レガリアA陣営の
私は外縁の奪取区域の防衛と共に、外側から中央に向かって戦力を削りつつ追い込む部隊に参加している。キャスターの傘下のサーヴァントは当然ながら彼女と一緒に中央部を守護している筈で、防衛域を取り返そうとするのは有象無象の攻性プログラムだけだ。
現在のSE.RA.PH利用可能領域占有率はA陣営が84.6%と、セイバー優位を前提とした施行においては平均よりやや早い速度で進行している。
ここでの行動が多少早まろうと関係はないのだが、ともあれこちらは楽でいい。B陣営がとっとと投降してくれれば、それはそれで私の動きにも余裕が出てくる。首都制圧の暁には岸波白野を連れてくる必要もある。
人間と違って、目の前で群れるプログラム達には必要以上に手を掛けてやらなくていい。多少指示を出してやれば放っておいてもそれなりに成果を上げてくる。おかげで私は昨日から始まった作戦で一度も手を汚さずに済んでいる。
このままだらだらと事が運んで、ついでにセイバーとキャスターがやり合って仲良く新王に傅いてくれればいいのだが。
「A陣営のSE.RA.PH占有率85%を報告。ネロ陛下、そちらの状況は如何ですか」
管理者端末が告げる通知に合わせてセイバーに通信を繋ぐ。
端末の向こうからは「精神」の明瞭な返事が聞こえてきた。曰く千年京中央部の戦闘はそれなりに激しいとのこと。無論私は実際の戦場の様子を知っているので、放っておいても問題はないことは分かっている。
「後方の心配はいりません。私が離れても問題ない程度には首都外の戦力は削れています。必要とあれば私も前線には加われますので」
「そうか! 頼もしい発言、感謝する……ぞっ! むうう、とにかく敵が多い! なかなか……思うように進めぬ!」
金属の擦れ合う音の合間を縫ってセイバーは叫んだ。今も占有率は徐々に上昇している。まあ、負けはしないだろう。
「B陣え……キャスター殿も本気です。どうか背後にはお気を付けくださいますよう」
「うむ、気遣い感謝する! 報告、ご苦労であった!」
セイバーと「精神」は簡単に受け答えるとさっさと通信を切った。向こうはそれなりに立て込んでいるらしい。思えば他のA陣営人員とは未だにほぼ交流が無いが……さしたる問題ではないだろう。
無個性な軍勢は変わらず愚直に地面を踏み締めていく。寸分違わない群れが視野の端までぎっしりと並び、歯車の噛み合うように規則的な足音が立つ。この世界が大いなる
もしもこれが血肉を持った人間であれば、たかだかひとりの指揮者にこうも全員が従順である筈はない。何割がやる気を持たず、何割が裏切りの意思を秘め、何割が将の為に死ねるのか、多少の計算では分かり得ない。
人類の世界がこのような均一化されたものであれば、いわゆる悲劇も起きはしないのに。皆それを忘れて久しく、必要以上の競争だけを楽しみに生きるものが突出するせいで均衡は乱され続ける。
例えば──見渡す限りのコピーペーストの海の中に突き出る、場違いな突起であったりだとか……。
「ちょっと……」
私はそれをずっと探していたが、見付かって欲しいわけではなかった。これは私の選択した中で最も大きく致命的な失敗であり、遊星の声を私が求め続ける限りは永遠に付きまとう罰だ。
「ちょっと、どきなさいよ! 邪魔、なん、だけどぉ!」
頭に響く不快な声がある種心地良い足音を掻き乱し、その足は波を引き裂いて私の目の前に突き立てられた。
とげとげしく下品な意匠の衣服、暴力的な尾、見ているだけで苛つく態度。
「エリザベート……今まで何をしていた?」
忌まわしい
「何って、アンタには関係ないでしょ」
「自分の役割を忘れたのか?」
「うるさいわね、
「いいか、お前が勝手に動いた事で遊星が遠ざかるような自体になれば、困るのはこちらの陣営だということを忘れるな。仮にも領主であったのならば分かるだろう」
この周回においては
「アンタなんかに説教される謂れはないわよ」
「これは忠告だ。お前が思う存分
「はっ、何様なのよホント」
彼女はわざとらしく肩など竦めてみせる。いちいち全ての行動が神経を逆撫でしてくるが、いくらこいつが悪辣百般の屑であってもフラットな対応を心掛けるのが私の役目だ。
それに、悪辣であるかという点においては、私は既に
「ところで、なんだけど」
強欲な竜の目が私の左手を捉える。
「あの「4人目」はなんなのよ。とうとう小リスまでどうにかしちゃったってワケ?」
「いつ知った?」
「知るも何も、めちゃくちゃ目立ってるもの。この世界がどれだけあの
「それは……」
嫌らしい視線が不愉快で、私は指輪を握りこんだ。岸波白野の存在の重さはレガリアの戴冠をも容易く済まされた今、疑う余地はない。
「……悪いがここ数周で身に沁みた。目立たせる気はなかったが、真の意味で王である彼女がそうなったとしても、それは必然としか言えまい。私の感知外にいたお前にすら見えていたのは認めなくてはならないな」
「は? なんの話?」
「岸波白野が「愛されている」ことは認めないといけない、ということだ……」
レガリアA・B陣営の動向を端末が告げる。今この瞬間にも軍勢は確実に領地を増やしている。
行進の最後尾が私の隣を通り過ぎ、首都に向かって歯車の歯のように進んで行った。
「
「お前はただ岸波白野が欲しいだけだろう。この周回で最も大切なのは誰が勝つかじゃない……「4人目」がどれだけ上手くやれるかだ、私の命よりも
竜の尾が地面を舐め、耳障りな音を立てる。エリザベートは苦虫を噛み潰したような顔でこちらを睨んだ。
「ホント気持ち悪いわ、どっからそのモチベーションが来るのかしら」
その様は心底腹立たしいものだったが、同時に私と彼女の間には決して埋まらない大きな溝があることを実感できるようで、実のところほんの少し心が穏やかになった。
罵倒のつもりであっただろう言葉に反論が無かったのが不満なのか、エリザベートは羽根を広げて少し羽ばたいた。
「はあ……で、これからどうするの?」
「今回は「4人目」に重要な箇所を任せる。お前は何もするな──
「何よ!
「ああ煩い、いいからさっさと去れ。キャスターの撃破は推定2日後だ、何もするなよ」
「ホント! ムカつく!! 死ね!!」
竜種は強欲で嫌になる。それが人類と混ざったりなどすればその悪質さは天井知らずだ。こんな基礎的なことにも気付かない程に浮かれていた自分を恥じるしかない。
私は行進の足跡を追った。背後ではまだ低級サーヴァントが喚いている。