今回は、王国からの来賓だ。
主賓はザナック王子とラナー王女だけれども、名目上はラナーの嫁ぎ先の確認となっている。
実際の所は、確実に盗聴が有り得ない場所での話し合いがメインだったりする。
無駄を省く傾向があるジルクニフ皇帝はいきなり都市長城館に来たのだけれども、彼らはエルグリラのリ・エスティーゼ王国大使館(元は貸し出し用のクラン拠点)に転移して、そこから馬車で都市長城館にやってきた。
エルグリラで本物の馬車を用意するのは相当なコストだと思うけれども…ゴーレム馬車で良くないのか?
何せ転移した時には普通の馬が全然いなかったのだ。
せめて、
リ・エスティーゼ王国人に制御できるかと言われたら困るけれども。
そう思いながら都市長城館の玄関で待った。
城門が開き、城館の庭にリ・エスティーゼ王国の紋章付きの馬車が入ってきた。
どうでも良いが、馬車は大使が使うようにこちらが用意した物なのだよね。
日本では馬車は実に明治時代までなかったのだけれども、何故かと言うと馬車は坂道に弱いからだったりする。
実際自転車で坂を上る時は降りて手で押した方が楽になるのと同じで、下りもブレーキが無いから引馬の踏ん張りがきく限界が傾斜度の限界だったりする。
ある傾斜度を超えると引かせるよりも直接背に乗せた方が効率が良くなるので、日本では馬車ではなく馬の背に荷物を積んで輸送していたと言う歴史がある。
エルグリラのある場所を覚えているだろうか?山脈の稜線上である。
転移前が平地だったので都市自体は平たんなのだけれども、都市から出るといきなり傾斜だったりする。
まあ、あそこまでの傾斜ではないけれどもマチュピチュをイメージしてもらえればいい。
意外かもしれないけれども、あそこも標高はさほど高くは無いので水が湧き出るのだけれども、あんな感じだ。
既に処理してしまってゴーレムの素材になってしまったけれども、転移した当時は標高の高い南側は城壁のすぐ外で崖になっていた。
つまり、まともに馬車が運用できる環境にないので、この馬車は事実上都市内でしか使えないのだよね…都市から各国に続く道はなるべく傾斜の緩い道を作っているけれども。
トンネルを掘ったり橋をかけたり、やっている事が古代ローマ帝国のようだ。
従って、馬車不足なので馬車に乗ってきたのは、ザナック、ラナー、外務尚書、駐在大使の四名だけで、護衛の殆どは歩きでやってきた。
彼らの騎馬まで転移魔法で輸送しなかった為だ。
そもそも、それほど距離がある訳ではない。
護衛に蒼の薔薇の一行も普通にいるのが何とも。
先行してエルグリラに一度来ていたからね、適任とは思うけれども、彼女たちを雇うお金がラナーの歳費であるあたりがリ・エスティーゼ王国の硬直性を意味していると思う。
馬車を下りて来た彼らにあいさつをした。
「ザナック殿下、ラナー殿下、外務尚書閣下、ご足労頂きありがとございます。」
「シルト陛下自らのお出迎え痛み入ります。」
代表してザナックが挨拶してきた。
「どうぞこちらへお入りください。」
はっきり言ってロ・レンテ城よりも豪華な都市長城館に案内した。
単なるデータだったから、面積の都合上庭園は入っていないけれども、外観は実はとある宮殿の建物をそのまま入れ込んだだけだったりする。
完全には分からなかった内装は世界中の宮殿の内装写真をデーター化して適当に入れまくった記憶がある。
まあ、ここもナザリックのような宮殿タイプの居住階層を作って欲しい人向けの内装用のサンプルだった訳だ。
城館の城壁の長さも、ロ・レンテ城と大して違わないのがとんでもない。(転移前が約950m、転移後は都市長城館の外周は約1,250m)
ナザリックで耐性が付いていたバハルス帝国一行と違い、先に来たことがある駐在大使と蒼の薔薇以外のリ・エスティーゼ王国一行は内装の豪華さに絶句していた。
自分で言うのもなんだけれども、第1階層なので修繕維持コストがたいした事が無いのは無茶苦茶である。
応接室に案内して席についてもらった。
「中にいる人数が少ないように思うが管理しきれるのか?」
ザナックの疑問も当然である。
ユグドラシル時代には、ほぼ意味のない置物だったのでまともに人員が配置されていなかったのだ。
「本日は通いの者は下がらせていますので。」
本当はユグドラシル金貨による維持なのだけれども言っても分からないだろう。
第6階層のメイドや執事をもっとここに上げておくべきだったか?
一日くらいは維持費が変わってもどうとでもなるし。
「そうなのか、メイドや執事の数が明らかに不足しているのが気になったのだが。」
名目上はラナーの嫁ぎ先の確認だからな、当然聞くか。
「殆どマジックアイテム頼みですが維持だけなら然程苦労しないのですよ。」
メイドが御茶請けと飲み物を持ってきた。
大の甘党であるザナックにはココアを用意した。
「街もなんというか雑多だな。」
「お兄様、多種族国家と聞いていたではありませんか。
私はどのように問題を起こさず統治しているのかの方が気になります。」
エルグリラの住民は本質的にこの世界の住民とは違う存在なのですよ…とは言えないよな。
「逆ですね、問題を起こすような者はこの街に住めないだけです。
個人的な考え方を言わせて貰うと、犯罪をしたら即座にばれる町と言うのもどうかですね。」
「どうやっているのだ?」
「魔法的な制約によるものですよ。
空中にも障壁が張られているので脱出も困難ですから。」
「魔法的な制約ですか?」
「たいしたものではありませんよ。
あくまでも市民を殺すな、盗むな、他人の配偶者と交わるな、くらいの制約ですから。
故意に行うのは防げても、事故まで止められるわけではないので。」
「市民を殺すななのか?」
「ネズミを殺せないようでは困るでしょう。」
「違いない。」
こうして、世間話から進めていった。
何とかザナックとラナーの二人だけを引き離さなければならない…クライム君は大丈夫か…真面目だからな、どうしたものか。
「ところで、ラナー様のお住まいになる予定の部屋はどちらになるのでしょうか?」
外務尚書としては当然の疑問だよな。
メイドや執事用の部屋でも良いのだけれども…流石にないか。
「ご案内しますが驚かないでくださいね。」
「こちらの内装よりも凄いと仰るのでしょうか?」
「豪華さではありませんよ。」
転移門を開くと、第六階層の水上コテージに繋がる通路に繋いだ。
私達に続いて出てきた、リ・エスティーゼ王国一行も、絶句していたよ…しない方が可笑しい。
「私はここで寝泊まりしています。
一室ご案内しますね。」
そう言うと、未使用のコテージに入っていった。
「豪華さよりも快適性や雰囲気を楽しむようにできていますのでご希望とは違うかもしれませんが。
保養地のような住まいになっています。」
「ここは何処なのだ?」
やっとザナックが話せるようになったらしい。
「ここもエルグリラですよ。
多分地下です。」
階層転移門を超えた先は別空間の気がしないでもない。
エルグリラの地下を掘っても第二階層は出て来ないのだ。
「ここが地下なのか?」
「ですので、護衛は最小限でも構いません。
基本的に私の手の者しかここにはいませんので。」
この水上コテージは私はシンプルな1LDKのタイプを使用しているのだけれども、実際は何パターンもある。
ジャグジー付きのデッキが有るのにシンプルとは何か?とは聞かないで欲しいな。
実際に有った水上コテージをほとんどそのまま設置してプールをジャグジーに変えただけなのだから。
対して今、リ・エスティーゼ王国一行に紹介している部屋は200㎡もある。
他にも水中で魚が見える寝室付なんかもあった筈だ。
こんなところが地下と言われても首をかしげたくなるのは分かる。
玉座の間で外部ではない事を確かめてからここに来たバハルス帝国一行とは違うからだ。
データの元が要するにリゾートホテルなので、メイドの待機部屋をどうするのか?みたいな問題は確かにあるのだけれども…修正が効かないのだよね。
「他にも複数のタイプがあるのですが基本的に御付きの人はリビングで待機してもらう事にはなると思いますが。」
「これで、豪華ではないと言う感覚がすごいな。」
「ベッドや椅子のクッションも相当良いものですよね。」
ラナーが実際に押して確認していた。
要するに高級な部屋と同じだからな。
「ズワース、使用人室を案内してもらえないか?
こちらのズワースが案内しますのでご確認ください。
ザナック殿下とラナー殿下は飲み物でも用意させます。」
私は、ザナックとラナー他数人と、砂浜が見えるテラスにやってきた。
今回はフロートソーダなのでザナックは好きそうだと思う。
クライム君も名目上は使用人室に住むことになるので、確認しに行った?
確実にロ・レンテ城よりも良い住居な事は保証する。
使用人室は馬鹿げた理由で住人の三倍も用意されていたのだ…大量に用意した衣装室になっていたのだ…この現状を知った後にクローゼットをアイテムボックス改造して収納したからガラガラなのだ。
まあ、こちらもホテルをそのまま設置したから使用人室って感じでは絶対無いな。
「内密な話をしたいので音を遮断しますね。」
私は音を遮断した。
「これで護衛や御付きには話は分かりません…読唇術の心得がある者が居たら困るので反対を向きましょう。」
そう言うと海の方を見た。
「内密な話ってなんだ。」
「次のバハルス帝国との戦争についてですよ。
リ・エスティーゼ王国は確実に負けます、しかも大敗します。」
「何故そんなことが分かる?」
「アインズ・ウール・ゴウンはご存じですか?」
「ガゼフがお父様に伝えていた
その方がどうかしたのですか?」
「私は一人でもリ・エスティーゼ王国軍を文字通りの全滅にできます。
アインズ・ウール・ゴウンも同じ様な強さを持っていると言ったら。」
「信じられない話だが、本当だとしてそれと一体どんな関係がある。」
「帝国はエ・ランテルはアインズ・ウール・ゴウンの領土なので彼に返還するように要求し受け入れられない場合は奪還すると言ってくるはずです。」
「そんな事が有る訳ないだろう。」
「事実として有るか無いかではなく、そう主張して戦争を仕掛けてくる事と、戦えば確実に大敗する事を知っておいて欲しいのです。」
「何故、俺たちにその事を話す。」
「お兄様、シルト陛下はこの戦いを利用して、腐敗している者や敵対派閥を一掃しろ、そう言っているのですわ。」
「そうなのか?」
「その通りです。
出来れば民兵は徴収せずにそう言った者だけで軍を編制できれば良いのですが。」
「流石にそれは無理だな。」
「でも情報はお伝えしました。
有効にお使いください。
戦場にいるのなら死んでおいて欲しい人は私の方でどさくさに紛れて暗殺しても良いですよ。」
「とんでもないことを言うな、お前。
ある意味ラナーにお似合いだぞ。」
「バルブロ殿下が亡くなれば、私とラナー殿下との婚姻話も流れますけれどもね。」
ラナーとの婚姻話を進めているのはバルブロ王子だったりする…なのに彼はエルグリラに来ないと言う。
私には意味が分からない。
「兄上を殺すつもりなのか?」
「勝手に戦場に出て死にますよ。
ゲヘナの対応で株を落とした以上、戦場に出てくるのでしょう。」
「どんな規模の大敗なのか知りたいな。」
「先ほども言いましたが、まともに戦闘になりませんね。
虐殺と言って良い事態が発生します。」
「あら、そんな勢力が出来たら対抗できる者と同盟を結ばなくてはですね。」
「万が一の避難先ではだめですかね?
少なくとも立場が完全に逆転しますから妻としては受け入れませんよ。
大体、私を隠れ蓑にしてクライム君とくっつくのでしょ。」
「なんて話をしているのだ。
リ・エスティーゼ王国とシャンドラド千年王国の同盟は可能なのか?」
「受け入れられません。
既にアインズ・ウール・ゴウンと同盟を結んでいるので、こうして情報を送るだけで我慢して欲しいですね。
実際、バハルス帝国の送る書簡に私の印章を押すことになります。」
「酷い話だ。
シルト陛下が私の立場ならどうする?」
「クーデターを起こしてでも、アインズ・ウール・ゴウンの属国になりますね。
次善の策としてはシャンドラド千年王国の属国ですか。」
「お兄様、次善の策に乗った方が良いのではありませんか?」
「やめて欲しいから次善の策なのですが。
次善の策でも国が割れますよ。
割れないように処理しておくことをお勧めしている訳です。」
「アインズ・ウール・ゴウンを使ってリ・エスティーゼ王国を支配しようと言う訳ではないだろうな?」
「正直に言って良いですか?
リ・エスティーゼ王国を支配する旨みが無いのですよ。
まともな国になって貰ってまっとうな商売で稼げた方が良い」
「我が国に対してなんて評価だ。」
「ザナック殿下との利害関係は一致しているのでは?
個人的には敗戦処理の支援の為に妹を売り飛ばした汚名をかぶって貰えば良いですかね。」
「本当に妻にする気がないのだな。」
「生まれてくる子供が私の子供ではありませんからね、当然の返答でしょう。
ラナー殿下は上手い事クライム君を言いくるめてくださいね。」
「シルト陛下の妾になるのが今から楽しみです。」
「そろそろ戻ってきますので、遮音を切りますね。」
使用人室を見に行った者たちが帰ってきた。
「美味しい飲み物だった」
「初めて飲む飲み物でした。
何時でもこんなものが飲めるようになるのですね。」
「あまり飲みすぎると体型を崩しますよ。
使用人室は如何でしたか?」
「あれが使用人室ですか?
実体を知ったらラナー様についていく希望者が殺到しそうですな。」
「クライム、そんなの凄い部屋だったの?」
「ラナー様に紹介した部屋には劣りましたが、使用人の住むような場所ではありませんでした。」
多分、そこにラナーと一緒に住む事になるのではないかな?
「昼ご飯は別の場所で用意していますので付いてきてください。」
昼ご飯は冬エリアで懐石料理だったりする。
私以外は箸では食べられないかもしれないのでフォークとナイフが用意されているのは何だけれども。
アニメ版のロ・レンテ城はどう考えても大きすぎると思うのは私だけ?
外周の大きさ、WEB版800m、書籍版1400m、アニメ版…どんな大きさなのだろう?