さて。
次の
こちらの手駒はイレギュラーである「4人目」と、「精神」より譲渡された指輪──そして戦線に参加する必要のない立場。
私はこうして小競り合いの背後に立ってマスターの機嫌を取りつつ、セイバーとキャスターの仲を取り持ちセファールを倒させるようにすればいい。
実のところ、この展開には少なからず高揚している。既に
理路整然としたプログラムの中核に強引に差し込まれた変数が好ましいのかと言われれば断固として否であるが、行き詰まった考察を打開するのはいつだって外的要因だ。
その当の彼女は「もっと目立たない服のほうがいい?」だの「コードキャストは何を準備しとけばいいかな?」だの「アルキメデスよりもキャスターって呼んだほうがいいの?」だのと矢継ぎ早に質問をぶつけてきている所だ。
「アルキメデスで構いません。私が真名を秘した所で大したメリットもないですし、真名を明かすのは
「そうなの?」
「これは別に聖杯戦争ではないですから、真名が知れた所で大差ありませんよ」
月の聖杯戦争は情報こそが力であった故に本来のそれよりも秘匿と解明が大きな意味を持っていたのだが、今の戦いは地上の戦争のように、目の前に出てきた敵を皆殺しにするのが目的だ。サーヴァントとは言え
それに、自分で言うのも何だが、
何より私にとって名前は──
「じゃあ引き続きアルキメデスって呼ぶとして……あっ、わたしのことも名前で呼んでもいいよ?」
岸波白野は図々しくもそんな提案をして笑った。
「では私も引き続き新王とお呼びさせていただきます」
「全然手心とか無いね」
そこまで親しく接したいという気がないことを察してもらいたいのだが、さながらヒヨコ程度の彼女にそれを期待するのは無理があるだろう。
マスター……と呼ぶのは間違いではなくなったが、今更そう呼ぶのも気が引ける。システム上ではマスターだが、私の視点ではただの同行者だ。
「ご不満でしたか?」
「ううん……それはいいんだけど、あんまり王の実感が湧いてなくて。新王って呼ばれるとソワソワするんだよね」
「あなたにとっては突然の戴冠だったので仕方ないかもしれませんが……」
「だ、大丈夫だよ。心配しないでマスターのわたしに任せておいて!」
そういうことでもないのだが、マスターとしては乗り気なようなのでやる気のままではいてもらいたい。その頑張りが発揮される場面がいつになるかは分からないが。
「あなたの能力には期待しますが、まあ、昨日も言ったようにしばらく我々に仕事はないので」
「そうなんだった……それもちょっとつまらないな」
「言わんとすることは分かりますけども」
私たちは今日も朝から部屋から出るでもなく時間を浪費する(私は状況のモニタリングと
暇は確かに仕方ないが、動かれると困るのも──そして困る程にやらせることがないのも事実。まるで新人に振る仕事がない職場のような……
「アルキメデスはレガリアの事とは別の仕事もあるんでしょ? それって手伝いに着いていったりとかできない?」
怠惰を極めた体勢を改める気も皆無な有様で、仰向けにベッドから垂れた
「新王に出来ることは特にはないですね」
「荷物とか持つよ!」
「荷物も無いですね……その場で普通に呼び出すので……」
暇の化身はベッドからだらしなく転がり落ちて床でどすんと音を立てた。
「今はSE.RA.PHの各所で抗争が続いていますし、危険ですよ。何度も言いますが私は戦いは苦手ですから」
「それはそうだろうけど」
私に対する遠慮がどこかに吹っ飛んでしまったのか、自分が床に落ちたことを恥ともせずに彼女は私を見上げている。咎める気にもならない。
仮に彼女を仕事に同行させても邪魔なだけだし、合間にやっている
たまに
私であれば死ぬよりも先に遊星の力による補助が働くが、岸波白野がどうにかなっても「私の手」では救うことはできない。ただでさえ脆い「
「サーヴァントがマスターの身を案じるのは当然のことです。安全の為と思って我慢してください」
「アルキメデスに安全を理由に諭されてしまった……」
「ちょっとそれの意味は分かりませんけど」
説明が通じたのか微妙なラインではあるが、まあいい。
彼女に死んでほしくないのが私の心からの願いなのは間違いない。
「じゃあ今日は一緒に惰眠でも貪ろうか?」
「いや、私は仕事があるのでひとりでやっててください」
「ホントにわたしのこと心配してる?」
本当に面倒くさいが、確かに間違いない。
岸波白野は本来、証明不可能な問題を解決するための
「なんとか言ってよ〜」
しばらくはこんな何もない日が続くのかと思うと、流石にどうしたものだろうか……作るべき展開のことも、この子供のことも。