第8章1話 ラナーがやってきた
ラナーがやって来ることになった。
名目上はバルブロ王子の進めていた婚姻話を継続したことになっているけれども、先の敗戦でリ・エスティーゼ王国の立場が恐ろしいほど悪化した為、妻から人身御供に変化したのだけれども…予定通りと言うべきかどうか。
「ザナック王子にこちらの資料を。」
私は八本指から回収した資料を
「一度拝見します。」
ザナックはかなりの量の資料を確認し始めた。
「想像以上です。
これで、かなりの量の貴族を潰せそうですが…ざっと読んだだけだが、恐らくは貴族や役人の半数を超えているな。」
「確実に内乱になりますね。
その資料以外にまだおつりは要りますか?」
全員分ではないが
「シルト陛下の言われるように、多くの貴族家が混乱している今がチャンスなのは私にもわかります。」
「アインズ・ウール・ゴウン魔導国には、リ・エスティーゼ王国から引き渡された領地で虐殺行為を行った場合、宣戦布告する、と通達していますから、安定して統治するのにある程度の時間がかかります。
予想では半年。」
「半年で終わるのか?」
「漆黒の英雄モモンを御存じで、彼はナザリックの手の者ですよ。
モモンを間に挟んで統治する筈です。」
「随分前から狙われていたのだな。」
まさか、単に冒険者がしたいとか、情報収集を自分がやるしかなかったからと言う理由に過ぎない、とは思わないのだろうな。
実際に原作を知っていないと、そのようには見えない。
「それだけではないと思いますけれども。」
「どういう意味ですか?」
「私もそうですけれども、多くの可能性を考えて、なるべく多くの事態に対応しておくものですよね。
結果、その内の一つがこうなった、と考えるべきです。」
実際は全く違うのだけれども…そうしておこう。
出会う時期が違うだけで、ザナックとモモンガさんは友達になれると思う。
「陛下の策のうちの一つがラナーの確保なのですか?」
「内乱では多分、
ザナック殿下が王に成れなかったらそのまま混乱が続いてアインズ・ウール・ゴウン魔導国に接収されるのでは?」
「全く否定できないな。
何時からこの事態を想定していたのです?」
「初めてお会いするよりも前、とだけ言っておきましょう。
バルブロ王子やザナック王子が居るのにペスペア侯を押す勢力がある段階で想像できますよ。」
「前に、属国にして支配する魅力がない、とまで言われてしまいましたからね。」
「ブルムラシュー侯爵とボウロロープ侯爵、リットン伯爵の領地を国王直轄領にすれば、エ・ランテルで失った領地よりもたくさんの領地を得られますよね。」
「彼らの領民が大量死しているけれども、理屈の上ではそうなるな。
他にもかなりの数の貴族家を潰す事になる、全部を直轄領にする訳ではないと言っても相当王権は強力になる、と言う事ですか。
国力の衰退は目も当てられなくとも思いますが。」
原作のあの戦争でも、多くの貴族派閥の当主が死んだにもかかわらず王派閥が弱体化した背景の一つにアインズ・ウール・ゴウン魔導国に国王直轄領だったエ・ランテルとその周辺を譲渡した為でもある。
元々、国王3:大貴族3:その他貴族4だった物が、国王2:大貴族3.5:その他貴族4.5ぐらいに減少したと言えば分かると思う。
これから行う改革が成功すれば、国王6:大貴族1.5、その他貴族2.5ぐらいの力関係になる。
内乱になった場合、そこで活躍した者への褒美がいるからそう単純では無いだろうけれども。
「
「ガゼフを失って可笑しくなったので療養中と言う事にして軟禁します。」
「頑張ってくださいね。」
それ相応の謝礼はいるけれども、リ・エスティーゼ王国が良くなるなら暗殺や傭兵貸出位はするよ。
なので、ザナックが負けようがない。
これで、八本指も壊滅するね。
モモンガさんの命令が八本指の誅殺だったので、そうすると思っていたモモンガさんと自ら交渉して協力する代わりに八本指の拠点に有った物資を
デミウルゴスが一瞬、不思議そうな顔をしていたのが忘れられない。
今回の結果、流石はアインズ様となるのだろうね、勝手に八本指を支配下にしようとした自分が浅はかだったと。
このように、手を貸す代わりの
御付きに護衛が二人いるけれども、それだけである。
彼女の歳費で雇っていたクライム君とブレイン以外を受け入れ拒否したためだ。
ラナーとアンネ以外を下げてからラナーと話し始めた。
「ラナーさん、ご自由にしてください。」
「自由ですか?
どうやってですか?」
「先ずは表情を取り繕う事から自由になりましょうか?」
中々にすごい目をした表情だ。
造形は良いのだけれども…そういう問題ではない。
「ですよね。
貴女はクライム君以外の全てを無価値、もしくは恨んでいませんか?」
「陛下、全てを恨むという事は無いですが、クライムを馬鹿にしたやつは死ねばいい、私を孤独にしたこんな世界なんてどうでも良い、とは思っていますわ。」
ラナーは全く隠そうとはしなかった。
「だからって、私達と先に契約を結んでいながら両天秤にかけようとするのは良い度胸ですね。
商取引は信用が一番なのですよ。」
「陛下は何を望んでいるのですか?
何故、ザナックお兄様に手を貸そうと思っているのですか?
私には陛下の行動がちぐはぐに見えるのです。」
「この、エルグリラの平和。
極論を言うならそれ以外はどうでも良い。
まあ、これは為政者として究極的には自国以外はどうでも良い、と言う物と変わらないと思っていますので当然の思考と考えていますが。
しかし、何故疑問に思うのですかね?
貴女ほどならわかりそうなものではありませんか?」
「私が思うに、ナザリック、アインズ・ウール・ゴウン魔導国を潜在的な敵国と見做している、とも思ったのですが、そうすると、バハルス帝国やリ・エスティーゼ王国をアインズ・ウール・ゴウン魔導国の属国にしようとするのはどうしてなのかが分からないのです。」
「魔導王と私の間では共通している物がある。
ああ、強者とか絶対的な忠誠心の強大な力を持つ配下がいると言うのではなく、あくまで個人的なものです。」
「プレイヤー、そう呼ばれる者と言う事でしょうか。」
やっぱり知っていたか。
「まあ、それこそが原因です。
アインズ・ウール・ゴウン魔導王が本当は人間だとしたらどう思いますか?」
「今はアンデッドだから元は人間、と言う意味なのでしょうか?
としても、アンデッドとしての意識に引っ張られるのでは?」
彼が引っ張られているのはアンデッドでは無くてアインズ・ウール・ゴウンと言う別人格と言うべきなのだけれども…
「若干違いますが似たようなものです。
そうですね、あなたが知っていて一番近い存在がイビルアイさんですね。
彼女もアンデッドですよね。」
「彼女は伝説のヴァンパイア、国崩しです。
確かに彼女はアンデッドなのに人間側です。」
「そういう事ですよ。
だから手を結べる余地があるのです。
オーバーロードになりましたが、中身は人間なのです。」
「ちょっと、信じられないのですが?」
「魔導王はそうであっても、その配下は違う。
そして魔導王も一番大切なのはナザリックの者達なのです、と言ったらわかりますか?」
「魔導王は、配下の者の傀儡、とまでは言いませんが引っ張られているのですか?」
「そうです。
私だってそうだ。
ランポッサ王だって、絶対権力を築いていそうなジルクニフ皇帝だって本当の意味で好き勝手出来ている訳ではありませんよね。
今の所、本当の意味で好き勝手やっていた国王は一人しか知らない…まあ、既に死にましたが。
私はアインズ・ウール・ゴウン魔導王をある程度信じていても、アインズ・ウール・ゴウン魔導国のその他の者達を信じていないのです。
いや、別の意味で信じていると言うべきか。」
前世の歴史では何人も知っているけれどもな。
この世界では好き勝手している王様はデケムだけと言って欲しい。
彼も、方向性は可笑しいけれども一応はエルフの為になると何故か思っているようだったので一人もいないと言うべきなのだろうか?
「やっと、シルト陛下の考えている事が理解出来ました。
私の事を望んだ理由、ザナックお兄様にアインズ・ウール・ゴウン魔導国の属国になるように勧めている理由。
ジルクニフ皇帝にも属国になる事を薦めていますのね。」
「そうです。
貴女の勘違いしていた事は、私やアインズ・ウール・ゴウン魔導王を過大評価しすぎた事ですよ。
私も、魔導王も凡人なのです。
ある意味で非常に器が小さい。
小さすぎるのです。」
「本当に矛盾した人ですね。
シルト陛下、貴方はアインズ・ウール・ゴウン魔導王と戦いたいと思っている、でも戦いたくないとも思っている。
本当にこの街、エルグリラだけ平和であればいいとも思っている、同時に世界征服をしてみたいとも思っている。
そう言った矛盾を抱えている。
違いますか?」
多分、私の中にある矛盾がちぐはぐな行動になっていると考えた訳だ。
「貴女のような秀才には理解できないかもしれませんが、一般的な人間は矛盾の塊なのですよ。
自分でも、どの自分が本当の自分か分からなくなる。
ただ、世界征服は少し違いますね。
この力を試してみたいが近いかな。
世界征服をした後のビジョンを思いつかないのですよ。
それに面倒です。
ただ、アインズ・ウール・ゴウン魔導王の考えている事は想像できて、私はそれに完全には賛同しかねる。」
「どうしてなのでしょう?」
「一つは、結果として確実に私と相容れないからです。
彼の目指すもの、すべての種族が同じように共生して過ごす社会。
題目だけ見たら立派で非の打ち所がないですが…理想論ですね。」
「現実的ではないと考えているのですか?
現にシルト陛下はこの街で達成しているのでは?」
「逆ですね、この街だから達成できていると言うべきでしょう。
私が世界征服するとして、目指すのは共存ですね。
なので、直接的に統治をしたいとは思わない。」
「共存、つまり、種族間の住み分けを目指す…アインズ・ウール・ゴウン魔導国を良いように使おうとしていませんか?」
「上手くいくかどうかは分かりませんが。
もう一つ、魔導王と戦いたいのではなく戦うしかなくなると考えています。
理由は…魔導王の器の小ささですよ。」
「器の小ささですか?」
「人の事を言えたようなものではありませんが、器が小さすぎる。
究極的には、自分や配下の者に傷つけられる者を全て無くそうと考える筈です。
そして、世界が自分たち無しで立ち行かないようにして共生を行おうとしてしまう。
そうなった時に私達は邪魔になる筈です。」
「シルト陛下、私には陛下が器が小さい凡人とは思えませんわ。
少なくともリ・エスティーゼ王国の大抵の貴族よりは。」
「比較対象が悪すぎですので、褒められたとは思えませんね。
所詮、自分の器が小さくて凡人なのを自覚しているかそうでないかの違いにすぎませんが。」
阿呆の語源となったとまで言われる劉禅(幼名の阿斗が語源…信憑性は低い)だけれども、決して諸葛孔明を疑わなかったそうだ。
と言うよりも、優秀な家臣を疑う事をしなかった。
突き抜ければこうなる訳だ。
まあ、個人的には劉禅は本当に無能だったのかは疑問なのだけれども。
「私はどうすればいいのでしょうか?」
「配下のアレクから伝えた筈ですが、基本的には何かをすることを望んでいません。
ここでクライム君と仲良くしていてください。
まあ、献策によっては、褒美は与えてよいですが。」
「私が褒美で動くとでも?」
「貴女とクライム君の年齢を変える事が出来ると言ったら?」
流石にラナーが絶句した顔になった。
「アインズ・ウール・ゴウン魔導国からは
ついでに、貴女を絶望させた世界とクライム君を馬鹿にした者への復讐ですか?」
「そう言えば、シルト陛下は不老化しているのは知っていましたが、他人でもできるのですか?
しかも、年齢も変えられると。」
私は年齢を5歳若返らせた。
「お姉ちゃん、これで信じて貰えるかな?」
「私よりもかなり年上なのにお姉ちゃんとは言われたくはありませんわ。」
ラナーはかなり嫌そうな顔でそう言った。
ついでにラナーも5歳年を取らせたら、明らかに胸のサイズが変わった。
「これで、信じて貰えますね。」
「無茶苦茶ですね。」
「私は元の年齢に戻りますね。」
そう言うと、私は元の年齢の外見に戻った。
「
「シルト陛下について正解でした。」
ラナーは本気でそう思っているかどうかは分からないが、ラナーとの会話を終えてクライム君を呼んだ時に少々グラマラスでお姉さんになったラナーにクライム君が驚いたのは言うまでもない。
当然、ブレインもだけれども。