第5章1話 食べられそうな女性に会う
こちらの予想通りに竜王国から難民の受け入れ要請がやってきた。
選択肢を奪うと思い通りに動かせる典型例だね。
スレイン法国から食糧を調達できる分までは受け入れ可能と返事をしておいた。
スレイン法国は実に人口1500万人以上の国なので10万単位の規模の難民でもスレイン法国の余剰食糧で賄えるのは確認済みである。
因みに、竜王国民の移住計画は、エルグリラ防衛計画の一環だったりする。
要するに、竜王国民をエルグリラとスレイン法国との間に移住させて緩衝地帯にするのが最大の目的で、更には竜王国の国民がすべて移住してくるのでシャンドラド千年王国の要求している国土は自分たちの為だけではありませんと言う周辺国を説得するための免罪符を手に入れる事も考慮されている。
何せ、かなり厳しい状況の国家だったので、文官、武官ともに優秀だったと考えられる為、そのまま登用すれば優秀な役人や指揮官の数を揃えられると言うメリットも見逃せない。
非戦闘員になりたくない冒険者やワーカー、兵士はもれなく蠍人の戦線で戦って貰うのも計画に入っていたりする。
要するに、事実上はエルグリラの防壁にする為の竜王国民の買取…乗っ取りである。
なので、難民たちの居住予定地は現在整備中のスレイン法国への街道上の町や村が指定される。
スレイン法国から購入した食料を供給しやすいからと言うのもある。
そして、その町や村の護衛は受肉した召喚天使が行う予定なのだから、完全に対スレイン法国対策である。
この計画には当然デメリットもあって、その内一つは元竜王国民が他国に扇動される可能性があげられる。
これはどんな国でもあり得るのだけれども、如何せん、反乱の危険性が完全にゼロのエルグリラ市民しかいなかった事を考えると何か手を考えておかなければならない。
他にも竜女王ドラウディロン・オーリウクルスの身柄をどうするかという問題で、こちらは相当困っている。
一番高い予想では、私の嫁になる代わりに移民計画を受け入れるのではないかとなっていて、確かに彼女との子供を元竜王国民移住地の領主にするのが良いのは理解しているのだけれども…フェンデルに押し付けたい。
短期的にはとにかく長期的には私の方が良いと言えばそうだけれどもさ。
竜王国をもぬけの殻にして大丈夫かと言うと、北は山越えでスルシャーナによって生み出された人類領域の壁でもある
つまり、竜王国の領土は鶏肋だったのだ。
私の私情問題を除き事実上は竜王国問題と食糧問題が片付いたので、次はゲヘナをどうするかだ。
先に八本指を押さえれば、あのゲヘナは起きないが、そうすると先の展開が全く読めなくなるのが問題だったりする。
デミウルゴスがどこかでヤルダバオトを出してマッチポンプするのは分かり切っているから起こる場所が変わるだけなのだよね。
と言う訳で、その問題を解決するために王都リ・エスティーゼに来ていた。
モモンさんの紹介状の力は絶大な筈である。
そりゃそうだ、ソリュシャンお嬢様に会いに来たのだから。
モモンガさんにはNPC意識改革の一環と言う事でナザリック訪問時に居なかった二人と会う為と言う事になっている。
ドアノックを叩くと
「どちら様でしょうか。」
中々な雰囲気の執事が出てきた…うちの執事長とはすごい差だ。
確かにこの人からの説教は堪えるだろうよ。
「エ・ランテルのアダマンタイト級冒険者、モモンさんからの紹介で訪ねてまいりました。
こちらが紹介状です。」
と言って、紹介状をセバスに手渡した。
「話は伺っております。
どうぞお入りください。」
「あら、ようこそいらっしゃいました。」
ソリュシャンお嬢様のお出迎えだ。
私を食べてみるか?食えないぞ。
当然物理的な意味だ。
中身が空間らしい彼女の中に入ってみるのも一興かもしれない。
スキルを切らない限り彼女では私を消化できないだろう。
ところで、商談の相手はそちらのお嬢様か執事のどちらなのだろうか?
ドアが閉まった所で
「モモンガさんから関係性は聞いていますがセバスさんの方が上司と言う事で良いですか?」
「構いません。
こちらへどうぞ」
しかしこの屋敷で二人だけって、よく何も疑われずに数か月も過ごせたな。
応接室に案内されると椅子に座りセバスと対面になった。
ソリュシャンとアンネが座らず後ろに立っているので、本来の役職通りの動きをするらしい。
アンネは鎧を着ていてソファーに座るとソファーを壊しかねないし。
アンネの装備をアイテム鑑定でもしてくれれば悪夢を見ることになるだろう。
「ご用向きは?」
「この屋敷に人を入れませんか?
この大きさで二人はあまりに不審ではありませんか?
メイドの売り込みである。
最も、エルグリラ市民の一般人(LV15相当)だけれども。
一般人の概念が可笑しいのは勘弁して欲しい。
しかも彼らはどうもレベルが固定ではないらしいのだ…つまり成長する。
限界レベルがどのあたりかは不明だけれども…ガゼフとかブレインのような英雄の領域の人間ってエリュエンティウ人の子孫と言う事は無いよね?
都市階層は他のプレイヤーも来ていただけあって、相手がエルグリラ所属でなくても(表面上は)対応はできる事は確認している。
「
「
セバスさん、貴方はこの街でこの世界の情報を集めているだけなのでは?」
本当は帝国の商会のお嬢様ではないとか人間ですらないとか我々は知っているのですよ。
そう言えば、この場の四人で人間は私だけだ。
「ないですな。」
「でしょ。
シャンドラド千年王国所属の商会の支店が出来ますのでそこから派遣させます。
食事と睡眠を与えて貰えばそれ以外に費用はこちら持ちですので。」
そう、ゲヘナの対応は参加してしまえである。
「ついでに商取引の偽装も行いますよ。
何なら、番頭や馬車の護衛や屋敷の警備用の冒険者の紹介もしましょうか?」
この商談についてはモモンガさんはセバスの判断に任せるらしい。
八本指やらあの
スレイン法国やら竜王国がバックについていそうな相手に正面から手を出すのか?と言う事だ。
従って、あのイベント自体がこちら側でしか起こらないのだ。
冒険者は最近登録した
「では、メイドを数名と商取引の偽装をお願いします。」
商談成立である。
「ご用命を承りました。
無いとは思いますが、千年王国の人員に手を出さないでくださいね。」
この場合は、物理的な意味である。
「食べたりしたらだめですよ。」
私はソリュシャンお嬢様に向かって言った。
実際に手を出したらデミウルゴス牧場が消えるな。
ツアレの一件より早くから人間を送り込む事で少しは意識が変わると良いのだけれども。
ソリュシャンはちゃんと演技は出来るからな。
確かに美人だけれどもおっかない、ソリュシャンお嬢様邸を後にすると、酒場に向かっていた。
「シルト様は女性には興味はないのですか?」
「有るよ、でもなんで聞くの?」
「先ほどのソリュシャンにも全く興味を持たれた様子が無いので?」
「容姿だけなら三毛さんの作品が多い
偽らざる本音である。
日本人な私は西洋風のソリュシャンの見た目が全く好みではない事も影響しているが。
容姿だけなら
ナーベの外観も好みなのだが、あの目つきはどうにかして欲しい。
私はそういう趣味ではないのだ。
しかしこれを言うとな…アンネの見た目の事を思い出す。
元となった絵画のように不寝番をして私を護衛している彼女に言うのは忍びないし、ソリュシャンは容姿云々以前である。
「そもそもスライムって雌雄は有るのか?」
と答えておいた。
何だかアンネは納得したようである。
密偵の指示通りに酒場に来たのは、違う意味で食われそうな女性に声をかけるためである。
いや、彼女でなくても良いけどさ、一番声をかけやすそうなのだよね。
そう、ガガーランである。
でかい、酒場に入って即座に分かるのが何とも。
「蒼の薔薇の皆さんでしょうか?
シルトと申します。」
彼女たちに会うのは三重の意味がある。
分かると思うけれども、ゲヘナの参加、聖王国聖騎士団の紹介、イビルアイの逃亡先。
彼女達には私とシャンドラド千年王国を知っておいてもらう必要があるからだ。
付け加えるなら不憫な恋をさせないと言う意味もある。
「何だお前、童貞か。
俺に抱かれたいのか?」
いきなりの御挨拶である…マジか。
「いや、多分童貞だけど…」なのか?
リアル(素人童貞)や前世(一応、結婚した記憶がある)は対象になるのか巨大極まりない疑問を抱いたが、18禁行為禁止なのでこの体はきれいな身の筈である。
「おい、脳みそまで筋肉で出来ているそこのお前、初対面でそれはないだろう。
で、私達に何の用だ。」
「多分ってなんだ~?」
後ろを振り返り
「寝ているうちに襲われてないよね?」
必殺ごまかしである。
「私が不寝番をしておりますのでそのような者はおりません。」
「だったら童貞と思いますが。」
「一々この脳筋に付き合うな。
シルトだったか、で、何の用だ」
「顔見せですよ。
高名なアダマンタイト級冒険者のお顔を見たくて。」
「だったらもう用は済んだだろう、帰れ。」
「つれないですね。
一杯おごりましょう。
ところで竜王国の情勢はご存じで?」
実際に金貨を置いてさらに話した。
「なんでも援軍を得てビーストマンどもから二都市を奪還したとか。」
流石は
アダマンタイト級冒険者とは言え数日で情報が届いている事に可笑しいとは思わないとは。
又は、宮廷から事前協議の内容の情報が洩れているのか?
ラキュースは貴族の御令嬢でラナーとも親しいから可能性はあるのか。
「では、その援軍を送ったシャンドラド千年王国の事はご存じで?」
「なんでも急にそんな国が出来たらしいな?
これまで聞いた事が無い。」
「そのシャンドラド千年王国の王が私ですよ。
シルト・クレーテ・レイ・デ・ミレニアムがフルネームです。」
「ちょっと待てや、一国の王がたった一人だけしか護衛を付けずにこんなところに来るのか?」
「アンネはあなた達、蒼の薔薇の全員よりも強いですよ。
何なら私も。
試してみますか?」
「言うなお前、っていつの間に音を遮断していたのだ。」
最近知ったが、ファウンダーを装備すると魔力消費がほぼないからか、魔法を使った形跡が殆ど分からないらしい。
特にこの手のぱっと見で効果が分からない魔法が顕著だ。
この世界に来てからそもそも魔力を消費しているのかどうかも怪しい。
あれだけ大量に魔法を使用したキュアイーリム戦でも魔力を消費した感覚が無かったのだ。
ファウンダーを外して魔法を使ってみたから魔力が消費した感覚は分かるのだけれども、試したのはキュアイーリム戦よりも後だったのであの時は違和感を抱かなかった。
もし完全に魔力を消費しないのなら、とんでもないチートだ。
私も相手が詠唱も魔法陣も魔力の動きもなしに即座にかつ無尽蔵に魔法が発動するなら恐怖でしかない。
仮面で分からないがイビルアイは格の違いが分かっただろう…正確にはアイテムの格だが。
ヤルダバオトやエントマの強さを即座に分かった彼女ならファウンダー無しでもステータス隠蔽を切れば強さの差が分かるのだろうが。
「話しかけた時に私が魔法で。
ガガーランさん、アンネと腕相撲をしてみますか?」
イビルアイはアイテムで音を遮断していたっけ?
アイテムで出来る事は大抵魔法が有ったりする。
こんな魔法を覚えてどうするって魔法を覚えているのが私やラスターだ。
「上等じゃないか、やってやろうじゃないか。」
「音を遮断していると逆に変なので一回切りますね。
アンネ、治癒魔法があっても面倒だから腕を折るなよ。」
当たり前だけれども、ガガーランは顔を真っ赤にしてもアンネの腕はピクリとも動かず、アンネはゆっくりと手を机に押し付けた。
「信じられん。」
「嘘だろ。」
ガガーランに腕相撲で勝つのはかなりのインパクトなのだろう。
外野がかなりうるさくなった。
アンネは腕相撲の前にフェイスガードを上げたので、正面にいたガガーランはアンネが顔色一つ変えていないのが分かったのだろう。
二人とも信じられないものを見たような雰囲気を出していた。
「我が国の者を青の薔薇に入れて頂けたらと言うのもあったのですが、リーダーが居られないようですので後日伺わせます。
明日、ランポッサ王と会談した後で大使も駐在させますので何かありましたら何時でも。
あと、我が国の商会も出店しますので御贔屓に。」
そう言って酒場を出た。
正直、千年王国の存在はさぞかし邪魔だろうからゲヘナ自体が発生しない可能性だって否定できない。
だけども、あの大虐殺が起これば、人間諸国の全てが千年王国の力を借りようとするのは確実だから、ナザリックとの衝突が避けるのが難しくなる。
彼らの世界征服をどの段階で止めるかと言うと…可能ならばゲヘナだよな。
さて、上手行くのかね。