私は実戦での敗北を知らない。
訓練では母親や師であるルージュ様に負けた事は有るけれども赤ん坊の時から強い人なんていないから当然だと思う。
今でもルージュ様に訓練では負けると思うけれども、武装してスキルを使って良いのなら十分勝てるような気がする…その武器もスキルも、ルージュ様が仕えた六大神の力にすぎないのだから偉そうなことは言えないけれども。
ある日、父親が囚われて連れてこられた。
風のうわさで、随分好き放題していてかなり強いと聞いていたけれどもどうなのだろうか。
「こいつが私の父親な訳?」
「お前は誰だ?なぜここに居る。」
「そう、私の事が分からないの。」
「お前は私の子供なのか?
それともレイラとか言うエルフの娘なのか?」
レイラ?いったい誰なのかしら?
まあいいわ。
「貴方の事を知っている訳ではない。
幼い私を扱いたのは母親だから恨むなら母親なのかもしれない。
本当にあなたを恨むのは母親であって私は筋違いかもしれない。
でもね、私は貴方に恨みの感情が焼き付いているの。」
「どうされます、デケムを捕らえた者達によると、弱体化させたけれどもまともに戦って倒せるのは貴女だけでしょう、との事でしたが。」
「そうなの、漆黒聖典隊長の貴方よりも強いの。」
「どうもそのようです。」
「そう、弱体化している、と言うのが気に入らないけれども私が倒してあげるわ。」
「蘇生させて殺してを繰り返して灰になるまで繰り返せ、とのご命令でした。」
「そうなの、上の人達も相当恨んでいるのね。
貴方が途中から変わる?」
「当然ではないですか?
貴女の母親の件もそうですが、デケムの為にどれだけの者が死んだと思いますか。
と言っても、このお役目は気が済むまでやって頂いて構いませんよ。」
「そうさせてもらうわ。」
こうして、一回目の父親殺しを行った。
弱体化させているとは言っていたけれども、確かに隊長よりも強いと感じたが大した強さでは無かった。
弱体化させたのは本当なのだろう。
根源の土精霊を召喚する事は出来なかったのだから。
父親が、二度と復活出来ないように灰になるまで何回も殺した。
最後に灰になったのを見たけれども、母親が私に刷り込んだ復讐を終えても何かすっきりしない物が残った。
虚しさ?そうではない。
最初から私が倒したわけでは無いからもやもやが残る?
せめて法国の者に捕えられていたならもっと溜飲を下げれたのかも。
この父親をとらえた者達は肉体面だけではなく、精神面でもへし折ったらしい。
かなり卑屈になっていたが、こいつに言われた他の事はどうでも良かったけれども、私よりも彼らの方が強かった、と言われたのだけは癪に障った。
今までは聞いた事も無い国、シャンドラド千年王国の者達が捕えてしまったらしい。
私の弟妹に多くの者を殺されたのだけれども、デケムをあっさり※殺して拘束できる連中に、理由もなく戦うのは余りにも無謀、と言う事で千年王国の属国となったエルフ達とは停戦する事になり、損害賠償の見舞い金や、国内に居た奴隷のエルフを全て購入して講和が成立して終戦となった。
(※レベルダウンの魔法は知られていないので、法国では殺して蘇生した事で弱体化したと判断された。)
暫くして、アンデッドの支配するアインズ・ウール・ゴウン魔導国が建国され、法国が狙われているとの情報が千年王国からもたらされた。
それに対する対応を見定めるために、千年王国との模擬戦を行う事になった。
千年王国の提案では、国宝中の国宝であるケイ・セケ・コゥクと神人と私達神人と同格の強さを持つマイ・ヤマーセ・カネーヤを引き渡して頭を下げて属国になるのが最善である、と言う意見がやってきたのだけれども、それは流石にできない、と言う訳で、次善の策を取るかどうかの判断の為らしい。
何故、それが模擬戦になるのかは、最初は理解に苦しんだのだけれども、千年王国の者達がやってきたことで理解できた。
この模擬戦では、魔導国の戦力がどの程度の物なのか、そして千年王国は彼らが攻撃するのをためらうだけの戦力があるのか、そして私が彼らに勝てるのかどうかを計るための物だと。
黒髪の髪の色以外は然程目を引かないまだ少年の面影がある青年がドワーフ、相当な美人の女性を二人、そしてスケルトンを連れてやってきたのだ。
このスケルトンがアインズ・ウール・ゴウン魔導王と、そして闇の神、スルシャーナ様と同じ種族だと紹介されたのだ。
強そうに見えなかった。
何故か死体を要求されていたが、幻想的な美しさのブロンドの女性が天使を、スケルトンがデスナイトや
私や隊長ならとにかく、他の者達にとっては相当な脅威だ。
かなりの数を用意できると聞いて、その戦力は私でないと破れない事を示唆していた。
法国は好きだ。
だから何とか守りたいと思うけれども、数にもよるし、それを生み出す者達がそれより弱い筈がない。
千年王国は魔導国のアンデッドなど気にしないほどの天使を用意できる事はその場にいた者達の誰でも理解できたけれども、単純に私達を助ける事も出来ない事情があるようだ。
最初の模擬戦は、クアイエッセの出したモンスター達だった。
相手は先ほどのスケルトン。
どうも強そうに見えないのだけれども、即死魔法だけでクアイエッセの出したモンスター達を倒しきってしまった。
これで、魔導王よりも弱く、しかも本気では戦っていないと言ってきた。
次は、第二席次、時間乱流、第六席次、巨剣山崩、第十席次、人間最強、第十二席次、天上天下の四人がかりで、相手はドワーフだった。
結果は圧倒的だった。
ドワーフなのに天上天下よりも速かった。
多分、人間最強と同じような職と思われるのだけれども、格差は圧倒的としか言いようがなかった。
三人を隠れ蓑に後ろに回った天上天下にも気づかないふりをしていて、普通に気が付いていた。
全員の武器を破壊したのだけれども、同じ刃引きした訓練用の武器なのにどうやってそれを行ったのだろう?
帰ってきたもの達が、「少なくとも隊長よりは強い。」と言っていたので、「じゃあ私となら?」と聞いたら、黙ってしまった。
どれほどの強さなのだろう、私は興味がわいた。
彼が父を倒したのだろうか?
だから彼に
「あ~ら、そんなに強いの。
私とやりましょうか。」
と聞いてみた。
「そうかお嬢ちゃん、別に構わないぞ。」
と受けてくれようとしたのに、
「クスタフ、交代だ。」
黒髪の青年がそれを止めてしまった。
「シルト様、全く問題は有りません。
準備運動にもなっていませんので。
それとも、彼女は強いのですか?」
「それなりには強いと思うぞ、多分、エレアと互角くらいじゃないかな。」
「確かにそれなりには強そうですが、何故交代するのですか?」
何故かすごく私をなめているような気がした。
「私に勝つのは当たり前みたいに言ってくれて。
で、そのエレアってのは誰なの?」
「絶死絶命さん、エレアはここにいる女神官だよ。
回復役だから、そちらの方面ではエキスパートだけれども、直接的な戦闘は近衛では一番弱いよ。
と言っても、自分を回復できるからそれなりに強いけれども。」
そう言って、プラチナブロンドの神官を指した。
「クスタフ、彼女の望みは自分より強い男の子種だよ。
彼女と結婚したいのならそのままやっていいよ。」
何故、私がそう言っているのを知っているのかしら?
ドワーフは私を見返して答えた。
「シルト様の言う通り、交代します。」
なんて失礼なのだろう。
「私じゃ不満なわけ?」
しかも勝つのが当たり前みたいに。
しかもだ。
「我が国には、貴女よりも強い者がそれなりに居るので、強さ以外の基準でも選んでくださいね。
じゃあ、アンネ、適当に相手をしてあげて。」
私よりも強い者が他にも大勢いるみたいに言って。
私の強さはたいしたことが無いかのように、上等じゃないの。
「へ~そうなの。でも私を相手に適当にって、分からせてあげるわ。」
私もブロンドの美女も兜をかぶり戦闘を開始した。
私よりも速い。
あっという間に首に剣が当たり、
「一回」
私の攻撃を簡単に盾で捌き
「二回…三回」
本気で攻撃していないのだろう、剣を私に当てながら数えて行った。
どれも防具を無視すれば致命傷の場所だった。
スキル無しでは歯が立たない。
そう思った私は一回後退したが、追撃をしてこなかった。
この私がなめられている?
その時の私は、そもそも武器が訓練用の事を忘れていた。
「私を殺した回数と言う訳かしら?
本当に倒せているのかしら?
だったらこれを倒してみて見なさい。
エインヘリヤル。」
私の分身が生まれたのに気にした様子もなく
「そうですか。
今何といった?
第10階位?
そして恐ろしいほど強力な天使を召喚した。
冗談でしょう、ひょっとして
それともアイテム。
私が驚いていると再度
「
と聞こえ、またしても驚くほど強い天使が召喚された。
こんなに強い天使を二体召喚、冗談じゃない。
ちゃんとした武器でかつての六大神のスキルを使わないと勝てない?直ぐにそう感じた。
流石にこんな相手と3:1になったので私の分身はあっさりと倒された。
「ちゃんと武器を使えれば。」
負け惜しみな事は分かっている。
「
それでは私を殺せませんよ。
と言うか、でなければどうやってアインズ・ウール・ゴウン魔導王と戦うのですか?」
「エリンへリアルで二体出しても、私はもっと天使を召喚するだけですから。」
これはダメ押しになった。
「何故知っているの?
これで、まだ本気ではないの……」
天使をもっと召喚できるの?
アイテム?タレント?どうやって?
思わず聞いてみたくなった。
「貴女が、シャンドラド千年王国では最強なのかしら?」
「魔法もスキルも使用しなければ、と言う条件付きなら私でしょうね。」
「使ったら、もっと強い人がいるの?」
彼女は一瞬後ろの青年を見た。
これで分かってしまった。
彼が最強なのだろう。
「私がスキルや魔法無しで最強であり続けられるのかは分かりませんが、少なくともシルト陛下をお守りする、この一点だけはどこの誰にも負ける気はしません。」
一応聞いてみることにした
「シルト陛下は貴女よりも強いのかしら?」
「近づけば私が勝てる可能性があるのではないですかね?
シルト陛下は
ですが、私達が誰も近づかせませんが。」
彼女達がいて近づける訳がない。
「勝てる可能性がある?」
一応聞いてみたが、きっと否定するのだろう。
「訓練なら、ですが。
接近戦でも魔法を使用して本気で戦うなら私が負けますので。」
口に出して聞いてみることにした。
「つまり、シャンドラド千年王国で最強なのはシルト陛下って事で良いのかしら?」
「それは間違いありません。」
他の者達も首を縦に振っていた。
微妙そうな顔をしていたのは、黒髪の青年、つまりはシルト陛下だけだった。
多分謙虚なのだろう。
「これは主君を立てているだけで、私はアイテム頼みだからそんなことは全然ないから。」
と言ってきたがそうは思えない。
「どう見ても謙遜しているだけよね。
良いわ、もし魔導国が戦争を仕掛けてきたら、私は千年王国に負けてあげるわ。」
私が負ける事で法国の者達が守れるならそれも悪くない。
そう思った。
その後、絶死と思っていた
そして、私が戦った相手は天使で戦いの女神だった…それは負けるわね。
でもそれより強いシルト陛下って…その子供はどんな強さになるのかしら。