マイの存在と居場所が発覚してからの魔導国の動きは速かった。
逃げ出したと思われた最高執行部は、実際には戦線に近い街で陣頭指揮を執っていただけだった。
なので、マイを訪ねた時点で魔導国はほとんどの町や村は占領していない状態だった。
それ以降、都市どころか村を攻撃するのも慎重だったのに、容赦がなくなったからだ。
闇の神=アインズ様教の数こそ少なかったのだが、彼らは魔導国に加わり、それ以外の者達を殆ど虐殺していった。
法国民を統治するのが面倒とは言えよくやるよ。
そう私は思っていた。
闇の神自体が死をつかさどる神だからね…投降者=アインズ信者からは然程文句が出ていないのは確認した。
闇の神は〈大罪を犯せし者たちによって放逐された〉、らしいので、信者以外は大罪を犯した者らしい。
リ・エスティーゼ王国で本来実行しようとしていた飴と鞭作戦が実行されていると言っても良いのだろう。
これは蛇足だけれども、普通に白金鎧とモモンガさんに変身したパンドラとが接触して交戦した。
やっぱり民衆の大量虐殺がトリガーだったのか。
話は変わるが、レンタル傭兵屋の異形種で一番人気は天使だった。
まあ、カルマ値が低い種族はどうも言う事を独自解釈する傾向があったから、というのもあるが、異形種はカルマ値がマイナスが多かったし、中立も蟲系だからね…だったら人間種や亜人の方が人気だったよ。
カルマ値が高い種族は天使一択に近いから、と言う理由もあると思う。
実際、アンデッドや悪魔系などのカルマ値が低い種族の総貸出と比べたら天使が多かったのかと言うとそうでもなかったからだ。
どうでも良いが、女系の方が人気だったのだよね…
そう言う訳で、それなりに居た天使系傭兵達の内20人ほどと手分けして捕縛した法国高官と一緒に一つ一つの町や村を降伏させていった。
唯一の例外は法都シクルサンテクスで、住民にどちら側に退去するか選択させて住民を退去させた後に廃墟にした。
これはモモンガさんとの相談のうえでの行動で、これだけの町を二つに分けて統治するとか面倒毎になりそうだったからだ。
まあ、傾城傾国とロンギヌス以外にどれだけの物があったかの証拠隠滅の意味もあるけれども。
飛び石で法都を陥落させたのは確かに私達の方が早かったのだけれども、本当の意味で占領地の制圧が完了したのは私達の方が時間がかかっている。
その際に私達の占領地からアインズ教徒を追い出し、逆にかなりの難民がやってきた。
この二つ、殆ど人数的には変わらない。
一般庶民が逃げるのは相当に難しいことが理解できた。
私達の占領地でも戦争が起こった事も、法国軍が敗北したことも知らない人が多発したからだ。
知らなければ逃げようもない。
こうして、スレイン法国は二つに分断された。
他にも、スレイン法国発祥の地や、他国への逃亡組もいるが些細な問題だろう。
スレイン法国を、面積的には若干私達の方が、人口的には魔導国がかなり多く住んでいる場所を占領している。
それもあって、私達が確保した人口600万程、これは当初の予想とほとんど変わらない。
他は、魔導国占領地での生存者は推定で150万程、その他の場所に逃亡した者が50万人程とからの逆算なので、もう少し調べればもっと細かい数字が出るかもしれない。
元々のスレイン法国の人口1500万強からの逆算で、推定の死者の数は700万人程度になった。
原作のリ・エスティーゼ王国の虐殺、推定800万人よりも少なかったと言うべきか、そもそも、本来ならもっと多くの者が死んでいたのをかなり減少させたと言うべきか、私は悩んでしまった。
他にも、なし崩し的に領地や人口が増えて行くのもどうにかしたかった。
事実、問題が大発生した。
魔導国では内政をアルベドが一手に引き受けている描写があったけれども、大虐殺をした上で、裏で投降していた領主にそのまま統治していろ、だから、実質的にエ・ランテルとその近郊だけだから何とかなっているだけだよな。と心の底から思った。
なにせ、現在のシャンドラド千年王国民は、1000万人を超えてしまったのだ…しかもその殆どが直接統治である。
レイラが伯爵では?と言いたいが、彼女と元エルフの国の者達だけであの範囲を統治できる訳がない。
元々デケムの方針…強者は弱者を支配して何が悪い…と言う何ともな方針だったからな。
エイヴァーシャー大森林やアベリオン丘陵等、こちらが支配者である事を認めさせただけで、ほとんど従来の部族や種族の統治のままと言って良い。
やっている事は彼らの利害関係の調節だけと言っても過言ではない。(これこそが国家の最大の役割と言われればそうなのだけれども。)
竜王国民移民は徐々に移民してきたことと、竜王国の内政官をそのままスライドさせたから引継ぎが終われば業務量が減少したのだけれども、今回は一気に増大したので早急にどうにかしなければいけない。
と言う訳で会議を行う事になった
「シルト陛下、こちらが元スレイン法国行政機関長バイロン・フーゴ・デズモンド様です。」
「シルト陛下、バイロン・フーゴ・デズモンドです、よろしくお願いいたします。」
「立法機関長、ライナー・トマス・バルツェル様です。」
「シルト陛下、ライナー・トマス・バルツェルです、よろしくお願いいたします。」
「研究館長、ハラルド・ツア・ハウゼン様です。」
「シルト陛下、ハラルド・ツア・ハウゼンです、よろしくお願いいたします。」
ステラが三名を紹介した。
法国の最高執行機関からは三人が我々に投降した。
まあ、我が国は建前上は宗教国家では無いので神官が来てもらっても困ると言うべきなのだけれども。
建前上と言うのは、首都エルグリラだけは宗教国家な気がしてならないし、その宗教を広めようとしている気がする…とある人が現人神である。
古代国家じゃあるまいし…そう言えば近代でもそう言う国は有ったか。
NPC達は諦めているけれども、本当にどうにかならないのかね。
因みに研究機関長はスレイン法国の発祥の地に行ったので役職名が違うのは気のせいではない。
大元帥は理解できるとして司法機関長が私達に投降しなかったのは当初は意外だった。
後で彼は闇の神の神官系列と知って、理解はできたけれども。
「司法機関主席副機関長、ソフィア・リタ・ジュスムート様です。」
「シルト陛下、ソフィア・リタ・ジュスムートです、よろしくお願いします。」
司法機関長の代わりに彼女が投降した。
多分、彼女が次期司法機関長なのだろう、原作でも女性に変わっていたし。
「ご足労ありがとう。
早速だけれども本題に入ろう。
法都を押さえたので統治に必要な資料一式は手に入れているとは言っても、正直、現状では手に余る。
既に貴方達には占領した旧スレイン法国領の統治の手助けをしてもらえることは聞いてはいるが間違いはないのですか。」
「その点は間違いはございません。
ですがハラルドは政治関係ではその力量は発揮できませんので、研究開発を行わせて頂ければと思いますが。」
この中では一番先任なのだろう、バイロンが聞いてきた。
そりゃそうだろう。
研究機関の人間が内政業務をできるとは思えないし。
「そこは理解できるので、ハラルドは稼働を始めた学校も手伝ってもらえればと思う。
仕事的には後進の育成になるのかな?」
「それならば問題ありません。」
バイロンが返事をするとともに、ハラルドが頭を下げてきた。
「と言っても、従来の法国の運営方針や法律のまま、と言う訳にはいけないのだけれども、早急に人属至上主義を捨てさせる方法が難儀している。
付け加えると、エイヴァーシャー大森林やアベリオン丘陵の住民との関係の問題もあるからな。
正直、現状では共存する為には居住地を指定する以外には、ないとは思うけれども、交易を行える程度には持っていきたい。
可能なのか?」
「エルフや亜人とは長きに渡り戦ってきましたので一朝一夕にとはいかないかと。」
「それでは困るのだよ。
下手をすると、魔導国の手で内乱をおこされかねないので。
因みに武力で強権的にと言う選択肢は無しで。
弾圧し続けるのは愚策なのは知っているよ。」
「とすると、種族の垣根を越えて魔導国の脅威に手を合わせる、と言う教育をするしかないですね。」
やっぱりそうなるのか。
ケラルトは、聖王国みたいに兵役を課して、魔導国の脅威を教え込んだ方が良い、だったな。
それでも反抗的な者は国外追放するとか…我が国以外の追放先って、エルヤーみたいな価値観の人間がやっていけるような国は既に無いから、野垂れ死にしろと言っているのに近い。
「そうなるのか。
本当は魔導国との間に緩衝国家が欲しいね。
貴方達の母国がリ・エスティーゼ王国を望んだように。」
「魔導国はやはり、法国の完全制圧を望んでいたのでしょうか?
その為に千年王国と戦う大義名分を欲しているとか?」
「違うな、貴方達がどう思っているのかは分からないのですが、国としてみた場合、魔導国と千年王国は決して仲が良い訳ではないのですよ。
私と魔導王の関係性だけでギリギリもっているような状態です。
忠誠心と猜疑心の過剰な部下が千年王国に対して工作活動を行うのは容易に想像できる話なのです。
彼らは、法国ではなく世界の全てを魔導王に捧げるつもりだと言えば分かりますか?」
「世界征服ですか?」
「法国の場合は珍しく配下と魔導王の意志が一致したと言っても良いのかもしれません。
ですが、魔導王は世界征服を望んではいないので。」
「なのに行うのですか?」
「配下の者が望むから、期待にこたえたい、くらいの感覚ですよ。
後は、自分と配下の者を傷つけるものを排除したい、ですか。
法国は偶然その後者になってしまっただけで、配下の者が傷つくのが嫌なら、世界征服なんてしないで、拠点に籠っていればいいのに、と私は思ってしまいます。
まあ、私もそう思いながら外の世界に干渉していますが、本音はこの街以外は手放しても良いのですよ。
領地にすると管理責任が発生して手間ばかり増えてしまいますので。」
「魔導国は見たところ属国か完全に滅ぼすか、みたいな感じですね。
シルト陛下が両国に属国になるように勧めたのは、被害の最小限化ですか?」
「それもあります。
その属国も、明らかに脅威では無いから成立している面はありますからね。
当たり前ですが、私達は魔導王やその配下の者を倒せる可能性がある者です。
まともに外交を考えるなら、そう言う相手とは友好的に接しておくべきだと思うのですが、外交と言う概念が自分たちの制御下に置くとか、自分たち無しでは立ち行かないようにすると言う考え方しかないと思って貰えれば。
対等、と言う考え方自体が無いのです。」
もっとも、自分のNPC達も人の事は言えないと思う。
「魔導国に、付け入る隙を与える訳にはいけない、と言う事でしょうか。
期間はどれくらいを想定しておられますか?」
「ステラ、多分一年くらいだったか?」
「シルト陛下、大体それくらいの猶予であると思われます。
最も、事前工作はその前に行われると考えていますが。」
「ステラ様、事前工作を行ってくると?」
「私達が内政に手間取って外に向かって行動できないようにしてくる可能性を排除できないのです。」
「どうして…ああ、そういう事ですか。
一年と言うのは、状況次第で変わりますよね。」
「変わりますね。」
「評議国がそんなに早くに陥落する、そうお考えなのですね。」
やっぱりわかるよね。
ある程度の情報を持っていて才能があるなら魔導国の次の相手は評議国である事は理解できる状況なのだ。
原作でスレイン法国の者達が、リ・エスティーゼ王国の次は自分達だと理解できたように。
とは言っても、こうなるように実質的に私が仕組んだに近いことを殆ど情報もないのに分かったのはラナーだけだ。
「シルト陛下は魔導国を、評議国、と言うよりもツアーや他の真なる竜王と戦わせて双方を弱体化させようとしていましたよね。
だから、魔導国を世に出して、今は魔導国と戦わない選択肢をしているのでは?」
と普通に言われたのだ。
若干間違っているけれどもな。
正確には、モモンガさんが自身の守護者達を止められずに進んで行ったら、結局こうなると言う事を知っていた。と言うのが正しい。
とは言え、本当に何故分かった。
何もしなくてもモモンガさんが止めない限り必ず竜王と戦う事になるから、ナザリックが我々に竜王を戦わせようとする工作を暫く避けて妨害できれば大丈夫。と言う私の意見を最初から理解できていた者は守護者でもいない。
アレクも、《何も工作しなくても勝手に残りの真なる竜王とナザリック勢が戦う事になるからそれを前提で戦略を組みように。》と言ったら怪訝そうな顔をしていた
最近になって、『あけみちゃん様の件を知っていたのですか?』と聞かれたほどだよ。
まあ、あけみちゃんさんは想定外だったのだけれどもね。
原作の強制力、とか、住民虐殺をすれば自動的にそうなるなんて分からないだろうけれども。
結局、前に法国がした失敗、つまり上層部しか知らなかった情報を流すことで無理やり現実を分からせて、内乱や暴走しそうな者は国外追放するしかない。と言う結論になった。
この会議は、正直に言って、元スレイン法国の人達に自発的に提案させる為の物で、精神的、直接的なショック療法でどうにかするしかない、と言うのは裏の会議(第六層の会議)でも結論が出ていたのだよな。
竜王国に空き地を作れればいいのだけれども、どうやってツアーに会って説得しようか。
ため息しか出ない。