もう一つのギルド   作:mshr

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第5章3話 小悪魔王女とのお茶会

私はリ・エスティーゼ王国の迎賓館の寝室に入ると、エルグリラの都市長城館に転移した。

 

迎賓館に興味がない訳では無く、一回戻って仕事をしたら戻る気でいたけれども、ステラだけではなく皐月まで待ち構えていた。

 

何があったのだ?

 

「シルト様、お話があります。

あの、ラナーなる女を妻とするおつもりでしょうか?」

 

「私の調査ではあの女は恐ろしいほどの二面性があります。

妻として迎え入れるのはよろしくないかと。」

 

流石のラナーも24時間見張られているとは思っていないだろうな。

 

「シルト様はあのような幼い感じの女が好みなのですか?」

 

何故かアンネまで参戦してきた。

 

何か悪いことをしたのだろうか?

 

「政略結婚としても、リ・エスティーゼ王国とではあまり意味が無いように思います。」

 

なんと、この時点で価値がない国とされてしまっているぞ。

 

それよりも、指輪を返してくれないかな?

 

薄々感じていたけれども、第一夫人はこの三人の中から選ばないとやばい気がした。

 

いや、それすらやばくないか?

 

全員の夫を設定しておくべきだったか?…アンネは出来なかったよ。

 

ナザリックと違って私の前での醜い争いは無いのは良いが、全員セットと言う意味不明な圧力を感じるのだ。

 

前世で結婚していた経験で言うと、嫁は一人で十分だ。と言うのが偽らざる本音だったりする。

 

政略結婚なら最悪仮面夫婦でも良いと割り切れるのだけれども。

 

三大欲求がばっちり残っているのに誰にも手を出さないのは前世の記憶の業である。

 

彼女たちは自分に無条件の好意がある事が分かっているだけにかえって手を出しづらいのだ。

 

三人の女性に淡々と責められて困っていたら、扉が開きアレクがやってきた。

 

お前の提案なのだから、彼女達を鎮めてくれ。

 

「お三方、私からの提案なのです。

そもそも、シルト様はラナー王女に一切、手をお出しになるつもりはありませんよ。」

 

「どういうことですか?」「何を言っているの。」「聞いていないぞ。」

 

「アレク、絶対に交渉を成功させろよ。

裏切りを防ぐ為に血を吸ってでも。」

 

「承知いたしました。」

 

あの女(ラナー)を野放しには出来ないし、ましてや敵に付かれても困る。

味方でも困るけれども飼い殺しならば可能だろうよ。」

 

「なっ」「何をおっしゃって」「シルト様どういう事で」

 

原作を知っていたらこうなる。

 

デミウルゴスが接触する前ならどうにかなると思う。

 

犯人の押し付け役(八本指)はいるから、本人達の合意の上で攫ってもいい。

 

あの女(ラナー)がこの話に乗ってこないなら、裏切るのが不可能になるようにヴァンパイアにしてしまえ。

 

幸い、アンデッドの交配計画があるので成功すればヴァンパイア間の子供も生まれる筈だ。

 

子供の成長方法の実験もいるけれども。

 

「では、行ってまいります。」

 

見た目が魔王様のアレクは転移魔法で消えた。

 

今夜中に決着がつくだろう。

 

予想では、私になるべく高値で売りつける為にバルブロが動く筈だから、気のあるふりは必要らしい。

 

さて、書面で配下の者とやり取りするメリットの一つはこれだ。

 

24時間張り付いているアンネでも知らない命令や提案ができる。

 

彼女は書類に関して余計な詮索をしないからだ。

 

「ご質問なのですが、今日の件は先日のアランとアレクのされた提案での動きだったのですか?」

 

「そんなに迫真の演技だったか?

私は、好きな子には自分からは話しかけられないタイプなのだが。」

 

向こうからなら話しかけてきたら話せるけれども、緊張して自分からは話せないのは本当だ。

 

モブがカースト上位の女の子に話しかけられるのか?って話だ。

 

「とすると、エリュエンティウの提案を受けられるのですか?」

 

「まだ決めていない。

正直、出来る事ならナザリックに押し付けたいね。」

 

地図上の話をすると、原作通りに帝国を属国にした段階で、実質的には人間種の保護者になる筈だ。

 

WEB版のように帝国の一貴族でも結果は同じだ。

 

エリュエンティウからの依頼はナザリックの大量虐殺さえ止めてしまえばある意味ミッションコンプリートである。

 

それが難しすぎるのだが…

 

その要因の一つがラナーで、要求する事自体は大したことが無いから対処可能なのが何とも。

 

原作のようにクライム君に一切の疑念を抱かせないのはかなり難しいのでそれは要課題だったりする。

 

これは、悪役ロールの方が簡単だ。

 

「ではどうして気があるそぶりを見せられたのですか?」

 

「先ほど皐月が言ったじゃないか、恐ろしいほどの二面性があるって。」

 

精神異常者(サイコパス)なので、押さえておこうと言う事ですか。」

 

ステラは結論に達したようだ。

 

「一番いいのは、彼女をリ・エスティーゼ王国から買える事だよ。

言い方が悪いけれども、エルグリラを彼女の隠居先としてだね。

ナザリックが居なければそこまでする必要は無いけれども。」

 

あの国を良くするのはある意味簡単で、馬鹿貴族と腐敗役人を一掃すればよい。

 

ザナックが厳しいのは中から反乱を起こさせずに行うのが大変なのだ。

 

スレイン法国やナザリックも同じ結論で、前者はバハルス帝国に吸収させることで、後者は飴と鞭で貴族を選別してしまう計画だったと思う。

 

そう思う理由は飴と鞭の話で、内乱の話が出ていたから、その後に国王を傀儡(ドッペルゲンガー)と交換して属国にする。と言った辺りだったのだろう。

 

確かアルベドに聞かれた帝国の属国化方法でもデミウルゴスが言っていた方法で、聖王国で実行した方法に近いから当たらずと言えども遠からずと言った辺りでは無いのかな。

 

便乗、またはバルブロ王子とザナック王子で内乱させて王位継承の邪魔になる彼女の疎開先になるのが一番望ましい。

 

偉そうに言っているが、アレクが出してきた計画の一つがこれだ。

 

当然、ナザリックによる絶滅戦が起きた場合の彼女は原作通りに動くから流石に無理だろう。

 

「ナザリックを警戒されているのですね。」

 

「極力不確定要素は減らしたいだけだ。

ラナーがナザリック側に付いた場合の予想が出来ない。

ナザリックのNPCに直接手は出せないけれども、出来る限りの方法で止めたいのさ。」

 

「何をでしょうか?」

 

「世界征服。

アレクの予想ではリザードマン達に行った事と、カルネ村と言う村で行っている事から言って、かなりの確率だそうだ。

逆にナザリックから見た場合も我々がそれに近い事をしているように見えるそうだ。

従って彼らが世界征服を望む場合、最終的にはナザリックと衝突する事になる、との予想だ。」

 

千年王国は(ミレニアム)は既にエルフの国を吸収し竜王国を吸収しようとしている。

 

ナザリックがトブの大森林を制圧しつつあるように、千年王国(ミレニアム)はレイラの指示でエイヴァーシャー大森林の制圧作戦中だ。

 

世界征服なんて柄じゃない。

 

私もモモンガさんもそう思っている筈なのになぜかそうなっていくのは何とも。

 

原作を知っていれば私でも分かる。

 

ナザリックと魔導王アインズ・ウール・ゴウンを認識した時に人間種諸国が誰に協力を頼んでくるかだ。

 

アレクは、これを利用すればカウンターで人間種諸国を支配下に置けると言ってきた。

 

確かにそうなのだけれども、やりたくはない。

 

やった段階で千年王国(ミレニアム)による世界征服に変更されるだけだ。

 

互いに相手を抑止力としてこの手の話を止めてしまうと言うのが私の考えている最善とはいえないまでも、よりまし(ベター)なのだけれども、まだ、モモンガさんにも話せていない。

 

モモンガさんがNPC達が世界征服を行おうとしている事を知った時に相談されて初めて提案できるからだ。

 

私は、この世界でのんびりと生活できればそれ以上は望んでいないのだけれども。

 

「しかし、ラナー王女を名目上とは言え妻にしたら、かえって巻き込まれませんか?」

 

「妻にはしない。

竜女王のメリットが分かるけれども、ラナー王女はメリットを感じないからだ。

妻に望んでいるように見せかけて、両王子と接触する事が狙いだそうだ。」

 

「それはまた。」

 

「両王子の監視も継続しなくてはですね。」

 

「アンネ、明日のお茶会や舞踏会だけれども、私は女たらしの女好き設定だから私をよろしく頼むよ。」

 

私は上手くやれるのか全く自身が無いのだよ。

 

因みにバルブロ王子をだますことが最大の目的なのが笑えない。

 

ラナー王女もザナック王子にも演技を気が付かれてバルブロ王子だけを誤認させるってうまくいくのだろうか?

 

私はホストじゃないのだよ。

 

やっとの事でギルドの指輪(リング・オブ・ミレニアム)を受け取り書類仕事を済ませて、アレクからの報告を聞いた後、リ・エスティーゼ王国の迎賓館に戻り寝る事が出来た。

 

書類なら戻らずに持って来させてもと思うかもだけれども、報告も提案も外に漏れたらまずいものが多すぎるから防諜を考えると戻らざるをえないのだよ。

 

翌日は、まずはお茶会だ。

 

ラナーと一対一ではなく、他にも女性がいた…

 

「シルト・クレーテ・レイ・デ・ミレニアム千年王陛下、私はラキュース・アルベイン・デイル・アインドラです。」

 

「よろしくラキュース嬢。

御高名は伺っています。

名前は長いだろうからシルトと呼んでくれて構いませんよ。」

 

蒼の薔薇全員がいても驚かなかったけれども、まあ、今回は彼女だけだろう。

 

後ろにいる厳ついのになんだか可愛い男の子をラナーが紹介した。

 

「私の専属兵士のクライムです。

幼馴染でもあるのですよ。」

 

「クライムです。

シルト・クレーテ・レイ・デ・ミレニアム千年王陛下、よろしくお願いいたします。」

 

「クライム君、シルトで構わないよ。

何なら一緒にお茶をするかい?」

 

「私はラナー様の護衛ですのでそう言う訳には。」

 

「まあそうだろうね。

君がお茶をするならアンネも一緒にお茶をする言い訳が出来たのだけれどもね。」

 

当たり前だけれども、ラキュースが来ていなくても厳密な意味では二人きりではない。

 

双方の執事やメイド、護衛の騎士が周りにいるからだ。

 

「シルト陛下、どうぞお座りになって下さい。」

 

「では、お言葉に甘えまして。」

 

アレクに聞いたけれども、ラナーは私が一目ぼれしたとは全く思っていなかった。

 

描くほどが出来ないほどの美人と称されるラナーといえ、容姿が人間離れしているアンネが居るから見た目だけで一目ぼれする筈がないと考えるのは想像できる。

 

でも、儀礼上、外交上でそういう風に見せていたと考えるのが普通じゃないのか?

 

アレクが行った時に全く驚かなかったと知って流石に驚いてしまった。

 

転移魔法で現れたヴァンパイア、しかも容姿は魔王様…国崩しが近くに居ても驚かないものだろうか?

 

24時間監視を受けていた事も完全ではなくても知っていたのだ。

 

アレクが「今後は監視する」と言ったら、「少し前からしていますよね。」と返事が返ってきたそうだ。

 

どうなっているのだ。

 

さて、この手のお茶会は要するにお見合いの一種と思えば大体あっている。

 

じゃあなんでラキュースがいるのかと言うと、母親代わりである。

 

因みに彼女たちは母親が姉妹で従姉妹だ。

 

ラナーは上の四人とはかなり年が離れていて、母親は後妻である。

 

つまり、ランポッサ王は二回妻に先立たれたらしい。

 

母親と言うより姉と言った役割のラキュースからラナーの話を聞いていたが、どうもラキュースはラナーをリ・エスティーゼ王国から出したくないようだ。

 

「シャンドラド千年王国とはスレイン法国を挟んでいますが、移動は一瞬ですよ。

何なら今から首都エルグリラをご案内しましょうか?」

 

「流石にちょっとそれは不味いのじゃあ。」

 

ラキュースが慌てて言った。

 

「ここにいる護衛やメイド、執事の全員でも構いませんよ。

一つに気になる点があるとすれば、シャンドラド千年王国は多種族国家なので、ほとんどが人属のリ・エスティーゼ王国とはかなり違うので。」

 

あっけにとられているラキュースを置いておいてラナーが私に話しかけた。

 

「隣国がスレイン法国で大丈夫なのでしょうか?」

 

「その為の対策として竜王国に援軍を出しましたよ。

王である私が人属なので大目に見て頂けるみたいです。

でなければ、スレイン法国の紹介で国交を結んでいませんよ。」

 

「まあ、そうなのですか。」

 

確実に知っていた事を知っているのでラナーの返答が白々しく思えてしょうがない。

 

「他種族を今すぐにでも見られるのなら見てみたいです。」

 

「ラナー」「ラナー様」

 

そりゃ、止めるよね。

 

「では、クライム君かラキュース嬢が見てきますか?

ラキュース嬢は貴族の御令嬢と言うよりもアダマンタイト級冒険者として見てみたいのでは?」

 

「それはまあ。」

 

「では、ご案内しますね。」

 

「シルト様」

 

私が立ち上がり、ラキュースの方に手を出すと執事(ズワース)が止めてきた。

 

ラナーを置いておいてラキュースを案内するのはとんでもなく失礼だ。

 

これは私が女たらしに見えるようにするための茶番だったりするが、実際ラナーよりもラキュースの方が良いと言う本音もあるので苦も無くできた。

 

「私が転移門(ゲート)の魔法を使うから、ズワースが案内してもらえるか?」

 

誤魔化したようにしか見えない態度でズワースに言った。

 

転移門(ゲート)の魔法?」

 

ラキュースが疑問に思たようだ。

 

「第9位階の転移魔法ですよ。

1000人くらいは移動できます。」

 

実際は万単位でもできるけれども

 

「第9位階魔法ですって!

冗談でしょう!」

 

「シルト様、上位転移(グレーター・テレポーテーション)でも良いのではありませんか?」

 

転移門(ゲート)なら往復できるでしょう。

開けておくから、一回見て頂いて直ぐに戻って来てもらえればいい。」

 

「畏まりました。」

 

「ラキュース、そんなに凄いのですか?」

 

「私やイビルアイが使える最高位の魔法が第5階位、あのフールーダ・パラダインが使えるのが第6階位と言えば分かるかしら。

誰も使えないと言われる伝説上の魔法よ。」

 

「第何階位かなんてどうでも良いのでは?」

 

私は転移門を開いた。

 

開いた先は第二城壁の上、つまりは都市長城館の城壁なので街が見える筈だ。

 

「貴方、本当に魔法を使ったの?」

 

ラキュースさん、敬称とかが抜けていますよ。

 

「魔法でも道具でも転移門(ゲート)が出来た事実は変わりないでしょう?

見てきてください。

ズワース、案内差し上げて。」

 

「では、ラキュース様どうぞ。」

 

そう言うとズワースが入っていった。

 

「大丈夫なのよね。

ラナー行ってくるわね。」

 

続いてラキュースが入っていった。

 

「先ほど、ラキュースが失礼な口調をしたことを私から謝罪いたします。」

 

「気にされなくてもいいですよ。

魔法を使える人から見るとかなりの驚きでしょうから。」

 

「第9位階魔法だからですか?」

 

「第9位階魔法と言っても攻撃性はありませんし、アイテムで使えるようにしているだけですから。

それよりも私は魔法を使用すること自体を隠蔽しているので魔法を使ったと認識しづらいのですよ。

従って魔法詠唱者(マジックキャスター)から見ると違和感が発生するのです。」

 

「失礼ながら、ご質問してよいでしょうか?」

 

「クライム君、別に構わないよ。

私の生まれはそこまで高貴な身分と言う訳ではないので、そこまで気を使わなくてよいよ。」

 

「シルト千年王陛下はどの程度の魔法まで使えるのでしょうか?」

 

「国を丸ごと滅ぼせる程度には。

当然、魔法一回でと言う訳ではないよ。

冗談で言っている訳では無くて、これでも最強かどうかは疑っている。」

 

「国を亡ぼせるですか?」

 

「第9位階魔法と言うのはそう言う次元の魔法だと思って貰えればいいよ。

世の中には世界丸ごとを亡ぼせる、みたいなモンスターもいる。

最近も、それに近いモンスターと戦闘して勝利しました。

私一人の力だけでは無かったけれどもね。」

 

「それはどのようなモンスターだったのでしょか?」

 

「キュアイーリムと言う竜王でした。

抵抗できない者は半径250KM程を殺しつくすと言う攻撃をしてきました。

冗談に聞こえるかと思いますが。」

 

「竜王ですか?」

 

「アーグランド評議国のツァインドルクス=ヴァイシオンと同じく真なる竜王の一体ですね。

キュアイーリム=ロスマルヴァーは既に滅んでいると聞いていますが。」

 

「その竜が名乗っていただけですので実際は違うのかもしれませんね。」

 

私は肩をすくめて答えた。

 

ズワースとラキュースが戻ってきた。

 

「すごかったわ。

普段、モンスターとして倒している相手が普通に市民として生活しているのを見るのは複雑な気分だけれども。」

 

「多種族国家の意味を御理解いただけたら幸いです。

皆さんも行ってみますか?」

 

時間の都合上で、転移門をくぐって街を見るだけで戻ってきたが、エルグリラを見学できたことがどのような影響が出るのかが分からなかった。

 

ラナーも興奮していたけれども…多分演技なのだよね。

 

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