれども、先に確認しておいてよかった。
これを食べられる人はいるのか?」
「人間用ではありませんので。モンスター用ですね。
一応、人間でも食べて大丈夫な筈ですが。」
シュール・ストレミングは食べ物だったし、ドリアンは意外とおいしい…そんな感じじゃないよ。
ゲテモノ料理でも食べれるのだけれども、これは肥料の間違いじゃないのか?
「どんなモンスター用なんだ?」
「蟲系モンスターです。」
何となく、納得した。
ゴブリンでも食べるのか気になった程なので。
アンデットなどの食事が要らないモンスターは別として食事がいるモンスター全てを対象にしている訳だ。
食事 金貨10枚~の~の意味をなめていた。
「対応するモンスターに与えておいてくれ。」
「畏まりました。」
食事はサンドウィッチに変わり、第二階層の生産量などを無視してのまともな食事での必要金貨枚数を出して貰った。
一日1500万枚…一桁違った。
理解しているつもりになっていても、NPC達に確認する必要があるな。
その後、ハサンが装備を、私とズワースはメイドが選択した服に着替えた。
アンネは基本的に常時フル装備なので着替えていない。
ところでだ、なんだこの仮装大会のような服は…ズワースみたいにスーツっぽい服ではだめなのだろうか?
「シルト様、お似合いです。」とか言われると断りづらいのだけれども…こんな服を用意したメンバーに文句を言うべきなのだろうな…
三国志のアニメで出てきた漢帝国皇帝服に見えるのは気のせいではあるまい。
「かつて、世界最大の国の皇帝が着ていた服です。
シルト様にふさわしいと思い選びました。」
と言って持ってきたのだから。
服に織り込まれた鶴の柄が更に服の違和感を倍増させている。
多分製作者はヴァルカンだろう、ヴァルカンに違いない、ヴァルカンであってくれ…他にこんなのを作るメンバーが居たとは思いたくない。
どんな性能になっているのか恐ろしくて確認もしたくない。
しかも、こんな服なのに
顔が
モモンガさんに笑われないよな。
第一階層の都市長城館に移動すると、常時玉座の間にいるアランとスキュエルを除いた階層守護者達が揃っていた…アランは守護者統括だから違うか。
他にもかなりの数の領域守護者達もいた。
「アレク、私に出した報告書の概要を皆に伝えて欲しい。」
今日の書類仕事の最後に確認した報告書は、アレクの出してきた対アインズ・ウール・ゴウン戦(素案)だったのだ。
モモンガさんの改名の事実を知らないので、この場合ギルドの方だ。
「はい、アインズ・ウール・ゴウンと戦争になった場合の勝率は10%から80%です。」
「なんだそれは」「差がありすぎるでしょう」「まじめにやっているの?」などなど、各々が言い始めた。
騒々しい、静かにせよ。とでも言うべきなのだろうか?似合わないな。
「みんな、最後まで話は聞こうよ。」
全員が黙った。
「どうしてこれほどの差が出るかと言うと、どの程度の戦力、即ちギルドメンバーがこの世界に転移したかが分からないからです。
全メンバーが転移していたと仮定した場合が10%以下、モモンガ一人とした場合が80%です。
とくに、たっち・みー、ウルベルト・アレイン・オードルの両名がいるかいないかで大幅に勝率が変化します。」
「アレク、他のギルドであっても、ギルドメンバーを呼び捨てにするな。
お前達だって、私や他のメンバーを呼び捨てにしたり、ないがしろにすれば怒るだろう。
相手も同じだ。
それによって戦争が開始する可能性だってある」
「承知いたしました。
ところで、我々と同じく
皆に周知するために分かっていて呼び捨てにしたな。
「同格なのだからそこまで気にする必要はない。
ある程度は気を遣え。
見下して失敗するよりはいいが下手に出すぎて舐められるのも困る。」
「畏まりました。」
「いずれにせよ、御二方によって大きく勝率に差が出ます。
それぞれ、ワールドチャンピオンとワールドディザスターですので。」
職を聞いた瞬間に、殆どの物が理解したようだ。
「単純に全戦力が平原で何の考えもなしで衝突した場合は恐らく我々が勝ちます。
損害は無視できるものではありませんが。
勝つと判断した理由は、ガンダルフィー様とアンネの存在があるからです。
ですが、そんな戦いは有り得ませんのでお二方が別行動をとり、その片方にシルト様が対処なされた場合はエルグリラが陥落します。
それを防ぐとなるとエルグリラでの籠城戦になるのですが、皆さんご存じの通り食料不足ですので、敗北する可能性が濃厚となります。」
NPCによる、自分の創造主が最高である理論があるから割り引いて考えるべきだろうな?
ざっくり言うと、正面戦闘は元傭兵屋NPC部隊がいる以上、通常戦力はこちらが上で、たっち・みーさんが突撃して私の首を狩りに来るしか手が無い。
と言う内容で、アインズ・ウール・ゴウン陣営のワールドアイテムの存在を無視するなら、そこまで間違ってはいないとは思うけれども。
「そこまでで良いだろう。」
もともと、最悪の事態の説明のみをするように指示しておいた。
ナザリックに対して下手な行動をとらせない為と、その行動を他の守護者達が責めないようにする為だ。
モモンガさんは最悪の場合、拠点を放棄する可能性を言及していた筈だけれども、私にその選択は取れない。
「今回の会談は情報を手に入れる為だ。
アインズ・ウール・ゴウンの情報だけではなくこの世界の情報でも良い。
それを肝に銘じておいて欲しい。
相手の守護者の反応は気にしなくてもいい。
お前たちは私の許可なく戦争を始めるのか?しないだろう。
こちらから手を出させて開戦理由にする為に失礼な態度をとっている可能性だってあるのだ。
アインズ・ウール・ゴウンのメンバー、特にギルド長のモモンガさん以外の態度は無視しろ。
最悪、モモンガさんが友好的であれば他のメンバーや守護者はそれに従うはずだ。
頼んだぞ。」
「「「承知いたしました。」」」
「では、伝言のできる
先方の準備が整い次第ナザリックに向かう。
ステラ、これを預かっていてもらえないか?」
私は全ての
「モモンガさんは第六階層に来たことがあるから、取られた場合、いきなり第六階層に侵入されてしまうので預かって欲しい。」
「間違いのないように預からさせて頂きます。」
こうして、私たちはナザリックに向かった。
モフモフを出してみました。