リ・エスティーゼ王国にいる部下に呼ばれた。
要件は分かる。
ガゼフの蘇生の件だろう。
本当は出来るのだけれども、死体が回収されなければそもそも蘇生は出来ないと通達していた。
まあ、アンデッドにされて居たら蘇生は不可能で、ほとんどの死体はナザリックに回収されているから、そもそも、出来る出来ないの判別自体が難しいのだけれども。
大体、いくらなんでも12万人の蘇生は厳しすぎる。
そもそも、金を積めそうな者はザナックやラナーによって、いらない者と判断された貴族なのでする訳にもいかない。
神殿や冒険者ギルドとの兼ね合いだってある。
珍しく死体が回収されているのがガゼフだったりする。
兎に角、ランボッサ王が発狂寸前なので、私が呼ばれたのだ。
「シルト陛下、ガゼフが蘇生できないと言うのはどういう事だ。」
温厚なランボッサ王とは思えないほどきつい口調で言われた。
ラキュースを引っ張り叩いたらしいが、自国民だったら私やランボッサ王から依頼を受けた大使もどうなっていたのか分からない。
「ランボッサ陛下、蘇生魔法は、どんな高位階の蘇生魔法であっても蘇生できない場合が二種類あります。」
「どんな場合なのだ。」
「一つは寿命で無くなった場合です。
二つ目は本人がそれを望んでいない場合です。」
「ガゼフは寿命ではなく戦死だぞ。」
「そうです。」
「ガゼフがわしを見捨てて蘇生を拒んでいると言うのか!」
「落ち着いて頂けませんか、私は貴方の配下でもリ・エスティーゼ王国の国民でもない。
それどころか身分的にも同格です。」
私でなければ外交問題だぞ。
「私もアンネが完全に蘇生不可能と言われたら半狂乱になる自信がありますのでお気持ちはお察しします。」
アンネがロンギヌスで刺された時に、もし、世界樹の雫が無かったら、お願い系のワールドアイテムを強奪してでも手に入れようとした自信がある。
当然、そんなことをすれば、
だから、仲間に止められて引退していたのではないか?そう思う。
いい加減、自分の気持ちを認めるべきなのかもしれない。
自分でも愛情なのか愛着なのかが分からないけれども。
「何故だ、何故私を置いていったのだ。」
ランボッサ王はガゼフを抱きしめて号泣きしていた。
妻を二回亡くしている筈で、今回の戦いで長男も亡くしている筈なのにガゼフのみに対して狂乱状態になっているのを見ると、やはりガゼフは死ななければならなかったと言う事が実感できた。
少し落ち着いたランボッサ王に声をかけた。
「ランボッサ陛下、貴方の今の状態こそがガゼフが蘇生を拒んでいる理由なのではないかと愚考しますが。」
極力人払いしていても、ランボッサ王の醜態は貴族の間であっという間に広がっていた。
貴族派閥が集中的に亡くなっていて、王派閥で亡くなったのも裏切り者のブルムラシュー侯爵やゲヘナで最近派閥を鞍替えした本物の蝙蝠貴族が殆どなのだから、ランボッサ王が醜態をさらしていなければ、貴族たちから恐ろしいほどの追求があっただろうと言うのは想像に難くない。
実際に配置を決めたのはレエブン侯に操作されたボウロロープ侯爵なのだけれども、こういったことは理屈では無いので。
「どういうことなのだ。」
「今回の戦いは戦死者の死体自体が回収されていないのです。
その中でガゼフのみは見た目はきれいな状態で回収されました。
ここで蘇生出来たら多くの戦死した者達の遺族からどのように思われると思いますか?」
私は淡々と事実を告げた。
何故、ガゼフが蘇生を拒んでいるのかが分かったのだろう、
「馬鹿者が、わしが死んでお前が生きていた方が王国の為になったのだ。」
そう言って再度泣き始めてしまった。
王として絶対に正しくないのに、そのような態度が結果として王国の分断を防いでいると言う不思議な状況を見て私はなんとも言えなくなった。
再度落ち着いたところに、もう一つ、つらい事実を告げた。
「お辛いことですがもう一つ、私からアインズ・ウール・ゴウン魔導王に確認しましたが、カルネ村に向かった別動隊5千人を文字通りの全滅にしたそうです。」
「何と言う事だ、息子が親よりも先に死ぬとは親不孝者が。」
私はランボッサ王の近衛に顔を向けると近衛は首を縦に振った。
「用件はこれまでと思いますので下がらせてもらいます。」
そう言って、ガゼフの安置されている部屋を出た。
部屋の外にはザナックが待っていた。
「シルト陛下、このような事でご足労頂き申し訳ありません。」
「実際に、ランボッサ王を納得させられるのは私しかいなかったでしょうから。」
責任者を出せと言うクレーマーに近いものがあるから、この件だけは私以外の者のではだめだったのは理解できる。
「で、どうされるのですか?」
「アインズ・ウール・ゴウンとの同盟を解消したと聞いたが、やはり我が国との同盟は結べないのか?」
「本音を言えば、どの国とも中立の立場でありたいのですよ。
我々は強者でありすぎる。
今回の戦いの結果を見て納得してもらえませんか?」
「だが、それはアインズ・ウール・ゴウンも同じだろう、違うか?」
「なので限界まで被害を最小限にする為に動いたつもりなのですけれどもね。」
「シルト陛下、貴殿は何を考えている、ラナー以上に考えが読めない。」
「少しの時間、エルグリラに来ていただけますか?」
「私一人でか?」
「知られたくない話はお互いに多いのでは?」
「そうだな、甘い飲み物につられていくことにしよう。」
私達はザナックを連れてエルグリラに戻り、第六階層に彼を連れて来た。
「相変わらず無茶苦茶だな。」
「夏よりは良いでしょう。」
今の季節は冬だ。
気温差が激しすぎるので秋の倉庫エリアのベンチでザナックと相対していた。
「飲み物は冷たい方が?」
「それでいい、ここはこの服装だと暑すぎる。」
抹茶ラテとお茶うけに和風パフェを用意させた。
私は紅茶だけだけれども。
「で、何を意図している。」
「ズワース、地図を」
私はザナックに大陸北西部の地図を見せた。
「かなりの範囲だな、これがどうにかしたのか?」
「地図抜きでは説明しづらいので。
アインズ・ウール・ゴウン魔導国、私が少なくとも承認したのはトブの大森林ですがアゼルリシア山脈もその内に制圧するのではないですかね?
そこにエ・ランテルも加わりますがそれはどうでも良い。
更にカッツェ平野も事実上、領土とするでしょう。」
「そうなるだろうな。」
「竜王国の一件はご存じで?」
「何かあったのか?」
「事実上滅びます、と言っても住民は殆どすべて無事ですが。」
「どういう事だ?」
「住民の全てが我が国に移民するのですよ。
結果、人間種及び人間種に友好的な国家の範囲はこうなります。」
「アインズ・ウール・ゴウン魔導国も友好的な国家に入るのか?」
「少なくとも別に住人を虐殺したり、同盟国や属国に妙な真似はしませんよ。
私が担保します。」
「つまり、それをしたらアインズ・ウール・ゴウン魔導国と戦争する用意がある、そう言いたい訳か。」
「そう言う訳です。
そのアインズ・ウール・ゴウン魔導国と帝国が同盟を結んだ場合はどうなりますか?」
「ひょっとして亜人の防波堤にアインズ・ウール・ゴウン魔導国を使うつもりなのか?」
「それだけではなく、トブの大森林とアゼルリシア山脈もアインズ・ウール・ゴウン魔導国の領地になったらどうなると思いますか?」
「リ・エスティーゼ王国がどうなろうと知った事では無いけれども、人間種の存亡には興味がある訳だ。
やっと分かった、俺がリ・エスティーゼ王国の事で頭がいっぱいなのに、シルト陛下は人間種全体の事を考えていた訳だ。」
「人間種、ではないのですよ。
ザナック殿下に分かり易くなるようにリ・エスティーゼ王国に関係するところまでで終わらせましたので。
この街は多種族都市ですよ。
人間種だけをえこひいきして考えてはいないのです。」
「だが、共生は難しいぞ。」
「でしょうね。
なので、住み分けとして人間種の領域を勝手に決めてしまったと言うのが正しいのですかね。
本当は共生できると良いのですけれども。」
「アインズ・ウール・ゴウンは何を考えている。」
「その共生ですよ。」
「信じられん。」
「アンデッドから見たら、人も、エルフもドワーフも、更に言うとゴブリンやオークのような亜人も同じにしか見えないのでは?」
「本気でそう思っていそうだ。」
「冗談ではないのですけれどもね。
私も似たような者なので。
ですが無理やりそうしようとするかしないかの違いなので同盟を結んでいたのですよ。」
「今は違うと。」
「少なくともアインズ・ウール・ゴウン魔導国とは思想的には今でもさほど変わらないのですけれどもね…魔導王って我々への配慮が欠いた名前なのですよ。」
「それだけの理由で同盟を解除したのか?」
「十分な理由でしょう?
私自身は何とも思っていませんが、エルグリラでは私こそが最高の魔導士だと思っている者だらけなのですよ。
魔導王は国内向けに看過出来ない君主号ですね。」
「シルト陛下ほどの
ところで今回の戦いをどう思っているのだ?」
「そもそも戦争が愚かとしか。
戦争の勝利を突き詰めて、圧倒的な戦力差になれば一方的な虐殺になるだけです。
今回はそうなっただけですよ。
別の例ですが、
アーグランド評議国、ツアーと戦争したらどうなりますか?」
「蹂躙されて虐殺されるくらいなら素直に属国になるのが正しいと言いたい訳か。
理屈だな。」
「なぜ、同盟を結びたくないかわかりますか?
あんな魔法の応酬なんてどんな状態になると思いますか?」
「双方の被害が尋常な物でなくなる、シルト陛下はそう言いたいのだな。」
「何故、私がどの国とも中立の立場でありたいと考えているのかは分かって頂けたでしょうか?」
「理解はできるが納得は出来ないと言うべきだな。
ラナーを何故望むのだ?」
「彼女がアインズ・ウール・ゴウン魔導国に付いた場合はどうなると思いますか?」
「仮想敵に回したくはない、そういう事か。
だが、シルト陛下はあの化け物を制御できるのか?」
「制御しようとは思っていません。
この場所から出ずにどうやって外部に干渉するのですか?」
「あの女はメイドに情報を流すだけで今回の戦争で貴族派と裏切者が前衛に出るように仕組んだぞ。」
「クライム君を例外として、外部の人間と接触させませんよ。
この時点でそのような事は事実上は不可能です。
まあ、私を誑し込むと言う手は有りますが彼女はしないでしょうね。」
「自分の配下の者をそこまで信用できると言うのは羨ましい。」
「有益な政策なら採用しますよ。
でも恐らく内政限定になるでしょうね。
自軍の戦力と配置をラナーに教えるような事はしないので。」
「ラナーがシルト陛下やシャンドラド千年王国に対する忠誠心とか愛国心を持つようになるとは思っていないのだな。
妹の事をちゃんとわかっているようで驚いたよ。」
「ザナック殿下は暗愚を装っていましたよね。」
「それもばれていたのか、どこまで情報を掴んでいるやら。」
私は指を弾いてパチンと音を出すと、隠れていたモンスターや護衛が姿を現した。
「こんな感じで密偵を送っていますので。」
ザナックは一瞬絶句したがその後、乾いた笑いを上げた。
「ははは、これは、全く勝ち目がない。
アインズ・ウール・ゴウン魔導国も同じ事ができるのか?」
「出来ますよ。
と言っても、私がナザリックに密偵を送れないのと同様、アインズ・ウール・ゴウン魔導国もエルグリラに密偵を送れませんが。
この辺りの事は、何故かラナー殿下は気付いていましたが。」
第一階層に堂々と遊びには来られるけれども…隠れて何かをする事は出来ない。
「自分の妹ながらどうなっているのだ?」
「私が聞きたいほどです。」
「いつも護衛が少ないと思っていたが全くそんな事は無かった訳だ。
ところで、暗殺依頼を出したら何時でも暗殺できるのか?」
「少なくともリ・エスティーゼ王国の貴族なら確実ですね。」
「他国の場合は?」
「評議国や魔導国は諦めて下さい。
いずれにせよ、お金だけで暗殺依頼を受ける気は有りませんので。」
「シルト陛下がついてくれたら、内乱も最小限で済みそうだ。」
「暗殺はやりすぎると恐怖政治になりますよ?
反乱を起こす貴族の情報だけとかでも受け付けますが。」
「とんでもないな。
そう言う貴族の汚職が分かるだけでも助かるのだが。」
「同盟は結びませんが依頼と言う形でなら受けますよ。」
「それが分かっただけでも今日はここに来たかいがある訳だ。
一応の確認だが、一々ここまで連れてくるのは防諜対策なのか?」
「そうですよ、ロ・レンテ城なんて少なくともアインズ・ウール・ゴウン魔導国から見たらどこでも盗聴し放題でしょうし。」
現状、同盟は破棄されても敵対している訳ではないから他国でナザリックの密偵を問答無用では排除できないのだよね。
「美味しいお菓子と飲み物だった。
そろそろ帰るよ。」
「遠方までご足労ありがとうございました。」
「私こそ、父の為にご足労をかけて申し訳なかった。」
こうして、ザナックは内乱への道に舵を切る事になった。
ザナックから依頼を受けて動いていること自体はナザリックに通達した上だけれども。