魔皇ヤルダバオトが転移魔法で傍に現れ、私を持ち上げ叩きつけた事は覚えている。
気が付いたら、私はベッドに居た。
「カルカ様」
泣きながら私に声をかけてきたレメディオスの声が聞こえてきた。
ケラルトの蘇生魔法で蘇ったのかしら?
まだ回らない頭でそう考えた。
「
聞いたことが無い声で、聞いたことが無い治癒魔法を二回かけられた。
「レメディオス、戦況はどうなっているのですか?
ヤルダバオトは?」
治癒魔法で一気に軽くなった頭と体で、一番気になった事をレメディオスに聞いた。
「ヤルダバオトはシャンドラド千年王国の千年王シルト・クレーテ・レイ・デ・ミレニアム陛下に倒されました。
それよりも、お体におかしなところは有りませんか?」
「次の人を蘇生しますので少し静かにお願いします。」
プラチナブロンドのペリドットのような瞳の女神官がそう告げた。
体を起こし、隣のベッドを見ると白目をむいたケラルトの首が置いてあった。
「流石にこれでは。」
そう言ったが、静かにと言われた事を思い出して口を閉じた。
魔法陣が浮かび上がりケラルトの体が戻っていくのが見えた。
「
彼女が魔法名を口にしたのだけれども、どうもかなり高位の蘇生魔法のようだ、としか分からなかった。
「っう。」
「「ケラルト」」
私とレメディオスが同時にケラルトに声をかけた。
「
別の魔法陣が浮かび上がると、先ほど私にかけられたのと同じ魔法が二回かけられた。
「念のために二回
「カルカ様、姉さん、戦況はどうなっているのですか?
ヤルダバオトは?」
私と全く同じことを聞いていて少しおかしくなった。
しかしここは何処なのだろう?
「ヤルダバオトはシャンドラド千年王国の千年王シルト・クレーテ・レイ・デ・ミレニアム陛下に倒されました。
ケラルトも大丈夫ですか?」
「私も?」
「蘇生したばかりですので少しお休みください。
食事は軽めの物を用意させます。
それでは私はここで下がります。」
「少し待ってください。
貴女はいったいどなたなのでしょうか?」
「私はシルト陛下の近衛の1人、エレア・ステラと申します。」
「蘇生して頂きありがとうございます。」
「お礼には及びません。
契約通りにしたまでですので。
では失礼いたします。」
彼女はそう言うと部屋を出ていった。
蘇生した直後はもっと体が動かない筈なのに、問題なく体が動くのだけれども直後に治癒魔法を使うと動くようになるのだろうか?
最も、蘇生魔法も治癒魔法も聞いた事も無いような魔法だったけれども。
「レメディオス、ここは何処で状況を教えて欲しいのだけれども。」
「カルカ様、ケラルト。
申し訳ありません。」
レメディオスがいきなり土下座をして謝ってきた。
「いきなり謝られても、一体何が有ったのですか?」
「実は……と言う訳でして。」
「つまり私は既に聖王では無いと言う事ですか?」
「私も聖王国最高位神官でも神官団団長でもないと。」
「そうなります。」
「先ずは、多大な犠牲を出したとは言え、聖王国は無事だったと言う訳ですね。」
「私の力が及ばず申し訳ありません。
「状況的に仕方がないとは言え、姉さんは私達を売った訳だ。」
「本当に申し訳ありません。」
「そこまで怒ってはいないよ。
首だけしかない状況から蘇らせるのは
実際に使える私が保証するのだから間違いない。」
「それで、シルト・クレーテ千年王陛下は私達に何をお望みなのでしょう?」
ひょっとして結婚してくれるとか?
「内政官が不足しているとかでシャンドラド千年王国で働いて欲しいそうです。」
「内政官?姉さんが?」
「私は要らない、とはっきり言われました。」
「姉さんを内政官で欲しがる人はいないでしょう。
でも姉さんの馬鹿力なら必要とされるのではないのですか?」
「先ほどの神官、直接戦闘では近衛最弱だそうですけれども、私は負けました。
この国には私よりもはるかに強い者が大勢いるのです。」
「レメディオスよりも強い者が大勢ですか、少し信じられないのですが。」
「ヤルダバオトやその配下と戦うシルト陛下や近衛隊長の強さは、到底この世の者とは思えないほどでした。
そのような国なので、カルカ様やケラルドの司祭としての能力に対しても殆ど期待していないようなのです。」
「先ほどのエレア様を見る限りそうなのでしょうね。
私もあのような蘇生魔法や治癒魔法がある事は知りませんでした。」
「カルカ様、どのような魔法だったのですか?」
「ケラルト、貴女を首だけの状態から蘇生させていました。
「カルカ様、実はカルカ様は腐敗した上に首が無い状態から蘇生されています。」
「っえ、そうなのですか?」
「姉さんが約束していなくても、蘇生魔法代分働け、と言われたら一生働かないといけない、とか言うような状況ではないのか?
もう、姉さんが謝るような話では無いな。」
ケラルトの言う通りかもしれない。
国を助けてもらい、誰にも使えないような蘇生魔法で蘇らせてもらった恩だけで大変な物になるのだから。
軽食の後、体調を聞かれて、問題がないと答えたら、シルト陛下にお目通りする事となった。
「カルカ・ベサーレス、ケラルト・カストディオ、レメディオス・カストディオ、面を上げよ。」
多分、精霊と思われる体が透き通った者から声をかけられた。
顔を上げると天使が居た。
やっぱりここは死後の世界でここは天国なのでしょうか?
そう言えばドアを開けたらいきなり外でお花畑でした。
「近衛隊長が天使なのが不思議なのか?」
そう声をかけられて、ようやく玉座に座ったシルト陛下に気が付いた。
よく確認してみると、その天使の顔は聖王国にシルト陛下が来られた時に見た近衛隊長の顔だった。
「前に拝見しましたが天使だったのですか?」
レメディオスが到底この世の者と思えない強さだと言っていたけれども、本当にこの世の者では無いのでしょうか?
「天使と分かると色々面倒なので普段は出さずにいてもらっているのですよ。
翼と頭上の輪が無い状態では弱体化しているのだけれどもね。」
天使を従えているって、ひょっとして神なのでは?
「シルト千年王陛下は人間なのでしょうか?」
「間違いなく人間ですよ。
断っておきますがエレア・ステラも人間ですし、クスタフもドワーフなので人間種です。」
シルト陛下は後ろに並ぶ近衛を紹介しながら答えた。
流石に、露骨に強そうなスケルトンが人間ではないのは分かる…って、アンデッドと天使を同時に従えているのですか?
「シルト陛下から言えば私達は非力と思いますが何をお望みなのでしょうか?」
「レメディオスから聞いていないのですか?
内政官や外交官が不足しているのですよ。
単純事務作業ならどうにかなるのですが、提案や提言をできる者となると限られているのです。
分裂気味の国家を10年維持した手腕に期待しているのですよ。」
「本音なのでしょうか?
てっきり私達を妾にでもする気なのかと思いました。」
お嫁さんよりもランクが下がるけれども、神のごとき人なのでそれでもしかたがないか、と思ってしまった。
実際リ・エスティーゼ王国のラナーさんも妾になったと言う話を聞いていますし。
「何故妾に?」
シルト陛下は不思議そうに聞いてきた。
「ラナー殿下が妾になったと聞いていましたので。」
「建前上ですね。」
……
「カルカさんには結婚の打診をしましたが、まあ、私は妻にしても良いですけれども、既に政略結婚としては意味をなさなくなってしまいましたので、白紙撤回をお願いします。
結婚するとしたらお互いが気に入ったら、になるのでしょうね。」
私に結婚の打診が有ったのですか?私は聞いていません。
もっとも、政略結婚だったらしいのですが…って、今でも気に入ってもらえたら結婚できるのですか?
レメディオはあっさりと拒否されていましたが、私は年増なのでは?
「私は年が離れていると思うのですが?」
思わず聞いてしまった。
「実は私は年齢が正確には分からないのですよ。
なので、カルカさんは若くも見えるし、同じ年位にも見えるし、お姉さんにも見える。
まあ、ご自身の年齢は気になされないでください。」
何を言っているのか分かりませんが、年齢を気にされていない事だけは分かりました。
「シルト陛下が結婚に求めているものは何でしょうか?」
結婚を焦って食いつきすぎたでしょうか?
「王としては国益の為になる結婚ですね。
なので基本的に政略結婚を望んでいました。
個人としては癒しです。
実際は相当に難しいのですけれども。」
私は、何もない私を愛してくれる人を望んでいたけれども、シルト陛下は逆に政略結婚を望んでいたようだった。
一方で家庭に癒しを求めている。
不思議な人だ。
「相当に難しい、ですか?」
「元は赤の他人なのですよ。
もっと言えば、子供だって人格がありますから自分の思い通りになるものではないでしょう。
家族だけの時くらいは公務とかを忘れて自然な関係で居たいのですが、立場上それも難しい。
なので、お互いに支えあって家族を作って、子供が巣立った後にごく自然に傍に居られる関係で有ればそれで良い。
欲を言うなら、そうなれそうな人を妻に望みますね。」
「何と言うか、ごく普通と言うか、達観しているようなお答えですね。」
愛し合いたいとか、奇麗な人が良いとか、優しい人が良いとかでは無くて、老人になった時に自然に傍に居られる関係を望むとは思いませんでした。
「先ほども言いましたが、本当に年齢が分からないのですよ。
ある意味では100歳を超えているのです。」
この見た目で100歳以上の年齢なのですか?
「不死不老化の魔法を使っていると言っていませんでしたっけ?」
「そう言えばそうでした。」
年齢が分からないって数えるのを止めているっていう意味なのでしょうか?
「まあ、肉体年齢にかなり引っ張られていますから、カルカさんをお姉さんとも思えてしまうのですよ。」
「先ほどの『若くも見えるし、同じ年位にも見えるし、お姉さんにも見える。』と言うのはそう言う意味ですか。
実際に生きてきた年齢から言えば私は小娘のようで肉体年齢から言えばお姉さんですか。」
そう言う事ですか。
しかも、私達を引き取ったのは、聖王国に残っても責任問題で碌な事にはならないから、と言う優しさでした。
謁見の間から退室した後、ケラルトに結婚の話について聞くことにしました。
「私はシルト陛下から結婚の申し込みがあったとは聞いていませんが?」
「カルカ様にお見せする迄も無いと思い、私がお断りの返事を出しました。」
「どうしてですか?」
「カルカ様に聖王位を退位して嫁いでくるようと言う内容だったからです。」
「確かに聞きがたい内容ですが、ただ結婚して欲しいと言う内容だったのですか?」
「アベリオン丘陵に対する同盟を対価にしていました。」
「当時、お断りした理由は分かりましたが、今となってはお受けした方が良かったお話だったのでしょうね。」
「そう言えば同じ様な事をシルト陛下も言っていました。
状況的にヤルダバオトがアベリオン丘陵に潜んでいる可能性が高いだとか、ヤルダバオトの強さを伝えた筈だとか。」
「私も知っていますが、当時、アダマンタイト級冒険者、漆黒のモモンやシルト陛下とその近衛隊長が対応できるなら私達でも対応できる、そう判断したこと自体が間違いだった訳ですね。」
「カルカ様、私も軽率でした。
当時はこんな上から目線の内容、と思っていたのですが、こうも短時間に圧倒的な差を見せられると、シャンドラド千年王国の言い分もわかると言う物です。」
「この場所自体がどうなっているのか理解できないような場所ですからね。」
本当にシルト陛下は人間なのでしょうか?
扉を開けたら別の季節があると言う不思議な空間を支配する王。
後日、ラナー様に会ったら、シルト陛下は年齢を操作できると言うではありませんか。
こんな良い話はありません。
ライバルは多そうですが、今の私を愛してくれるなら、既に聖王女ではない以上本当に一糸まとわぬ私を愛して頂けると言う事です。
一夫多妻で妻の1人でも良いので頑張ってみます。